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【イケオジ執事国王アレスの視点】

【イケオジ執事国王アレスの視点】



大事な賢者様はいつの間にか海に行かれて、海岸線沿いに味方を作ったらしい。


毎度の事ながら、本当にいつもいつも意味が分からないですね。打ち合わせの約束をした筈なのに、会議の前にその先の話が動いていく。



南端が海に面している国で海の問題は当然放置出来ない。


そして広範囲の種族を扇動する能力はあまりにも危険だ。その操られる側にされたゴブリン達にとっても危険で渋々ながらも協力体制を貰えるほどに。


そして勇者と聖女と賢者の力を持ってしても、海の敵だけは倒せなかったらしい。




……早急に手を打ちたかった。各所と話を擦り合わせて。タリアくんや勇者様と相談して。早めに動きたかった。


いやはや。自分の老いが悲しい。若者達はまず手を打ってからその先に進んでいる。




「一番正義面した魔物の位置や攻撃を誘導して、コバンザメ魔物を傷つけさせ、ついでに他の魚類や同士打ちまで発生するようわざと庇ったり弾いたりして損害を広げた。王様、これやって大丈夫なやつなんですか?」


「決して口外しないで頂きたいと内心願っております」




詰め所の会議室で勇者様から冷静な確認を受ける。調べた通りではあるものの、確かに強く賢く驕らない。性癖以外万能に過ぎる。


だからこそ勇者として召喚に選ばれたのかも知れないが、その不穏な報告書を確認するのは止めて欲しい。異世界の人間に邪悪な常識をチェックされているのはかなり居心地が悪いのです。身内の悪い部分を他所の人間に見られているこの情けない感覚。老いたものです。




「自分達で被害を広げておいて大げさに治療したり庇ったりしたみたいな書き方なんですけど、よくこれで良い事をして味方が増えたみたいな表現で報告してきましたね?」


「決して正式書面に詳細を残さないよう気を配って欲しいと内心願っております」




第一王子から冷静な確認を受ける。本当に著しく成長している。加護の種類と年下の天才によって完全に頭脳仕事からは逃げた筈だったが、いつの間にか率先して書類仕事を動かしている。


本当に素晴らしい事だが、ゆえに今の彼がうちの三女命名の『マッチポンプで罪の意識植え付け作戦』の顛末を確認しているのはかなり怖いです。身内の悪い部分を見られているこの情けない感覚。老いたものです。




……いや。本当はこの会議でタリアくんの意見を色々伺いたかったのに、なぜ娘の不穏な作戦をチェックさせられているのか。


愚かでした。自分が質問する側のような気の抜けた準備で赴いた自分の甘さが一番怖い。だから王の器では無いとあれほど。見た目からしてどう考えても補佐役でしょうに。




「まぁ俺も海は気になってたから、タリアが動いてくれて安心ではある。多分だけどいずれあのゴブリンの英雄ノームと同等の水生生物が現れてもおかしくないんだ。マッチポンプでも敵対より味方を増やす方向の方が絶対良いと思うし」


「……ん?いや、申し訳ありません勇者様、今ちょっと不穏な……?」



「あ、ここでタリアともこの話を擦り合わせるつもりだったんですよ。説明します。まずあの勇者ゴブリンに付けられている『ノーム』という名前と『四大精霊』という分類は高確率で俺の世界のものです。土のノーム、水のウンディーネ、火のサラマンダー、風のシルフ。本やゲームでおなじみの超有名な四体が、前の勇者の仲間に居たっぽくて」




動揺する背後の親衛隊と、どうやら本当に仲が良くて色々共有されているらしく動じていない第一王子。君は完全に勇者と賢者しか目に入ってないな?




