第35話:アヴァロンに至る道
「ではバーミンガム(Birmingham)へ行きますか?アニェス様」
「マンチェスター(Manchester)に行ってみたいのー」
「どうせならロンドン(London)が良いわ」
妖精の家の庭に、ペトロナさんが書いてくれたブリテン島の地図を眺めながら皆で議論している。
次に目指す場所を決めようとしていたのだが…
既に観光地を決めているような雰囲気になっていた。
なんというか…アヴァロンが俺たちをまったく無視しているようで…待ち体勢の俺たちは、することが無くなってしまったのだ。
「しかし、ヘンリー6世の生死でも動かないとかどういうことだ」
「なんか冒険譚が破綻してるよねー」
アヴァロン側だったティーテンが、お前が言う?みたいなことを言う。
「結局アヴァロンが動いたのって、ティートンとティーテンだけなんだよなー
お前らって貴重な存在だったんだな」
「なんか…バカにしてない?」
「いや、来てくれてありがとうって、今は思ってる」
「そ、そう」
ティートンは頬を染める。
「実際残りの7人って動くのかな?」
「…」
「…」
ティーテンとティートンが首を傾げる。
「モルガン姉様がアリスを攫ってきたときは、姉妹もオオーってな感じで盛り上がったんだけど…ずいぶん時間がたったから…熱も冷めたかもね」
「根本が崩れるんだが…」
「すみません」
と手を挙げるものがいた。トマス・マロリーだ。
トマスは、この妖精の家に連れてきた時点で完全に興奮してしまった。
「な、なんですかここは、アヴァロン?ティル・ナ・ノーグ?妖精の世界ですよね」
「アヴァロンやティル・ナ・ノーグではないが妖精の世界ではある」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ティーの字たちを紹介したときも。
「アアアアア、アヴァロンの九姉妹ーーまさか、まさかお目に掛かれるとは」
といって平伏した。
(こっちにも有るのか平伏?)
「うるさい、こっちに寄るなよ」
「あははは、こいつ面白い―」
取り敢えず、ジャンヌ・ダルクだけはジャンネットとだけ紹介し、ペトロナさん、バシリア、アルガンテは名前だけ紹介した。
トマス的にはジャンネットより、アルガンテに気が行ったが、今のアルガンテは俺の髪色の違う2Pキャラみたいな容姿なのでなんとか誤魔化せた。
俺からすると今のアルガンテもとても綺麗なのだが、トマスの頭の中では想像が膨らんで女王アルガンテは超絶美人になっているのだろう。
そのあと、ティーの字たちの周りをウロウロしていたが、ティートンに怒られて、妖精の家の周辺を探索して戻ってきたところらしい。
「トマス。なんだ?」
「アヴァロンへ至る道に、古いケルトの口伝に第9の波(The Ninth Wave)を超えるというのがありました。
9は3×3であり、ケルト文化において最も聖なる数字です。第9の波を越えることは、現世の守護を離れ、神々の領域。
ティル・ナ・ノーグやアヴァロンへ至るための境界線を意味し、
その波は物理的な波ではなく、魔法的・霊的な“試し”であり、これを越えることは人としての理を超えることに等しいとされるそうです」
「ティーの字は知ってるか?」
「九姉妹の管理ではない、アヴァロン島の意思が招く通路なのー」
「アヴァロンの意思だから…モロノエーの招待が無くても行ける唯一の方法、でも場所が…」
「どこなんだ?」
「私も知らない…九姉妹でもたぶん知っているのは、三相の姉妹モルガン姉、グリーテン姉、ティューロノエー姉くらいだと思う」
「くっ、また手詰まりか…」
「はい!」
トマスが手を挙げて発言を求める。
「知ってます」
「なんでだよ!九姉妹が知らないのになんでお前が知ってるんだよ!」
「趣味が高じて…」
てれっと頭をかくトマス。
「そんなー、私達姉妹が知らないのにありえないわよー」
ティートンが絶叫する。
「ま、まあいい、で…どこなんだ?」
「古いケルトの口伝から、9箇所あることが解って、現在の位置は特徴から推測しました」
トマスはペトロナの描いたブリテン島にバツ印をつけ始め、9箇所つけるとここですと言った。
「ペトロナさん、どこですか?」
「そうですね…
グラストンベリー(Glastonbury Tor)
ティンタジェル(Tintagel Castle)
ストーンヘンジ(Stonehenge)
スノードニア(Mount Snowdon)
湖水地方(Lake Windermere)
ハドリアヌスの長城(Hadrian’s Wall)
スカイ島(Isle of Skye)
アングルシー島(Isle of Anglesey)
アイルランド島北東部(Giant’s Causeway)
でしょうか」
「範囲的に広そうだけど行けば解るのかな?」
「それぞれキーワードのようなものがあります
グラストンベリーは霧。
ティンタジェルは断崖。
ストーンヘンジは影。
スノードニアは山。
湖水地方は湖。
ハドリアヌスの長城は風。
スカイ島は海。
アングルシー島はドルイド。
アイルランド島北東部は波。
私が調べられたのはそこまでです」
「だめもとかなぁ…」
「そうですね。手をこまねいていても進展しない以上は…」
「アニェス様。行く先々で何時ものような問題が起これば。九姉妹も出てくるかもしれません」
(バシリアさん、俺が問題起こす前提なの?)
