雨宿りの理由
僕は何のために雨宿りをしているんだ?
きっと雨宿りの雨はすぐ止む前提なんだろうな。そして止んだら行くべき所がある。
この雨はいつ止む?わからない。なら、雨宿りなんかやめるか?でも濡れるのは嫌だ。
一粒では地面に吸い込まれる雨粒も無数に降り注げば水溜まりになる。雨粒は水溜まりに点々と波紋を描き続ける。些細な一つ一つのことが折り重なり、確実に状況を変えていく。
降り注ぐ雨を眺めていると、足音もなく歩いている女が視界に入ってきた。全身ずぶ濡れだ。いたたまれず声をかける。
「雨宿り、しませんか?」
彼女は立ち止まり不思議そうに顔を向ける。
「君は何故雨宿りをしているの?」
なぜ・・・。答えに窮する。しかしここで沈黙すると自分が折れてしまいそうな気がして必死に言葉を継ぐ。
濡れない為、じゃ駄目かな?
今更?ワタシはもうずぶ濡れよ。
そう言って彼女はこちらに向き直る。ポタポタと雫が全身から滴れる。
そうだ!雨を凌いだらやりたいことを考えよう。
やりたいこと?何も変わらない。ここでは誰かに首輪を付けられないと生きてはいけないわ。でもそれだって窮屈だわ。
他の国に行くのは?そうだ、自由の国!
おめでたいんだね、君は。差別と格差に満ち溢れてるわ、あの国は。自由や博愛なんてセレブの膝の上で語るまやかしよ。
大陸はどうだろう?しっかりと国家が管理してくれる。熱々の料理も旨い!
それが安心って考えもあるのかもしれないけど、ワタシは無理。猫舌だし。
混沌の国は?大河の流れに全てを揺蕩える。香辛料の香りに囲まれて身体一つで生きていける。
身体一つで生き残っている奴らが見えているだけよ。死んだら流されて見えなくなるからね。それに香辛料は苦手。
王の国は?手入れの行き届いた庭の片隅で紅茶を嗜む。そしてロックを楽しむ!
先は見えてるわ。ここと同じよ。今だって抹茶やJーPOPを楽しめている訳じゃないでしょ。
砂の国は?
大事にされすぎね。ミイラにされるわ。
青の国は?太陽が燦々と降り注ぎ海もある。路地裏の石畳でボールを蹴る子供達を見ながら街の雑踏を楽しむんだ。
そう、何もないのね。でも結局、太陽と海があれば良いのかもしれない。陰鬱とした雨が少なければ雨宿りの理由なんて考える必要もないわね。魚は鴎と取り合いになりそうだけど。
そう言って彼女は全身の滴を払い軒下に入ってきた。
翌朝、港から青の国に向け出港する大きな船に小さな二匹のネコが人知れず忍び込んだ。




