第五話 又鬼ごっこ
4月22日、金曜日の午後、戸隠学園一年玄武組の生徒は学園の広大な演習林、その北端に集められていた。
「これより、実戦演習『又鬼ごっこ』を開始する」
担任の竜胆先生の重厚な声が、森の静寂を震わせた。
演習のルールはこうだった。
・制限時間は3時間。
・範囲は演習林内(直径約3キロ)。
・逃げ子は一年生の全4クラス(84名)。
・鬼役は三年生の有志20名。
・逃げ子は開始10分前に演習林内の好きな場所へ移動する。
・鬼は逃げ子を見つけ次第、手錠を掛ける。手錠を掛けられた逃げ子は即脱落、開始地点に自ら戻る。
僕はルールを整理しながら考えた。要するに見つからなければ大丈夫だ。幸い、林には木々や茂みなどの遮蔽物が無数にある。
鬼に見つかっても手錠を掛けられなければいいので、戦うという選択肢もある。しかし相手は三年生だ、正攻法ではまず敵うまい。
複数人で行動すれば勝てる可能性は上がるが発見される危険も増える。
「最後に、時間内に全ての生徒が捕まったクラスは全員退学とする。覚悟して臨むように」
竜胆先生の言葉に、生徒たちがどよめきを上げた。
(退学だって? そんな簡単に言うなんて……)
僕も驚きで胸がざわついた。
「風見」
呆然としていると、背後から傷代の声が聞こえた。振り返ると、傷代、鹿深、真神――僕と同室の三人が集まっていた。
「俺たちは一緒に行動することにした。風見も一緒に来ないか?」
傷代の提案に、僕は少しだけ迷った。彼らと行動すれば、確かに生存率は上がるかもしれない。しかし...
「断らせてもらうよ。足手纏いにはなりたくないし、僕は独りの方が隠れやすい」
傷代は僕の答えを聞くと、あっさりと頷いた。
「分かった。健闘を祈る」
そのまま三人は森の中へと消えていく。次々に他の生徒たちも森へ入り、自分の隠れ場所を求めて散らばっていく。
(僕も早く移動しないと……)
周囲を警戒しつつ、木々の中へ足を踏み入れた。
僕達の闘いが始まろうとしていた。