すごい魔法は悪影響も考えないと危ない
もう一度、海岸に観察用の魔法鳥を飛ばす。
共有した視界に邪竜の姿が映る。
恐らく元々は古代の海にいた伝説の竜であり、その巨大な体と異様に長い首はもう見ただけで地上での活動が不可能だと分かる。
人間が太古の竜の死体を兵器にしたものか、更にその兵器が子供を生んだというとんでもない予想まであるものの、今まで見たこと無い竜兵器の区別なんてどう付けるか分からないので、ついに実物まで辿り着いても実は未だに色々曖昧である。
だいぶ前に見たときと同じ場所でまだもがいてるので、本当に動けないのだ。多分怒りに任せて後先考えず突っ込んだんだろう。海に帰れと思ったがどうやら帰れないようだし、逃がすとやばかったかも知れないので敵がバカで助かった。
実際には魔物を操った方法もこいつが犯人かも確証は全く無いが、知的天才美少女の私が確信した答えというのは賢者の答えであり、なんいうかこう、靴の泥で犯人が分かるみたいな凄い探偵が「そいつ犯人だよ」とだけ頭の中でネタバレしてくるようなもの。
世にある大半の鑑定スキルが一体何をどう鑑定したのか細かい情報が分からないのと一緒で、私の出した答えに途中式は無く、答えだと確信したものが外れることも無い。
カスみたいな短文ネタバレだけで細かい証拠がどうとか教えてくれるわけじゃないのが終わってるが、細かい話は犯人を逮捕してからにしよう。
「あ、よく考えたらこの鳥べつに喋る機能とか無いわ。尋問どころか質問もできない」
「どうしたんすか急に。何か気づいたんすか」
「だいぶ前に見逃した首の長い邪竜が魔物を操ってる犯人っぽいんだ」
だから、これから一応確認して無効化魔法を……
って言おうと思った瞬間、偵察用の鳥と共有している視界の先に黒い魔石の槍が降り注いだ。
「アネモネぇ!!だめだめだめ!!無慈悲すぎるでしょ!!まず確認を……居ねぇ!!」
慌てて視界を戻して振り返るとどこにもアネモネの姿が無い。
いや間違いなく今のはアネモネの影縫いだからここに居たらおかしいんだけど、どこからどう消えたんだ。
慌てて戻した視界をもう一度魔法の鳥に戻す。忙しく視線切り替えてるから酔いそう。というか若干もう気持ち悪い。
タイムラグが出来ちゃうけどあの録画撮影の配信方式に今すぐ切り替えたい。
「ばかな!?」「無傷!?」「ダークナイト様の攻撃が効いていない!」
「いやもうやってる!お前ら観戦に慣れすぎだろ!!」
「暇ですし」「無駄に飛び出して足引っ張るのが一番萎えますし」「よくあるじゃないすか、弱いやつが余計なことしてピンチになるの」
暇すぎて娯楽に飢えている地下避難組は迷わず次の戦場を撮影に向かっていたようだ。すでに壁にアネモネと首の長い邪竜の戦いが映し出されている。
実際アネモネがダメージを受けたのは私を庇ったところだけだから余計なことせず地下で情報集めだけしてるのは絶対正しいんだけど、心の何処かにこいつらと一緒にされたくないというモヤモヤした気持ちがある。
具体的にはこんなサボってる感じに巻き込まれたくないという気持ち。
いや待ってくれ、気が緩んでいて注目すべきところを間違えた。アネモネの影縫いを食らって無傷?
