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【悩める天才開発者ウラニアの視点】

【悩める天才開発者ウラニアの視点】




やってしまった!



敵を甘く見るのは本当にダメだけど、ボクの立場で敵を過大評価しすぎるのもダメだ。


凄い人たちに囲まれて、自分も凄いことが出来ている気分になって、基準が歪んでいた。魔法の反転も無効化もタリアさまが特別なだけで、そう簡単に使えるものじゃないんだ。



反転技術があれば理論上無効化も出来て当たり前というのは合ってると思う。でもそれがイコール簡単に出来るとは限らないじゃないか!


その部分の具合が分かるとしたらボクだったのに、鵜呑みにした挙げ句対策も出来ていないなんて、今更自分のアホさに気付かされてしまった。




散々試作に失敗して反転の難しさを誰よりも分かっていた筈なのに。ああ、すごい、後悔で変な汗が出てきてザワザワする!


ボクのせいで賢者の力に余計な影響を与えてしまったかも知れないのが怖すぎる。一番大事で優しい人に、現状では自分しか使えない強力な武器を持たせてしまったかも知れない。怖すぎる。




しかも、やっぱり本人は全く自覚が無いみたいだけど、『自分の体を道具代わりに使う魔法』というのは、つまり『生物の魔法道具化』と同じ種類の技術だ。そして、その魔法は道具じゃ簡単には再現出来ない。



勇者、邪竜、賢者。どれもが生き物の体を利用していてすごく強い。今のところ、生命体やその死骸を使った魔法道具は非常に有効だということになる。これが世間に知られるのは非常にマズい。車輪の再発明を軽んじていたらこれだ。



ボクが開発者として負けたら世界が悪い方向に向きかねない。目の前の戦いだけじゃ済まなくなってきた。




「ごめんなさいアネモネさま……」

「私?なんにもないわ?」




地下に居ない最強のダークナイトから普通に返答が返ってくる。声の出どころは掴めない。



それに加えて、アネモネさまの切り札まで一つ暴いてしまった。


よく考えたらアネモネさまがタリアさまを間近で守らないわけが無いんだ。冷徹な戦略的にも、重い愛情的にも、この人ならタリアさまだけは絶対に死守するに決まっている。



分身を使いこなしていて、『本体』はいつもタリアさまの近くに居るんだ。上空に居るのは人形だ。…平常時もそうだったらちょっと怖いけどそこは考えないようにする。



というかヤマトさんのせいで始まったサキュバス人形の量産素材をアネモネさまに横流しして貰っているのはボクだ。


研究協力のお礼に欲しいものを聞いたらあの素材と同人誌だと言うし、ボクの方の切り札としてもアネモネさまが素材を抱えていてくれるのは願ってもない事だったから、素材の出所まで知っていた。




前回ボクはアネモネさまの切り札を浪費させた。その償いを今回するつもりだったのに、またボクのせいで一つ消費させてしまったじゃないか。


透明化と、人形の作成と、その精密操作。協力していたボクでもこれほどとは想定しきれていなかった。それこそが切り札として強かった証明だ。



どれが本体か分からない上に神出鬼没の多重分身なんだ。分かってしまえば簡単な切り札だけど、もし敵にやられたら絶望する。


アネモネさまは自分の体を加護とかではなく魔力操作でそのまま扱えると言っていた。ということはほぼ同レベルの動きを分身もしてくるんだ。光る巨人状態の勇者を除けば単体で最強レベルの戦士だと思うのに、単体じゃない。




本当だったらきっと絶望的なピンチか戦況を決めるクライマックスで使われるような切り札だった。きっとうわあああって盛り上がって喜んだと思う。分かっても対処されづらい戦術ではあるけれど、味方も気付いていない状態が最適だったのは間違いない。切り札とはそういうものだ。



虫くらいならボクか研究員が倒せると判断していたのか、タリアさまの決断を最重要視していて余計な手出しをしないよう徹底しているのか、切り離した腕でハチの突進を弾き返してはいても、タリアさまに「助けて」と言われるまで本体は動かなかった。



そして実際ボクが冷静だったら、結界の素通りなんて出来ないと知った後なんだからハチくらい簡易結界で閉じ込められたんだ。きっとまた一つアネモネさまの信頼を失ってしまった。


うわ辛い。自分にガッカリするのって凄く嫌だ。顔は熱いのに冷や汗が冷たい。




「おいなんかヘラってるのかウラニア?今すぐ無効化の拡大とかいう無茶な追加魔法を開発したいから気合いで前向きになってくれ」


「ヘラってないっす。ちょっと自分の重大な失敗に気付いてうんざりしてただけっす」

「ヘラってるじゃん!」




それどころじゃないんだぞとタリアさまに檄を飛ばされている。日常からアネモネさまに感覚を狂わされているらしく、ちょっと声が聞こえるくらいじゃ疑問に思わなくなってしまっているみたいだ。お労しやタリアさま。




