第十話 終幕
演習終了の鐘の音が森に響く。
涼と錬次は地面に座り込んでいた。二人の手には手錠がかけられている。
あの時、錬次の攻撃を喰らった煤炭は倒れなかった。そして彼は力を使い果たした二人に手錠をかけて姿を消した。
「煤炭先輩、強かったな」
錬次の言葉に涼は答える。
「ああ、悔しいなぁ!」
「もっと強くなろう」
「そうだな、次は負けない」
「おや?理界君、そんな所で何を考え込んでいるんだい?もう演習は終わったよ」
風切栞瑚が笹舟理界にそう声を掛ける。
「栞瑚か。いや何、今年の一年も面白そうなのが入って来たと思ってな」
理界は鬼の面を外しそう答えた。
「うわ珍しい。理界君が妹以外の人に関心を持つなんて。それとも兄として妹の同級生を見定めているのかな?」
栞瑚が意地の悪そうな表情でそう言う。
「栞瑚、しばらく黙れ」
勿朽は何も言わずに去っていった。今も離れた場所でぽつんと立っている。顔は見えない。怒らせただろうか?宙飛はじっと勿朽を見つめる。
どれくらいそうしていただろうか?鐘の音が鳴ってしばらく経った頃、森の方から足音が聞こえた。
音のした場所には真神、傷代、鹿深の三人が居た。皆ボロボロだけど手錠は着けていない。
僕は三人に駆け寄り言う。
「良かった。捕まらなかったんだね。でもその傷大丈夫?」
傷代が答える。
「戦闘中に鐘が鳴った。あと少し鐘がなるのが遅かったら危なかったな」
「皆揃ったな」
そこで竜胆先生の声が響く。
「無事生き残りが出たようじゃな。他の組も何人か逃げ切れたようじゃぞ。健闘御苦労。では、これにて演習を終了とする」
それぞれの想いを連れて夜は老ける。僅かばかりの余韻を残しながら。