映像では硬い剣を構えたアネモネが鷹のように急降下攻撃を仕掛けるが、これも不自然に手前で弾かれる。遠距離攻撃の無効化ではない。
「違う、あの邪竜は魔法を発しなかった」
「防御魔法じゃないってこと?ということはまさか……」
なぜか隣にも居るアネモネが相槌を打つ。
「そう。アネモネがなぜ分身してるのかは分からないけど、あの魔法効果はよく知っている。『庇う』スキルだ」
「よく私が分身の術を使っているって分かったわね」
「あれ!?噛み合わないなぁ会話!分身の術って何!?」
「異世界のニンジャ魔法よ」
「またヤマトか!!!」
あいつやっぱり結構アネモネに悪影響与えてるって。
「俺はフィクションの話だって何度も言ったんだ」
「あっ!お前!!大活躍ありがとうだが死ぬほど説教もあるぞ!!」
地下の扉の向こうからヤマトの弁明が聞こえてくる。
どうやら後の細かいことはマリウス王子に任せたらしく、遊撃役のヤマトは一旦教会に帰って来たようだ。周囲を警戒しながら扉を開けて入ってくる。軽口を叩きながらもそこらへん真面目なやつ。
ノームさんと戦っていた場所はここから結構遠かった筈だが、映像もタイムラグがあったしヤマトも速いので体感時間では本当にすぐ来た。
「ウラニアには特に詫びるが全部一旦後回しな。アネモネ、戦況は?」
「透明なデカい虫や何か撃ってくるトカゲが何度か教会付近に集まってきたので殲滅していました。今は魔物を操ってた犯人が首の長い邪竜だって聞いて分身の術で殺そうとしてるとこです」
「俺の知ってる分身の術は実体が無いんだって!分身するだけ!」
「ごめんなさい、まだ上手く消せなくて……」
「ああ、うーん、新しいアプローチ過ぎる。逆にね。実体を消す方向なんだね」
もしかして切り替えて姿を消すことで実体じゃない分身みたいにしようとしていたのか。実体があるほうが強いのでは。
変な情報も混ざってて話が理解しづらいが、どうやら教会上空に居るアネモネは分身で、やっぱり教会に集まってくる不可視の敵を殲滅し続けていたらしい。
「空は?」
「敵が本当に多いです」
「アネモネでも倒しきれないのはヤバいな」
そういえばゴブリンにも空と海をなんとかしろと言われていたので、私には分からないが空の戦いもどこかでやっているんだろう。
本当は私ってば誰よりも全てを知っているタイプの人間だと思うんだけどな。賢者だし。でも全然わからん。全然インフレについていけない。
そしてここのアネモネは私達と会話してて、映像のアネモネは何か謎の攻撃をしたり謎の魔法を受けたりしている。
たまに話ちゃんと聞いてなかったりラグやズレがあるのってこれだったのかも知れないとふと思うが、意味不明の現象で説明がついてもそれは意味不明なままと同じことなんだよ。
「で、賢者は何か作戦とか思いつかないのか?なんかエロい模様が体に描かれてるけどそれ何に使うんだ?なんで淫紋?」
「い、淫紋!?バカ、おまえ!バカが!!これめっちゃ難しい魔法陣だから!!」
「タリア、私もエッチだなとは思ってたわ」「ボクもっす」
「な、な!?ばか、セクハラ、賢者が必死に考えた魔法陣だぞ!?」
淫紋って淫乱な紋様ってことだろ?紋様にエロさを見出すのは狂ってるだろ!
映像観戦中の歴史調査員達はちらっと私を見て視線をそらす。それはもう言葉にしなくても言ってるのと同じだろうが。
「これは『魔法効果の無効化魔法』の魔法陣だ!舌噛みそう!天才美少女による偉大な最新魔法だぞ!?」
「は?……魔法殺し!?おまっそれはダメだろ!」
「なんでだよ!?」
「あ、あ、いやごめんダメじゃない。俺の世界のあまりにも有名な最強技と類似してて特許侵害の犯人を見た気分になった」
「お前の世界に魔法の特許は無いだろが。それに別世界の最強技と類似してるならむしろ良い事じゃん。有用な証だ」
勇者が「それはそうなんだけどぉ…」とゴニョゴニョ文句を言っている。
「……というか、それ俺が巻き込まれたら死なないか?」
「え?」「あ」「あ」
驚愕した顔のアネモネと、やべという顔の私とウラニア。
多分アネモネはヤマトの勇者化を簡単に解除出来るようになったと密かに期待していたんだろう。だが元の人間にいきなり全部戻したら多分危ない。
