第34話 地元へ
年度末に入ったある日、私は新幹線に乗って地元に向かっていた。
叔父が亡くなったとのことで、地元に帰ることに。
正直、地元には帰りたくなかった。
絶対に結婚の話をされるからだ。
羽山さんの話をしたら、連れてこいとか言われそうだから、今は秘密にしておこう。
地元の最寄り駅に着くと、母が待っていた。
「瑠美〜!」
他の親戚も何人か一緒だ。
「瑠美ちゃん、またお姉さんになったわねぇ」
「瑠美お姉ちゃん!」
この前まで赤ちゃんだった妹の子は、もうすぐ幼稚園に上がる。
私の地元の冠婚葬祭は、親戚中が集まる。
お通夜の後、本家にぞろぞろと移動。
増えていく親戚の子どもたち、結婚報告。
今日は結婚したばかりの従弟が奥さんを連れてきていた。
奥さんは私よりかなり若い。
「瑠美、もうそろそろ孫を見せてくれ」
お父さんが毎回言うセリフ。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんと妹の子がいるでしょ」
私が結婚しなくても、子どもを産まなくても、問題ないはず。
「瑠美が一人なのが心配なのよ」
お母さんが心配そうに言うけれど、都会では私くらいの年齢で独身なんて普通だ。
「あ!そういえば、瑠美の同級生のヒロ君も結婚してないって!」
ヒロ君──小学生の頃から私をからかっていたふざけた男子。間宮浩之。中学生の時はよくケンカをしていた。
「今からヒロ君呼ぼうか?」
「は!?なんで!?」
母は急いでどこかに電話をしている。
嫌な予感しかしない。
「やっぱり私帰る!!」
そう言うと、皆に止められ、暫くして本家に若い男の人が入ってきた。
「あ、天川!久しぶり!」
──誰?
「あー!ヒロ君、すごいお兄さんになってる!」
親戚中が賑わう。
この狭い地域では、皆家族同然だ。
「ヒロ君、何の仕事してるのー?」
姉が聞く。
「隣の県の建築会社です!」
思ったより、ちゃんと社会人していた。
「瑠美はどこで働いてるの?」
「えーと……東京の商社」
「え!すご!超都会人!芸能人と会ったことある?」
──絶対に聞かれるこのセリフ。
「ないよ、私は」
「ヒロ君、うちの子とかお嫁さんにどう?」
母が余計なことを言う。
「お母さん、やめて!!」
私には羽山さんがいるのに!
「うーん……俺なんかには勿体ないですよ」
間宮が苦笑いを浮かべる。
そう断っておけば当たり障りない。グッジョブ間宮。
「何言ってるの、遠慮しないで!」
どんどん盛り上がっていく親戚たち。
私は限界になって、本家を飛び出した。
海の近くまで来て、「私が好きなのは羽山さんだー!」と叫んでしまった。
「羽山さん?」
振り返ると、間宮が立っていた。
「え、追いかけてきたの?」
「追いかけろって言われて……」
──なんで余計なことばかり。
「だから帰りたくないんだよ、実家……」
「まあ、今どき古いわな……」
間宮と二人で海を眺める。
「天川、すごい綺麗になっててびっくりした」
「え?」
私なんて都会では、その辺のたんぽぽみたいなありふれた存在だ。
「ありがとう。お世辞でも嬉しい」
「羽山さんって彼氏?」
う……言って大丈夫か?
「会社の上司で……恋人」
「上司!?上司が彼氏なのか」
「うん」
「結婚しないの?その人と」
私はできたら嬉しいけど……羽山さんはどう思っているのかな。
エタクエであまるとハヤテは結婚したけれど、あれはあれ。これはこれ。
「わからない……」
その時、着信があった。
羽山さんからだった。
「もしもし!お疲れ様です!」
「お疲れ。どう? そっちは」
羽山さんの声……私は幸せに浸っていた。
「え? 彼氏から電話??」
間宮が口走った。
「……誰といる?」
羽山さんの声が低い。
「地元の男友達です!」
「……わかった。帰る時また連絡して」
通話が切れた。最悪だ……!
「間宮が余計なこと言うから、羽山さん怒っちゃったじゃん!」
「ごめん……」
普段温厚な羽山さんが怒ったら絶対怖い。
「あ……俺さ、実は結婚するんだわ」
「え?」
「まだ誰にも言ってなくて……」
地元の皆はどんどん身を固めていく。
「お幸せに」
私も私の幸せのために、頑張らないと。
その後二人で本家まで戻り、私は直ぐに寝る準備をして布団に入った。
──そして始発で電車に乗り、新幹線のホームにいた。
早く羽山さんに会いたい。
『これから帰ります』
羽山さんにメッセージを送る。
まだ寝てるかな……。
その後すぐに返信がきた。
『待ってる』
結婚するかどうかは別として、私は今、羽山さんに夢中だ。
新幹線の中で私は少し眠りについた。




