第十六話 深林坊大樹
5月22日、日曜日の朝、宙飛は第二備品倉庫に来ていた。
扉の前には楓が眠そうに立っている。
「おはよう、宙飛君」
「おはよう、楓も来たんだ」
「うん、手伝うって言ったし。彼に頼むのならあたしもいた方がいいと思って」
「?よく分からないけど、ありがとう。錬次は中かな?」
そう言って僕は扉を開ける。倉庫の中は所狭しと武具が鎮座していた。
奥の方から物音が聞こえる。その音源に向かって進むと二つの人影が見えて来た。
「お、来たか。おはよう二人とも」
人影の片方、錬次が僕達に気付いたが、もう一人は一心不乱に何かを弄っている。
「おい深林坊、お前に来客だぞ」
「んー?」
深林坊と呼ばれた人物は手を止め、僕の方を向く。かなりの背丈だ。錬次も背の高い方だがそれ以上ある。彼が弄っていたのは、…武器だよな。魔改造され過ぎて元がなんだったのかもよく分からないが。
「あぁ、君が穂月の言ってた宙飛君?己は深林坊大樹」
柳色の短髪をかきながら彼が自己紹介をする。
「風見宙飛です。あなたが僕の武器の相談に乗ってくれるんですか?」
「あーそういう話だっけ。どうしようかなぁ、気乗りしないなぁ」
気怠げな態度を見せる深林坊に対して楓が前に出て上目遣いで言う。
「あたしからもお願い、宙飛君の力になってあげて」
すると深林坊の態度が豹変する。
「女の子に頼まれたら断れないな。しょうがない、引き受けるてやるよ」
「…助かります、これが今使っている武器なんだけど」
彼の軟派な物言いが少し不安だったが、ともあれ僕は忍者刀を差し出す。
「ふむ、汎用型の忍者刀だな。んー」
「どうかな?」
「武器だけ見ても君に合うかは分からないかな。ちょっと君の戦い方を見せてくれる?そうだなここは狭いし外へ行こうか」
四人は備品倉庫の外に出た。
「それで誰とやるの?」
「あっ、じゃああたしが。宙飛君がどれだけ強くなったか確認したいし」
僕の問いに楓が答える。
「…僕は楓と戦った記憶は無いんだが」
「そうだっけ?まぁいいじゃん」
楓は短刀を片手脇に構える。対して僕も忍者刀を片手正眼に構える。
「では、はじめ!」
錬次の合図と共に僕は駆け出す。袈裟懸けの斬撃を繰り出すも楓はあっさりと避ける。
その後も僕は攻撃を繰り出すも楓は避け続け、避けきれない斬撃は短刀でいなす。
(風見屍這も使えないな。あれは相手の隙をつく技術なのでこう受けに専念されると…)
剣戟に織り交ぜて竜巻を見舞うも、楓は同じ様に竜巻を生み出し相殺させる。
次第に息が切れて脚がもつれる。その隙を見逃す彼女では無い。僕の首元に短刀の切先が向けられた。
「そこまで!」
錬次の声が響く。
「まだまだだね、宙飛君」
「ずるいよ楓、攻撃せずに僕が疲れるのを待つなんて」
「これも戦術だよ♪」
それもそうだ。また一つ改善すべき点が見つかったと考えよう。
「成る程ね。君に適した武器がだいたい分かったよ」
黙って見ていた深林坊が口を開いた。
「本当?」
「ああ、見繕ってやる。そうだな、来週末にまた此処に来てくれ」