表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/59

見た目は素敵な老執事



裁判所ダンジョン内で迷いに迷った私とアネモネは、とりあえず目印をつけながら進むしか無いと結論付けた。


私のイメージでは壁とか床に目印を付けながら進む感じだったんだけど、それをアネモネは「破壊の限りを尽くしながら洞窟内を高速で飛び回る」のだと認識したらしく、小脇に抱えられた私から可愛らしい美少女の悲鳴がずっと響いていた。たすけて。



人は狭い洞窟内を飛び回って進んじゃいけない生き物だと思う。走るというか前方に跳んで壁とか天井を蹴りながらゴガガガガって進んでるよ。たすけて。



いつ終わるのか分からない恐怖の進撃。たまに足止めを狙う罠にかかるのも最悪だ。大体の罠は破壊してくれるのに、なぜか壁から私の尻が生える事になる罠だけ回避してくれない。わざとらしく「しまった」とか言う。どうして?どうしてそんなに気に入っちゃったの?休憩は嬉しいけどなぜ尻を撫で回されるの?



……そして、地図が分からない組の迷走は、道半ばなのかもよく分からない場所で突然の終わりを迎える。


人形が唐突に現れたのだ。超高速で飛び回っている状態のアネモネの目の前に。



「!?」

「ぐえええ!!!」



さすがにアネモネでも予想外だったのか、とっさに地面を蹴り飛ばして天井に反転して突き刺さり、埋もれた足を引き抜いてから着地するという滅多にない乱暴な着地になる。衝撃で内臓が飛び出るかと思った。




「……危ないわ?私の前に急に飛び出しちゃダメよ」



両手を広げて道を塞ぐニ体の人形と、それに優しい声で話しかけるアネモネ。そして目が回っていて天地も分からなくなっている私。



「あね、アネモネ、ほんとに、本当に無理、もう絶対洞窟内で飛ばないで」

「タリア、娘達がなにか主張してるのだけどどういう事かしら?」

「む、娘達?何の話?ごめんちょっとホントに待って、目が、世界がグルグルしてて」




よろよろしていると人形が近寄ってきて治癒魔法をかけてくれる。凄い、なんて高度な。


というか思い出した。若干私に似てるけど違う人形。勝手に生まれてた私とアネモネの娘達か。久々に見たかも。私の人形はどうなったんだろう。




「……あれ?どういうこと?この子達ってアネモネの人形じゃない?」

「二人共私達の娘よ」



ふわふわ浮かびながら頷く人形。アネモネの操作してる人形がどうやってアネモネを止めるんだというごく自然な疑問があるんだけど、問いただす前に袖を引っ張られて壁の前に連れて行かれる。



「え、え?なに、私?私が壁になにかしろって事?どういうことアネモネ?」

「私にはぜんぜんわからないわ。でも破壊しちゃダメだから突進を止めたんだと思うの」




……嫌な予感がしてきた。壁じゃなくて人形の方ね。今ちょっと本人達の前で深く突っ込む勇気が無いんだけど、アネモネの口ぶりと未知の浮遊魔法、そしてアネモネに使えない治癒魔法、アネモネの知らない知識。



恐怖の進撃と突然の出来事で回っていなかった頭が冷えてくると、ついでに肝も冷えてくる。



これ……まさか……意思のある人型魔法生物を……まさかね?そういえば魔法生物の話で変な反応してた事があった記憶が無くも無い。それってダメなのかしら?みたいな反応していた記憶が、こう、薄っすらと。まさかね。



首を傾げながら、早く壁を見ろと促す小さな可愛い人形。



ど、どうしよう。とりあえず一旦色々棚に上げて何を主張してるのか確認しておくべきか。普段全然姿を見せないのに唐突に現れたのだ。何か大事な用なのは間違い無いでしょ。うん、そう、多分大事な用だから棚上げしよう。




「えーーっと、もしかして壁を鑑定すれば良いのかな?何か魔法がかかってる?」



嬉しそうに頷く娘達。可愛い。




「なんだろう、隠し扉って事?」



流れ的にそれしか無いだろうなと思いつつ、壁に近づいて鑑定を開始してみる。


なるほど、確かにここだけ色々魔法でカモフラージュされている。穴を幻影で塞ぐとかの簡単な偽装ではなく、結構がっつり何か隠してある。



「あれかな、変に衝撃を与えるとロックされちゃうのか」



頷く娘達。可愛い。


いやすごいな、この子達はなんでそれを知ってるんだ?もしかして私の娘ってことで鑑定スキル持ちなの?人形が私の遺伝を……いやそれは何か不穏なものを感じるので思考中止しとこっか。絶対嫌な予感がするもん。