体内の封印を取り出したりとか、色々順番に丁寧にやらないとお腹からなんか飛び出て凄くエグい絵面になりそうだし、何よりヤマトにとってこの世界の魔力は毒だ。強力な治癒魔法まで解除されちゃうと多分長生きは出来ない。本当に元の世界に戻せる算段が付いてからじゃないと絶対ダメ。
「まさかとは思うけど、ウラニアが何か調整してるその道具って、魔法殺しを広範囲にばら撒く為のものじゃないよな?それ兵器化した恐竜をそこそこの範囲で起動してた道具の破片だろ?抜き出したのは何のモジュールだ?」
「い、いやいやいや、違うっすよ。周囲の影響考えず超広範囲化なんてしてないっす!全然そんなことするわけ!やだなぁヤマトさん!」
「絶対してる声じゃん!あっぶね!!俺だけじゃなく街もなんか悪影響あるかも知れないだろそれは!!」
た、確かに。そういえば医療魔法の道具とか予告なしで突然無効化されたら危なかったかもしれない。必死に皆が守ってくれてるのに、地下に隠れてただけの私が最後に被害を出していた可能性がある。怖。あぶねー。
「あの、そのー、正直言えばやろうとは思ったんすよ。ただ、何も考えず広げるとそもそも真っ先にその道具とタリアさまが無効化されるから、ビームみたいに指向性持たせて発射する感じに弄ってたっす。だからセーフっす」
そうだったのか。全然知らなかった。いつのまにか無効化ビームなんて面白そうなものが撃てそうになってるぞ私。
「やろうと思ってはいたんだな。やっぱベルトの件を謝るのは殺人未遂でチャラにしようぜ」
「それはそれっす!」
「ゴメン。はい謝ったしえぐいジャンル教えるから絶対俺を巻き込まないようにしてくれ」
「絶対っすよ!愛の障害はデカければデカいほど美味しいから!絶対取り返しの付かないくらいデカいやつを愛の間に挟みたいっす!」
「歪んでるよぉ……」
助かった。ナイスウラニア。よく押し切った。ヤマト側にも気まずい要素があって相殺出来て助かった。
「ちょっと慌てて生み出した魔法だし、悪影響ちゃんと考えてなかったわ。助かったよヤマト、よく気づいたな」
「一応俺の世界の超有名知識を教えておいてやるが、魔法の服とかも無効化されるからなそれ」
「うわあぶねー!?そうか私のビキニアーマーも特殊な加工してるわ!別に一瞬無効化したって存在が消えたりしない筈だが、魔法込めた縫製が解けたら脱げてたかもしれん……」
「ビキニブラと白衣だけ着た下半身露出メガネ痴女はさすがに天才か。教えなきゃ良かった」
殴ろうとしたが避けられる。そういえば国宝のブラはウラニアに盗まれててただのブラを露出してるだけなんだった。全裸にならないほうが良い筈なんだが白衣とブラつけて下半身見せてるほうが何故かダメな予感がする。
しかし、ろくでもない例だが本当に異世界視点があってよかった。慌ててる時の判断って本当に良くない。何を見落としているか分かったもんじゃない。
まぁ私の場合は必ず正解を引いている筈なんだけど、効率重視な賢者の力の正解と私の心にとっての正解が一致するかは怪しいので慎重に行くに越したことはないんだ。
「で、ちょうど大体組み終わったっすけど……タリアさまどうしますこれ?」
「うわどうしよう」
「とりあえず海にも空の割れ目にも撃てばいいんじゃないのか?」
ああー、空の割れ目の無効化。届くんならそれはアリな気がする。届くなら。
「無効化って実はかなり複雑な大魔法でメチャクチャ疲れるから、私の体力的に多分次撃ったらしばらく動け無さそうなんだ。魔物を操る邪竜は早めに解決したいが、空の割れ目が消せるか試すほうが今後も含めて優先度高く感じるな」
「ウラニア博士、射程は?」
「さすがに空高くまでは保証しづらいっす。多分空を飛んで相当近づかないと」
「わかったわ。海の敵をなんとかしてからタリアを抱えて飛んで近づく」
ヤマトの確認にウラニアが答え、基本的に話をざっくり聞いてるアネモネがざっくり作戦を決める。さすがだ。みんな話が早い。せめて私も作戦会議ではもうちょい活躍させて欲しい。
「ちょうど良い機会だからタリアも私を見ていて?」
「う、うん!?」
フードを脱いでアネモネの体から金色のオーラが輝き始める。ふわふわの金髪が本当に光り輝いて幻想的だ。セリフも相まってちょっとドキッとしてしまった。
「庇われてたり遠距離攻撃が無効でも遠くから殺せないわけじゃないって話、覚えてるかしら。実例を見せるね」
柔らかく微笑む美少女。でもセリフが物騒すぎる。悪い意味でドキッとしてしまった。




