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【居残りウラニアの視点】


【居残りウラニアの視点】




本当はボクもタリアさまに着いて行きたかった。


結局のところタリアさまの行動に合わせるのが最適解になるので、無理してでも行動を共にしたほうが緊急事態にだって対応しやすい。



忙しくて手が離せないのは最初からずっと変わっていないけど、優先度はタリアさまの側に居るほうが絶対高いと思う。



「ウラニア博士、こっちの契約書にもサインをちょうだい」

「は、はい!」




ただ、今回はさすがに行けなかった。決め手はここに居るメレテ第三王女さま。


あまりにもタリアさまを信奉しているので、本来ならそのタリア王女専属の研究員であるボクにすら余計な声をかけないようにしている独特なお方だ。



そのメレテ王女が動いた。それも、ボクの負担を軽くする為だけに。



「えー、ここまでで、新世代エネルギーとなりうる仮称『純魔力』実験、並行して魔力反転と魔力無効化……、広域防衛スキルを含む防衛用魔法道具、勇者治療及び一般医療道具、聖女との巨大兵器計画、それと人型重機開発?……正気を疑うわ博士。協力手配の契約だけで手が回らないじゃない。これを本当に一人で全て回す気だったの?」



「いえっ、あのー、ボクそれ全然何も出来てなくて、そのー……」

「これが出来てたら貴方も逸脱した賢者よ。この魔法の延長拡散道具というのは?」

「あっそれは古代のモジュールを小型近代化しておこうと思っただけで、量産価値があるかはまだ何も試験が進んでなくて」


「……まさかタリアちゃんが欲した道具じゃないでしょうね?」

「あの、たぶんそうっす。無効化魔法の拡張に使ってました」

「優先度を変更する。ちょっと待っていなさい」

「は、はいぃっ!」




前回戦った南端の街から少し離れた所にある大きな研究所。その特別応接間。タリアさまではなく第三王女さまの息がかかった場所なので結構雰囲気が違う。なんていうかピリッとしてキチッとしてる。緩い雰囲気の仕事しかしてこなかったから緊張してしまう。



メレテさまは次から次へと何らかのメモを書いていて、それを付き人っぽい人とか研究所の人達に渡し、大勢にいくつも並行して指示を出しながら話を進めていく。


すごい。格好良い女性上司にも幾つかパターンがあるけど、静かで冷静で頼れるおばさまタイプだから都会の大人~って感じするかも。いやおばさまって言ったら怒られるかな。あと所々タリアさまへの重い何かが滲み出すけど。



私にも要所要所でメモを書いてくれるのが嬉しい。指示によってはやっぱり図があったほうが分かりやすいのもあるし、何より『言った言わない問題』が減ってそう。いいなぁメレテ王女。「姉を見て声だけの指示はカスだと学んできたの」と言ってた。わかるって言ったら怒られそうだけどわかる。


ミスしても冷静に対処を詰めてくるタイプだきっと。絶対ダメだけどちょっとやらかして叱られてみたい。




「ウラニア博士、サキュバス達との独自交流ルートについて説明してちょうだい。あなた何か怪しい流通してるわね?」



終わった。


戻ってきた第三王女さまの口から絶望的な指摘が飛び出てくる。欲望は秒で叶ったけど、裏同人誌が嗅ぎつけられのは非常にマズい。



「……なるほど。マリウスくんにしては異様に優秀過ぎると思っていたのよ。表ルートはともかく、サキュバスや他国の王族まで裏側から協力しているのは不自然すぎる。……でも彼と勇者を応援している特殊な層なら話が変わってくるものね。一大ジャンルになりつつあるもの」



非常にマズい。動揺して言葉が出ずにあたふたとしていただけなのに全部バレていく。なぜ。ボクってもしかして表情にそこまで細かく情報が出るんだろうか。タリアさまやヤマトさんにもよく色々バレる。



再び扉の方に戻っていくメレテ王女さま。


「これからしばらく秘密の会議を行います。動かせるだけ動かしておきなさい。ズレは後でわたくしが修正します」「はっ!」「緊急要件があればこっちのベルを。通常の音は届きません」「はっ!」




非常にマズい。助けて。防音の密室で王族に詰められる。


なんてことだ、タリアさまくらいしか使う人がいないと思っていた超高級防壁と防音結界をただボクの尋問の為に部屋に張ってる。普通そこまでするかな!?




