地下のおしゃれ祭壇の弱点
聖剣の封印。
空が割れ、聖剣の封印が解けていて、実行されたという勇者召喚。
「まさか、封印ってこの場所全部の事?」
「うん。危ないわ、タリア達は下がって」
危ないんだ。確か、その、勇者信仰の聖女の前では若干言いづらい感じのアレじゃなかった?
「ここ、みんなの想像より遥かにゴミカスの骨董品かも知れない。下手したら崩れるわ」
「やば」「そんなに」「英雄様の祭壇にナンテこと言うんだコイツ」
皆口々に素直な意見が漏れるものの、崩れそうと言われると意味深で格好つけた神殿ぽさの、こう、おしゃれ優先で構造的に弱そうな形が急に不安になってきて、一応口では祭壇を庇っている案内ゴブリンも普通に下がってく。
「おい案内ゴブリンさん、普通坑道とか地下施設ってもっとこう……なんかあるじゃん、枠みたいな支えがさ」
「いや、おいヒョロナガ、この明らかに格好良い伝統的な祭壇に支保工……えー、柱とか色々追加出来るかお前ら?少なくともオレには無理ダ」
「分かる。ごめん」
パキィンという家鳴りのような音が響いて思わず全員が息を飲む。
アネモネの緊迫した声が響く。
「もっと離れて!タリア、ウラニアさん、どこかから魔力が漏れてるとか変な流れがあるとか分からないかしら?」
「あ、うん、なんか漏れてるかも」「嘘っすよね、これまさか配線に無駄な飾りをつけててあちこちクラックしてるんじゃ」
やばい。さすがにアホすぎて回路だと認識出来ていなかった。
配線で細かい模様とか無駄に書いて、細い部分が折れたり、太すぎる部分が割れている。
「ゴミカス過ぎて分かりづらいと思うけど、教会の聖剣と同じならかなり巨大な魔力を制御する封印の筈」
「あれ?でも一度既に英雄ゴブリンが動いたんだから、封印ならもう解けてるんじゃないの?」
「そうだった。じゃあもうここダメよ」
場所丸ごとダメになる感じなんだ。
「まさか、充電式なのか……?」
しばらく大人しかった勇者が口を挟む。
「充電……電……?まあいいか、何か翻訳が変だった気がしたけど、確かに勇者を作る聖剣も何か色々充填してないとダメだろうし、それはあるかもな」
「っていうかタリアはなんで鑑定遅いんだ?ぶっちゃけお前がぱぱっと復活させると思ってたのに全然なんも情報増えねーじゃん」
「だって上から一望とかも出来ないし、表層の無駄なパーツしか見えてねーんだもん。勇者召喚の映像でも表層の装置しか分からなかったのと一緒だよ。あの一見複雑そうな幾何学模様だって、下と上で同じ線に繋がってるただの一本の配線だからな?」
「無駄すぎる!!!あ、やばい、分かるとムズムズしてきた」「ボクもきついっす」
ウラニアとヤマトが回路設計出来る組らしくダメージを負い始めた。分かる。
しかし魔力充填式か。実際にヤマトが魔力を強引に詰め込まれてるわけだから話としては有り得そうなんだが、剣で物理的に充填された被害者に言われると凄く反応しづらい。
「でも何に充填するんだ?骨しか無いぞ?」
「うーん……?」
私とヤマトとウラニアが同じように唸った途端、パキパキパキ!と今度はかなり大きく目立つ音が連続で鳴る。ちょっと待って怖い。本当に大丈夫かここ。崩落するのでは。
ヤマトがマリウス王子とアネモネに目配せして臨戦態勢をとりはじめる。
「案内ゴブリンさん、ちょっとノームの化石持って一旦ここから退散しないか?」
「……し、しかし今英雄様の配置を崩して大丈夫ナノカ?」
「え?」
ヤマトが案内ゴブリンに声をかけて撤退を提案したが、ゴブリンはむしろ更に慎重な姿勢を見せる。冷静で慎重なゴブリンだ。
「いや、ホラ、そこノ坊主が正しく祭壇に配置したじゃないか」
「美少女だ」「それがどうかしたんすか?」
私の訂正を遮ってウラニアが食いつく。
「魔石で出来た遺骨の組み立てって、失礼な物言いをすれば複雑に部品を繋ぎ合わせた魔石道具と似たようなものダロ?バラバラの状態でも引き合う力が働くくらいだから、ちゃんと並べたら魔力が正しく循環する筈ダ」
「!!!」
「恐竜の化石を掘り当ててしまったときも、骨の部品がしっかり揃ってて変な装置もあったら復活して暴れたりするからナ。だから逆に英雄様もなるべく綺麗に骨を並べていつでも復活出来るように……」
「おま、恐竜復活の仕組みも知ってたの!?」
「さっき知っテルって言ったろ?いつも地下掘ってんダゾこっちは。地上の無知なヒョロナガどもと一緒にするな」
あ、ヤマトが悶絶している。恐竜の話もあまり好きじゃないっぽいしゴブリンに賢さで負けるのも解釈違いダメージが大きいようだ。
そうか、何やってるんだ私は。地中の話は地下の民に聞くのが一番早いじゃないか。
そして不意にバギバギバギ!という破滅的な音が鳴る。やばい。これ本当に駄目なやつだ。もしかして私があまりにも完璧に遺骨並べたから、祭壇と合わせて何かの魔法が成立したって事か?