かなり高度な魔法を解析し、髪の毛を一本抜いて指に巻く。




「えっと、開けていいんだよね?」



なんだか凄く嬉しそうに頷く娘達。可愛すぎる。


指に魔力を通す。あんまり人前でやるのは憚られるけど、知的天才美少女である私にとって魔法の暗号鍵とか意味ないし、物理的な鍵も意味が無い。国宝を守る鍵だって髪の毛数本と魔法粘土素材ひとつまみだったからね。


重い物理鍵も無くただ面倒なだけの魔法暗号鍵なんて逆に牢屋とかより簡単楽勝。余裕過ぎて困っちゃうね。自分の天職が不安になる。



「えーっと、はい解除ー。」「すごい」



ぱちぱちという小さな拍手が三人から届く。どーもどーも。



ゴゴゴゴゴという音を立てて魔法の扉が開いていく。見た目的には岩壁のままだが実際には結構機械的な制御扉で、隠されていた洞窟の横穴っぽいものも見た目と本質は違う。なにより奥に古めかしい魔石素材の黒い扉が待ち構えている。



「また扉じゃん。めんどくさいけど興味も湧いてきた」

「ねぇタリア、娘達が目を輝かせて盗難スキルを学んでるけど大丈夫かしら」

「絶対教育には悪いけどそう簡単に真似出来ないから大丈夫」

「そう…よね?」



大小様々な不安が胸に渦巻いてきてるけど一旦無視ね。次の扉もぱぱっと開こう。



と思ったが黒い扉はそもそもちょっとした暗号鍵しか無く、手作業も不要で簡単に開いてしまった。ただ正解の順にボタンを押すだけで開く扉。危ないよセキュリティ。




「ここは……なんだろ?博物館?図書館?」




扉の先はそこそこ明るい厳かな空間で、陳列棚や本棚が地下方向に向かって何階層も整然と並んでいる。



予想外にめちゃくちゃ真面目そうな場所だったので、私とアネモネは恐る恐るそっと室内に入ったのだが、娘達は大はしゃぎで中を飛び回って陳列棚を物色しにいく。



うわー怖い。突然子育ての怖さみたいなものを味わっている。こういう場所で暴れる子供怖すぎる。



どうやら何かお目当てのものがあるらしく、二人の娘達はあちこちをギュンギュン飛び回りながら更に地下へと降りていく。何かあるのを知ってるのか、何かを感じているのか。



慌てて階段を下りていくと、どうやら何かお目当てのものを見つけたらしく、娘達は二人でぐるぐると展示物の周りを飛び回っていた。特殊な強化ガラスで魔力も漏れないような作りに見えるが、二人共ここにあると知っていたと言うよりは感じ取ったようにも見える。




そして、娘達はおもむろにガラスを殴り、展示台を覆っていたガラスになぜか人形が入れるくらいの穴が開く。


「あ」「え?」



思わず呆けた声が出る私とアネモネ。


ガラスの割れる音と、けたたましい警報が後から鳴り響く。




「ちょ、ちょちょちょ、待っ、何してっ……居ねぇ!!」



嬉しそうに何かを取り出したのは見た、私に向かって中の何かを指差したのも見た。そして注意をしようと思った時には消えていた。



なぜか教育に慣れていそうなアネモネの声が響く。なぜかじゃない、そういえば孤児院的な役割も教会にあると言っていたから実際慣れているのかな?




「ダメなことをしたのは分かっているわよね?それ相応の理由があると思ってよいのかしら」



へー、普通の声でゆっくり問いかける感じなんだ。何をしたのか確かめるように壊れた展示台へと近づいていくアネモネ。私は警報をなんとか止められないかなってセコい事を考えながら付いていく。




「──相応の理由はあるだろうね。実際、この私も可能ならこの階の展示物は全てタリア君に確認して貰いたいと思っていた所なんですよ」


「誰!?」「しまった目撃者が!」




警報が鳴り響いていても誰も駆けつけてこないし何の声もしないので完全に今は私達しか居ないのかと思っていた。


奥の本棚の影から唐突に渋くて低い男性の声が響いてくる。



やばい。しかも聞き覚えがあるし、私をタリア君と呼んだ時点で知り合いというか、その、かなり立場がある人間でして、やばい。



コツコツと静かな足音を立てて、姿勢の良いスラッとした白髪の高齢男性が奥から現れる。貴族というよりも、理想のオジサマ執事とか高級呑み屋でなんかシャカシャカしてる人を想像した時に現れる、静かで優秀そうでキッチリした服装のオールバック白髪お爺様。