「……ウラニア博士。お分かりだと思うけど、ここからは秘密の話し合いになるわ」

「はいぃっ!」



メレテ王女さまが、いつの間にか持っていたカバンの透明化魔法を解く。持ってることすら機密にしていた王族のビジネスカバン。




その中から出てきたのは……


「これは、あなたの裏名義ね?」


ボクが偽名のほうで作っている裏同人誌だった。エロ有りの。




「終わったーーーー!!!」

「やっぱり!!!絵も文章も似ていると思っていたのよ!!」


「ゆるして!許して下さい!なんでもしますから!」

「なんでもって言ったわね!?」

「あ、あ、なんでもはちょっと!出来る範囲で!!」

「もう遅いわ!」



もう一冊、今度は他国の大人気作家による表側の有名同人誌が出てくる。イケメン美麗イラスト集だ。


……だけど、本に挟まっていた紙を取り出すと、そこには何か不穏な……というか見覚えのありすぎる天才賢者のドスケベイラストが……!?



「この作者のペンネームもあなたと同じく二つあるのよ。特に健全美麗女性向けと、ドスケベ男性向けはさすがにね」


「え……うそ……だってこの作者さんって中央の国の……」

「色々バレないように交換しているのよ、最初から裏を想定してね。向こうの王女は南の国の貴族として同人誌を。そしてわたくしは中央の国の貴族としてイラスト集を出してきた」




──ばかな。そんなばかな!!




「嘘だ!!!待って!嘘だぁ!!ぽんぽこデベソたぬきさんがタリアさまのエロ同人なんて描いてるわけない!!!健全イケメン美麗イラストの人だもん!こんなドエロイラスト描くわけない!!」


「そっち!?バカね!わたくしがどれほど長期間あの子をよこしまな目で見ていると思っているの!!イケメン同士の愛も好きよ、でもそれは趣味に過ぎない。本質の欲望はこっちなのよ!!」


「嘘だぁああ!!!」



こちらもカバンの透明化を解いて思わず持っていた本を確認する。そしてその一瞬の間に、同じカバンに入っていた原稿のファイルが盗まれる。は、速い!




「やっぱり!遂に見つけたわよ裏庭ックスさん!!そういうことだったのね、筆の早い作家でありながら未知の流通も取り仕切っているなんてどこの国の王族かと探し回ったわよ。違う、流通の仕組み自体に天才発明家の未発表の次世代新開発道具が使われていたんだわ!なかなか見つからないはずよ!」


「し、しまった!!完全に王族にバレた!!ボクはもうダメだ国外追放される!」


「そんな厳しい国じゃないわよ。貴方達が思ってるほど違法性も無いわ。勝手に自分達で厳しく自治してるだけよ」




そ、そうだったのか。そういえば自治の喧嘩はしょっちゅう起きるけど大体無駄だって聞いたことがあるかも。



「問題があるとしたら女性向けの流通だけが独自に発展しすぎている事。男性向けだけやってる人達はもう片方の利便性を知らないから不便さにも気づかないけど、わたくしは違う」



「そ、そんな、まさか」


「男性向け用にも秘密のルート構築道具を寄越しなさいウラニア博士。そっちはわたくしが管理する。もちろん誰にも秘密でね……」


「無理っすよ!それに男性向けの裏ルートだってちゃんとあります!サキュバス達がそこらへんの多様を上手いこと管理してて、急に王族が仕切るなんて言ったらシステムが……」