さすがにそこまで簡単な仕組みじゃ無いはずなんだが、なんか魔力が吹き出してきてる。
あまりにも倫理観的にやばくて考えたことが無かったけど、確かに生物が魔石化したらそれは複雑な設計意図のある魔法道具なのかも知れない。
それを魔法陣みたいに装置上に正しく配置し、ストッパーか封印を外す?
骨だけじゃ命の情報が足らないとは思うんだけど、骨髄とか何らかの組織が残っていればDNAの利用も不可能では無い……?いや、加護の痕跡から逆算出来るなら組織が無くとも……?
「タリア!ウラニア!考え込むのは後だ!!ゴブリンさんも一旦逃げるぞ!これ崩落だろ!?」
「あ、そうだな」「は、はい!」「し、しかし英雄様ガ!」
慌てて我に返る私達貧弱組と、戸惑う案内ゴブリン。
「ヤマトさん、私が風で支えて……」
「地下にそこまでの気圧を簡単にもってこれないだろ。力加減出来ずにもっと破壊したりしないか!?」
「撤退しましょう!」
「駄目なんだよね!だろうと思った!!」
あ、マリウス王子が諦めた顔で媚薬食ってる。
「ヤマトくんとゴブリンは僕が。聖女様は女性お二人を」
「うひょ」「熱いっす!!」
この非常時にまたウラニアが邪悪な目で王子と勇者を見ている。というか今アネモネも何か漏れてたな。
アネモネにウラニアとセットで抱えられ、次の瞬間には何十歩も離れた場所に着地する。お願い、本当に洞窟内を高速で飛ばないで欲しい。
私達のぐええという声で止まってくれたわけじゃなく、どうやら王子を先に行かせないと道が分からない事に気付いて手加減してるようだ。
「あ…っ」
そして、この段階になってようやく自分の手の中に一つ謎の部品があった事を思い出す。離れるほど強力に引き寄せられる力がかかって、アネモネが飛んだ瞬間手から落としてしまったようだ。
マズい。
「アネモネ!待って!道具落とし……っ!?」
慌ててアネモネを止めようとした瞬間、私は見た。
……落とした道具を空中で掴む、人形の姿を。
より具体的に言うと私の娘という事になっている人形達がそこに居た。一体は私が落とした魔石道具。もう一体は別の似たような魔石道具を持っている。
「二人の安全が優先!後で聞くわねタリア」
「ちょっ!いや、アレ!?人形!!また娘達が居るよ!」
「娘ってなんすか!?」「……それも後で確認しましょう!」
先行した王子が思ったより速く、一瞬の出来事を確認する余裕も無いまま一気に脱出させられてしまう。
──やがて、遠くからドゴォオオン!という爆音が鳴り響き、溢れ出た膨大な魔力が明らかにただの崩落では無いことを示していたが、私達はそのまま地上まで問答無用で避難させられてしまう。
もう絶対なんかあったよアレ。
というか何で結婚もしてないのに子供達の話についていけない親の感覚を味あわされなきゃならないんだ。
あれ、多分賢者の私が化石を台に正しく配置するまで隠れて待ってたって事じゃないのか。
空割りドラゴンも体で魔法陣作ってたのになんですぐ気づかなかったんだろう。恐らくだが、古代人は生物を回路基板に乗せる部品と同列に扱っている気がする。
いや、むしろ生物を魔法の一つと捉えているのか?
賢者の能力が、人形の持っていたもう一つの道具を見てからずっと不吉な答えを垂れ流している。
一瞬しか見れなかったので断言は出来ないが、あれは封印のようなものだった。
そうだ。ノームさんにはウラニアのベルトが効いたんだ。どこかに封印があるのは当たり前じゃないか。
ヤマトの言う通り、バッテリーを付けるんだ。それに魔力を充填したり取り出したりする為の変圧器機能付きカバーとセットで。
「……マリウス王子、アネモネ、もう一度さっきの場所に戻りたいかも」
「駄目です」「駄目よ」「お前地下で土を操る勇者ゴブリンゾンビと戦う気か?」
ヤマトまで加わって総ツッコミを受ける。
「そうだった。ノームさん賢者の私にだけ攻撃してきそうなんだよなぁ……」
「え?……お前が賢者ナノカ!?」
「知らないで案内してたのかよ!」
失礼な案内ゴブリンに私もツッコミを入れようとして振り返るが、そこには誰も居ない。
「……オレじゃないぞ!坊主!!」「タリア!!」
洞窟の様子を見ようと離れていた案内ゴブリンが警戒した声で叫ぶのと、私の足元に突然大穴が空くのは、ほぼ同時の出来事だった。




