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【すぐ分かった気になって勘違いしがちなアネモネの視点】

【すぐ分かった気になって勘違いしがちなアネモネの視点】




やっぱりタリアは自覚が無いけど全てを分かっている。



自覚が無いなら分かっていないのと一緒なんじゃないのかなと私なんかは思っちゃうんだけど、実際にその時が来れば分かっていた事が分かる。ふしぎ。



理解不能の凄いことを見た時の、驚きとトキメキで思わず口が勝手に笑ってしまうようなあの感覚。超絶技巧の楽器速弾き見た時とかのアレよね。


同時に、その凄さの舞台に自分も巻き込まれているけど何をしたら良いのかさっぱり分からない焦るかんじ。



どうしたらいいの。



「ああうあんれ」

「なんて!?タリアお願い起きて!完全に寝言よ!!」




てっきり、空の割れ目を消して今回は終わりって流れなのかと思っていた。


でもタリアは大穴を開けた。魔法を消すって話だったのに効果が増幅したのは何かの失敗なのかと思った。



でもたぶん違う。翼の生えた超巨大ヤモリっぽい見た目の仮称「空割りドラゴン」達はやっぱり今回もいっぱい居て、何故か一斉に逃げ出した。意味がわからない、どっちも何をやってるの?


前回はもう勝ち目も無いのに全員無防備に突っ込んできた。今回と明らかに反応が違う。




戦いを学習して無理せず引くようになったパターンなら分かる。でも巨大魔法も巨大な勇者様も居ないタイミングで大穴が開いたのはむしろ向こうが有利なんじゃないの。でも逃げた。



引く理由が全く分からない。分かるのはタリアが何かしていることだけ。




「あぶな…い…っ!?」



前回も見た巨大な人間の手が生えまくっている気持ち悪いワーム。あれが何体も見えて、こちらに攻撃しようとする。


思わずタリアを守ろうとするのだが、彼女が何か力無く手をフニャフニャと動かすと次々ワームが爆発していく。



「……どういうことなの!?私は何をすればいいのタリア?」




普段の優しい様子で完全に侮っていた。心がやらないだけで、能力的にはやれないわけじゃないんだ。戦いを。なんでも出来るとは思っていたけど、なぜか戦えない気にもなっていた。そんなわけないのに。



腕に巻き付いている髪の毛の魔法陣が、魔法発動中にも次々と組み替えられて何らかの効果を発揮し、それがウラニアさんの魔法拡散ビーム道具みたいなので空の穴の中をかき乱す。


……見た目的には、多分穴の中のなにかに攻撃をしているように見える。何かを探しては攻撃しているような感じ。




私はもう全然ついていけていない。ウラニアさんやヤマトさんに聞いたほうが良い気がする。


自分の肉体と髪を使った魔法回路の時点でよくわからないけど、その髪の毛の魔法陣を常にうねうね動かしながら別の効果をシームレスに発揮し続けるのって、便利な道具を無数に持っているのと同じなんじゃないの。




……ううん。それだけじゃない。前回街を庇っていた腕につけている道具も何かよくわからない感じに魔力が通ったり消えたりしている。


さっき確か「ああう」って言ってたし……庇う?


なんていうか、こう、庇うと敵が爆発する?



……なぜ?




「──多分、庇うを反転して何かと組み合わせてるんだと思うが、これ敵に攻撃されたら敵が食らうのか?ここにきて一番のクソチートじゃねぇか」


「勇者様!どうやって脱出……を……!?」




ちょうどタイミングよく私も疑問に思った内容をいつもの感じで解説しながら現れるヤマトさん。


既に疲弊していたし無茶させないよう鳥籠に入れたつもりだったが普通に出てきているし、なぜか莫大な魔力が噴出していてオーラのようなものがいつもよりすっごく吹き出ている。




「ちょっと地下に居たらヤバそうな魔力量になって出てきた。穴を塞ぐんじゃなかったのか?緊急事態?俺も勝手に魔力が吹き出て止まらないんだが、もしかして危機か何かに反応すんのかな俺の魔力」