「なるほど裏の管理運営はサキュバスに一任していたのね。さあ誰が受付なのか教えなさい。ライラかしら?」


「し、しまった!!!」




誘導された!まずいぞ、本当にまずい。




「だめ、ダメですよ、本当に!裏の流通ルートはリスク分散すべきっす!」


「だからジャンルによってはこちらが引き取ると言っているのよ。代わりに秘密の道具や仕組みを提供しなさい」


「同じ仕組みを使ったら分散にならないじゃないっすか!」


「確かに。では貴方の仕組みを知った上で別の方法を用意しましょうか。知らないものの別物を用意するのは難しいものね」




ダメだ勝てない気がする!




「それに、知っているのよ?勇者のこと。わたくしは……いいえ、わたくしと同胞達は勇者への切り札になる。そうでしょう?」


「……あっ」




取り出されたもう一枚のイラスト。今度はモデルもファンタジックな架空の美少女が……服をスライムに溶かされながらエッチな触手に襲われている。



「その続きは『まだ制作中』よ。南の国の誰かがね。それを対勇者の手札の一つとして貴方に先に渡しておきましょう。価値は分かるわね?」




なんてことだ。この短期間でヤマトさんの弱点までめちゃめちゃ調べられている。


それに、そうか。あの人の悲願の男性向けエロ同人即売会……ボクの体なんかよりエロ同人誌が読みたいと言い放ったカスさんの望みも、この人が別枠で動かすなら不可能では……




あ、なんかムカついてきたな。急に。なんか最近元気出なくて忘れてたけど怒る元気が出てきたかも。そういえばヤマトさんには皆の命の恩人という絶大な借りもありつつ色々してやられた個人的なムカつきもあるんだった。


あれを思い出すと、この手札が急にすごく魅力的に感じてきたかも。




『男性用』ではなく『男性向け』と呼称されるのはメイン客層が絶対的にそうなるからであって客側の選択肢に縛りは無く、なんなら女性が描く男性向け作品は極端に人気出たりもする。


むしろメイン客層の為の定番味付けより、逆側から得られる素材そのままの味のほうが美味しいなんて日常茶飯事だ。ボクも男性向けのバトル作品とか大好物だし。



これは勘だけど、ヤマトさんはメレテ王女さまの透き通るようなドスケベメガネっ子イラストに勝てないだろう。




「ウラニア博士、本来ならわたくしはタリアちゃんの手柄を絶対に奪わない。だから逆に協力も最低限だった」



そう言えば他の王族の動きっていつもタリアさまの要求には全力で応えるものの自分からはあまり何もしてこない。あれってそういう意図の動きだったんだ。




「でもマリウスくんが言っていたのよ。『第三王女すらまだ甘いんだ。干渉を受けるかどうかの決定権すらタリア王女にあるのを忘れていた』ですって。確かに面白い意見だと思ったの」


「その話の流れで色々助けてくれたなら、なんでその後ボクを追い詰めるんすか!?」


「裏でも全面的に協力すると言っているだけじゃない。あの子と貴方を、表からも裏からもわたくしが全力で支援するわ。損はさせない。特に貴方の損は私達の損失なのだから」




ど、どうしよう、これが話術だったらボクとてもマズいぞ。そもそも立場的にも断れないので最初から詰んでるんだけど。



「安心しなさい。わたくしだって他人が描いたタリアちゃんのドスケベイラストを可能な限り大量に手に入れたいだけ。自分の作品に自分で興奮し続けるのには限度がある。エロは、性癖は、嘘をつかないわ」


「そこはちょっと嘘だと思いたいっす……」




頭を抱えるボクの肩を、誰かがトントンと叩く。今ちょっと思考が忙しく……て……!?



