予想通りの事と、見落としていた事
数千年前の出来事を知る英雄ゴブリンのノームさん。
「ノーム、これだけは即答してくれ」
勇者が真っ先に重要な案件を問う。
「この世界の人類は一体何に襲われているんだ?」
私達が最も知りたい事。
私達の敵は誰なのか。
「被害者みたいな顔をスルナ。逆だろうが」
「あっ、やっぱそういう感じ?」「あっ…」
ヤマトと私の声がハモる。どうせそんな事だろうと思ったよ。
「お前らが襲われてイルんじゃない。お前らに被害を受けた者達が反撃してイルのだ」
「そんな事だろうと思ったよ」
まぁね。そうだろうなーという空気はあったよね。でもそういう話じゃないんだよね。
「ノームさん、私って知的で天才な王女だからさ、国民の命を守りたいだけなんだ」
「今スグ諦めろ」
「それでも英雄で勇者かよ!?他種族も守ったゴブリンなんだろ!?そこの勇者も聖女も私が見た最初の活躍は幼い姉妹の救助だったぞ!」
「ヌゥ……!」
お、効いてる。
「俺からも頼むノーム。今はチートな賢者の力でギリギリ守れているが、理由も規模も期間も分からず突然襲われ続けてたらいつか絶対被害者が出ちまう。防ぐための情報をくれ」
「防ぐと言っテモお前……」
「その話は別で二人でやろう。今はここの皆を守るために有用な情報が欲しいんだ」
「あれ何の話?私の目の前でなんか不穏なこと言ってないか?お前ら秘密作るような時間あったか?」
「……」「……」
絶対あるやつじゃん。なんだ?勇者という存在に共通の秘密があるのか?
「空が割れて奇襲を受けるのと、どうやら既に魔法生物に侵入されて繁殖されている疑いがある。これを俺達は邪竜の襲撃と呼んで、皆を守る方法を探している。人類だけじゃない、ゴブリンだってそこの賢者は守ってる」
「ヌゥウ……」
めっちゃ迷ってる。つまり絶対有用な情報があるじゃん。渋るってことは、渋るだけの情報を持ってるって事じゃん。
考えろ。考えろ。今ここで絶対聞き出す。
この状況で一度時間を与えたらきっと更に慎重になる。言い訳を考える隙を与えるべきじゃない。
ノームさんは勇者がお気に入りで、ゴブリンという種族への愛情もあって、他種族も守った英雄で、賢者を殺したいくらい警戒している。
こうなるとかつての賢者がなにかやらかしたのは明白で、なんなら今襲ってきてるのは旧賢者の手下かも知れない。人類に逆恨みとかそういうね。
そこを踏まえると……
「ノームさん。もし敵が賢者なら、それを倒せる可能性があるのも賢者の私なんじゃないか?」
「……!いや、まぁ、ウーン」
あれ。なんとも言えない反応だった。一瞬ぴくっとしてこっちを見たんだけどな。ずばーんって効いてなにか話してくれるかと思ったのに。
不意にヤマトがこっちを鋭い表情で見る。
「タリア、封印する空間ってどこにあるんだ?」
「え?封印は封印……」「あっ!?お前、ヤメロ!」
「別空間に封印するっていうのは、つまり『異世界への追放魔法』なんじゃないのか?」
……返す言葉が出てこず、ウラニアと目を合わせてしまう。私の専属研究員の血の気が引いた顔を見るに、私の顔も真っ青になっているのかも知れない。
「前回タリアが空に無効化魔法を放った時、俺の中の魔力が勝手に溢れた。あの時点で俺の中にある封印があの空の割れ目と関係があるのは明白だ。そうだろうノーム」
「無効化魔法!!?」
「というわけだタリア。あの空の割れ目の向こうは、かつての勇者達が敵を追放した別世界らしい。そして俺の魔力の出どころでもある。皆を守る答えを出してくれ。国民とか人間とかこの世界の生物って話じゃないぞ」
「ば…!バカ!オレがせっかく隠そうと」
「賢者に下手に隠すと変な答えを出して危ないかも知れないだろ」
「ヌゥゥ……!」
あれ?急に矛先が私に向いて無理難題が降ってきたぞ。
どうやらヤマトはほぼ答えに辿り着いていて、それが合っているかノームさんに確認したかったようだ。
封印は、異世界追放魔法と仮定。
勇者の異世界召喚と、その中にある魔力源の封印。
別世界から呼び出され定住した種族達。
ゴミ処理の作業標準はあっても、ゴミ処理施設の遺跡が見つからない世界。
……どれもが、別世界と繋がる力を示している。
それも、魔法というより、元々この世界にそういう力があると示していると思う。
「タリア、勇者の紋章をもう一度見てくれ。円を楔で区切る。俺の世界ではこれをもっと三角形っぽく、かつ分かりやすく矢印にしたものをリサイクルマークと呼んでいた。それが多重線になってるのがずっと気になってた」
「……リサイクル……?ヤマト、お前まさか……それに気付いて黙ってたのか!?」
「意味が分かるかタリア?襲撃を止める本来のゴールは『封印を再封印する』んだ。俺が自分の体を使って、昔の封印を新しい封印で覆う。問題は正しい勇者召喚がされず、方法も失伝していて、更に俺も人柱になっちゃうとこだな」
「何を気軽に言ってる!?分かってたならもっと早く相談しろよ!?」
「……解釈違いだから言及したくなかったが、『勇者』って、大体自分を犠牲にして何かを守った者への称賛のほうが多いからな」
飄々とえぐい事を言い放つヤマトにノームさんが食い下がる。
「ナゼだ!!そこまで分かってたなら、コイツラに教えてはダメだろう!」
「ノーム。俺達は、賢者の力で勇者召喚の仕組みを破壊するつもりなんだよ」
「バカが!なぜ分からん!?その賢者を封印する為にお前らが召喚サレテしまうのだ!!」
……あれ?封印されてるのって賢者なの?邪竜と呼ばれる魔法生物じゃなく?
「私達ってもしかして前の賢者に襲われてるの?」
「だから逆ダロ!?お前らは襲ってる側だろうが!まして賢者という存在は数多の世界を襲う害虫ダ!」
「酷い言われようだな!?私そんなに悪逆非道か!?」
地面に影縫いで刺されたままのノームさんがわざとらしく溜め息をつく。やれやれって感じの。うざ。
「善行だの、聖なる行為だの、犯罪の規模が膨れ上がるほど自認では善い行いのつもりナンダよ。初歩の初歩だろうがヒョロナガの坊主」
「賢者がゴブリンに説教されるファンタジー本当にがっかりするからやめてくれタリア」
「なんだよ!?私そんな悪いことしたか!?今だって皆を守りたいだけだぞ!」
「良い悪いというのは、そうハッキリ白黒がつくものではナイのだ坊主」
ヤマトと英雄ゴブリンと案内ゴブリンがくっそ舐めた態度で私を憐れんでいる。めっちゃ腹立つ。そして坊主じゃない。いい加減怒るぞ私も。
「英雄様を見れば分かるダロ坊主。これが賢者の所業ナラ、むしろ善行ほど危ナイのだ」
「え?」
何?どういう話?
周囲を見渡すとウラニアとマリウス王子も青褪めた顔で私を見ているし、アネモネは殺気を込めてノームさんを監視し続けていて話はもう全く聞いてない。
あれ、私とアネモネだけ?話が分かってないのって。
「──守るも何も、賢者には生死すら関係ナイじゃないか。死者を蘇らせる事すら容易いのだろう?」