「つまり、英雄ゴブリンだけが例外という話では無く、過去の勇者の仲間は人間以外の存在が多いと考えておられるわけですかな?」


「まぁ今回のゴブリンの件を見ても、人間は加害者寄りっぽいですからね。魔物にまで勇者と呼ばれているなら、巻き込まれただけの被害者こそ重点的に守った筈です」




タリアくん。本当にどういうつもりなんだタリアくん。



そもそも彼は誘拐されてきた時点でこの世界の人間を攻撃する資格がある。『正義の彼に滅ぼされる悪が我々』というパターンは割と既に現実的にあり得るバッドエンドの一つなのだが、本当に大丈夫なのかね。



そして勇者の仲間も魔物の英雄達かも知れないと?魔物の英雄が戦う相手も人間しか思いつかないのですがね?



皆と協力して世界を守った勇者という正義を、よりによって悪人側の王の目線で見させられているのは非常に怖い。本当に大丈夫なのかなタリアくん。




いや、本当に難しい選択肢が現れた。彼はどこまで分かっているのだろうか。


善良ゆえに人々を守っているが、その人々を守るという動機は我々の世界の人類を抹殺する動機にもなり得るものだ。



報告から繋ぎ合わせた推測にしか過ぎないので、わざわざ勇者様にお伝えする必要など無いとは思うのだが、逆にそれをあえて誠意として伝えたという手札にしたほうが良いのだろうか。



唐突だ。唐突に世界レベルの重要な選択を迫られている。私が余計な事を伝えたせいで勇者に世界を滅ぼされる結末を引いたら、私に繋ぎの王を任せた方々に申し訳が立たなすぎる。


どうして繋ぎがこんなに長引いてしまったのか。正しく王の器を持つ者なら嬉々としてこの難しい判断を決断出来たろうに。彼らが今の私を見たら、民を守ってくれた恩人を警戒など失礼過ぎると叱咤されるのか、警戒が甘すぎると叱咤されるのか。




タリアくんとの会議が予定通りに行くなどと甘い考えだった自分の老いが恨めしい。いつの間にここまで鈍くなってしまっていたのか。



どちらなのか。超然とした賢者の指摘ではなく、王という立場の私が伝えておくべきだと賢者の力が判断したのだとしたら、知っている不利な情報を隠すみたいな状況も不安になってくる。




伝えるのも不安だし隠すのも不安だけど確証も無い話か。


……まず本人がどこまで気付いているか確認するのが良いか?




「……ノームの復活を最優先にしたいという話でしたよね?そして善良ではあるが人類の味方というわけでも無いと」


「彼の情報は絶対に必要です。何に襲撃されているのかが判明する可能性も高い」




まずい。情報の価値をチラつかせるという事は、彼は今情報を意図して私に売っているという証でもある。



なぜ勇者が数年前突然表舞台から姿を消したのか。それは戦力として優秀過ぎたからだと中央から確認が取れている。


下らない嫉妬とか、貴族のあれこれとか、衛兵の仕事を奪うとか、様々などうでもいい理由もあったとは思うが、一番の問題は『勇者が有用過ぎたら自分の世界からもっと人が攫われる事になるかも知れない』と本人も周りも気づいたから。


中央での様々な事件での活躍は善意で隠され、姿を消して時間をかけて勇者への注目を薄れさせてきた。




そして、それでも彼は今再び現れ、その体を燃やして南の国民を守り、重要な情報も出してきている。


ここを間違えると非常に怖い。善良だ。あまりにも善良。


……つまりこちらの悪は許されないのだ。善性を見せなければならない。




「ちょうど見て頂けたように、この国も勿論ゴブリンともそれなりの距離感で生きていく方針です。海の方も、方法は酷いものでしたが共生出来る相手とは共生しようとしている」


「そうですね。聖女以外に皆殺し方針の人間は居ないみたいだ。まぁアネモネは人にも多分容赦しないからまた話が別なんですけど」



聖女様!?そんな感じのお方でしたかね!?いつも朗らかで人の話を聞いていない緩いイメージでしたが!?




