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【グリッチ悪用チーター勇者の視点】


【グリッチ悪用チーター勇者の視点】



俺の魔力封印ベルトは無線充電式のポータブルバッテリーと、そのバッテリーに溜まる魔力を使った封印魔術が基本になっている。


正確にはもっと魔法知識絡みの難しいやつらしいが、実質ね。



魔力の無い世界から来た俺が強い魔力を使うと非常に体に悪いようで、普段の生活でもなるべく着けておくよう言われている。体が焼けたり尿管結石になったりするからね。


石、本当に痛いよ。本当に。異世界に行って魔石が尿管に詰まったやつ多分あんまり居ないと思う。




俺の魔力は体内に魔力源を封印してそこから取り出しているらしいので、封印を封印してちょっとだけ空けて蛇口を付けたみたいな感じ。


……この時点で、バッテリーが完全に尽きると封印が開く問題がある。



ただし封印が開けば一気に充電できるのですぐ封印出来る。普通なら大きな問題にはならない。


まさか俺のための装置を俺が悪用するわけ無いからな。



わざと変身を不成立のまま連続起動させ続けて魔力を無駄に浪費していたら断続的に全力の魔力が取り出せるみたいなグリッチを使われるとは思うまい。本当に悪いね。ごめんなさいという他ない。



本当は戦う場合ポータブルバッテリーの魔力を使って魔力鎧を召喚し、それを装着して付属の武器とかで戦う予定になっていたわけだ。


ベルトから何か装備を纏う時点で俺の世界では日曜日の朝が確定するからそこは大興奮だったし、さすが特別な開発者だけあって装備だけでめっちゃ強いんだけど、一つ重大な問題があった。




──俺の使える力の中で一番大事なのは、戦闘力じゃなくて広範囲の『危険察知スキル』だった。




そして変身に付属出来るような小型道具では全然再現できていない。規模感も精度も格が違いすぎる。なぜ本番までこんな大事なことに気付かなかったのか。



生活に不便の無いように薄く小さくという優しさと、急いで完成させようという時間制限と、見た目も悪くならないようにという気遣いのデザインが更に性能を下げている。それも心が痛い。


言えるか?優しさの塊で出来た医療寄りの道具貰ってさ、「本番になって気付いたけどこれじゃ使えないからやり直せ」なんて言えるか?うわ本当に嫌だ。なんとか誤魔化せねーかな。グリッチ使ってるから不満持ってるのはもうバレてるんだよな。




俺の危険察知範囲は魔力量をねじ込むほど広がる。信仰になるような勇者の力だ。設計時に想定されている危機も当然村や街一つなんてレベルでは無い。


出力を抑えて普段使いしている小さなサイズでも、街を一つ挟んで遠くの山に居る姉妹を守るくらいなら余裕で出来ていた。


今にして思えば凄い力なんだが普通に使ってると普通になってしまうもんなんだなって。



常に使っている隠していない切り札とも言える。どんなに優れた創作物の無敵のヒーローだって、ピンチを知らなければ駆けつけられない。俺の場合ヒーローじゃないからいっそ駆けつけなくてもいいんだ。庇ってバフを飛ばして自分達で逃げて貰うだけでいい。




相談時にそもそも危険察知がどれくらい大事か自分でも自覚出来ていなかったのが一番ダメなので、ウラニアには本当に悪いことをした。グリッチ利用でも間違いなく怒られるので、また何か俺の世界の業が深いジャンル知識の提供で許してもらう他無い。


あいつNTRというか脳破壊系が好き過ぎるから教えるだけでじわじわ俺の脳にもダメージ入るんだよな……。




ともかく今回敵の襲撃がとんでもない広範囲で、それも目立つ空からではなく予想外の魔物の襲撃だった事で、それに対応できる超広範囲の危険察知がどんなに強い力なのか自分でもようやく思い知ったわ。



小さな島国扱いされがちな日本だけど、住める平地が少ないのであって大きさはヨーロッパの国々と大差無い。この南の国もそのくらいで、大国ではないが小国でも無い。


絶賛緊急時である今の俺は、定期的に飛行機みたいに飛んで見下ろした大地を丸ごと探知範囲に出来るくらいの規模感で守っている。そして空は国を横断するような規模で割れる。



