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【幕間 落ち込む天才発明家ウラニアの視点】

【幕間 落ち込む天才発明家ウラニアの視点】




日誌。



今日もまたタリアさまの奇跡を見た。


そして、振り返ってみればボクだけが何の役にも立っていなかった。




「全然そんな事ないわウラニアさん」

「準備でも実戦でも普通に大活躍だっただろ。というか人の病室で日誌を書くな」




空の穴がなぜか一旦開いたあと、とんでもない残虐ショーが繰り広げられてから今回の事件は一旦幕引きになった。


しばらく皆警戒していたけど空も海も途端に静かになったし、魔物の方はアネモネさまが海の敵と戦い始めた辺りで既に退散していたらしい。まだ油断は出来ないけど、戦闘を継続する相手は今のところもう居なかった。



「あれについて相談したいから早く日誌終わってくれないか。無効化したら穴が開いたって事は、魔法で封印されているか、もしくはあの異空間自体が魔法って事だろ?」

「あ、そういう事なんですか?」

「さっきアネモネには話したが。また聞き流したな俺の長話を」




ああなった理由は分からないけど、あのおかげで勇者召喚を南の国なら再現出来るというアピールが他国にまで広く知れ渡った。


各国の皆が観測用の魔法生物で見守っていたので、あえて宣伝するまでもなく広まったのがまた都合が良いと思う。自分達で見たものならプロパガンダも疑われない。



アネモネさまによる特異な力とタリアさまの莫大な資金力が無いと無理なので、本当は代用になるのか怪しいものだけど、少なくとも伝説の聖剣と教会の設備が必要な勇者の再現を求めるよりは具体的で再現しやすいと認識された筈。



……そして、ヤマトさんが大怪我を負うのも知れ渡った。




「いやそれは中央の人らも一緒に居た国の人らも元々知ってるけどな」

「本当にごめんなさい、無事に帰せたら死んでお詫びします」

「アネモネはもうその闇堕ちしきれないよ。必ずタリアが助けに来る」

「……!」

「そしてアネモネは今回間違いなく勇者の力に並んだ。もうヤンデレ状態に入る余裕は無いぞ。この世界を任せられると信じたやつが死にたがってちゃ帰れないだろ」

「……!!」




ゴブリンゾンビ勇者のノームさんと戦っている時に相当無茶をしていたというのもあるけれど、一番気になったのは突然の魔力漏れ。


完全に一致していたかは分からないけど、ほぼ間違いなくタリアさまの無効化魔法発動と同時にヤマトさんの中にも穴が空いたように感じた。




「まぁ他に思い当たるものが無いけど謎だよなアレ。てかもうそれ音読しながら日誌にせず普通に俺らと相談しないか?なんで俺の病室で独り言なの?」




だとすると思い当たる事がボクにはある。



「えっ!?」

「凄いわウラニアさん!?普通に話しましょう!?」




そもそも勇者さまの魔力って聖剣埋め込み式だと計算が合わないのではと封印を作っている時に思っていた。


常時発動型の超回復術式、途方もない量の魔力弾、超巨大化、超広範囲の庇うスキルやバフ。身体能力の超強化。それを数年経っても無尽蔵に使い、代償はむしろ抑えきれない莫大な魔力による自滅。


どれほど巨大な魔石を入れたにしても、あれほどのエネルギーを何年も取り出し続けて一切減る様子の見えない無尽蔵の魔力はさすがに何かがおかしい気がする。



「あーなるほど。俺はなんか時間回復とかしてるのかと思ってた。宿屋で寝たら魔力は回復するもんだからな」

「そんなに単純なものでは無いです」

「アネモネも割と無尽蔵じゃん」

「私は私以外の魔力も勝手に使ってるので」

「あれ、もしかしてそれよくある最強魔法使いかも」

「よくあるなら最強ではないんじゃないですか」




ヤマトさんは魔力を摂取すると体内で処理できず体の調子を崩す。つまり補充も出来ない筈だし、そもそも魔力源は封印の中にある。誰にも継ぎ足せない筈で、聖剣として埋め込まれたのも調べた限りでは術式の方がメインだから魔力源の埋め込みは想像より絶対少ない。どう考えても有限で、だけど無限に使っている。