「じゃあ大丈夫ですね?俺が過去の勇者の仲間と手を組んだら、この世界の人間にとっては確実に警戒しなきゃいけない重大な戦力になる。ノーム一体の話では済まないと分かっても、この国は俺を信用し協力してくれますか?」


「勿論です。長老との約束だってありますからね。ノームの情報はこちらとしても欲しい。方針は一切揺るぎません」




……マリウスくん、気軽にメモを取っている場合じゃないんだ。逆に動揺しすぎの親衛隊ももどかしい。



やはり信頼を強調しておくべき場面に見える。彼はあえて自分が警戒されかねない情報を出した。誠意ではあるが、問いでもある。




「……勇者様、見ての通り私は誰かの補佐をすべき人間だった。特に長けているのは、相手の危機を把握する分析力」


「やっぱり意味があって執事なんすね!?」


「だから貴方の懸念点も伝わっております。貴方のと言うか、貴方の世界への影響ですよね」




一瞬でおどけた雰囲気が鋭く変わる。やはり彼も自覚している。自分がこの世界の敵になる可能性を。もともとそうなっても何もおかしくないのがこちらにとってかなり苦しい。


マリウスくん、その無反応は事前に相談を受けていたね?仲が良くて本当に助かるがこちらに共有しておく気が微塵も無いのかね?そんなに勇者と……いや賢者もか。彼らと仲間みたいな関係性になれたのが嬉しいのかね。嬉しいだろうね。でも君第一王子だからね。




「……まだ曖昧な話なんです。俺自身、それが具体的にどう駄目なのか分かっていない。魔法の無い俺の世界で魔法が発動した。それは世界の法則を崩すんじゃないかみたいな、こう……うまく言えない不安が。どうやら時間の連続性も崩れている」




なるほど。迷う。本当に迷う場面だ。いずれ気付く話だろう。タリアくんの話通り膨大な量の創作物の知識で無数の可能性を連想しやすいわけだ。知識の本棚にこの世界の人間では難しいレベルの貯蔵量が詰まっている。


だがそれゆえにもっとシンプルな大問題を見逃している。答えに埋もれて答えを見落としがちなタリアくんと似ているかも知れない。



……うむ。ここは言うべきだろう。彼は情報の価値をかなり高く見積もっている。いずれ彼が自分で気付くより、私が先に出したというメリットを取るべき場面だ。


そうに違いない。そうであって欲しい。悲しいものだ、歳を取れば取るほど今までの延長で無難に過ぎ去って欲しいという願望が強くなりすぎる。そう言い聞かせないと動き出せない。怯えているのだ私は。勇者という正義の断罪者に。




「勇者様」


「は、はい?」




マリウスくんのメモ帳から一枚白紙を貰って、図示する。




「恐らく、難しく考えすぎてもっと手前の単純かつ重大な問題を見落としているようです」



真剣に覗き込む若者の顔。絶対賢者様は把握している筈なのに、なぜ私にこの役目を。




「単純に要点だけ並べたほうが分かります。いいですか?」

「一つ。貴方の世界でも魔法は発動する」

「二つ。貴方の世界の人間にとって魔力は毒になる」

「三つ。この世界の人間は呼吸や排泄のみならず加護という魔力の放出能力を持つ」

「四つ。魔力の塊である魔法生物の繁殖が疑われている」



青褪めていく異世界人。君は本当なら賢者が真っ先に魔力の毒性を伝えた時点でこの世界そのものを危険視すべきだ。この世界の住民としては危険視されたくないが……。



「そうか……!」


「五つ。世界には穴を開けられる。襲撃は最悪ですが、そもそも穴から異世界の物質が漏れだすだけでも私は怖い。空が割れる事件でそれを感じていましたが、貴方の世界からすると私達が同じ事をしている」


「国王、よくそれを俺に……!」


「誠意だと受け取って頂けましたか?貴方はこの世界の人を守ってくれるが、この世界の者がそちらの世界に行ったら存在するだけで人々の毒になる。まして魔法生物の卵が持ち込まれでもしたら……」



「そっち系か!!!うわ頭に無かった、またB級映画じゃないか!!なんでよりによってアレ系がリアル扱いになるんだ!?絶対そんなわけないのに!!」



B級映画とは?




