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裁判も戦いであり、戦いは準備で決まる



白くゆったりした衣装の長老ゴブリンジジイが、洞窟内のかなり開けた広い空間で壇上的な目立つ場所に立つ。



「すげー、完全にゲームの地下神殿とかそういうやつだ!妙にでかすぎる洞窟の空間、石系の建造物、なんか特殊なゴブリン。こういうのだよ俺が見たかったのは!」



そして勇者が大喜びしている。



「お前ら私を置いていった後悔とか気まずさとか無いのか?まず最初にごめんなさいじゃないか?」


「本当にすみません、先行していて気が付きませんでした」

「チートでどうせ着くって話だったじゃん。実際着いてるしもう慣れたわ」



口調はしおらしい王子と取り繕いすらしない勇者。ちなみにどっちも最初に私を見つけた時に「あー居た居た」みたいな反応だったので同類のカス。



「言っておくが洞窟内でアネモネに抱えられて飛ぶのって本当に怖いからな。八つ当たりをしないと気がすまないくらい本当に怖かったからな」


「そういや何か発見したんだってアネモネ?」

「これ後で読んでみて下さい勇者様」

「えっなにこれ!?封印された本!?太古の伝説の書!?」

「多分そうです。封印されています。当初探していた勇者様を帰すヒントになるかも知れないアーティファクトとかそういうアレですきっと」

「うわー中身がヒントじゃなくてもめっちゃ良い!これだよこれ!…どう開けるの?」

「タリアにお願いして下さい」



凄い、さも自然な流れでヤマトに面倒そうな本を押し付けたぞアネモネ。まず本の時点で文章が長くない可能性って存在しないもんね。そりゃ苦手でしょう。



「タリア、不運にも一旦ルートが分かれちまったが大丈夫だったか?怪我とか無いか?おやつ要る?」

「今更おせーんだよ!取り繕えるわけねーだろ!!解除したるからおやつは寄越せ!!」



どうせ中身も気になっていたし、飴玉を対価にさっさと解除しておく。




「小童共、盗品のチェックは帰ってカラにせんか。裁判前の事前説明を行うから聞ケ」



ふつうに怒られた。壇上の長老ゴブリンがまず適当に席に着くよう身振りで促している。



「なあタリア、ちなみにあのゴブリンと隣の執事は誰なんだ?」

「ゴブリンは長老らしい。執事は国王だ」

「国王って南の?えっどういうこと?国王って執事なの?」


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません勇者様」

「うわ!?あれ!?さっきまで向こうに……!?」



伊達に国王じゃないので、挨拶のタイミングに気がつくとカカッて高速に動く。礼節の隙を見逃さない恐ろしい動きだ。私もこれ出来ないと駄目なんかな。ふつうに無理だけど。




「私はアレス。南の国で王の役目を担っております。勇者様、聖女様、大勢の命を護って頂き本当にありがとうございます」



深々とお辞儀をする国王。うちの王は基本的に相手の礼節に合わせる筈なので、多分ヤマトにお礼だと伝わる仕草だ。確かになんか頭ぺこって下げる感謝ポーズをヤマトがやってるの私も一度見た。


おいヤマト色々調査されてるぞ気をつけろ。


そしてアネモネがまた萎縮してお辞儀しながら小さくなった。




「異世界から来たヤマトです。こちらこそ王様に挨拶もせず国内を暴れまわってて申し訳ありません。……あの、執事では無いんですよね?」

「まぁ国民に雇われている執事のようなものです」

「そういう!?格好良い!!」



格好良いんだ。相変わらず斬新だな異世界感覚。


そしてなぜか嬉しそうな国王。予想外に直球で褒められて照れてないかジジイ。もしかして野郎共には強いか格好良いかくらいしか尊敬基準が無いのか?