インフレが酷いが、元々が世界の壁を割るような戦いで、勇者もそれ相応の戦いを想定された力だ。タリアとウラニアにはこの程度の規模感の戦いなら余裕で対処できる道具を想定して作ってもらわないとならなかったんだ。




『来月までに他社の主力商品超えてね』みたいなクソ案件抱えてたのに、健康ベルトなんて作って貰ってる場合じゃなかった。


俺は最初から想定外の事態に備えて出し抜くことを考えていたが、そんなの賢いつもりのバカ過ぎる。だったら他にもっと大事なことを優先させるよう誘導しとけよって話だ。



ある程度簡単にどうにか出来そうな流れにしてアネモネの絶望を軽減したかったのもあるが、勇者という存在がどれ程の脅威を想定していて作られているのか自分の推測も甘かったのだから、状況への慣れと油断に過ぎない。



こういう大事な事を本番になってから気付くのってどうしてなんだろうな。おせーよ。




「いででででで」



というわけで痛いのは仕方ない。痛みに強いというか若干鈍くて良かった。



駆け回る。飛び回る。とにかく動き回る。情報を集めるためにも、運悪くはぐれてた人を安全圏に送るためにも。救える人の漏れを無くす。




さっきマリウスと共闘すべきか迷う強敵も居たが、任せて俺は俺に出来ることを続けるのが効率的だと判断した。


合っていたかは分からない。任せたはいいが俺のやることがもうあまり無いからだ。


思ったよりどこも守れてるし、孤立した人を見つけ出せるのは俺だけじゃない。警備とか兵にもその手の魔法とか道具持ちが普通に居るから、逃げ遅れたままの人がほぼ残っていない。




……少なくとも今回は準備段階でタリアとアネモネが敵を上回っている。まず負けない。だからこそ俺は俺の為の戦いに入っている。




タリアの必死さは絶対に誰も死なせない為のもので、恐らく他の人達も人命最優先のスタイルの筈だ。俺はそれを上方修正させたい。


賢者の甘い答えも、人命の為の必死さも、そこがゴールな時点で甘さが甘い。



ちょっとした八つ当たりでもあるが、チート有りの俺達の戦いは死傷者ゼロなんか当たり前。むしろ『建物とかも全然被害が無いくらい楽勝』じゃなきゃダメだ。それが例えどんな大事件で、現実的には無理そうな苦しい戦いになってもだ。




異世界チートで現実を超えられなくてどうする。




あまりにも被害が無さすぎて、全く何も不謹慎な空気にならなくて、大会が普通に開催出来てしまうくらい余裕の楽勝でなければ負けなんだ。


俺が守りたいのは人の命だけじゃない。人の普段の生活。いつもの毎日。毎年の大会だ。タリアの力に協力すればそれは手の届く範囲にある。あいつは力以外でも賢者だ。少なくとも俺よりは賢い。




こんなに一生引きずるなら、別の時期でも、卒業後でも、どんな形になってもいいから、部活の選手として最後の戦いをやり遂げたいって言えば良かった。その方法を沢山提案すれば良かった。セコい手でもなんか上手くバズらせて出来そうな流れを作れば良かった。



甲府の不二は今ここに居るフジヤマトじゃない。あいつの戦いは一生に一度あの場所にしか無かった。これは俺の復讐だ。八つ当たりの復讐だ。もっととんでもない世界の危機になろうとも、数カ月後には普通に延期した大会を開催させてやる位の復讐だ。