「!?」



思わず振り返ると、ひらひらと何かの紙が目の前に落ちてくる。



「何!?大丈夫ウラニア博士!?うそ、この結界に侵入者なんて……!?」

「あ、あ、いや、ボクの護身用魔法道具っす」




謎の紙には「私なんでも協力します!!」と書いてあった。聖女のサイン付きで。


……アネモネさまの人形がどこかに潜んでたんだ。ボクの護身なのか見張りなのか分からないけど、今はメレテ王女さまの絶大な協力者になってしまった。大変お気に召したんだろう、タリアさまのエロイラストが。




もうダメだ。




「……実際、ボクが忙しくなりすぎて流通に問題が出始めてたんです。本当はこういう話にすぐ乗るのって絶対ダメだと思うんすけど、前回は結構裏の流通が防衛に役立ったわけだし、きっと今回もタリアさまの力はこれを計算に入れてる。ボクとメレテ王女さまが会うのもきっと」


「うんうん、慎重なのは良い事よウラニア博士。その若さでとても賢い」




そう言ってもう一枚紙を取り出すメレテ王女。



──そこには、ノームさんと勇者の戦いにどうしても割り込もうと立ち上がるマリウス王子のワンシーンが超絶美麗イラストで描かれていた。



えっっっろ。いや健全だけどね?健全だからこそというか?嫉妬と言葉で表現するのでは表しきれない、感情の塊がここに描かれている。


イケ粗野カップルの一見完璧なコンビの間に挟まってきたゴブリンの勇者。強敵に嬉しそうな異世界の勇者。それを見て生まれる感情。感情だ。場面ではない。イケメン王子の感情が絵になっているのだ。えっっろ。




「ところで、裏庭ックスさんって二人の間に色々挟むっていう新たなジャンルを提唱しているそうじゃない?」


「そうらしいっすね。ところでこれいくらで買い取れますか?」

「まだ終わってないわよ?」



もう一枚紙が出てくる。これは別の有名作家さんのラフ漫画……?あ、あれ?この導入、これ、まさか、まだジャンルの噂しか出回っていないはずのイケメンモブ寝取りでは……




「わたくしは中央の国の作家を騙り、こっちは南の国の作家を騙っているわけだけど、この二人が次に出す新作のジャンルについて、ちょっと新しい性癖だから誰かに細かく相談したいなって思っていたの」


「言ってくれればボクなんでもしますけど。ところでこれいくらで買い取れますか?」




いやー、最初から協力してもらうつもりだったんすよね!やっぱり忙しすぎたっていうか!警戒は大事だけど、警戒しすぎて流通が回せなくなったら本末転倒っていうかぁ!



しょうがない。しょうがないんすよこれは。うわーかんぺきな理屈で言いくるめられてしまった。しょうがないなー。サインとかもう全部さっさと終わらせちゃうんだから。




不意にブーーッ!ブーーッ!というけたたましいブザーが鳴る。

ちょっと邪魔しないで下さい、今大事な話を詰めようとしてて……何のブザー?




「少し席を外すわ。博士はこのままサインを」



さらさらっとボクがやるべき作業を書き記し、追加でサインすべき書類に付箋をペタペタ貼ってからメレテ王女さまが動く。



「あ、えっ!?緊急事態っすか!?ボクも…!」

「必要なら呼ぶので、早く雑用を片付けておいて。そのカバンも一時的に任せます。実は持ち歩くの結構怖かったのよ。透明な機密品って落とした時に絶望するの」




急いで確認とサインを進めるボクを置いて、結界から出て外に向かう王女さま。


……有名な作家さんが未発表の作品を置いたまま席を離れるのって結構な信頼の証のような気もする。



なので、見えない何かがこっそりカバンを漁ろうとしているのをペシペシ叩いて止めておく。



「ダメっす。あと、なんかヤバそうだったら助けてほしいっす」



ひらひらと舞い降りる紙。「私の分」とだけ書いてある。



「もちろん確保するっす」


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