「時間が迫っておりますので、これが終わりましたら色々話をさせて下さい勇者様。勿論裁判結果の方も事前に手を打っておりますので」

「ということはやはり同盟を?」

「おっと。なるほど、お噂も過大評価では無いようだ。ますます楽しみです」


「モウイイカ国王?さっさと事前説明に入りたい。足が冷えるノダここは」




ゴブリン長老に呼ばれ、「では後ほど改めて」みたいな事を言いながら頭を下げて歩いていく国王。さっきは消えたのに今度は普通に去るのなんなんだ。挨拶に急いでて済んだからどうでもよくなったのかな。




「しかしアレスとは。もしかして結構強いのか王様?」

「お?なんで分かる?」



名前だけで色々判別出来るのって私の専売特許かと思ってた。

……というか、そういえば人の名前の翻訳ってヤマトにはどう聞こえてるんだ?



「いや俺の世界では戦神扱いが多いんだよねアレスって名前。小説とかゲームのファンタジー登場人物って結構多いんだよ神様の名前が」




いや一発で分かったわ。それが自然になるくらい『そういう創作物』を大量に見てきてるから違和感なく『そういうもの』だと認識してるのか。ふつう自分の世界の名詞が異世界で使われてたら疑問に思うだろ。他者の世界をファンタジーと一緒にするな。



「多分だけどお前の世界の神ってわけじゃなくて、直訳なんだと思うぞ。火の星とか、花の名とか、豊穣を願って付けられた名とか。ほら、意味のない神の名って無いだろ?」


「ああー。となるとこの世界でも火星は火星なのか?いや翻訳されてるから違うニュアンスでも火星は火星になるのか?直訳でカタカナ語になるのは謎だが、俺に名前として違和感無いような翻訳が行われるとそうなるって事なのかな?うわ頭こんがらがるわ、おもしろい。あれでもアネモネって……」



長い。なにかスイッチが入ったのか急に話がすごく長い。


私はヤマトの言葉も分かるからこの面倒くさい話も理解出来るが、アネモネやマリウス王子はだいぶ意味不明な会話だったんじゃなかろうか。いや聞いてないなアネモネは。すごく真面目な顔で壇上の方を見てる。正確にはぼんやり遠くを見て話を聞き流している。




……そして妙な話をしている内に何やら準備が整ったらしく、壇上に居るうちの国王とゴブリン長老から細かい説明が始まる。


ちなみにゴブリンは殆ど居ない。一応長老の護衛っぽい武装したやつらと、なんか事務作業してる事務ゴブリンが数体と、きょろきょろ見学に来たり飽きて出ていくモブゴブリンが五体から十体くらいの規模で入れ替わってる感じ。




うちの国王が軽く咳払いをする。何か説明しますよの合図だろう。



「念の為警告しておきますが、ここでは嘘がつきにくい。というより嘘に対し翻訳が乱れる仕掛けになっています」


妙にでかい空間だと思ったら色々魔法的な仕掛けがあるわけだ。




「メガネキャラは大体メガネを外したほうが美人だ。……どうだマリウス?翻訳された?」

「すごい、何言ってるのかよく分かんなかったよ」


「ちなみに私は分かったし、このメガネはお前から渡された伊達メガネだ。何か弁明したほうが良いんじゃないかヤマト?私の本体の美しさについて何か言っておいたほうがいいんじゃないか?」


「白衣にはメガネだろうが!」

「この白衣もお前が渡した外付け要素なんだよ!!私本体の美しさを嘘でも褒めろって言ってんの!!」

「すまん嘘がつけない空間らしい」

「私には分かるって言ってるだろ!!」



パンパンと少し静かに手を叩き注目を集める国王。すみません。



「このように完璧じゃなく半端にしか役に立たないので余計混乱しがちです。下手な嘘はつかないよう気を付けて下さい」


「どうせ、自分ヲ正義ダト思い込んでる一番危険な犯人とか、自分の嘘を信じ切った危険な狂人には効果が無い。無駄な仕様だ。だから結局事前調査が全てになってイル」




そして国王と長老はどうやら騒がしい奴らにも慣れきっているようで、私達や観衆の反応を適当に流しながら形式的に説明をどんどん進めていく。


まぁ色々緩い南の国とゴブリン絡みの裁判できっちりかっちりマナー講座みたいになるわけも無いか。




そして、唐突にガランガラーンと鐘の音が鳴る。なんか上の方に鐘がついていたが気が付かなかった。金属供給や金属細工はさすがに穴に住む者達が有利なので、結構立派かもしれない。