ヤマトさんに埋め込まれた封印は多分ただの容器じゃない。本当に何かが封印されているんじゃないのかな。




「あーー。あるあるそういうの。どっちかというと俺みたいなヤツじゃなくキレイなお姫様が封印の鍵で、守ろうとするんだけど結局駄目なんだよね」

「ダメなんですか!?」

「ダメ。あれ、まずいな。このパターンだといつか俺のお腹の中から化け物が飛び出てくるが?」


「……それについて、ヤマトと、アネモネに、はにゃしがありゅ」

「タリア!?」「珍しい、こんな夜中に起きて…いや寝てるな!?」




多分タリアさまはこの構造にもう気付いている。まずは治療が最優先だけど。




「れも、先にしゅりゅつする」

「なあ、もしかして手術って言ったか?目も開いてないし呂律も回ってない状態で?」




そろそろ病室のドアが開いてお医者さん達がゾロゾロ来ると思う。勇者さまとイケメン王子を治す為に。だけど先にタリアさまが動く筈だ。例え眠気が限界だとしても。




「おい!ウラニア!!日誌を一旦やめろ!!!そこまで分かってるなら助けてくれ!!」

「わあすごい、本当にお医者さん達が来ましたよヤマトさん」


「タリア様、こちらが診断結果で」「道具はここに」「滅菌、魔石展開」


「待ってくれお医者さん!!執刀医が!!執刀医の目が開いてない!!」

「大丈夫」「寝ぼけている時の王女様は本当に凄いですよ」「優しさは消えますけどね」


「ああ!俺もつい言及した意識無い方が強いやつ!でも聞き捨てならないデメリットが最後にあったよ!?」


「マリウス王子は、麻酔きくし、寝てるから、このあとねみんな」

「はい!」「了解です」「準備しておきます!」



「あいでっ!!?なんか刺した!!今喋りながらなんか刺したろ!!」

「勇者様、もう手術始まっています、じっとして」「失敗したら尿管に色々挿れられてもっと痛いですよ」

「ひぃいいいいっ…!」




勇者さまの怪我はいつも火傷が本当に酷いけど、そういう怪我とか病気は勝手に自己修復されてしまう。今回もまだ治りきってはいないけどボクが確認した時にはかなり良くなっていた。


でも体の中に出来た石は治癒魔法と関係無い。傷を癒やす魔法は石を破壊する魔法とタイプが違う。


ボクもここまで詳しく知らなかったけど、尿管結石に限らず人の治療には結構そういう治癒魔法じゃなくて石の破壊のような攻撃が必要になる事もあるみたいだ。




──それを、あの時のタリアさまの行動で連想した。


確かにタリアさまはボーっとしている時ほど賢者の力を発揮するけど、あくまで効率的な答えへの寄り道が減るのであって意味も無い破壊行為なんか絶対にしない。




「今非道な麻酔無し激痛手術が行われてるよ!ウラニア!!止めてくれ!!アネモネ、離して!!」

「動かないでください」

「協力感謝します聖女様」「凄い、目に見えない拘束具がある」「あの勇者様が指一本動かせないとはさすが聖女様」


「ダークナイトです」

「ちょっとよく分かんないです」「多分ダークな騎士は自分をダークナイトと呼ばないのでは」




だから、穴の中への攻撃もきっと只の攻撃じゃない。そしてヤマトさんから溢れた魔力。



まだ推測段階だけど、ヤマトさんの封印と空の穴には何か繋がりがあって、タリアさまの賢者の力はそれを分かった上であの時無効化魔法を放ち、その中に何らかの処置をしたんじゃないかと思う。



ぜんぜん根拠なんて無いけど、逆にそうじゃなきゃあんなことしないもん、タリアさまは。


同時に偶発的に起こったことを勝手に関連付けて妄想しているだけかも知れないけど、勇者さまに異常が発生していてタリアさまが一切反応していなかったのは、ああなると分かっていたからな気がする。そうじゃなきゃ不自然だ。




