第十三話 宙飛対氷筍
5月6日、大型連休明けの放課後、丑寅訓練場にて。
夕日が差し込む中、宙飛は玄冬氷筍との決闘に臨んだ。傍らには涼、錬次、そして勿朽がいて僕等を見つめている。
玄冬先輩は冷静な眼差しで僕を見据え、軽く息を吐いた。
「風見君、準備はいいかい?」
僕は頷く。
「はい、お願いします」
玄冬先輩は冷笑を浮かべた。
「一方的になり過ぎても詰まらないな、ハンデをあげよう。この僕はここから一歩も動かない」
その言葉に僕は顔を顰める。嘗められていることに憤りを感じたが、すぐに考えを改める。油断してくれるならその方がいい。
「では、始めよう」
玄冬先輩が告げる。
僕は一歩前に踏み出し、手を前に掲げた。左手から放たれる小さな竜巻が玄冬先輩に向かう。しかし、彼は微動だにしないまま、氷の壁を作り出して竜巻を遮った。
「その程度ではこの僕には通用しないよ」
玄冬先輩は冷笑を浮かべたまま言った。
それはわかっている。今のは牽制に過ぎない。僕は即座に玄冬先輩に突進して、刀を振りかざすが出現した氷の壁に遮られて彼には届かない。
構わず僕は刀を振り続ける。氷と鉄がぶつかる音が響く中、玄冬先輩が呆れた声で言う。
「無駄だよ、そんな攻撃ではこの僕の氷を打ち破ることなんて出来ない」
そんなこと百も承知だ。だがそんなことはおくびにも出さない。
(まだ、まだだ)
「もういいよ、時間の無駄だ」
氷の盾が消える。そして次の瞬間、下方から迫りくる氷の尖柱が僕のいる位置に出現する。
しかしそこにもう僕はいない。
「歩法『風見屍這』」
僕は気配を消し、玄冬先輩の背後を取る。そして忍者刀を彼の頸筋に向けて振り下ろした。
しかし玄冬先輩はその攻撃を瞬時に察知したのか、斬撃は氷の盾で防がれた。
「面白い技を使うね」
その瞬間、鳩尾に衝撃が奔る。氷の尖柱が僕の身体を吹き飛ばしたのだ。
「後ろを取られたことには驚かされたが、ここまでのようだね」
地面に倒れ伏す僕を見下し玄冬先輩は言った。
「次はこうはいかない」
僕は涙が伝う頬を左手で隠す。自分の無力さが心底情けなかった。
「まだ無様を晒すのかい?」
「構うものか、何度負けても必ず僕はあなたに勝つ」
僕は涙声で宣言した。
「そうかい、では精進するんだね」
玄冬先輩はそう呟き去っていった。
こうして僕に初めて、目標と言えるものが出来た。