「では裁判を始めル。地べたに座っても良いし、椅子が欲しけレば勝手に持ってこい」



ゴブリン長老が宣言して何か壇上の魔法道具を起動すると、頭上に資料が拡大して投影される。わー便利。


ゴブリンの椅子はかなり高確率でくだらない悪戯が仕込まれてると思うので私は迷わず地べたに座り、他の奴らもそれに倣う。慌てて国王の親衛隊的な人らがちょっとした携帯クッションを持ってきてくれた。どうもどうも。




「さて。英雄の遺骨という特別重要な文化財を損害シタ件については、この資料ノ通り英雄様ご本人からヒョロナガ勇者に対し自分を復活させるよう要求されている為、ヒョロナガの有力技術者達が祭壇に赴いて無償で英雄様の依頼に応じるという判決の予定になっている」



あ、アネモネが更に上を見た。頑張って、そんなに難しいこと言ってないよ。無料で復活させに来いって言ってるだけだよ。



「実際に復活シテ我らを護って下さった為、ヒョロナガの非礼にむかついている者も居る。しかし英雄様ご本人の要求を無碍にするわけにはいかぬ。よって感情的ナ部分は勝手に悪戯でもして晴らせば良いし、『反撃されぬ悪戯は面白くもない』の格言によってその権利を無駄に保護もしない事とする。但しヒョロナガ側は配慮を心掛けるように」



なんか途中しょうもない格言が入っていたような気がするけど、英雄の遺骨を傷つけられたゴブリン側の怒りに対してこちらは特に何もしなくて良いらしい。


いわば敵地での裁判みたいなものなんだけど随分楽勝だな。悪戯への配慮ってのが実はとんでもない要求の可能性も無くは無いけど。




「なぁマリウス、大体決まってるってのは分かったが、異議ありとか出来ないのか?」

「その場で色々覆るような曖昧な状態で裁判されたらマズいから、急いで書類まとめて参加したんだよ。ヤマト君の世界では結構覆るのかい?」


「いや俺あんまり本物の裁判知らないんだよね。ゲームでは証拠とか証言を突きつけて真犯人を見つけたりするんだが」

「基本的に大事な証拠や証言は先に調査して保護しておくべきだと思うよ」

「それはそう」




長老と国王の頭上に浮かぶ投影された拡大資料がどんどん進んでいく。


あれ、もしかして今ので一個終わりか?




「次にヒョロナガによる大規模な傷害事件についてだが、これはそこの王より謝罪と保障案が提示サレテいる。傷害も問題だが、ヒョロナガの戦いに大勢巻き込まれた時点で人件費の損害が大き過ぎた為、これは長老として事前に手を回シた。遺骨の件が不利な分この件で得を得る。同胞は安心せよ。無料で治療を受けたうえで、給料付きの特別休暇となる」


「ウォォアアアア!!」「ギャアアアアア!!」「長老ォオオオオ!!」




観衆ゴブリンの大喝采である。どうやらこれを確認に来ていたようで何人かどっか走っていったぞ。



「皆分かってイルと思うが、『飢えて仕方なく奪うのは悪戯と呼べぬ』だ。飢えて仕方なく楽しくもない悪戯をするような同胞を見捨ててはならぬ」


「ウォォオオオ!!」「ワァアアア!!!」「長老ォオオオオオ!!」




観衆ゴブリンの大喝采である。なんかまたしょうもない格言も入ってたぞ。なんでこいつらそんなに悪戯を神聖視してるんだ。


ヤマトは何らかの解釈違いなのか、それとも部分的に一致しつつおかしいのか、普段より絶妙な頭の抱え方をしている。




しかし困ったな。「人類に敵意を持つ相手と私達の戦いに巻き込まれた」という部分はもうどうやら裁判前から確定済みなんだなこれ。そこが争点になるのかなぁとかぼんやり想像してたけど、そこらへんってもう事前調査と打ち合わせで全部終わってるわけね。


