英雄を守る者
内臓が浮き上がるような感覚と、突然地面がせりあがったような錯覚。
立っていた場所が突然なくなると、落ちたって理解する前に世界が動いて反応出来ないんだな。自分じゃなくて地面が動いたように感じたもん。いや地面も動いたと言うか割れたんだけど。
あまりにも不意打ちだったから悲鳴も間に合わなかった。
「おわぁあああ!!」
「悲鳴おっそ!!アネモネ、死守!!」
「はい!あ、あ、でも!」
「そういうのは後だ!ウラニアとアネモネで守ってくれ!」
私の中ではまだ急に穴に落とされそうになってビックリしている段階なんだけど、穴の奥から飛び出してきたノームさんにヤマトとマリウス王子が即座に応戦し、アネモネは私とウラニアを抱えて飛び上がり、ウラニアはなんか妙に強化されてるゴーレムを喚び出しながら凄く高価な結界を張る。
一瞬の出来事なのに皆対応速度が早すぎる。私だけ理解が追いついていない。
もしかして皆こうなる可能性を予測して準備してたのか?
……いや!全然私も気付いてたけどね。全然こうなる気がしてたわ。急に反応出来なかっただけだし。いや、たぶん反応も出来てた気がするわ。そうだった気がする。
そして更に意外だったのは案内ゴブリン。
「英雄様!ダメだ!!まず話を聞いて欲シイ!!」
「オレの邪魔をすると巻き込まれるゾ!」
「ダメなものはダメだ!力ずくでも止めル!!」
ヤマトとマリウス王子を土の壁で囲ってこちらに来ようとしたノームさんを、まさかの案内ゴブリンが魔法道具で攻撃して足を止め、土の壁も解除する。
「ヤマトさん!!またボクの封印にグリッチを!?」
「悪い、その話も後な!」
まだ内心『落ちそうになってビックリしたぁ』くらいの段階の私を置いて状況が凄まじい勢いで進んでいく。
どうもヤマトは最初から自分の魔力を抑える道具でノームさんを止める気だったらしく、普通に外して構えている。
そしてマリウス王子も前回効いたクワガタっぽい捕縛道具を使っているが、今度はノームさんの動きが速すぎて当てられない。
空気を蹴るアネモネと似たような動きだけど、英雄ゴブリンは地面自体が彼の思うまま動き、足場にも壁にもなって……更には地中からものすごい勢いで岩を打ち出して私を攻撃してくる。
「うわっ!?」
障壁もあるし、私への遠距離攻撃は国宝ビキニアーマーで無効化されるのでどうということはないんだけど、とにかく全てが高速で行われているので理解が間に合わず、急な攻撃に私の可憐な悲鳴が溢れてしまう。怖いもんは怖い。
しかも私達の万全の防御で防いでるわけではなく、その手前で案内ゴブリンの妨害により攻撃が撃ち落とされている。意味不明な展開過ぎる。
「オオ!?火薬銃ダ!?ここ本当ニ未来か!?」
「ゴブリンが銃ぅうう!?」
「英雄様!!力ずくで止めル!」
案内ゴブリンの手には二丁の拳銃が握られていて、魔法の合間に銃撃による牽制が行われている。ヤマトも思わずいつもの解釈違いポーズをして叫んでいたが、今回は私もビックリだし解釈違いだ。まさか現代で普通の火薬武器とは。かなりの骨董品だ。
大量に火薬を保管するだけでも安全コストがやばいのに大した威力でも無いので、硫黄などの資源を私達より採掘しやすいゴブリンだからこそ弾を用意しやすいのかも知れない。
少なくともゴブリンのイタズラで自分達の火薬庫が大爆発する事は無いんだろう。いやあるのかな。ありそうだな。可燃物の側での爆竹とか絶対好きそうだもんな。
趣味でああいう銃を作ったりスポーツ的に使ってる人達も居た筈だけど、現場での実戦投入は初めて見たかも。
結局マジックショットが廃れたのと似た理由で、投石や魔石武器の投擲が低コスト高威力なので大金かけて低威力な火薬武器作る人って多分あんまり居ないんだよね。
コスト度外視でとんでもない連射銃でも作らないと回復能力の高い魔物には意味が無いとか、硬い魔物相手じゃ牽制くらいにしか使えないのに金食い武器だとか、開発頓挫の歴史の中で色々酷い評価もあった筈だが、まさか実戦で活躍している姿を見る日が来るとは。