「た、頼むウラニア!タリア!!その話、後で!後でちゃんとしよう!すげー気になるけど頭に入らない!!あいでででで!!!」


「……よし、こんろマリウス。へや……」

「案内します」「私は後処理を片付けしておきます」


「あ、え、終わった?いってー。前回より早いけど痛すぎ。なるほどこういう感じかよ」

「勇者様、医者として一応忠告させて頂きますが、タリア王女が居なければ『いってー』で済む程度じゃ終わらないですからね。何度も言いますが麻酔無しで尿道に太い管突っ込まれてから長時間手術ですからね」


「心より感謝致します王女様。なるほど前が更に優しさ全開だったわけね……」

「……守ってもらって感謝していますが、医者としてはもう本当に無理しないで欲しいです。どうやら貴方はかなり痛みに鈍い。痛みに強いと言わず鈍いと言う意味が分かりますね?」


「うわー、はい。元の世界でも言われましたわ」




ただ、結局のところ今回の戦いも最高のカップル二人に大きな被害を背負わせてしまった。



「おいだから勝手にカップリングするな」

「では私も王子の方を手伝いに参ります。勇者様、本当にお大事に」

「はい、ありがとうございますお医者さん」



もしかしたらまだ知られていない被害があるかも知れないし、魔物も被害者に数えるなら骨折などの怪我人多数で死者も居るかも知れない。


まだ海の方は警戒が必要なので終わった扱いも早いかも知れない。



それでも、今目立つ怪我人はイケ粗野カップルの二人だけ。


確かにボクは二人の間に障壁が多いと興奮するけど、傷ついて欲しいわけじゃない。


まして痛覚過敏と尿管結石は生々しく痛そうでちょっと違うよ。こういうのじゃないと思う。勇者さまのよく言う解釈違いだ。愛の障害として可哀想になって欲しいけどそれはこういう可哀想じゃない。




「あ、マリウスのやつ痛覚過敏なのか……」

「もしかして媚薬の代償の話ですか?」

「多分な。そうか俺の逆で全ての感覚が鋭くなりすぎるのか……痛風と尿管結石コンビみたいで本当に悲しくなってくるな……というか恋愛で可哀想になって欲しいとか堂々と本人の前で言うな」




どうして媚薬を大量摂取して性欲爆発じゃなく服が擦れるだけで痛いみたいな悲しい話になってしまうんだろう。病院で眠らされるまで本当に辛そうだったので、うっかりよこしまな期待をした邪悪な心が痛かった。本当にごめんなさい。


タリアさまは痛みの治療に関して世界のレベルより何百歩も先に居るから多分大丈夫だと思うけど、ボクも何か医療魔法の開発で手伝う事になるんじゃないかな。ううん、絶対手伝いたい。



なんせボクだけだ。ボクだけがあの場で大した事が出来なかった。どうにか挽回したい。



「いやだから結構頑張ってたって。魔法道具も作ったじゃん」




空でのタリアさまの行動で、ボクはとうとう知ってしまった。あの人はその気になれば魔法道具をリアルタイムで作り上げられる。



もし絶対今すぐ必要だったらボクが何もせずとも拡張魔法を組み上げて使えるんだ。ボクに出来たのはその魔力と体力の消費を抑えただけ。



……別に、ボクなんか、あそこに居なくても変わらなかったんだ。



「あっ、いかんこれウラニアちょっと病みかけてるな?なるほどタリアのアレが実は結構ショックだったのか」

「大変です勇者様。私散々やっておきながら誰かが病むと辛いかも」

「だろ!?それが自分のせいだったらどうだ?元気になってくれるのが一番嬉しいんだって」

「うわー、あー、頷いちゃいけないんですけど、うわー、私、うわー」




勇者さま、聖女さま、賢者さまみたいな超人組と同等の活躍が出来るなんて自惚れていないつもりだったけど、ボクは今回ずっと一緒に居て、ずっと色々考えて準備してきた。何か一緒に出来た筈なんだ。


でも、ボクじゃない。人脈と手続きは結局ぜんぶマリウス王子が繋げてくれたおかげだった。素材はタリアさまに恩のあるサキュバスチームのおかげ。資金はタリアさまのもの。


そしてボクの反転魔法研究は全然間に合わず、作った道具は役に立たなかった。



超人ではない只の人としての活躍も、それまでの準備も含めた地道で目立たない戦いも、今回は完全にイケメン王子がMVPだった。両方やりきった王子の前で、超人に追いつけないなんて言い訳するほど甘えた気分にはなれない。ライバルとかじゃないけど、ああいう活躍をしたかった。