「……あれ?」




マリウスくん。事態の重さに気付いたかねマリウスくん。今目の前で絶句している勇者様の判断次第で、大変なことになるのが分かったかね。




「ま、まずいのでは?まずくないですか?」




まずいんだよ。実はね。




「アネモネ様!この話は昔の召喚の時点でもう駄目ですからね!?あなただけのせいでは!!」




アネモネ様?




ーーーー!!!?




「……勇者様。私が。私がいずれ必ず、そちらの世界に敵が侵入しても、私が行って必ず全滅させます」

「い、いや、その、アネモネほどクソ強い魔法使いが魔力で頑張っちゃうと毒の散布みたいになっちゃうって話だからね。俺の世界の動物まで区別出来ずに殲滅しちゃいそうだし」

「あああああーーー!」



聖女様が突然現れて自分の胸に剣を刺して崩れて消えた。後ろの親衛隊から「うわあああ!?」「ひいいいっ!?」などと情けない悲鳴が聞こえて余計に心臓に悪い。私は声も出なかった。怖い。どういう……え?怖い。若者のノリが本当に分からない。




「アネモネ、マリウス、大丈夫。タリアだ。既にあいつが解決策を出している。倒すだけならアネモネの方が頼りなんだが、あいつのRTAの力はやっぱりおかしい。手順が理解出来ん。なぜ先に答えがあるんだ」


「そ、そうか!魔力の無効化!!ヤマトくん、タリア王女は一番最初から君の健康を気にしていたんだろ?じゃあきっと……」


「ああ、仮に最悪の事態になっていても浄化の手段は既に見えている。出来れば事前に止めるか、そもそもそうならないような対応をしたいけど。ただ時間の同期が不安なんだよな……事前に止めたいが、そもそも事前や事後みたいな時間の連続性が……」




勇者と王子が勝手に納得して話が進もうとしている。


突然現れて消えた聖女様の解説も無いまま話が進んでいこうとしている。タリアくん。本当に頼む。会議に出て欲しい。解説して欲しい。




「王様、ご指摘ありがとうございます。本当なら最初にタリアに魔力が毒になりうる事を教わった時点で自分で気付くべきだったのに」


「盤外からの補佐や補足いうのはそこまで誇れるものでは無いのです。当人こそ妙に盤面が見えないものだというのは、世界が違っても共通概念なのでは無いですかね?」


「確かに。なるほどなぁ」


「お礼を言われるような内容でも無いですからね。なんせ貴方の世界に私達がとんでもない害悪を与えてしまうかも知れないという情報だ」


「確かに。もし俺が酷い目にあった後で自分で気付いてたら割とダークな戦いになってそうですよね。怖ぇ」




怖いのはこっちですが。


なんとかそれっぽい空気と威厳を維持してやり過ごす。王にしょうもない動揺など許されない。不本意な王ではあれど、かつて王になって欲しかった者達まで私のせいで侮られてしまうのは避けたい。南の王は賢さの象徴でなければ。




「あの、それで、先程一瞬聖女様の大事件が見えたような気がしたのですが、その」

「気にしないで下さい。結局タリアがなんとかしてくれるって分かって、本体が向こうに泣きついてると思うんで」




タリアくん!出席して欲しい!!何がどうなっているのか全然分からないですよタリアくん!!



……しかし。しかしだ。ここで押されて終わりではあまり良くない。



全く予定通りの話が出来ていないが、そちらはもう捨てる。



ここで何か彼の心に好印象も付与しておかないと、今夜ふと後で我に帰った時思い出すのは『この世界の危険性』だけになるだろう。それを蓄積させたくない。考えを逸らしたい。