あの器用なゴブリンからすると『高コストで牽制しか出来ない武器』じゃなく、『他の魔法も使いながら牽制が出来る武器』という選択肢の一つなんだ。
「待ってくれノーム!案内ゴブリンさん!俺が無理に頼んで急いで復活して貰ったんだ!!揉め事や戦いも俺が引き受ける!!あとファンタジーで銃を使うんじゃねぇ!!」
「お前生きたまま燃えてルじゃないか!無茶するな!!」
「訳の分からンことを!!長老から対応を任されたのはオレだ!!お前らは無理スルナ!!」
「これは国の一大事なんだ!王子である僕が!!」
「誰か銃にも反応してくれ!絶対その武器はゴブリンが使っちゃダメだ!!」
……うーん。なんか良く分からない戦いになってきた。あいつらなんでお互い譲り合いながら殴り合ってんだろう。
いや一応私を守ってくれてる流れなのでそんなふうに言っちゃダメだけど、ノームさんはやっぱり勇者がお気に入りらしく、ヤマトが無茶な戦いをするとすごく心配している。
その優しい心があってなんで無慈悲にこの美少女を攻撃出来るんだ?ふつうならまず私に情をかけるだろ。
そしてヤマトはどうやら最初からこの状況を背負うつもりだったらしく、ノームさんの反応込みでわざと自分を発熱させながら部分的な巨大化や魔法弾を繰り出している。
「強い。私の影縫いが必要かも知れないけど、隙を見せられない」
「うわアネモネからの強い認定珍しくない?」
「本当に強いわ。前回の復活は本当に不完全だったのね。別格に強い」
なんとアネモネが臨戦態勢のまま冷や汗をかいている。どうしよう滅茶苦茶シリアスな戦闘シーンでもあるようだ。
私にはよく分からないが、変に攻撃しようとして防衛の隙を見せたらなんか凄い攻撃が来て私が危ないって感じの空気になっている。
みんなの動きや思考が速すぎて全然話についていけないぞ。強い奴らの戦闘を間近で見るとこんな感じなんだ。
「オイ!子孫!!お前自分が何の邪魔をしているか分かってるノカ!?」
「状況が分かっていないのは英雄様ダ!」
「あれが賢者なら殺セル時に殺さねば!!」
「アレは取引先の重要人物だ!オレはこの現場の責任者として部下の生活を守る義務がアル!!」
あの案内ゴブリンってそういう立ち位置なんだ。確かに何か仕事が大変みたいな話してたもんな。
「それどころじゃ……まさか賢者について失伝しているノカ!?」
「なんかアルのは知っている!でもそんな妄想話より、有名で、現実的で、大事なのがアンタじゃないか!!英雄様!!!」
「はぁ!?オレ!?」
凄い、現場監督ゴブリンが怒涛の言葉と魔法攻撃でノームさんを押し返しはじめ、予想外の迫力に勇者と王子も軽い援護しか出来なくなっていく。
よく見ると顔というか目を狙う銃撃で動きを制限した所に攻撃魔法を織り交ぜていて、定番の土壁に対しては銃の立場を追いやる筈の投擲武器も使いこなしている。もしかして、どっちかで良くねという比較方針ではなく、選択肢を増やして全部使う発想だったら難点のある装備も採用しやすいのかな。
トリッキーかつ文化の違いを感じる。文化というか資源の違いかも知れないが。
「アンタは種族を問わず幼いガキ共を守っタ筈だ!!偉大な英雄の筈ダ!!」
「う、いや、オレ?オレは別にソンナ……」
「嘘だ!!アンタの同郷として!祭壇の責任者として!!ヒョロナガの賢者なんかよりアンタの伝説こそ守らねばならン!!」
「な、なんなんダ!?なぜオレの邪魔しながらオレを…!?」
そしてどうやら英雄の強火ファンでもあるようだ。この土地の大事な英雄扱いだったのかノームさん。実際何かゴブリン達にしてはやたら丁寧な扱いしていた気がする。骨は雑に積まれてたけど。
「偉大な英雄に!誰かを守り続けたアンタにぃ!!!ヒョロナガの坊主なんか殺させる訳にはいかなイんだよぉ!!!」
弾が尽きたのか銃を投げつけるとそれが閃光を放ちながら爆発し、勢いに思わず怯んだノームさんに案内ゴブリンが飛びかかる。
すごい、私のことを別種族の男のガキだと思い込んだまま守ろうとしている。どういう感情を抱けばいいんだ。しかも私というか英雄の英雄らしさを守ろうとしている。どういう……え?どうすればいいんだこれ?