「ああー。意外な関係性になってる。マリウスも引け目感じすぎ枠なんだけどな。そこも落ち込みポイントなのかよ」

「あの、私もけっこう人として頑張って勇者様に追いつこうみたいな枠で……なんか特別枠に入れられておかしくなってます……」

「え?」

「え?」



うわぁ、思い返すと次々に後悔が溢れてきちゃう。どうして?どうしてもっと防衛道具を配ろうとしなかったんだろう。どうしてもっと必要なものが無いか聞いて回らなかったんだろう。



「それはウラニアが人脈をフル活用しつつ、タリアの補佐をしながら調査にも付き合い、その傍らで俺のベルトを開発してたり難しい反転魔法に取り組んでて、なんていうかもう常に忙しすぎたからだぞ」

「ヤマトさんがベルトを無効化したから成果に入れられないんですよ。頑張ってたのに」

「うわ胸が痛い」



死竜兵器を動かす道具からモジュールを取り出すのだって、本来なら先に解析して操る仕組みも便利なモジュールも戦闘前に抜き出しておけた筈なんだ。



ボク、何をやってたんだろう。なんであんな凄い人達と同等の仲間みたいな気分になっていたんだろう。




「ああ、どうしようヤマトさん、私本当にウラニアさんが頼りで、色々な趣向も含めて大事な大事な仲間で、本当に本当に助かってるので、仲間じゃないみたいに落ち込まれるとものすごく切ない気持ちに」


「後でそれをひたすら言ってやるしか無いぞ。ついでにアネモネが頼りな俺の気分も味わってくれ」


「ああああ!すごい、この、何かしら?!いたたまれない!病みそう!病むわけには!」




前回の襲撃からすっごく忙しくて、寝る時間も少なかった。ボクは馬鹿だ。それで自分が頑張ってるつもりになってたんだきっと。自分への苦労自慢だって?なんて愚かな。


タリアさまはずっと無茶せず寝てくれって言ってくれてた。あれは賢者の部分からするとボクが睡眠不足でパフォーマンス落ちてるって意味だったのかも。ボク、きっともうちょっと出来た筈だ。体調管理を甘く見て、肉体的な辛さをあえて得て、頑張ってる気分に浸っていたんだ。



「うわー!あんなに頑張ってたのに!うわー切ない!!ウラニアさん!日誌やめましょ!私と話しましょ!!」




どうしよう。次こそはと思うけど、頑張ったつもりになっちゃダメだと思うと、本当にどうしよう。


ただ睡眠を削って重労働したって、辛さで頑張った気になれるだけで実際には意味無いんだ。準備でしか役に立てないけどそれも低レベルで、でも戦いで急に役立てるほど強くはなれない。



ボクにしか使えない戦闘道具を沢山作ったところで、今のボクが気軽に前線に立つのは戦闘訓練を続けている人達への侮辱なんだ。頑張って訓練しているマリウス王子や兵を見て、そして今回の不甲斐なさで思い知った。



