第31話 未来
その日、同じ部署の先輩の結婚式だった。
私が新人の頃、何度も挫けそうになった時に支えてくれた人だ。
心から尊敬していて、この人がいるから仕事が回っているような感じだ。。
先輩の話を羽山さんにした時、「あの人、あまり説明しなくても先回りして色々してくれるな」って言っていて、こんな人に私も将来なりたいと思って、先輩を目標に頑張っている。
先輩の旦那さんは大学の同級生。
いつものキリッとした先輩と違って、華やかでとても綺麗で、幸せそうな表情をしていた。
旦那さんはとても優しそうな人で、凄い素敵な結婚式だった。
その後の二次会で先輩に声をかけられた。
「天川さん、羽山さんと付き合ってるでしょ?」
バレていた。
「先輩、なんでそう思うんですか?」
仕事以外で一緒にいるところを見られてしまったのかな。
「天川さんが羽山さん見てる目、ハートになってるよ」
先輩に笑われた。
非常に恥ずかしい……。
「羽山さんも天川さんの事気にしてるのわかるし」
お互い職場では前と変わらず仕事をしているつもりなのに。
「先輩、ヤバいですよね……どうしたらいいですか?」
なんでこんな時にこんな弱音を。
「もう結婚すればいいんじゃない?」
へ?
「先輩それはちょっと極端な発想では?」
「こそこそ付き合ってるよりいいと思うよ。まあ二人がどこまで本気か知らないけどね」
先輩はそれだけ言って、行ってしまった。
もっと気を引き締めないとダメだ。
他の人にも丸わかりはまずい。
二次会が終わって解散になり、駅に向かうと羽山さんが改札前に立っていた。
嬉しくて急いで羽山さんの所へ行って、腕を組んでしまって──その時我に返った。
「羽山さんヤバいです!先輩にバレてました!」
羽山さんは特に動揺はしていなかった。
「瑠美は感情丸わかりだからな」
これでも隠してるつもりなのに!
「でも羽山さんの事も言ってましたよ!私の事気にしてるって」
「……それは気のせいだろ」
自覚がない!
直属の上司と部下。
バレたらどちらかが異動はほぼ確実だ。
「異動になったとして、瑠美はどうする?」
「それは……」
離れ離れになる可能性もあるから、そうなったらどうしよう。
「ごめん、困らせた。それは考えるのやめよう」
羽山さんと、自宅に向かっている最中に考えていた。
私達は付き合っているだけ。
離れたくないからって、今の会社を辞めて転職しても、私達がその後どうなるかはわからない。
関係がうまくいかなかったら、そのままあまり知らない土地に居続けるの?
また転職するの?
キャリアを捨てて、恋愛の為にそこまでするのはリスクが大きい。
いったいどうしたら──
色々考えているうちに自宅に着いた。
「送ってくれてありがとうございます」
羽山さんは明日朝イチで仕事があるって言ってたから、今日はここまでだ。
ところが羽山さんは家に入ってきた。
「どうしたんですか?」
羽山さんが思い切り私を抱きしめてきた。
「離れられると思う?」
不安だった気持ちが溢れてきた。
「離れたくないです。でも、私達は恋人ってだけで──」
確かなものがない。
「恋人やめる?」
──え?
「それはどういう意味ですか……?」
しばらく羽山さんは何も言わなかった。
「ごめん、ちょっと気持ち先走った」
羽山さんはその後、優しいキスをしてくれた。
何度も何度も。
「羽山さん、離れたくないです」
それが私の本当の気持ちだ。
堪えられない想いが溢れて、私は羽山さんを深く深く求めた。
「明日朝早いのにごめんなさい」
羽山さんの温かい体温、匂い、感触。
羽山さんがどこかへ行ってしまったら、私はダメになってしまうかもしれない。
戻れなくなるっていうのは、こういう事なんだ。
そして羽山さんは私に全てを刻んだあと、家を出た。
私の心を連れ去って──




