第一話 しあわせくるしみサンセット
小さな部屋には少女が二人。一人は大きな机の奥に、一人はそのまだ奥の隅っこに座っている。二人の間には気まずい空気が立ち込めて、それは重くなる一方だった。
━━ザッ
奥にいた長髪の少女が立ち上がり、そのまま扉へと向かう。
「ステラ!ちょっと待って!!」
もう一人が咄嗟にそう声を出した。
「……何?」
しかし何も言い返せない。
「もう待ちくたびれたの。昨日言われて、今日の放課後からずっとここにいるけどさ、結局誰も来ないじゃん。やっぱり他人の言葉なんて聞くんじゃなかった。」
「……そ、それならさ、私達から見に行こうよ!まだ……まだ遅くないはずだよ。」
「もう勝手にして。」
そう言ってステラは部屋を去った。
それからゆいもふっとステラの後を追うように、気づけば部屋をあとにしていた。夕日は重く地平線に沈み込んで、階段で揺れるゆいの影を長く伸ばした。そしてゆいが屋上の扉を開こうとしたその時、そこに人がいるのに気づいた。
(あれは……4組の鹿島さん……?どうしてここに……)
彼女は屋上のフェンスに寄りかかってはいたものの、乗り越える様子はない。そのまま一度大きく深呼吸をしたようだったが、ゆいにはそれがため息に思えた。助けなければならないと、本心ではわかっていても足がすくんで、無意識のうちに一歩引き下がってしまっていた。ゆいは強く歯を食いしばりながら部室へと階段を駆け下りた。
━━ガチャッ
ゆいが扉を開けるとそこにはステラが立っていた。
「ステラ!待っててくれたんだ!」
「忘れ物を取りに帰れば部屋に一人もいなかったんだから、待つしかないでしょ。」
「あのさ!なぜかはわからないんだけど、鹿島さんが困ってそうで……あ、屋上に、いたんだけどね!」
「そう。」
「どうにかしてあげないと……!」
するといきなりステラが手を上に掲げた。
「どうしたの?」
「彼女の悩みの種を見るの。」
「それもステラの特殊な力?」
「……憑依の応用だから…………見たいのなら手を合わせたら?」
ゆいは一度唾を飲んで手を合わせた。
瞬間二人の視界が真っ白になった。
それから視界が戻って見えたのは高咲花菜を中心に自分を取り囲むテニス部の女子たちだった。
(テニス部……?ってことは、これは……鹿島さんの記憶……?)
音が聞こえるようになってきたとき、話していたのは花菜だった。
「もう二年生だってー うちら先輩なんだよ ヤバくない?」
「花菜はテニスだって上手いんだから心配することないでしょー」
そうして皆口々に会話を進めるが鹿島花は一向に口を開くことが出来ない。それどころか会話についていくので手一杯だった。
(もうわかんないよ……!ただただテニス部に入ってたからって…………私なんかがここにいていいわけないのに!大して上手なわけでもない…………私なんかただのノイズでしかないのに……!…………なんで自分でわかってるのになんにも動けないんだろう…………もう……嫌だよ………………)
「下校時刻です。校内に残っている生徒は速やかに下校しなさい。」
校内放送が鳴り響き、二人は目を覚ました。ステラは何もなかったかのように出ていくが、ゆいはしばらく動けなかった。
「……ちゃんと鍵閉めてよ」
その時扉の前を通り過ぎる花が見えた。
「鹿島さん!」
ゆいは気づけば声をあげていた。花は驚き振り向いた。
「……一緒に……帰ろうよ…………?」
がらんとした道をゆく二人の影を溶けてしまいそうな夕日が照らした。
「鹿島さん。……テニス部ってさ……楽しい?」
「……楽しいかな……やっぱり」
「…………どんな部も、苦しいことがあるものかな……?」
「うーん……そうかも知れないね……でもさ……たしかに苦しいかもしれないけど……そこにいるおかげで本当はなかった自分がいるって思うから、人一倍楽しいって思えるから続けてるんじゃないかな。」
「…………そっか……!」
その日の夕焼けは夜が来ないかと思えるほど綺麗だった。
つづく




