第十七話 野盗
5月29日の土曜朝八時、宙飛はまた第二備品倉庫に来ていた。
「おはよう深林坊君、来たよ」
僕は室内にいた深林坊にそう声を掛ける。
「待たせたね宙飛君。早速だけどこれが君の為に選んだ武器だ」
そう言って深林坊は一振りの忍者刀を僕に差し出した。白地に茶色の模様をした柄。刀身は忍者刀にしては短いが脇差と言うには長い。刃幅は狭く刃厚も薄い。
「軽いね、そして持ち易い」
僕は刀を受け取り矯めつ眇めつする。
「取り回しの良さを追求してみた。その分耐久性は落ちるからあまり無茶な使い方はしないように」
「ありがとう、ちょっと試し振りしてみてもいいかな?」
その言葉に笑みを返す深林坊を残して僕は外に出る。
しばらく新しい忍者刀を使って型稽古をしていると楓がやってきた。
「それが新しい刀?使い心地はどう?」
「いい感じだよ。試してみる?」
僕の言葉に楓がニヤリと笑む。
「いいよ。また胸を貸してあげる」
それから深林坊を呼び出した僕と楓は倉庫の前で互いに向かい合う。
楓は前回と同じく片手脇に短刀を構え、僕は忍者刀を片手上段に構えた。
「では、はじめ!」
深林坊の合図と共に僕は距離を詰める。そのままの勢いで袈裟懸けに斬り掛かるも楓の短刀にいなされる。
続けて僕は上段の右蹴りを繰り出すと、楓は左腕で防御するも耐え切れずにタタラを踏む。
その隙をついて僕は忍者刀を閃かす。楓はなんとか短刀で弾くも、僕の左掌は既に楓の顔面すれすれに照準を合わせていた。
「そこまで!」
深林坊の決着を告げる声が響く。
「はー強くなったね、宙飛君。まるで別人みたいだよ」
「しっかり身体を休ませたし、なんといってもこの刀のお陰だよ。改めてありがとう深林坊君」
僕が感謝を告げると深林坊は柳色の髪を掻きながら言う。
「そう言って貰えると厳選した甲斐があるね。そうだ、その刀の銘は決めたかい?」
「僕は普段は武器に名前なんて付けないけど」
「おいおい、自分の命を預ける武具には愛着を持って接しないとバチが当たるぜ」
「そういうものなの?うん、じゃあ『野盗』と名付けよう」
「いい名前だと思うよ」
そう言って深林坊は満足そうに頷いた。
こうして僕は新しい刀を手に入れた。一歩前に進んだような気がする。