こっちとしては不可抗力っぽい部分もあるのであまり色々要求されても困るんだが、王がそう動いちゃってるんだよな。洞窟内のゴブリンに金を回すとなると、ついでに発掘関連の裏取引でもしたのかも知れない。防衛用に鉱石でも集めたいんだろうか。




「さて、当事者達。ここまでで何か疑問点や意見はアルか?別に結果は変わらぬが形式上聞いてヤル」


「変わらないのかよ。いや別にいいんだけど、実際怪我人や死者はどんな感じなんだ?」


「なんだ勇者よ、ソンナことも把握出来ていないのか?現時点で把握出来ている死者は三名。他は怪我が悪化したり病気になったりしなければ怪我止まりダナ」


「そうか……いや悪戯だろうと自ら襲ってきた相手に容赦する気は無いんだが、操られて巻き込んだ死者は気分悪いな」


「我らとて悪戯に容赦されたくは無い。死と隣合わせ位が一番面白イからな。まぁ背負いたければ背負えばいい。こちらはお得なだけダ。あそこまでバカを貫いたバカが記憶に残るのも楽しい」


「バカを貫いたっていうのは?」




うわどうしよう、なんか男気見せて格好良く死んだ話かな。心に負荷が来そうで聞きたくない。そういうパターンでしょこれ。




「戦闘後の夜、崖付近を警戒していたヒョロナガの衛兵達を後ろから押して落とそうとしたら避けられて転落死したのだ。どうも酔っ払っていて叫びながら突進したらしく、あまりにも無謀な悪戯ダッタらしい」


「悪質過ぎる」「自業自得としか言えないだろ」「それ被害者換算なんですか」




全然違った。普通に悪質で危険なカスだった。話を聞いてなかったアネモネ以外の全員から非難轟々である。珍しく第一王子ですら被害者換算にツッコんでいた。




「いーや、普段なら命には関わらん程度に誰か指南に入っていタ。お前らの戦闘に巻き込まれて忙しかったから酔っぱらい中年達の悪戯チキンレースに誰も気づかなかっタので、関係有るか無いかで言ったらある」


「ガキとか言われたら胸も傷んだが、酔っぱらい中年って言われるといよいよどうでも良くなってきたぞ」


「こら勇者が差別スルな!酔っ払い中年だって命懸けの悪戯をしたいのだ!実際ガキだったらもっと大騒ぎにナっている。というかそもそも誰かが止めてたわ」



いや一緒だよ一緒。じゃあ感覚同じだよそれ。確かに命の価値が違うみたいなのは良くないなぁと思うけど、酔っ払って悪戯で人殺ししようとする中年にマイナス評価が何も無かったらその方がおかしいわ。常識の違いって怖い。種族レベルで違うからなー。




「で、怪我人についてはこちらも混乱している」

「人手が足らないのか?」

「いや、ヒョロナガの支援も既に始まってはいるんだが……」




誰かを探すように周囲を見渡す長老。それに応えて一体のゴブリンが前に出る。



「彼は早くから操られた皆を止めていた功労者だが、上空から突然見えない巨大な鳥が落ちてきて重傷を負った」


「頭が割レタ!首からも凄い音がシて曲がった!死んだと思っタ!」




あっアネモネが目を逸らした。何か思い当たる事があったんだろう。



「詳しく状況を説明してやってくれ。何かしらヒョロナガと関係がある」


「うぇい!ただ、そのう、調査中も話した通り、よく視えなかっタ。です。目も霞んでたから自信が無いが、透明で小さな何かが飛んでいタと思う。です。ふつうの妖精じゃなくて、空想の妖精?みたいナ」


