第33話 強い意志
その日、大きな会議があるのにも関わらず、事務の数人が同時に休んだ。
それぞれ理由はバラバラだけど、その穴埋めをたった数名でこなさないといけない状態になった。
会議の準備をしたり、資料を確認したり、そこに電話や発注作業、休んだ社員の分も降りかかり、昼も休憩ができないほど大忙しだった。
途中で疲れ果てて、休憩スペースでうつ伏せになっていたら、羽山さんが来た。
「お疲れ…生きてるか…?」
「はい……なんとか」
羽山さんは自販機で買った飲み物をそっと渡してくれた。
「お前は定時で帰れ。あとは俺がなんとかするから」
羽山さん──
いい上司に恵まれて私はラッキーだ。
「天川さーん!電話きてるよー!」
遠くから営業社員の声が聞こえる。
「はい!今行きます!」
私がそっちに行こうとすると、羽山さんに止められた。
「俺が出るからお前はここで休んでろ。他の事務も参ってるだろうから、あとは他で回すから」
お言葉に甘えて、私はそのまま休んでいた。
すると葉月さんも羽山さんに声をかけられたようで、休憩スペースに来た。
「お疲れ様。大変だったね今日。大丈夫?」
葉月さんはあまり元気がなかった。
疲れてるのかな?
「葉月さん大丈夫……?顔色悪いよ」
その瞬間、葉月さんが涙を流した。
「私、バレンタインの日に羽山さんに告白したんです。でも断られてしまいました。フラれるのはなんとなくわかってました。でも、やっぱり毎日側で見ていると辛くて……」
──何も言えなかった。
葉月さんが羽山さんにチョコを渡しているのを見ていた。
なのに浮かれてニヤニヤしていた私。
浮かれている場合じゃなかった。
私は何も言えず、ただそこにいた。
◇ ◇ ◇
定時になって仕事を終わらせようとしたけれど、仕事は相変わらず滞ったままだ。
オフィスはてんやわんや。
この状況で羽山さんの好意に甘えて帰っていいの……?
いや、それじゃだめだ!
「もう私が全部引き受けます!」
羽山さんが驚いていた。
「さっき帰れって言ったよな?」
「いえ、私がやった方がこの混乱は落ち着きます」
私はそのまま仕事に戻った。
「お前は帰れ」
「いえ、これでも後輩もいるんですから、ちゃんと先輩としてしっかり仕事したいんです!」
ヘラヘラして羽山さんに甘やかされてる場合じゃない。
私もちゃんと先輩みたいに、周りを引っ張れるようになりたいんだ。
私の圧に羽山さんが根負けして、結局私はギリギリまで仕事をした。
最後に残ったのは、私と羽山さんだけだった。
なんとか落ち着いて、立ち上がった瞬間──
視界が歪んで立っていられなくなった。
その瞬間羽山さんに受け止められた。
「だから言っただろ!?」
わかってる、無理した。
「私も頑張りたかったんです。のんびりマイペースに生きてるんじゃなくて、ちゃんと周りを支えたいと思ったんです……」
羽山さんはため息をついた。
「お前結構やる時はやるんだな」
「はい、そうみたいです」
そのまま夜の誰もいないオフィスで、不謹慎にもこっそりとお互いを労わった。
その時、足音が聞こえて、二人で慌てて隠れて急いで身だしなみを整えていたら、警備員の人だった。
「まだ誰かいますか?」
その後、羽山さんが声をかけて事なきを得た。
二人で反省して、もう二度とこんな事はしないと誓った。