急に役に立ちたいけど、そんな甘い考えじゃ足を引っ張るのは目に見えている。冷静にそれが分かってしまうのが悔しい。冷静で天才な自分が恨めしい。




「こいつの病み方器用だな」

「自信たっぷりに自信を失っています……」



「うらーら」

「あっタリア!なんとかしてくれ。お前の専属研究員が病んだぞ」

「ウララはもう別人の名前みたいよタリア」


「これ。わらしといて」

「多分渡しておいてって言ったのかな。なんだろこれ。回路図か?随分多いな」

「うっ」

「細かい図面ってだけでダメージを負うなダークナイト。弱点がライトすぎる」


「寝ゆ」

「うわ!あざとい!ねゆって言って出ていった!!」

「可愛いわタリア!!後で行くわね!」

「勝手に王女の居る部屋に侵入するな」

「……」

「実は既にいつもやっちゃってるけど黙ってやり過ごそうという顔をするな」

「!!」




タリアさまとゆっくり話したい。こういうときこそあの人の理屈と優しさをごちゃ混ぜにした、人に気づかせず自覚も無い優しさに甘えたい。


辛いときほど分かってしまう。あの人の居心地の良さが。なんだか気軽で、心を軽くしてくれる見えない明るさが。



「うわ!!分かるー!!分かるわウラニアさん!!」

「なんかファンの集いみたいになってきたぞ。あいつやっぱ変に沼らせるタイプか」




きっとタリアさまならボクじゃないと難しい急ぎの回路の道具化とか持ってきてくれると思う。



「あ」「おお…」



それ以外にボクが役立てる事なんて思いつかないし、きっといつもそんな感じで気を遣ってくれてるんだ。ああ、どうしよう凄く辛くて、凄くそういうのに甘えたい。




「じゃあこれ、はい。渡せって頼まれた」




そう。こういう今すぐ必要な回路を。きっとこれはイケメン王子の痛覚を元の状態に早く戻して安定させるための医療魔法道具だ。こういうのを渡されたら落ち込んでる余裕なんて無いもん。今すぐにでも立ち上がって一刻も早く完成させるべき新発明になると思う。



イケメン王子だけじゃない。神経痛とかも考えると、この手のペインコントロール魔法が役に立つ場面は無数にある。多分自分の痛覚制御魔法がまだまだボク達には実現出来ないと知って、ずっと考えてくれていたんだ。自分だけの特異魔法ではなく、既存の回路設計と魔石の組み合わせで出来る道具を。




「あいつ本当にそういう設計とか凄いんだな。ビキニアーマーなのに」

「服装は関係無いですよヤマトさん」




これはきっと今後重要な設計図の一つになる。ボクのこの日誌も今日は特別誰にも見られちゃいけないものだから、くだらない弱音と共に厳重に封印しないと。




「おっ立ち直ったのか。なるほど書いて吐き出すタイプなのかな」

「偉いわウラニアさん!図面を持ってきたタリアも!」




もうこんなの普通の機密保護魔法じゃダメだ。



「…あっ!?」「あっ!?」




まぁ前回いつの間にか消費されちゃってたから最高級のを買い直したし、念の為にこの封印バンドもつけて、今日の日誌は終わり。



やっぱり弱音はこっそり吐き出すに限るっす。皆の前では頼れる天才発明家で居たいもん。




「じゃあ人の病室で音読するなよ!!!」

「勇者様!死霊が!呪いが!記憶消去の呪いがすんごい!!すんごい多いです!!」

「助けて!!ほんとに助けてアネモネぇ!!!!」




ヤマトさんの病室は静かだし、タリアさまの手配で超高級だから邪魔者が入るような場所でも無くて、今回も大事な日誌には最高だった。不意に病人に何かあっても対応できるしちょうどいい。



「うわあああ!頭に!何か張り付いてる!取って!記憶が吸われるぅ!!」

『死者は死ね』

「手刀で霊を!?あれ短剣依存じゃないんだ!パワーアップ偉い!偉いよアネモネ!!」




一仕事終えて振り返ると、背後ではアネモネさまがどこからか湧いてきた死霊か何かを瞬殺してるシーンだった。さすが勇者と聖女、いつ見ても凡人には分からない活躍中っすね。




「ウラニア研究員!!」

「なんすか勇者さま」



「……戦いってさぁ!準備が一番大事って皆言ってて、ウラニアも分かってて、ちゃんと頑張ったろ」


「うぇっ!?なんすか急に!そんな持ち上げられても、ボクじつは今回あんまり……」




お前は賢いけどバカだって言おうとして止めた顔をしているヤマトさんが急にボクの成果を主張する。なんでだろう、落ち込みが顔に出すぎていたのかも?慰められてる?