「うむありがとう。戻ってくれ。……お聞きの通りダ。これと同じ報告をする者達は皆大怪我の跡があり、かつ既に治っている。ヒョロナガの王にも確認したが心当たりは無いらしい」


「そこまで優秀な治療魔法使い自体わりと珍しいですからね。人間側に秘密でゴブリンの巣穴に潜ってまで治療していたとなると常識的な調査で見つけられる相手では無さそうですし、透明化はまだしも小型化となるとさすがに別種族なのではとも思います」



治療済みゴブリンの証言後に、長老と国王の補足が入る。なるほどね。そして王が私をチラチラみてる。賢者なら何か知ってるだろうという視線だ。



……実際知ってはいる。思い当たる存在をさっきちょうど見た。


治療魔法が使えて、姿が消せて、小さくて、飛び回る人形を。ちなみに展示物の盗難現場も見たので一旦黙ってていいかな。一旦全てを隠しておきたい。私にもよく分からない存在なのでそもそも解説出来ないし、なんか色々不安だったので。


何が目的なんだあの娘達は。産んだ記憶の無い子供が親の知らない物語を進めている。




「急に楽しくなってきた。怪我人を治す未知の妖精。いいよそれ。非常に良い。俺そういうの大好き」



ヤマトはのんきに喜んでいる。後でこいつも尋問しなければならない。アネモネが突飛な発想のやばい魔法を使う時は異世界の怪しい常識をヤマトに吹き込まれているパターンが多い。




「まぁ判決と関係ない細かイ部分は後で話し合おう。むしろ裁判なんて形だけ、会議のほうが本番みたイなものよ。では最後の問題に入る。これは中央の大きな人達……ヒョロナガの言うオークからの依頼によるものダ」



あっ。来てしまった。



「証人、ヒョロナガの小童よ。えーっと、どれが当人だ?まぁいい、武器も防具も持たず大きな人達の猟区に入り、一発で捕まって居住区まで運ばれた事に違いは無いナ?」


「異議あり!私は遠距離攻撃に対し無敵の防具を備えていた!!」


「閉鎖空間の洞窟に入るのに遠距離からの狙撃だけ警戒するバカなんて居るわけ無いダロ。どうやら本当に無防備に一人で猟区に入り捕まったようダ。野生動物より馬鹿かも知レン」


「こいつ!!異議あり!!!私は天才だぞ!!!」



信じられんほど馬鹿にされてる。ゴブリンのジジイに。全体的に許せない。




「あのー、猟区ってのはどういうことなんだ?」

「異世界の勇者よ。自分達の管理している洞窟内で仕掛けた罠にヒョロナガがかかるのは明らかに認められた猟である」


「ダンジョンのトラップって罠猟扱いなの!?」


「自分らの管理区画で罠に獲物が掛かっテ罠猟にならん理由が分からン。それはそうだろう」



何か言い返そうとして何も言えず苦しむヤマトの姿。いや私も知らなかったけどね。そんなノリなんだダンジョンって。




「まさか、ダンジョンに住んでる魔物には実効支配が認められているのか……!?」


「違う。聞き齧った程度の知識を迂闊に振り回すナ勇者。該当の洞窟で居住履歴があるのは大きな人達だけ。ヒョロナガの法と照らし合わせてもお前らの支配下だった時期は一度も無い。実効でも支配でも無い。あそこは名実ともに最初から大きな人達の居場所ダ」


「ぐわーっ!!」



頭を抱えてのけぞる勇者。知識が広く浅く雑学系だから深さや精度が必要な話に弱い。なんて下らない弱点なんだ。



「獲物を必要以上に傷つけなかったし、食えるかどうかも分からんヒョロヒョロでオスかメスかも分からなかったから、対応に悩んでいた所だったと主張されてイル。これに意義はアルか?」


「意義あり!!私はどう見ても美少女だろ!?」



オーク共!!思い出した!!怒りを!!訴えたいのはこっちだった!!!