まずい。なぜここに。




「予定より早く合流できて嬉しいですタリア君。そしてお久しぶりです聖女様」

「国王!なぜ!?」



目撃者は国王だ!裁判所で国王だったのだと判明して悪人が絶望するやつ!いや裁判所だし国王だけどなんか変なパターンだな。



「なぜって、責任者だからね。国を守る為に与えた被害の責任は当然私のもの。王子が起訴されて来ないわけ無いじゃないですか」





警戒態勢を取っていたアネモネが慌てて膝をつき両手を開いて掲げ、たぶん敵意も攻撃意思も無いことを示している。そうか聖女として面識があるのか。



「(まままままずいわタリア!こちらの方が王様なの!?)」

「(あれ、面識があるんじゃないの?)」


「(明らかに最強執事っぽいじゃない!!太った人の方だと思い込んでたの!!)」

「(え、誰だろう)」


「警備兼かかりつけの医者だね。あれでもかなり強いんだが、まだ壁から尻が出せていないのだろう。ここで待っているんだよ私の付き添い達を」




ヒソヒソ声で相談したが全然筒抜けだった。というか読唇出来た気がするけど忘れてた。




「聞こえてるぅ!!!申し訳ありません!!!」

「い、いや、アネモネそんな詫びなくても多分大丈夫だよ、そんな怖いキャラじゃ」

「(ちちち違うのよ!!中央で人気なのは勇者様と王子様だけじゃないの!!!)」



やばい。分かった。王様をイケオジ執事役でエロイラストや同人誌にしてるのね。元々問題だから別に大差無いと思うけどな。逆に些細じゃない?そこの勘違いの失礼さ程度なら。


確かに私と同じで適当に敬語混ぜたり馴れ馴れしかったり、王族っぽくは無いんだよね。なんなら大臣とかそういう系でも無く、どう見てもフィクションの有能執事だ。絶対意識してそういうのに寄せてるって。そうじゃなきゃあんな理想の執事になるもんか。



「ふむ。どうやら下手に勘違いを正すと、私を題材にした物語が懐かしい捕り物時代劇になってしまうのかな。あれも嫌いでは無いんですが」


「そそそそれはそれで結構好きです!ででーん!て感じで!」

「何を言ってるのアネモネ!?」




混乱するアネモネに向かって同じように跪き、両手を開いて敵意が無い仕草みたいなのを返す国王。


顔と姿勢が良くて身なりを整えているだけで、年取っても何やっても様になるものだ。ずるい。整えているだけというか、そういう外面を完璧に維持出来るのも適正とか優秀さの一つなんだけど。



「ではご内密に聖女様。私のことも、あの子達が盗んだ物も、タリア君と貴女が盗む物も、全て中央には秘密にして頂きたく」




予想外のしょうもない出来事で静かにパニックになっているアネモネを落ち着かせながら、悠々と壊れた展示台へと近づき、展示物を幾つか勝手に持ち出して私達に渡してくる南の国王。


一つは娘達が私に向かって指差していた物で、近くで見るとそれは厳重に封印された本だった。




「国王、これなんです?」

「それをタリア君に確認したかったんですよ。ここにあるのは、大昔の裁判や調査で押収された物だと思う。そしてその本を賢者が取りに来た。さすがに中身が気になります」



ニッコリと圧をかけてくる。情報を共有しろという事だ。私は王になるんだから今の国王こそ超えなきゃいけないんだけどなぁ。



仕方ない。警報もずっと鳴ってるし、何か揉め事になる前に情報だけは頭に入れておこう。


ぱぱっと封印を解除して本を開く。



「……これは、神話?寓話?なんだろう、別にそんな大した話じゃ無いかも。言ってみれば今も生まれ続けてるフィクションの超人活劇なだけじゃないかな?歴史調査員の人は喜びそうだけど」