物事の判断は、案外天秤のように蓄積していって決まる。突然怒り出す人達が本人の中では突然じゃないように。




果たして本当にお礼になるのか分からないが、タリアくんが気を配っていた案件という事は、何かがあるんだと信じたい。


なぜそこまで重要視していたのかは分からないが……。




「……それと勇者様、時間が押しておりますので一点だけ。タリアくんと一緒に確認したかった案件だけ、話をまとめておいて宜しいでしょうか?」


「なんですか?」

「特殊な避難訓練です。何か聞いていますか?」



首を振る勇者様と王子。不安だ。



「どうもタリアくんが起点となり、子供達に沢山アイディアを出させていたらしいのです」

「子供に、避難訓練のアイディア……?」


「先日の夜、寝ぼけているタリアくんに確認した感じでは、勇者様の為に衛兵の子の意見を押す感じだったのですが、どうも意味がよく分からず」


「???」「???」




「数カ月後に延期していた大会と避難訓練を同時開催するアイディアなのです」




突然ガターン!と大きな音を立てて立ち上がる勇者様。老人の前でそういうのは本当に良くないですよ。心臓が止まるかと思った。




「延期というか安全になるまで中止にすべきだと思っていたのですが、唐突な自然災害だったり、唐突な襲撃だったり、予測できない突発的な危険を想定するなら安全な日というのは存在しないという主張でして、まぁ一理はあると。このまま世界が滅ぶ可能性だってありますからね」



「……防衛設備が整っている街、未知のトラブルを警戒しながらの大会、訓練や設備の確認を本番環境……!そうか、それなら!もしかしてあの街でタリアに礼を言ってた衛兵さんの子か!?」



「詳細は分かりかねます。アイディアも悪いとは言いませんが、別に無理して実際の大会を行う必要は無いわけですからね。訓練なら訓練をすればいいだけで」


「子供達の大会が絡む時は俺もその街の警備に全力を尽くします。コネを使って教会や中央に協力を頼んだっていい」



「何故です?そうまでして子供の大会と絡める理由が分からない」


「仮に襲撃が完全に予測出来なくなった場合、これより安全な大会が無いならこれを通したい。逆なんです。子供らの安全な大会の開催がまず必須条件で、その名目が避難訓練なんですよ俺達には」


「ううむ……?」


「万全に感じられないなら、感じられるくらいになるまで王様にも協力して欲しい」




凄い食いつきだ。つい先程までこの世界と敵対する理由になるかも知れない話をしていたというのに、まさかそれほどまでにこれが鍵になる話だったとは。



「私は、子供達を集めるとなるなら万が一にも危険性があってはならないというハードルの高さがさすがに気になります」


「だから逆なんです。『集めたほうが安全な大会』になって欲しい。仮に大会を開かず襲撃がちょうど起きた時、集めて万全な防衛しておけば良かったと思えるくらいな大会に。学問の国の頭脳の力でそうなるよう考え抜いて欲しい。俺も出来ることはやる」




なんと。勇者から国の誇りへの挑発とは。




「任せてくれよヤマトくん。僕なんか特にスポーツに救われた人間だ。必ず通すよ」



おっとマリウスくん。王の目の前で王をスルーして国としての決断をするのはなかなかだよ。



「寝ぼけていたタリア王女という事は相当賢者の判断の筈だし、絶対に通すべきでもある。僕がやってみせるよ、学問の国の王子の存在理由に賭けてでも」


「任せたぜマリウス!」




ガッシリ握手している。蚊帳の外にされるとは。どうしたものか、野暮な事も言えない空気になったし、このまま良い空気な感じで終わらせておくべきなのかね。時間も使いすぎた事だし。


時代は変わった。加護が頭脳に偏りがちな南の国でも、まぁそれなりにスポーツや芸能技術の地位が上がったという事なのだろう。昔はどちらが加護を僻んでいるのかよく分からないような醜い空気になっていたものなのだがね。




「ではこちらはまずゴブリンの英雄復活を優先目標として、第一王子と賢者様を随時バックアップ致します。と言ってもノーム復活も急ぐなら結局タリアくんに見てもらうしか無いのですが」