「うむ、なるほどナ」

「どういう意味のなるほどなのか具体的に説明してみろ!おい!言ってみろ!!」




国王が斜め上を見て若干肩を震わせている気がする。まさか笑っちゃいけないお笑い愉しんでるんじゃないだろうな。




「勇者よ、どうダ?洞窟内は彼らに所有権がアル。猟は人道的で不必要に傷つけていない。お前らが侵入して宝を奪う行為が認められるなら、罠にかかった獲物の処遇も認められるのが道理である。奥の居住区にまで侵入し、不必要な暴力まで振るって獲物を奪ったお前の行いに道理ハあるのか?」


「うぐぐ……謎の法とかじゃなくて道理で来るのか……同族を助けたいという欲求に情状酌量の余地は無いか?」



「ならば先程の死者三名の責任を取れ。我らは自己責任の悪戯による死を追求しなかったが、そちらが自己責任の同族の命に特別な権利を主張スルなら、こちらも同じ権利を主張スル」


「ぐわあああ!アレ伏線!?」



「ヒョロナガの弱点など知り尽くしておるわ。無駄だ勇者。善良でありたい者が加害者として裁判に現れた時点で被害者に勝てるわけがナイ。普通は別々の裁判の理屈を繋げたりはしないが、告げられた道理を踏みにじる事も出来まい」


「だ、だめだ、経験値が足りない!推理ドラマとかゲーム知識が全く役に立たないぞ!もう少し裁判ネタも動画とか見ておくんだった……!というか元の世界もこの世界も法律がよく分からねぇ……!」


「ヤマトくん、法律って案外『そこは話し合いで決めるように』みたいなのも多いんだよ。まして別種族との問題ともなれば片方の法律を押し付けるわけにもいかないからね」


「自認では人助けした正義の味方だったのになぁ」

「正しさの押し付けが一番人を殺ス。ヒョロナガの格言だったような気がしたがナ」

「ぐわあああああ!!」



まずい、完膚なきまでにヤマトが負けた。弱すぎる。


そもそもあいつは雑学好きかつ理屈っぽいというだけで論戦には弱い。なんならちゃんと間違いを認めて学習する半端な賢さのせいで負けを認めるのが速すぎる。



そしてマリウス王子は結末が変わらないのを知っているみたいだし、アネモネは聞いてる振りしてるだけで何も聞いてない。



私はまだ議論バトルで負けたわけじゃないが只の証人なのであまり参戦できないんだぞ。このままじゃとんでもなく不利な条件を突きつけられちゃうだろ。多分美人の私がさらわれたりする。なんとかしろ勇者。




「……で、オーク達は今更俺に何を求めているんだ?結局そこで全ての話が変わってくるぞ」

「お前らへの要求などなイ」

「はぁ!?」



あれ?どういうこと?私にも無いの?美少女賢者だよ?



「狙いはお前らの言う中央の国ダ。同盟までは気づいたのダロウ?」

「じゃあ南はゴブリン、中央はオークとって事か!?」

「そうなるナ」

「南はアレを実際に見たから皆納得するだろうが、中央で急にオークは裏が不安過ぎるだろ」

「だから勇者への借りを利用するのダ」




……まずい、何言ってるのかよく分かんないぞ。戦い好きは戦略とか戦術を基礎教養みたいなノリで端折って話すから分かりづらいんだよ。




「勇者が中央で大きな人達に借りヲ作っタ。ヒョロナガが勝手に管理している国境など我らの知ったことでは無いしお前らの法も本来どうでもいい。借りは法ではなく心の縛りなのダ」