「歴史調査ということは、かなり古いのかね?」



すんごい古い。よくこんなに保存できるものだ。



「本よりもこれに掛かってるかなり高度な保存魔法の方が私は凄いと思いますけどね。何千年前のものなんだろう。中身は大した事ないのになんなんだこれ」


「うーむさすが賢者。本当になんでも分かる天才なのにバカなんだね」


「なんだと国王とて許さないぞ王位をよこせ」「た、タリア、今日だけは失礼な事言わないで!私の気まずさに免じて!!」



ちっ、相変わらずいつも誰かが味方をする。知力に長けがちな南の国で更に「賢王」とされるだけはある。この人が優位じゃない光景を見たことが無い。


見た目や空気感、その場の流れみたいなものまで論理的に使いこなせるのが賢い王族の基礎で、その基礎において格が違う。セコいよな、本当の賢さみたいなやつ。見た目やん結局。




「聖女様にも非常に関係がある筈ですよ。この世界の人類は歴史の知識が不自然に足りない。そうでしょう」

「あ、え?そういえば勇者様やサキュバスがそんなことを……」


「教会が焚書をしていたという話を聞いたことが有りませんか?」




あ、凄い顔でアネモネが固まった。完全なフリーズだ。


そういえば調査書か何かで焚書ってワード見たぞ。教会の不正がどうこうの報告のやつ。



「既にタリア君は太古の作業標準書を掘り当てたと聞いています。ゴミ処理施設の痕跡が無いのにゴミ処理の作業員が居た筈との報告を受けていますが、それも本来なら教会が焚書していたものでしょう」


「あれも?なんであんなものを……」


「私も疑問なんです賢者様。この手段を取った者は明らかに世界の変え方を知っている。意図的な宗教と焚書とは即ち『世界の常識の再定義』です。当時の常識や、その常識を作る宗教を全て消し去り、曖昧なもので上書きしようと考え、実際に成功させた者達が居る」


「うぐっ!」



いかんアネモネに特攻ダメージが。教会の不穏さとその代表たる聖女様が全然繋がらないんだよなぁ。


教会の老人達に文句は言ってるけどそれは組織特有のあれこれであって、さすがに何千年も前の話が基準だと老人もアネモネも誤差だし、ボケ老人だけの秘密の口伝老人会とか維持できるとはとても思えん。まず自分が何言ったか忘れるんだから。




「そうせざるを得ないほどの禁忌だったのは想像がつきますが、勇者召喚の話を聞く限りでは本来なら誰かが禁忌を管理していなければならなかった筈なんです。反省事例として残すのではなく抹消しておきながら、禁忌の罰はどうも残っているようですからね。私はうっかりどこかで失伝したのではないかと疑っています」


「さすがにそんな大事なものをうっかりはちょっと」


「中をよく読まず焚書してはいけないものまで焚書したりとか、案外簡単でありそうなトラブルほど上は見落とすものなんですよ。私も日々失敗し反省しています」


「うぐぐぐ!!」




いかん。中を読まずに破壊しそうな聖女が苦しんでいる。焚書してるのは確からしいから、禁忌の管理者もさすがに教会が第一容疑者になってしまう。もし本当にうっかり失伝でもしてたら非常に苦しい。耐えてアネモネ。大丈夫、当時の国王達とかも共犯の可能性はあるから。共犯が居ても犯人じゃなくなるわけじゃないけども。



ぱらぱらとページをめくる。言われてみれば大昔のフィクション作品は神話と言えなくも無い。




「賢者の力の厄介な所は、本人の中で最初から解決している所です。ゴミの作業標準も、その本も、賢者の中では非常に重要な情報で、尚且つすでに目的を果たして次の段階に進んでいるのでしょう。タリア君、頑張って欲しい。賢者と戦えるのは貴方だけだ。何か妙に気になったワードとかありませんでしたか?」



そんなこと言われても。風の魔法使いだの風の魔女だの、アネモネっぽいねみたいな最強キャラの話はこの本に限らずずっと話題に出ていた。もう明らかに風といえばアネモネだし。


だから関係あるんだって後々ばーん!って判明する事はあると思う。


で?って話がずっと謎なんだよ。だからなんなのさ。




同じくらい頻出する星の魔女とか星の魔法使いみたいな話も、強くて無敵で何でも分かって何でも出来る天才ってもう私くらいしか思いつかない。私ってば伝説の星の魔女だったんだってなっても全然不思議じゃない。なんせ知的最強天才美少女だし。



で?だったらなんなのか?ここが無い。



「風の魔法使いとか星の魔女とか、ぶっちゃけ前々から勇者のせいでちらほら話題になってるんですよ。だからそれが古い本に書かれてたところで勇者が喜ぶくらいしか意味を感じないです」