散々現実を舐めるなと言われている。当事者になればファンタジーじゃないのも分かっている。


でも、魔法の世界で魔法みたいな解決が出来ないなんて、異世界作品を愛した俺が許して良いわけが無い。



自分の無茶が仲間の心に負担がかかるとしても、「現実なら仕方無いか」なんて受け入れる事はもう絶対に無い。


仕方なくなんか無いんだ。中止で終わりじゃダメだったんだ。だから終わらせない。




色々学んだ結果、なるべくこの世界の事はこの世界の住人に任せるつもりだけど、俺の条件がダメそうな時は皆を出し抜いて勝手に動く。


毎度ながらなぜ善人を出し抜かなきゃならんのか謎ではあるが、まぁ被害が減って損は無いでしょ。




でも痛いものは痛いので早く次のフェーズに行きたい。いでででで。



「……今ヤマトさん痛がってませんでしたか?」

「居た居た居た、ほらあっちに居た……と思ったらはぐれたゴブリンだこれ」

「なんだ、聞き間違えちゃった」



危ない。



付かず離れずアネモネの作った人形に監視されているので迂闊なことは出来ない。アネモネっぽい人形と、タリアとの子供の人形?の使い分けとかはいまいちよく分からない。


今居るのはアネモネに似てるというか、人形だと分からないくらいアネモネだ。なんか気がついたら隣に居たし、子供人形もどっかに居たんだけど消えた。



絶対に口に出してはいけないが、ドスケベサキュバスの等身大エロフィギュアがとんでもないクオリティになると保証されたようなものだ。魔法ってすごい。なんなら凄すぎて知人とか街で観た人そのまんまだと困るので、いい感じにフィクションを混ぜて欲しい。




ネットと共に生きてきた世界の俺としてはやっぱりもっと手軽で即時対話出来る通信が絶対必要だと思ってたし、アネモネが出来て喜んでしまった。


でもそれで自分が監視されるとは。いや監視役じゃなくて通信役として付いてきてるんだけど実質ね。実質下手なこと出来なくなってる。繊細っぽい闇落ちタイプなのに基本大雑把で助かった。



というかこれって多分もっと前から使いこなしてるよな。これが無くても変なとこから突然出てくるから見分けがつかないだけで。




「……そういえばアネモネ、もしかしてだけど魔物もあまり被害者出しちゃダメなんじゃないか?タリア自身はどっちにしても殺せって言えない人間だろうけど、賢者の答え的にさ」


「えっどうしよう」

「やってるなこれ!あちこちでもうやってるだろ!」




タリアとアネモネが敵を上回っていると断定出来るのは、この予想外の魔物の襲撃に対し、中央の兵や教会と連携して街を守る準備が終わっていたからでもある。



というか結果的に言えば「モンスターの軍勢」を最初からきっちり想定していた。理由は単純だ。最初にギルドでタリアと話した時、タリアが「モンスターの軍勢だけではなく、邪竜が現れる」と言っていたからだ。




俺は最近邪竜で頭がいっぱいだったが、確かに大規模な襲撃がどうとかモンスター群の規模を教会に提示しろとかタリアとアネモネが言っていたのは覚えている。


俺とマリウスが事務作業で突貫した内容的には邪竜がメインで、魔物部分なんか「魔物避けを無視して魔物が襲ってくる」という事実をベースに色々誇張して強引に通しただけの筈だが、結果としては予想通り魔物にも備えた兵達が魔物から街や村を手広く守っている。



「魔物に加えて邪竜が来る」という想定で守っているんだ。だってそういう話になっているから。だから想定通りに守れている。


準備通りで何もおかしく無いんだが俺には意味不明という、いつもながらの妙な図式だ。どうせタリアも分かってない。




その上で今回のは敵側が万全の襲撃じゃない。


もし何も妨害出来ぬまま奇襲を受けていたら、本当はもっと空からの襲撃と地上の魔物で大乱戦だった筈。先に動いたアネモネの手柄であり、空を封じているのもアネモネの邪悪な策。立ち直ってきてからの活躍が素晴らしい。



俺が駆け回って取り零しを抑えるみたいな事が出来るのは、つまりそれくらい万全に守れているという事。


さすがに万全すぎて取り零しもほぼ無いから、もしかしてこれやりすぎてね?と思ったくらいに。やってた。




中央の国も教会の兵も南の国から見ると北から増援が整っていく形なわけで、唯一心配があるとしたらまだ追加の兵が間に合っていない南端方面になるわけだが、そこにおばさん王女三姉妹が私兵を引き連れて突っ込んでくる辺りがタリアの力の怖さだよな。