「ボクもよく男の子扱いされるっすけど、これはなかなか……」
「よせウラニア。いま私凄く複雑な感情なんだ。反応出来ない」
近接戦闘が苦手で古い遠距離武器を使っていたというわけでも無いらしく、普通に超接近戦に持ち込もうとして案内ゴブリンが何らかの道具か近接武器を構えて突進する。
「宝剣!抜刀!!」
「何!?ナンダ!?」「うわあああ!?ビームソードぉ!!?」
剣の柄みたいなものから溶接に使う道具の炎みたいな光の刃が飛び出し、思わずガードしようとしたノームさんの土壁と盾をすり抜けて、雷のような一閃が何にも触れなかったように通り抜ける。
この武器もまた解釈違いだったらしいヤマトが悲鳴をあげるが、ふざけた口調とは裏腹に素早く冷静な動きで一瞬硬直したノームさんにベルトを絡め、横から王子の捕縛道具が追い討ちで食らいつく。
どうやらゴブリン的には宝剣で、ヤマト的にはビームソードというカテゴリの武器らしいが、鑑定した感じだとあれはむしろ剣より警棒に近く、相手をスタンさせるためだけの制圧装備のようだ。非実体スタン警棒。
牽制や制圧向きの銃も合わせて、あの案内ゴブリンは現場監督としての様々な防衛武器を使いこなせるツワモノだったらしい。もしかしたら仲間のゴブリンの暴動やイタズラとかも止めてるんだろうか。現場の責任者って大変過ぎるな。
動きを封じられ地面に叩きつけられたノームさんをヤマトが複雑な形で押さえ付けて制圧する。決着がついたっぽい?
「悪いがこうなる可能性は感じてたんだ。危険な目に合わせてすまないタリア。俺が焦ったせいだ。借りた分は後で国の戦力として返す」
「い、いや、わ、私も全然分かってたし!」
「絶対嘘じゃん」
珍しくかなり素直にヤマトが謝罪してくる。いや、全然私も分かった上での選択だったね。全然分かってたから責めるまでも無いね。急いで情報が欲しいのは私も一緒だし。
「……まさか未来では勇者が賢者とも仲間ダッタとは。さすがに驚いタ」
「ノームにも悪かった。最初から力ずくで止める気だった」
「別にいい。それにかつて守った子孫に負けるのは悪い気分じゃナイ」
「英雄様!申し訳ナイ!でも……」
「別にいい。どうせオレごときが賢者を倒せるとは思ってなイ。運良く腕の一本でも奪えたらと思ったダケだ」
えっ私そんな感じで見られてたの。少なくとも戦闘に関してはあまりに過大評価すぎる。
「あ、あのー!私別にそんな危ない思想とか無いぞ?なんかもう昔やばい人が居たのは想像ついてるけど、私個人は全然攻撃的な人間じゃ無いですー!」
空でアネモネの小脇に抱えられたまま一応自分の弁護を叫んでおく。運次第で腕を持ってかれちゃ困るよ。
「……どうやら大事な話まで燃やしすぎたらしいなヒョロナガは。なんて愚かな種族ナンダ」
「焚書について知ってるのか!?」
「お前が全知全能の賢者と翻訳サレル時点で、本当はすぐさまこの世界から消し去るシカ無いんだ。だがオレもお前らも事情が分からなすぎるか」
「物騒過ぎるって!話し合おうよノームさん!私わりと無害だよ!!」
「いずれ手遅れにナル。まだ分かっていないだけなのだ。オレを見て分からんのか?」
あ、やっぱり昔の賢者がなんかやらかしてたルートなんだ!