「よし、トマスの案に乗ることにする。
で、これって順番あるの?」
「調べた上での順番になるので上からやってった方が良いと思います」
「ちょっと待て、これって上に下にバラバラで、島やアイルランドも入ってるぞ」
「そうですね」
「わかったよ、行くよ行けばいいんでしょ」
なんかもう自棄になってしまった。
***
現在位置はクレッセージ(Cressage)だ、最初の波はグラストンベリー。
約200キロ
今は妖精の家があるため、以前のように馬でパカパカ、徒歩でテクテク、が無くなり。街で「巡礼」です「争いごとは起こすなよ」のやりとりも減るはずだ。
俺だけが疲れるんだけどね…
恒例のお姫様抱っこは今日は…
「今日は私なのー」
「大丈夫なのか?」
「まかせてなのー」
「………」
「アニっち疑り深いのー」
膨れさせてしまった。
「行くぞ、よろしく頼む」
ティーテンが頷いたのを合図に俺は地を蹴る。ティーテンの指差す方向に向かって。
含みのある言い方で悪かった。
実際、ティーテンの指示は正しく、中継地点ウスター(Worcester)も予定通り通過できた。
「なんで不満そうなのかなー」
「そ、そんなことないぞ」
ティーテンは景色が変わると、その度に歌を唄って楽しませてくれた。
俺は車の免許を持てる歳ではなかったし、当然車もないが、ドライブで音楽を聞くような感覚とはこんな感じなのかなと思った。
「ティーテン」
「なあに?」
「今回のアヴァロンの入り方だが…お前たち的には良いのか?」
アヴァロンへの道に関してティーの字たちは、今まで語ることを避けていた気がしたので聞いてみることにした。
「良いんじゃないかな。今回のは特に、アヴァロン自身が選ぶわけだし。選ばれた人は資格があるってことだから」
「なるほど」
「まだ入れると決まった訳じゃないしー
玄関から入らず、裏口や窓から入る感覚だけどねー」
「まあ、そうだな
苦肉の策だから致し方ない…」
「…あのね、歴史の意味ではアニっちは、表面上うまくやってるようにみえるよー
どこかに影響してるかもしれないけどー」
「影響?」
「だってー、アニっちはバンバン人も殺しちゃってるし、生まれるはずだった偉人も生まれなくなってるかも知れないよねー」
「確かに…やばいかな」
「うーん、ヤバいねー。
でもヘンリー6世の件は、アニっちが助けることで、歴史が戻ったし。気にしないが良いよー」
「…俺の知る歴史は変わってほしくないと思ってるんだが
やらかしは多いだろうな」
「私は未来視も、時渡りも門外漢だから、アドバイスもできないけどー
たぶん、モルガン姉はアニっちとジャンヌ・ダルクそしてアリスが組むことがアヴァロンにとって危機と感じたんだと思う…
本来、アヴァロンの管理と、治癒の乙女の九姉妹じゃあ、なにが出来る理由でもないのに動いた。動くこと自体ありえないと思う。
勿論、そんな九姉妹でもアヴァロンが危機のときは戦うよー
でも…まだ、そんな時期じゃないと思ってる」
「ティーテン…」
俺がティーテンの名を呼ぶと、突如視界の通らない霧に纏わりつかれるように包まれた。
「な、なんだ」
俺は足を止める。
「この霧…」
ティーテンが唇を震わせ顔色が蒼白になる。
「ティューロノエー姉…」
『ティーテン…
そこまで理解できて、何故アヴァロンの敵に加担するのですか…
アリスを攫った時点でモルガン姉様はこの件を終了としていました』
「聞いていません」
『手出し無用と言われてたはずです』
「え?」
『え?』
「え?」
『あなた…』
(………)
「聞いていません」
(おお、通すつもりだ)
ティーテンの行動に動揺したのか、気配の揺らぎを感じた。
「そこ!」
俺は揺らぎに向かってスローイングナイフを飛ばす。
しかし、ナイフは俺が感知した場所をウロウロしてしまう。
「アニっち。この霧自体ティューロノエー姉の世界なのー」
「吹き飛ばす!」
俺は、詠唱を始める。
周囲の霧を瞬時に蒸発・加熱することで巨大な上昇気流を作り出し、それを上空で急速に冷却して水滴に戻す。その過程で解放される潜熱が、大気をさらに熱し、天を衝くほどの二次上昇気流を生み出していく。
《ストーム》
地表付近の空気は極限まで薄くなり、その空白を埋めるべく周囲の空気が猛烈な勢いで俺の下へと流れ込む。
この星の自転が与える螺旋の導きに従い、それは巨大な渦へと変貌した。
俺を中心に、秒速80メートルの暴力を周囲に振りまく。
ティーテンは耳を塞ぎ、必死にしがみついている。ティーテンの悲鳴が消えると、霧は晴れ、俺たちを中心として、反時計回りに全ての木々がなぎ倒されていた。
「逃げられた?」
「元々、いなかったかも知れないのー」
ティートンやティーテンのようにはいかないか…
「アニっち。失礼なこと考えてそうな顔してるのー」
ティーテンに睨まれた。
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