そして魔物が目立って暴れてるのも南側だ。魔物の暴走も、南端から何かが広がっているイメージ。




空の割れ目的にはもっと南の国の中心というか、最初に襲撃のあった街辺りを中心にして南北に細長く割れている。


見た目だけで言うなら、向こうが再びメインになりそうな形なんだよ。壁が長く割れたら普通は真ん中辺りを警戒するじゃん。



でも魔物が暴れてるのも、タリアが来たのも南端。穴の目印役と予想される透明な鳥が居たのも南端。


じゃあメインは南端なんだなってなるにはなるんだが、それはそれで引っかかる部分も出てくる。




……敵が細長く開けようとしたなら別にこの割れ方は何もおかしくないんだけどさ、そうじゃないとしたらそれはそれでマズい気がするんだよな。



もしこれが『南端にだけ穴を開けようとしてて勝手に長いヒビが入った』なら、『前に空けられた穴の方角にヒビが繋がってる』ってあんまり良くない現象だよね。




マジカルな世界の壁に応力とか関係あるのか謎すぎるけど、これって繰り返し近い箇所に穴を空けられて構造的に脆くなってきてる時のクラックとかそういう




「……待って!?勇者様!」

「うわっなに!?」



人形に急に腕を引っ張られて止められる。力つっよ。



「マリウス王子の戦ってるゴブリンが、勇者になってるみたいです!?」

「なんで!?」




一瞬言葉の意味が理解出来なかったぞ!?



異様に強い個体だとは思ったが、勇者!?ゴブリンに勇者とかあんの!?そんなんゲームでも……あるわ!魔物が勇者に転職できる有名なやつはあるね!?えっじゃあ想定できてない俺が悪いの?




「何かマリウス王子も切り札を使ったみたいで、その、えっ?」

「切り札?」

「あの……えっ……大丈夫なのかな、勝手に見てもお金とか取られないのかな?」

「何の話!?マリウスの戦いってお金取る感じなの!?」




あれ、急になんも分からなくなってきたかも。マリウスめちゃくちゃ強くなったし頑張ってるし心置きなく頼れる相棒なんだけど。信じて任せたんだけど。何が起きてる?




「あっあっ、どうしよう、やっぱり見ちゃダメかもです!」

「そんなわけなくね!?」



「……い、イケメン王子の性感が、二百倍を超えて……!」

「マリウスー!!!」




ついさっき信じて任せた相棒が薄い本に!




いや相手がそれくらい強くて媚薬の限界突破してるだけだよ。驚かすな。でも加勢に行こう。限界突破しなきゃならん敵と戦ってるのは事実だ。まさかそれほどとは。



「引き返す!」

「あ、でも、信じて任せる!みたいな空気じゃ無かったですか?戻りづらいです」

「そうだし効率悪いけど引き返す!気まずいな!」

「あっ!?もしかして修羅場ですが!?愛の!?」

「創作物を現実に引きずるなアネモネ!同人初心者達はこれだからさぁ!」



信じて任せたんだから自分の事やれよみたいな空気を自分の脳内でも感じているし、後戻りしたり引き返すのって絶対効率悪いが、他が過剰に守れてて一番強いやつ任されてる王子が感度二百倍になってるんだぞ。


任せたばっかりなのにすぐ引き換えして応援したって全然良いだろ。



ミスだよミス。俺のミス。こういうのはミスを認めてすぐ対応するのが一番いいんだから。


なんか軌道がズレたなって時に、当初の正解や効率にこだわるとろくな事がない。ミスから逃げたり無かったことにしようとして変な理屈つけはじめるのが一番時間の無駄。失敗や負けを認める速度が人生でいっちばん大事なんだから。手の平くるくるは偉業。



味方に任せて遊撃ってのは想定外の時に即時対応してこそなんだからな。強いとは分かってたのにちょっとゴブリンを侮りすぎた俺が悪いし。




でも待てよ、前情報無しのゴブリン勇者は絶対事前に分かんないだろ。やっぱりそんなに悪くない事にする。



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