まぁそうだよね。それ以外何があるんだってくらいだよね。
「死者や無生物に加護を強引に与えて道具のような奴隷生物にシたり、魔力そのものの仕組みを破壊して世界を混乱に陥れるような、倫理観の無い狂気の化け物がいずれお前の中に必ず誕生する。お前が賢者と翻訳されるなら、必ずだ」
「……ん……?」
「(タリアさま…)」
「(よせ!何も言うな!)」
やめろ、ウラニアも他の皆も変な視線をこっちに送るな。ノームさんの言い方が悪いだけだから。全然そんなやばい感じじゃないから。馬車に足を生やしたり魔力を無効化するだけでそんな世界の破壊者みたいに言われる方がおかしいでしょ。
「……オイ、まさか、もう……?」
「影縫い」
「ぐあああああ!?こ、この技は!!誰なんだお前!?」
「それ以上タリアに殺意を向けるなら、他のゴブリンを一体ずつ殺していくわ。一度の殺意ごとに一体ずつ、若いゴブリンから殺す」
「ヒェ!?」
「やばぁ!?オレだけを狙エヨ!?同族は関係無いダロ!!」
そしてここまで静かだったアネモネが突然本領発揮してきた。怒りのオーラが目に見えるような…というか何かが実際に吹き出てて滅茶苦茶こわい。止めようとしたヤマトが怯むくらいブチギレてて怖い。
「英雄の称号から殺す。虐殺の理由として呪われなさい」
「く、狂ってる!だから誰ナンダよお前!」
「私は元聖女のダークナイトにしてタリアの妻よ。人の妻に殺意を向けて、なぜ無事に済むと思っているの?」
「元聖女のダークナイトって何ダ!?お前らツガイなのか!?」
「そうよ。不意打ちの時点で穏便に済ませる気は無いわ。お前のせいで死ぬゴブリン達への謝罪を今すぐ考えなさい」
そうよじゃないが。謎のプロポーズの度に政治の壁で砕け散っていた筈だが、勝手に既成事実にされている。娘も居るし。そういやどこ行ったんだあの人形達は。
「待て待て待て!さっきは殺意を向けたらって言ってたじゃナイか!!なんでもう殺る気にナッテる!?」
「何を言っているの。今後のための警告と、既に行われた行為への報復が同じわけ無いでしょう」
「ヒィイ!狂気に筋が通ってル!」
「狂気なんかじゃないわ。私の大事な人を殺そうとしたのだから、お前の大事な仲間が殺されるのは当たり前でしょう?」
「未遂ダロ!?」
「じゃあ私もゴブリンを雲の上まで打ち上げるわ。大穴に落とそうとしたように。同じく未遂で済むと良いわね」
恐ろしい宣言をしたアネモネがニ体のアネモネ人形を突然出現させると、両手に抱えるくらいのサイズの岩を拾ってきてそれを天高く蹴り飛ばす。
蹴りの時点で破裂していたし、謎の暴風の後で空の上からでかい爆発音が聞こえたので、多分あの岩が無事に帰って来る事は無いだろう。
ノームさんは驚愕して声も出なかった。
多分本当にガチのお怒り状態なのですぐ止めるべきなんだけど、私を殺そうとしたやつの為にブチギレてるアネモネに立ちはだかる勇気を出せというのもなかなか変な話じゃん。
決して怖いわけではないんだけど、ちょっと口を挟むのに躊躇しちゃうかなって。決してね。怖いわけではないんだけど。
「ア、アネモネ、待ってくれ、ノームは本当は殺す気なんて無かったよ」
「どうして分かるんです」
うおお、ヤマトに対しても冷たい声のままなのは珍しすぎる。やばい本当に怒ってるぞこれ。
「どうやら寿命の長いゴブリン達から見たらタリアやウラニアは小さな男の子くらいに見えてるみたいなんだ。翻訳次第ではエルフの一種だしな」
「おい男に限定する意味無くね?」「今なんでボクも混ぜたっすか?」「それが何か?」
ずっと坊主と呼ばれてたのでなんとなく実際にそういう扱いなんだろうなとは分かるけど、なぜ男だと断定するのかについては後で詳しく追求する必要がある。胸だろ。おい。
「……ゴブリン、ノッカー、ニッセ、ブラウニー、コボルト、小鬼、小エルフ、座敷童子。小さな隣人の呼び名はまだまだあるが、特にニッセやニルスなどは聖ニコラウス、つまりサンタクロースとも繋がる語源説もあるくらい子供達にとっては特別な存在だ。俺の世界の言葉への翻訳が正しいなら、彼らは子供を殺すような存在じゃないパターンが多い」
「……?」
突然ヤマトの早口を叩き込まれてアネモネは反射的に聞き流す体勢に入っている。恐るべき宥め方だ。ゴブリン達もぽかんとした顔で見ているし、私達もどう反応したものか分からない。