「うわ、くそ、そういうことか。今更タリアに色々言われてた借りがどうこうの怖さが来るのかよ」


「分かったようだな良い勇者よ。『善良者』という評価を維持したい者達にとって借りという鎖は重イ。お前の過剰な善行と活躍が中央を縛るのダ」


「今の中央の兵力でダンジョン内まで守れっていうのか?」


「我らも彼らも望みは地上の防衛。そして操られた者への人道的な対応ダ。守れも何も狙いはヒョロナガじゃないか。巻き込まれたくないからこっちの事までちゃんと考えて防衛しろと言っているのダ」


「……」「おい黙り込むな言い返せヤマト!」「いや向こうが正論過ぎないか?」「ごねろ!」「無茶言うなよ!逆に思いつかねぇよ」




「例え正論でも、我らが唐突に主張した所で疑うヤカラや感情的に反発する愚かなヒョロナガが沢山居るだろう。だから勇者と裁判を使ったのダ。緊急事態に備えた一時的安全保障同盟を目的にナ」


「……」「だから黙るな!何か言い返せ!勇者だろ!勇気を出せ!!ゴブリンに負けるな!!」「いや向こうが正論過ぎて」「正論を暴論で破壊しろ!愚者になれ勇者!!」「ダメに決まってるだろ!それに思いつかないって!何かあるなら自分で言ってみろよ!!」「なにも思いつかん」「ほらぁ!」




くそ、あの首長竜が地上の生き物全部を憎んでたらもっとマシだったのに、明らかに人類だけ憎んでたので言い返せない。


なんなら全ての元凶はご先祖様達の可能性が高いので、他種族に巻き込まれたくないと言われると非常に苦しい。




「ただ、大きな人達が操られたら我らノ悪戯とは比べ物にならん。向こうはまだそこまで把握しておらんのだろうが、実際にはどちらかが皆殺しにされかねん危険な状態だとも思っテおる」


「うわ!そうか!?いや、それは確かに裁判とか関係なく事前に色々話し合ったほうがいいぞ!?ああ、くそ、それがオーク有利の流れで進められてしまうのか」



「改めて言っておくが裁判に持ち込まれた時点でお前らはモウ負けていて、中央に借りを背負わせる所まで確定しておる。事実無根ならまだしも調査して全て事実なのに覆せたらそのほうがマズいわ」




やばい、なんか面倒な話になってしまった。特に戦闘とか防衛の話になると若干野郎共の感覚的な部分についていけず、私の天才的な賢さが上手く出せていない。


戦闘的な話になると突然頼りになるアネモネをつついて小声で解説を求めてみる。



「(アネモネ、これどう思う?)」

「(よく分からないの。とりあえず原因っぽいオーク殲滅してきちゃ駄目?)」

「(ぜっっっったいダメだと思う!!)」




危ない。途中で確認しておいて良かった。問題が解決する代わりに何か大事なものを失う所だった。


普通逆でしょ。聖女的な人が不必要なくらい魔物とかにも優しくして、それが不幸なトラブルとか起こすもんでしょ。エロい本で見た。




「では大体こんな感じで裁判は良いですかね?さっさと別の部屋で本題に入りたいです」


国王がしれっとまとめに入る。全然良くないが?




「しかし参った、まさか魔物とも仲良くしましょう系の異世界だったとは。そういうのって普通スローライフじゃないのかよ。このハードさでこれは大変だよ。普通にもう結構倒してきちゃったぞ」


「傲慢だぞ勇者。勘違いするナ。我らとて命懸けの悪戯で殺し合う時に余計な配慮などされたくない。大きな人達にも其々矜持があろう。何が仲良くだ。こっちは巻き込まれてるだけなんだゾ。仲良く無くても守らんか勇者」