「た、タリア!起きてタリア!やっぱり何か失敗なの!?」

「あいあ」

「ダメそう!」




異常に我慢強すぎる勇者様が今回は青ざめた顔で汗をかいて苦しげにしている。たぶん尋常じゃなく痛いんだ。



そして、タリアは何かを待つように止まった。さっきから繰り返し寝言みたいなのが漏れているけど、もう意識があるのかも分からない。よだれが垂れそうでかわいい。



「あいあ」


「アネモネ、多分だけどタリアのこれは意識が無いときに隠された力が発揮される定番のやつの筈なんだ。普通こんなアホっぽい寝言じゃなくって、なんていうかこう、凄く格好良い感じになんかする筈なんだが」


「定番なんですね!?」


「ああ。勝ち確定演出だと言っていい。元々タリアってぼーっとしてる時の方が凄いから、これの素質は感じていた」



ま、まあ確かに、口ぽかーんって開けてる時に聞くのが一番良いってウラニアさんも言っていたし映像見てる時そうなってた。カワイイとしか思わなかったけど。




「だけど俺は今めっちゃ痛いし空には穴が空いてる。恐らくだがアネモネをここに連れてきた意味がある。何か切り札があるんじゃないのか?」


切り札はある。ウラニアさんと準備してきた絶対必須の切り札が。でも今必要なのだろうか?緊急用の切り札を今使って何をするのか分からない。




「どうやらあるみたいだな。まぁ分かるよ、勇者召喚を封印するのに絶対必要なのは質量だ。光る巨人状態に対抗する巨大ゴーレムだろ?」


「あれ!?バレてます!?」


「俺がサキュバス人形の進捗をチェックしてないとでも思ったのか?あの素材の横流しは単純にアネモネの強化になるだろうが、量産計画が丸ごと遅れるほど大量に盗むのはもう横流しじゃねーんだよ。光る巨人と同等の事が出来る質量を確保ってことだろ」




やはり勇者様は性癖以外本当にすごい。どうしてこんなに強くて賢いのにエロいことに関して終わってるんだろう。ふくざつな気持ち。




「あいあ……おそい」

「……あいあ……ライラ?もしかしてライラを待っているの?」



話の流れと、さっきから呟いている「あいあ」が唐突に脳内で繋がる。確かにライラなら急いで駆けつけている所だろう。だって




「姉御ぉ!!」



空の割れ目を見たライラは私にもっと大量の魔法粘土素材を持ってくる筈で



「ジェットパック!?サキュバスの羽ってそんなロボットのスラスターみたいなの!?」

「ゆ、勇者、なんだその魔力!?焦げてるじゃないか!ちょっと吸うぞ!?」

「うわタイミング完璧、頼む」



確かにサキュバスなら過剰な魔力に対応できるかもって思っていたところで



「あ、姉御!?穴の向こう!!」

「あいあ、ねんど」




そして、敵もさすがに何か動く頃だろうなってタイミングだった。



ここだ。気持ち悪いくらいに全部ちょうどここなんだ。



──全てが。本当に全てのタイミングが噛み合う。適当に空中に投げられた歯車が、地面で跳ね回ったあと勝手に噛み合うみたいな感覚。



あいあは、ライラ。素材の到着待ちだったんだ。やっぱりこれがタリアの本当の力。賢者の見てる世界。


何もかも都合が良すぎる。このタイミング。私とウラニアさんの切り札。動けない勇者様。ライラ。まるで最初から全て計算ずくだったように。




──思わず鳥肌が立つ。どこからなんだろう、賢者の影響は。



私とウラニアさんは、あの光る巨人だって現代なら簡単に超えられるとアピールしなければならないと目標を定め独自に動いていた。勇者召喚を殺す必須条件だもの。



巨人という誰でも一目で分かる勇者召喚の凄さは放置出来ない。例え私のファイアボールで敵を吹き飛ばせたとしても、「巨人が居てくれれば」と思うシーンはきっと無数に出てくる。