というかヤマトの発言が完璧に理解できるのは私だけでしょ。異世界からの定義の更新が私だけに見えている。精霊の居ない世界の精霊の定義が流れ込んでくる。
「勿論語源には異説もあってどれが真実かは分からないし、これがどう翻訳されるかも分からないが、大体のパターンで彼らの逸話は『良い行いが報われて悪行が咎められる』躾的な概念だ。悪質なだけの魔物では躾にも教育にもならないから、逸話にもなれない」
「……??」
「良い子にプレゼントを。約束を守るものに加護を。ルール破りに報復を。悪行に罰を。もしかしたら共通の根源かも知れないし、農場経営や子育ての過程で自然発生しやすい概念なのかも知れない」
「……???」「あ、あ!?勇者!お前…!あまり言ウナ!!」
アネモネはひたすら困惑しているし、なぜかノームさんは焦っている。
「人間は話を盛る生き物だ。イタズラはより残虐な行いに。イタズラ好きの精霊は残虐な魔物に。風習や宗教の為に意図的な悪評を流す事もある」
「……あの、ヤマトさん、何の話ですこれ?」
「アンガーマネジメント兼一つの予想だ。俺の解釈一致ゴブリンは超有名小説やゲームによる影響下のもので、本来のゴブリンの定義からはズレている。もしゴブリンと定義される存在が実在するのなら、本来の民話側に近い可能性のほうが高いんじゃないかってネタを聞いたことがあったんだ」
「……あの、本当に意味がよく……私今タリアに殺意を向けたのが許せなくて」
「思い出してくれ、別種族も守ったノームが英雄扱いされているんだ。ということは彼らの本質はそういう行いを良しとする善性の存在で、アネモネの脅しは効き過ぎている。元が精霊的な存在なら、彼らにとって約束という追加ルールは非常に重い筈なんだ」
「全然脅しじゃないです」「ひいイ」「ヒィイ」
どうやらヤマトは瞬間的な怒りの持続時間って短いみたいなアレで長話を叩き込んで鎮静しようと考えていたらしい。
その結果アネモネが冷静な殺意を剥き出しにしてるけど。瞬間的な怒りだけじゃなく冷静な戦略としてもその結論になっちゃうんだね。ダークナイト過ぎる。
「悪質なイタズラで人を殺す事はあるだろうが、楽しくもない大義で人間の子供を殺したりしない。そうだろう現場監督ゴブリンさん」
「割と合ってるが、ヒョロナガに分かったふうに言われると気恥ずかしいしムカつくナ?仮に正解でもよそ者に勝手に決めつけられたく無いンダガ?」
「申し訳無いが今は決めつけたまま通す。何の説明も無く英雄の名を汚すのは英雄本人であろうと許せないんじゃないのか。筋の通らない悪行や約束破りに寛容な精霊は居ない。だから脅しの約束、断れない条件式が結ばれそうな事にも怯えている」
「……まぁソウダ。英雄様はそういう存在だ。違うのは許せナイ。脅しは約束では無いと思うが、与えられた条件への裏切りも許容できない。こちらの妨害だろうと裁判に遅れたら絶対許されなかったように」
「それは筋が通ってるのかよ。文化の違いやばいな」
なんか妙に律儀なんだなゴブリンって。もしかしたら楽しいイタズラがどうこうのアホみたいな格言も、本当にそうじゃなきゃ耐えられないくらい大事なのかも知れない。
「というわけだノーム。約束通り復活の対価の情報をまずちゃんと払って貰う。そして説明出来ない殺意も認めない。その代わり今の襲撃も不問にする。これでどうだ?」
「えっヤマトさん、私ふつうに皆殺しに……」「ダメだよアネモネ。ふつうにダメ」
「説明……くそっ、異世界人はこれだから!今の話の流れでオレとの約束を狙ってたノカ!?」
「説明できる情報はちゃんと貰うし、説明できない行為は封じさせてもらうぜ。『約束』だ、ノーム」
ノームさんがアネモネとヤマトを見比べている。彼にとってはどうも力とは別ベクトルでも強敵だったようだ。
「……分かっタ、約束する。もう無駄な攻撃を考えない。どうせ倒すのも不可能だ」
「なるほどな。攻撃しない方をとるのか」
「オイよせ、降参って言ってるだろ」
何がなるほどなんだ?なんかまたヤマトだけ分かってる感じだしてて腹立つな。
「……ただ一つだけ先に言わせてクレ、そこのダークナイト」
「何」
ひいい。冷たい声だ。
「これは絶対に影縫いジャナイ」
「影も縫ってるわ」




