第三話 勿朽流華
宙飛が目を覚ますと、視界は白い天井に覆われていた。
「……ここは?」
ぼんやりとした頭で僕が呟くと、すぐ傍で静かな声が答えを返した。
「保健室だよ」
声の主を見ると、椅子に腰かけて文庫本を読んでいる勿朽流華の姿があった。
「授業中に倒れた君を、保健委員の私がここまで運んだの」
彼女は本を閉じ、淡々と続ける。
「あ……ありがとう」
戸惑いつつ礼を述べる僕を、勿朽は不機嫌そうに眉を顰めじっと見つめた。
何かまずいことをしたのかと一瞬思ったが、彼女は素がこれなのだ。一週間、同じ班で行動して気付いたのだが、彼女は誰に対してもこの視線を向けていた。
「授業っていうと、竜胆先生が……」
僕は朧げな記憶を手繰る。訓練中、竜胆先生が召喚した岩の鎧竜――あれに対して僕は竜巻を起こしたのだ。
「じゃあ、あの鎧竜を僕が……?」
「勘違いしないで」
勿朽は鋭く僕の言葉を遮った。
「あの竜巻で壊れたのは関節部分だけ。動くのに必要な比較的柔らかい場所。骨格には傷が付いていただけだよ」
「さ、さいですか」
「あの後、恐竜は復元されたけど、授業の終わりの時刻が近づいたとかで、皆んなの拘束は解かれたよ」
まぁ、そんなところだろう。僕に出来るのは時間稼ぎがせいぜいである。
「ねぇ、君は何?」
彼女の問いかけに僕は当惑する。
「何って?」
「初日の出力訓練、あれは手加減していたの?今日の竜巻、比較的脆い部分だけとはいえ先生の術を打ち破った。君は一体何者なの?」
真剣な問いに僕は息を飲み、僕は自分が術の威力を制御出来ないことを説明した。
「...だから人間相手には過剰に手加減してしまうんだ」
僕の言葉に勿朽は少し考えるような素振りをしてから告げた。
「君は臆病だね、期待外れだよ」
自覚はあるが人から言われるとキツイな。期待?僕は何を期待されていたんだろう?
尋ねようとしたが、勿朽は立ち上がり保健室から出ていってしまう。
僕はそれを漫然と眺めていた。