だからこちらも巨大な兵器をアピールしなければ。過去の魔法に現代道具は負けないと示さねば。



タリアはあくまで守り切るのを最優先で考えて欲しかったから、攻撃側の話はどれも内緒で進めていたつもりだった。


お見通しなんてレベルじゃない。私達の思惑とか関係ないんだ。




最初から、何をいつどこで使うか賢者の中では組み上がっているんだわ。タリアにも途中の経過が分かっていないだけで、答えはきっと全部決まっている。


思い返せば、最初から勝ち負けが分かるからスポーツは苦手みたいな事を言っていたもの。


そうだった。タリアが頑張っているのは誰も取りこぼさない「勝ち方」であって、勝つのは準備の段階からもう決まっているんだ。




……そして、まるで万全のタイミングでタリアが呼び出したかのように、穴の奥に突然巨大な化け物が現れる。



途方もなく巨大な人間の白い足。人間の足に人間の口がいくつも付いている。化け物以外になんて呼べばいいか分からないほど化け物。



穴の向こうに穴が空いて、街一つくらい丸ごと踏み潰せるような巨大な足が唐突に高速で突っ込んで来ている。とんでもない規模の踏みつけ攻撃。




……都合が良い。あまりにも。




「……今度は足なのね。ライラ、素材は?」

「真下のカマドウマ馬車群!!」




カマドウマみたいな馬車の群れ、言っちゃいけないとは思うのだけどちょっとあれよね。恐怖映像よね。というかカマドウマ馬車って呼んでるのね。



本当は沢山の人形として配置しておいて、もし使うタイミングがあったら合体するつもりだった。


でも素材そのものが大量に届いた。勇者様のサキュバス人形計画を犠牲に。そこは全然遠慮する必要が無いので使い放題だ。



これな、ら……!?



「ろぼ……」



突然タリアが首にしがみついてきて、ちいさな頭が私のほほに密着する。


「おひょぉ!?!?」


なに!?思わず清楚な声が漏れたわ!?



「なんだ!?百合か!?俺こっから消えたほうがいい!?」

「口を挟むな勇者!!少し離れて撮影してろ!!」




「タ……っ!?これ、は、」




興奮して抱きしめ返そうとした私の手に、タリアの髪の毛が絡みついてくる。そして、視界に半透明な何かが見える。これは……図面……?



まさか、視界の共有魔法みたいなもので……脳内のイメージを……伝えている……!?




「……ゆ、勇者様、ヤマトさんの世界には……っ」

「えっ俺!?この状態で話に混ざりたくないんだが!?」



「……本当に超巨大ロボットが……っ!」

「あ?え、ああ、まぁ……なんだ?急にどうしたんだ?」




ウラニアさんと想定していた巨大化は突き詰めれば人形を動かす延長で、実のところ実現は簡単だ。問題は金と質量と魔力量だけ。要はただのでっかいゴーレムだもの。



だからヤマトさんっぽい光る巨人同様、私もほぼ私の予定だった。余分な装甲とか付けても意味ないし、それを遠くから動かすのも極端な話裸の方が楽だもの。


私が一番操りやすいゴーレムは私の形のゴーレム。それはそうよ。もともと私は自分の身体もよく魔力で操作している。それを転用するだけだもの。




──けど、タリアは。タリアの送ってきている設計図は。



視界が解放される。でもタリアの伝えたいことは完全に分かった。


穴の奥から巨大な足が迫っているが、もうタリアは決着がついたつもりで力を使い切って熟睡に落ちたみたい。




「──勇者様の世界には、超巨大ロボットの勇者が居る!!それを再現します!!」

「え!?」「ふははは!勇者の世界ヤバいな!?」



足元に大量の馬車で届けられた魔法素材。それが一斉に飛び上がる。私の指示、ううん、タリアの示した設計図に従って。




「それもただの勇者じゃないわ!」

「ちょちょちょ!!!ちょっっと待ってアネモネ!多分ダメだ!!それ多分ダメだよ!?なぜ知っている!?」

「……勇者の、王なのよ!!」

「ダメだあああああ!!?」




魔法のない異世界を甘く見ていたわ。まさかニンジャだけじゃなく勇者にも王とかロボットが居るなんて!



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