「あ、じゃあ俺らは一旦またタリアと合流しておきます。そもそも勝手に何か動き始めるかも知れないし」



「……少しだけ、疲労を気にかけてあげて下さい。どこかで一度中枢の家に戻らせて休養を取らせた方が良い。君達は体力があるから余計に分からないと思うが、鍛えていない人間は移動が重なるだけで体調が崩れたりするものなのです」



そうだった!という顔をして、元気に「はい!」と答えながら二人が立ち上がり、会議が終わりの空気になっていく。




「ずっとセリフで解説する作品嫌ってたけど、事件で説明されてたらこの世界ともう戦いになってるって事だよな。いざ自分が異世界に来ると全部事前にこうやって会議で教えて欲しいかもなぁ……。現実は厳しい。全然いきなり事件に放り込まれたくない」


「何を言ってるのかよく分からないけど、ヤマトくんが内心いざって時は僕らを滅ぼす気なのは分かるよ」


「やりたくないのも分かってくれよな。仮に俺が大会を潰すことになったら、その後ヤマトって人間は死ぬよ。死にたくは無いが俺が俺を許さないだろう」


「なら僕が君を守る事になれば幸いだ」



外に出ての去り際に、仲の良い青年同士がイチャつきながら軽い会話みたいなノリでとんでもない重い話を進めている。



「……!!!!」



それを複雑な表情で聖女様が撮影していて、すぐに姿が消えた。




「……確か、早めに着いた勇者と手合わせをした者が居ると聞いたが。警備兵にも親衛隊にも。どれくらいの強さなのか聞いておいても良いかね?」


こちらも引き上げながら、不安を埋めるように彼の力を確認してしまう。


返ってきた答えはどれも事前に調査で聞いていた通り、「魔力無しで異様に強い」「素手で人間を破壊する技術が高すぎる」「痛みに怯まないのが怖い」などなど、聞いたことを後悔するものばかりだった。



「自分が気になったのは、壁や盾への対応でした。魔法が封じられているからと魔石を投げていたのですが、壁を生成して立て直そうとした時、彼は分かっていたかのように閃光弾をもう投げてきていた」


「……それは格闘技の範疇なのですかね?」


「ありえないです。そもそも魔法が使えない世界の人間が、突然壁を生み出す魔法に慣れているのがおかしくないでしょうか。ゴブリンの英雄との戦いでも土壁に怯んだ様子が一切無かった」


「中央での戦いで身につけたにしては、という事ですか?」


「はい。本人は対戦ゲームで慣れ親しんでいるという話をしていましたが、彼の世界の人間は魔法無しでそういうレベルの戦いの研究をしつくしていると思われます」




言われずとも一手先まで警戒して調査してるのは本当に偉い。伊達に親衛隊では無いのですが、聞かされる内容はだいぶ厳しい。なぜか「すげー」「さすが勇者」みたいな感想が周りから漏れているのも不安だ。君達は本当に呑気だね。




「もしかして、向こうの世界に加害がバレたら危ないという話にまで飛躍する感じかな?」


「はい。彼の世界の人間同士の戦いはどうもルールを決めて武器を縛って手加減した上で、都市が消滅するレベルだと思われます。もしルールなどと言ってられない世界を守るための防御行動なら、無味無臭の毒ガス兵器くらいは大量に使ってくるでしょう」


「……話を盛っているわけではなく?」


「逆にあまり武器での戦闘は話したくなくて減らしている印象でした。彼の世界は魔物が居ないので爆発物でも毒物でも気軽に大量に保管出来ますからね。結局魔力が無い相手ですから対抗出来ないわけでは無いですが、向こうが純然たる被害者だとなかなか……」




絶対に異世界召喚を封じなければ。誘拐の加害も、この世界の毒が向こうの世界に与える加害の可能性も、今既に勇者から報復されない理由は無いのだ。



自分の家に大穴が開いていて、その先に自分が加害した被害者達が居る感覚。邪竜も、向こうの世界の人間も、そういった意味では同じ枠になる。ご先祖……恨みますよ本当に……。


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