「うわ言い返せねぇ。それはそう。いやまだ確定じゃないからな元凶」

「ちなみにヒョロナガの死体兵器と思われる海の化け物は明確に人類抹殺を望んでたゾ。広域共有を食らった我らが一番よく知っている」

「うわ言い返せねぇ」


「勇者様」

「ダメだよアネモネ。絶対ダメ。ここまでの話の流れで抜刀しないで。納めて」

「まだ何も殺してません」

「何も言ってないとかじゃないんだよね!あっっぶね!!」

「でも先に殲滅すれば巻き込む事も操られる事も無くなってニ倍お得に」

「ダメだよ!本当にダメ!」


「おい国王、なんかとんでもなく物騒な武人が混ざってル。誰の兵だ怖いゾ」

「あのお方は、その、証人と仲良しの付き添い一般人なのでお許しを」

「一般人ヤバ!!裁判所にあんな野蛮な第三者が来るノカ!?治安大丈夫か!?」

「……仲良し…!?私とタリアの仲良しは!お墨付き!?王の!?」



すごい。なんか適当に裁判がお開きになろうとしてる。



いいのかなーこれ。国王と王子が絡んでるので細かい部分に抜けは無いんだろうけど、結局不利を全部認めただけじゃないか。事実なので正攻法じゃ覆せないけど、なんかいい感じに戦って薄っすら有利とかにしたかったな。


いや不利ってほど何も要求されてないから、意味があるかはともかく、こう、なんていうか気持ちの問題で。



まぁ変に欲をかいた要求の上乗せとかも無いってことは、本気で重要視して本気で警戒してるって事なんだろうな。オークもゴブリンも。




「……えっと、いいやこれも書いちゃうか。後々意外な発言が役に立ったりするよね」

「もしかしてもう裁判終わった感じで書記まとめてないか王子」

「えっ!?あ、いや、終わったと言うか最初から出来レースみたいなもので……」

「おい!もっと戦って有利を勝ち取ろうって気概を持てよ!」

「い、いや、僕は事前に戦ってましたから。不利の少ない結果を勝ち取り済みなんですよ」


「そうだった。なんならよく頑張ったって褒めるべきだった。やるじゃん」

「え!?あ!?いや、そんな!?」



しまった美少女が褒めすぎたから挙動不審になってしまった。美しすぎてすまない思春期王子。


冷静に考えてみれば、確かにもうこいつが戦い終わった後だったわけだ。王と組んで保障を擦り合わせたり、勇者に過剰な要求が来ないように調整済み。




「……つまりはゴブリンもオークも巻き込まれたくないし被害が出たら保障しろって話なだけだよな。一度判例を作っておけば次回からそれが基準になるし、自分達の主張やスタンスを事が起こる前に広めておけるから無駄な争いや手間が省けると」



「そういうことです。全く人類を信用していないから書面と前例で縛りに来ただけ。あまり余計な欲を出してこなかった辺り本気で警戒しているので、悪質なイタズラさえ無ければ意外と僕でもなんとかなりました」



「無駄な謙遜には騙されんぞ。国王が普通に組む相手と認めてる時点でもう王子は事務の主戦力だからな。ちょっと王の座に近づいてて危険だから少し離れるべきだ。私にもっと譲れ。でも事務はしたくない……厄介なライバルを育ててしまった……人選まで天才な自分が恨めしい……」



「うえっ!?あの、僕がライバル、いや!?」

「妙にまったり書記してるなとは思った。最初から全部やりきってたわけだ」

「あ、あの、それは再三あの長老も国王も僕もずーっと言ってましたけどね?」



厄介なことに、王子の活躍は本当に地味だ。頑張ってるのは分かっているが私から認識出来ない。王座のライバルだと思うと急に怖いぞこいつの地味な活躍の仕方。隠れて好感度稼ぐなよ。



目立たなすぎて全然気づかなかったが今回はマリウス王子の戦いだったわけだ。そして国王とライバルの前できっちり無難な結果を残した。



まさか勇者への愛でここまで成長するとは。戦闘の成長が媚薬な事以外はかなりのものだぞ。


褒美に勇者はもうちょいマリウス王子の事正面から愛してやってくれ。映像撮って売るから。


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