体を犠牲にして頑張ってた人達に慰められてちゃダメだよ、戦えないボクが。うわ、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。




「いいか?今回の戦いの準備は、みーんな頑張ってたんだ。目に見えていない所でも誰かがどこかで凄い頑張った。準備の全てが実戦で役に立つわけじゃない。でも戦いを決めるのは準備だ。ウラニアとマリウスは今回その中心に居た。地味で、努力が報われるか分からなくてもずっと頑張ってて、だからこそ二人に協力した人達を沢山知っている。それを軽んじられるのは例え本人でも嫌だね」



「う、うわ、ちょっと、なんすか、早口止めてくださいよ。長い説教苦手っす。ぜ、全然心に来たりしないっすよそんな言われても」



「あの、私にはウラニアさんが特別大事な仲間だから、対等じゃないみたいに突き放さないで欲しい。あなたには勇者召喚を殺す責任なんて無いけど、さも当然のように立ち上がってくれた。どれほど頼もしく見えて、どれほど有り難かったか、ちゃんと言ってなかったわ」



「うえっ!?いや、そのぉ……なんでそんな急に畏まって……」



顔が熱い。なんなんすか本当に。


ボクだって落ち込む事はあるけど、それを隠してクールに頑張るのが天才発明家なんすから。そもそも感情とかあんま強くないし。




「だから感情無いキャラは無理だって絶対に。感情の塊の顔しやがって」




なんかちょっと目にゴミが入って拭っていたら、さっき見た図面を改めて手渡される。



「タリアもお前を信用していて図面だけ用意して眠った。で、その図面は多分マリウスを助けてくれるやつなんだろ?明日からは頼むよ天才発明家。俺達は皆お前を頼りにしてる。今日は身も心も疲れてるみたいだから眠ってくれ」


「そう、今日は眠りましょう?」




なんなんすか。本当に。


ボク分かっちゃうんすから。天才だから。慰められるって事は上手くいかなかった最大の証拠なんすよ。ボクは今回全然ダメだった。もっと出来ることがあった。もっと上手くやれた。


ボクが頼られてて、やらなきゃいけない事があるのも分かってるもん。ちょっと何か弱音を書いてる内に色々視界が曇っただけで、タリアさまの自分自身を使った魔法だってボクが超えなきゃマズいんだから。



なんかいつの間にか難しい図面もあったけど、きっとこれだってタリアさまが本当は一人だって出来るんすよ。ただちょっと体力にも限界があるし、一応得手不得手もある。こういうのが得意なボクに頼むのが早くて便利なだけ。ぜんぜん分かってるっす。



ボクじゃなくたっていいんだ。


だけどボクがやる。



やらなきゃいけない事じゃない。ボクじゃなきゃ絶対ダメなわけでも無い。だからこそ、それをやるのはボクの意思とボクの責任ってやつでしょ。


全然知ってるよそんなの。



ちょっと振り返ってたら不安になっただけ。皆の活躍を思い返してたら、出来ることの差を強く感じちゃって淋しくなっただけ。ただそれだけ。それだけっす。




「さぁ今日は寝ましょうウラニアさん。タリアの部屋で一緒に」

「王女の、部屋への、侵入は、重犯罪っす~…!」

「バレなきゃいいのよ」

「そ、それに、ボク、なんかちょっと目が変で、寝れないかもっす」

「そんなに泣かないで。きっと一気に疲れが出て心も弱ったのよ。一番若いのにずっと頑張ってたものね。本当に頑張ってたわ」

「う、うう~、そんなんじゃないっす……」




アネモネさまがなぜかボクの頭を撫でながらコインを一枚取り出して指で弾く。



「マジカル催眠術!」

「スヤーーーッ!?」




それがその日の最後の記憶。




「勇者様、私はもうちょい海の方を見張るつもりでしたけど……」

「ああ。野良の魔物も、海の様子も、今日のところはこの国の兵をもう少し信じようぜ。何かあったらちゃんと呼んでちゃんと頼るよ」

「はい」


「なんかちょっと曖昧だったけど空は閉じたし海は静かだ。ちゃんと勝った。だから、今日はおやすみだ。アネモネもありがとう、安心して任せられる強さになってたぜ」


「今日はおやすみなさい。明日からは更に変わります。私もウラニアさんも」




強い人達に優しくされながら眠ってしまった、戦いの終わりの記憶。


もう落ち込んでいる場合じゃない。起きたらすぐにでも回路図を読んで。それから、それから……ボクは、今日より強いボクになろう……。



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