「ふむ……」


「ヒョロナガ、星の魔女ナンテ現れたら即座に殺した方がイイゾ。自分だって言うなら今スグ魔力を捨てろ」




ぱらぱらと適当に読みながら答えていたら、新たな参戦者に物騒なツッコミを受ける。


そして不意に騒音が止まった。



慣れた手つきで警報を止めながら現れたのはちょっと老いてそうなゴブリン。白くゆったりした清潔そうな衣服を纏っているので、多分なんか貴族ゴブリンとかなんじゃないだろうか。印象からして明らかに普通のゴブリンではない。



そして実は思ってたのと違うゴブリンの登場でちょっと安心している。めちゃくちゃいっぱい集まってきて襲われるか、めちゃくちゃ真面目に盗難を怒られるパターンだと思ってたのに、静かなゴブリンおじいちゃんは気が緩む。




「見た感じ最強でなんでも解決するスーパー魔法使いってだけじゃん。ちなみに私もそう。居たら何がダメなの?」


「問題はなんでも解決スレバ良いわけじゃない。解決してはならない問題もアルんだ。小僧にはまだ分かランだろうが」


「今このミラクル美少女に向かって小僧って言った?」


「あ、スマン。見分けがつかなんだ」




殴るぞ。解決しちゃダメな問題ってなんだよ。




「さてヒョロナガ王!話が違うジャナイカ、荒らすなと言っタだろ」

「申し訳ない長老様。ですがこれが後の防衛に役立つと確信しておりまして」

「また曖昧な賢者頼りか。こちらの調査デハ無効化魔法があるのに操られた我らの同胞を見て解除ではなく足の骨を折レト命じたらしいが?」


「あ、ちがう、その時はまだ出来てなかったし連発も出来ないんだよ」

「小僧の話はドウデモいいわ。誰なんだお前」

「その賢者だが!?そして小僧では無い!!」



こいつ!老人だからってなんでも無礼が許されるわけじゃないぞ!?特に乙女への無礼はな!?



「バカか?そんなわけ無イだろ。自分の服装を今一度省みるんだな。まず自分達の王を見習うが良い。身なりを整えるというのは最初の自己紹介なのだ変態小僧。白衣のビキニアーマー賢者なんて居るわけ無いダロ」




よし殴ろう。思い出した、オークもこいつらも美女への礼儀が足りていないんだ。異種族のメスにも興奮するって話はどこいったんだよ。まさか種族問わず魅了するサキュバスクラスの話じゃないだろうな。あんなのと比較されたらいくら美少女でも辛いわ。許せねぇ。



「……(内密に)」



そのまま余計なことを言うなという合図を国王が出している。賢者であることはむしろ隠せと。



……く、くそ。まぁ確かに、なんかノームさんもブチギレてたのでゴブリンの前で変にアピールしないほうがいいかも知れない。ムカつくが一時の怒りで変なピンチを招きたくない。


あれはノームさんだからこそって認識なので関係ない気はするけど、よく考えたら盗難の現行犯なので自分たちの素性は色々曖昧に有耶無耶にしたほうが絶対いいか。




というか、この盗難本って持って帰っていいんだよね?別に隠してないけど全然何も言及されないし。どうやらアネモネも何かの本を渡されたようだが難しそうな本の時点で絶望していた。私に開けてくれと頼む様子も一切無い辺り、封印されてて欲しいんだろう。後で解いちゃおう。




目の前ではなんだか賢そうに国王とゴブリン長老が防衛がどうとか色々相談しながらどこかに歩き始める。


知らなかったな、王って魔物とも地域の安全とか相談しなきゃいけなかったのか。お前ら安全を脅かす側だろ。マッチポンプかよ。




そして、アネモネはなんだか全然ショックから立ち直れていない上に、よりにもよって政治っぽい話をしはじめたゴブリンと王を見て完全に萎縮してしまった。



「せ、政治……ゴブリンの方が私より政治の話出来てる……」

「よくない差別だよアネモネ!」

「そうだぞヒョロナガ!若さゆえと見逃してヤルガ、種族問ワズ老いて立場も出来たら政治と無関係ではいられんのだ」


「はいぃ……」




うわ。あの最強のアネモネがゴブリンに圧倒されている。ノームさんとも長老ゴブリンとも相性が悪い。まさか聖女の天敵はゴブリンなのか?



