第32話 後悔先に立たず
羽山さんは、次の日から出張だった。
ほんの数日だけど、物理的に距離が離れるのは本当に辛い。
羽山さんの居ないデスクを見ると、胸が苦しくなる。
私は休憩時間に屋上にいた。
空を見ながら、羽山さんの事を考えていた。
こんなに人を好きになった事がなかった。
ふと人の気配がした。
いつの間にか鈴木さんが隣にいた。
「鈴木さんいつからいたんですか!?」
「五分くらい前」
相変わらずニコニコしいて、何を考えているかわからない。
「天川さんさ、羽山の事どう思う?」
これは本音を言ってもいいものか。
「今離れてて、会えなくて辛いです」
鈴木さんは笑った。
「羽山凄い愛されてるな。羨ましい」
素直に言いすぎて恥ずかしくなった。
「俺も二年前、本気で好きになった子が居たんだけど、上手くいかなくて別れて、それずーっと引きずってるんだよね」
鈴木さんにそんな過去が──
「どうして上手くいかなかったんですか……?」
「すれ違いかな。思っててもちゃんと言わないと、伝わらないからね」
鈴木さんの真面目な表情を初めて見た。
「後悔しないように、伝えたい事はちゃんと言った方がいいよ。って羽山に伝えといて」
そして、鈴木さんは屋上から去って行った。
鈴木さんの言葉を胸に、私は羽山さんが帰ってくるのを待つことにした。
◇ ◇ ◇
羽山さんと会えない数日間を、通話とメッセージでなんとか耐え抜くつもりだった。
しかし……。
「会いたいですー!」
「わかったわかった」
そんな風に電話で制された数日。
やっと羽山さんが帰ってくる……!
帰りが深夜になりそうだからと、エタクエで会う約束をした。
私は仕事から帰ったあと、ログインしてずっと待機していた。
しかし、そんな日に限って、眠気が急激に襲ってきて、うとうとしていた。
そしてソファに座ったまま寝ていたら、スマホにメッセージがきた。
『ただいま』
私は急いで起きた。
「羽山さん!!」
その時、あまるの目の前にハヤテがいた。
嬉しくて通話したけど、なぜか出てくれない。
ハヤテ『ついてきて』
ハヤテに導かれるまま、とある町のショップに行った。
ハヤテは何かを買って、その後、また違う町に行った。
そこは大聖堂がある町だった。
私の知らないイベントかな?
隠しイベント?
よくわからないままハヤテを見ていたら、アイテムを渡された。
それは──
ウェディングドレスだった。
──え?
私は電話をかけた。
次は出てくれた。
「羽山さん!このゲーム、ウェディングドレスあるんですね!かなりびっくりしてます」
羽山さんは少し笑っていた。
「驚くのそこなんだ」
ハヤテは装備を変えた。
それはウェディングドレスに合うタキシードスーツだった。
「え!?」
あまるとハヤテが大聖堂の前で、まるで新郎新婦のように立っている。
「羽山さん……これは……」
羽山さんは何も言わなくなってしまった。
「ごめん、無理。電話はやめよう」
通話を切られてしまった。
ハヤテに導かれて、聖堂の司祭がいる祭壇に行った。
空いているサーバーだったからか、近くにプレイヤーがいなかった。
ハヤテにまたアイテムを渡された。
それは──
アクセサリー装備の指輪だった。
その時ハヤテがあまるに跪いた。
『結婚して、あまる』
びっくりし過ぎて、何も答えられない。
羽山さんに電話をかけても出てくれない。
あまるは──指輪を装備した。
あまる『ハヤテ、これからもよろしくしくね』
ハヤテはあまるを抱きしめた。
ハヤテ『あまる好き』
とうとう、あまるとハヤテは夫婦になった。
しかし、羽山さんはその日ずっと電話に出てくれなかった。




