第十五話 羽妙之楓
5月21日の土曜日、丑寅訓練場にて風見宙飛は穂月錬次と訓練をしていた。
「くっ、風見屍這!」
「甘い」
虚を突いて背後を取った筈だった僕の忍者刀は錬次の日本刀に防がれる。
「何回か見せて貰えばその技は看破できるよ。それに宙飛、お前とどめを刺す時に首筋を狙う癖があるよな。来る場所が分かっていれば対処するのはそう難しい事じゃ無い」
まだ未完成とはいえこんな簡単に防がれるとはショックだ。
「もう一回、次こそは」
そう言って手から竜巻を出す。しかしその瞬間、僕の意識が遠のいた。
目覚めるとそこには白い天井、微かに香る消毒液の匂い。保健室か、ということは…
「あっ、起きた」
声のした方向を見ると、そこには苔色のおかっぱ頭をした少女が座っていた。高校生とは思えない小柄な体躯は座敷童を連想させる。
「うん、大丈夫そうだね。やっぱり疲れが溜まっていただけみたい。ここ最近碌に寝て無いんじゃない?」
「えっと、久しぶり、楓。何で君がここに?」
彼女の名前は羽妙之楓、僕の従妹だ。そうか彼女もこの学園に入学していたんだったか。
「だってあたし、保健委員だもん。びっくりしたよ、穂月君が宙飛君を背負って連れてきた時は」
彼女の隣には心配そうな錬次の顔があった。
「根を詰めすぎなんだよ。焦ってもいい事はないぜ」
確かに僕は焦っていた。玄冬先輩との力量差はあまりに大きい。
「穂月君に聞いたよ。生徒会長を倒す為に頑張っているんだよね。あたしも応援するよ」
「…ありがとう、楓」
「でも、強くなりたいんだったら睡眠をしっかり摂ること。寝不足で訓練しても非効率だよ」
「気をつけるよ」
そう言って僕は立ち上がり、立て掛けてあった忍者刀を拾う。
「宙飛君、ちょっといい?」
楓はそう言うとじっと僕の身体を見つめる。
「えっと、何?」
「ちょっと体幹が右に傾いているなと思って。さっき触診した時も右腕の筋肉が妙に張っていたし。その刀、宙飛君に合っていないんじゃない?」
楓の言葉にドキッとする。僕はそんなに筋肉がある方じゃないが、忍者刀は普通の日本刀よりも軽い。
「そんなに負担には思わないけど」
僕は忍者刀を弄び乍ら答える。
「いや、意識できないくらいの軽い綻びでも宙飛の戦闘様式には致命的になり得るよ。そうだな、得物を変えるのも有りかもしれない」
錬次の言葉に僕は反論する。
「でも、これ以外の武器ってあんまり使ったこと無いし」
「俺も打刀しか基本的に使わないから適切な助言は難しいな。…となればあいつの意見を聞きたいかな。宙飛、明日は暇か?」
「...予定は無いけど」
「じゃあ朝の9時に第二備品倉庫に来てくれよ。会わせたい奴がいるんだ」