「まぁ全員迷ワズ裁判所に辿り着いたのは褒めてヤル。さすがは名高い賢王の地図よ。あの悪戯の中でどっちのルートからも間に合わせるとはナ」


「ということは勇者様もうちの王子も到着したのですかね?」


「ああ。見直したぞ、アイツラは過去見覚えないレベルで圧倒的に強い。あれが防衛に協力してくれるんダロ?」


「もう協力してるんです。実は分かってるんでしょう?怪我人への保障に協力はするが、怪我人で済んだのは彼らが異様に強いからだ。普通はもっと殺してましたよ」




うわ、なんか老人組がそれっぽい会話してる。でも一番強くて戦況を変えているのはここで私にしがみついて苦しんでるアネモネだよ。もしかして国王もまだ把握しきれてないのかもな。



「ふん。まぁこちらも余裕が無イ。大きな人達への義理立てもある」

「オークか。しかしそちらには南の力が及ばんのだが……」


「意味もなく難癖をツケルほど愚かな種族では無い。勇者に借りがアルのだ中央は。そして勇者が居なくなった今、地上の防衛力が足りてイルとはとても思えん」


「勇者に貸しを作って、それを中央に肩代わりさせるという話ですかね?随分また遠回りな」


「遠くは無イ。勇者さえ絡めば必ずやるぞ中央は。いや、南もソロソロ同じことになる」

「ああ、そうか。もう他人事では無いんでした。実は会うのも今日が初めてなのです」

「やれやれ、得意の礼節はドウシタ?」

「お恥ずかしい限りです」

「隙をみせおって。だから裁判マデ踏み込まれるのだ。流れは分かってるナ?」

「まぁまぁ。対応はしますのでそちらこそ分かっておられますよね?」

「ふん。所詮世の中なんて形ダケだわ。つまらん裁判だ」




なんだか面倒くさそうな話をしながら、幾つもの扉を開けて狭い通路を抜け、階段を下りていくジジイ組と、それになんとなく着いていってる私とアネモネ。人形は何かを盗んだ後完全に消えたまま行方不明だ。何を持っていったのか確かめるのが怖い。



ただ、どうやら話の流れからして、私達は運良くあの保管庫的な場所を通る事で裁判所に辿り着いていたらしい。あの壁のところ、もしかしたら空間をつなげる二重扉だったりして。信じられない技術。あるいは私達が迷ってグルグルしてただけですぐ下にあったか。



なんにせよ助かった。さすが私。いつも本当によく分からないけど大体ちゃんと着くんだ。予定通りに。



「ま、お待ち下さい、王様!遅れて、申し訳、ありませぬ!!」



後ろのほうからドスンドスンとふくよかな音がする。あーこの人かも、アネモネがうちの国王だと勘違いしてた人。確かに基本的にいつも一緒にいる。



ちょうど階段を下りきって廊下みたいな所になった場所で、他にも数人の警備とか親衛隊的な人達が私達に一度頭を下げて追い越しながら国王と合流しに行く。




「王の護衛がアノ程度のイタズラで止められてどうするのだ!?あんな小童二匹にも劣るぞ雑魚ドモめ!!」


「面目ございません!!」


「まぁまぁ、私が勝手に進んでしまったんですよ。少し気になる扉を見つけてしまって」




どうしよう、うちの国王親衛隊、ゴブリン爺に普通に叱られてるんだけど。嫌だなぁ正論で叱ってくるゴブリンも、反論出来ない親衛隊も。


国王なのに単独で突っ走るから迷惑がかかるんだぞ。反省して私に王位を渡せ。




「単独で突っ走る王族なら私の隣にも居るわよ」

「私はいいの」



数々の流れ弾でアネモネは疲弊しているのでもうあんまり元気が無い。基本いつも浮き沈みは激しいけど、政治の話も勇者に借りがある話も両方アネモネ特攻なのだ。



「でも無事に辿り着いて良かったよねアネモネ」

「あんまり無事では無いかも。予想外のダメージが最近とっても多くって」

「大丈夫、多分アネモネはもう皆に貸しの方が多いから。伝説の風の魔法使いはもうどうせアネモネなんだよ」

「それってダークナイトより強いのかしら?」

「ごめんやっぱり変な肩書要らないかも。意味ないよね肩書とか。実績実績。アネモネはアネモネのまま最強だ」



弱々しく微笑む金髪美少女。見た目だけなら最高に儚いヒロインなんだけどなぁ。この儚さって大体面倒な長話への苦痛で弱ってる顔なんだよね。儚さの価値が儚い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