……もしタリアさまだけが魔法の無力化を扱えるなんて世界に知られたら大変な事になる。反転を再現できていないのにそれより遥かに難解で巨大な回路だ。


これが簡単に魔法道具に出来ないことはアネモネさまにも知られないほうがいい。いかにも「時間がかかるだけで勿論これもボクなら魔法道具作れるっすよ」みたいな雰囲気にしておくべきだ。



挫けそうな今だからこそ、ボク全然余裕ですけどって感じにやり過ごさないと。


一瞬魔力が消せた所で、魔法生物には特効だろうけど普段は迷惑で不便になるだけっすよみたいな余裕顔も必要かも知れない。本当は絶対やばいけどなるべく引き伸ばしたい。ボクが多少なりとも道を作れるまで。



そうじゃないとタリアさまの今後の危機に勘付いたダークナイトによって口封じが始まりかねない。




もう分かったぞ、古代人もタリアさまも素材として生命体を選ぶのは、単純にそれが素材として優秀過ぎるからだ。反転が再現できないのは規模感を勘違いしていたから。


ヤマトさんが向こうの世界では反物質の精製にとんでもない大規模設備が必要だったと言っていた。いつかは小型化出来るだろうけど、最初から小型設備で作ろうとしたら無駄に躓くに決まっている。



凄く便利で、大規模設備に匹敵する素材なんだよ、生体は。蜘蛛の糸って実は頑丈で凄いみたいな話の矛先が人間にも向いただけではあるんだ。



頑丈で自己再生機能まである回路素材が、脳という素晴らしい演算装置に既に繋がっていてとても便利みたいな。問題があるのは今のとこ倫理観だけ。




魔力に適応している生体回路を単純な無機物で再現するには、ボクの認識より遥かに長大で複雑な構成が必要だったんだ。



でも、ボクが一番得意なのはそういう無駄で大変なものの効率化と小型化だ。最初から小さめに作ろうとしたからおかしくなったんだ。時間がないという焦りもあったけど、半端に実力がついたつもりで最初からシャレた開発をしようとして失敗していたんだ。




やるべき事は理解した。勇者召喚と一緒だ。どれもこれもボクが新たな世代の魔法道具で上塗りする。天才や英雄の個人の力をただの人間の力にする。ボクが戦うべきなのは敵じゃなくて古代人と賢者なんだ。




…あとなんかちょっとズルしてるヤマトさんとも戦うぞ。


変身して鎧に頼るみたいな話だった筈なのに、あの人なにか仕様の穴をついてバレないように魔力を直接引き出している。前回もそうだったけど、味方を騙して自分だけ無茶をするのが巧すぎる。


変身がどうとか言うから実装したのに、その余分な手間に生まれたバグを悪用するなんて開発者としても普通に許せない。




多分ほかの皆はヤマトさんがちゃんと制御化で安全に活躍してるんだと思い込んでいると思う。ボクへの信頼で。本当にごめんなさい、バグを悪用されてます。チート対策甘くて本当にごめんなさい。うぐぐ。



多分変身の起動処理を不正利用して開きっぱなしにしていると思う。絶対許さないっすよヤマトさん。




ボクにだって得意な事はある。自分も魔法道具を開発出来る賢者に、それでも特別に選ばれた専属特別研究員だ。戦闘ではあまり役に立てなくても、道具作成の世界ではタリアさまの活躍ですら奪ってみせる。ここからだ。ボクの戦いは。




あれこれ道具の準備をするのに微妙に時間がかかって、思考がぐるぐるとよくない感じに回っていたが、動くぞボクは。クールでかっこいい開発者っぽい感じを貫くぞ。



「タリアさま、追加魔法はいらないっす。魔法を拡大する道具の部品がもうそこにあるんです」

「うぇっ!?」




なんであんなに重要な魔法道具を見つけ出していたのに、呑気に化石の歯の掃除に明け暮れていたんだろう。もっと本気で修繕しておけばよかった。



地下の隅っこに保管されている、あの恐竜達を動かしていたらしき装置を持ってくる。




「そうか、邪竜動かしてたやつ!」

「本来の機能はともかく、多分どれかの部品が『広域化のモジュール』の筈なんすよ」




ああーという顔をするタリアさま。よし、多分これは賢者の力的にも正解の時の反応だ。むしろこれの為に教会までボクを連れてきたのかも知れないし。



最初は丸ごと修復するつもりだったので、切断された面も綺麗に保護してどこかの研究所に持ち込もうと思っていたけど、生きている部品を取り出して流用するんだと分かってみれば恐ろしいほど準備万端になっている。




何がどう正解になっているのか分からないのがタリアさまの力の怖さだ。



死竜兵器の細かい仕様や操作方法は分からない。けどこの装置が何らかの魔法を広範囲に放って恐竜が暴れ出したのは明確で、必要なのはその広範囲にするモジュールだけ。そして都合よくそれらしい部分が取り出しやすいように美しく切り出されている。




一体どこまでが賢者のお膳立てなのか分からないけど、タリアさまと一緒に居る限り大体どこかで都合よく全てが噛み合う。



戦いは準備で決まるもので、その点においてタリアさまは最強だ。


ただ賢者の準備内容は本人にも分からず、その中に現場でのボクの活躍が盛り込まれているかも知れない。どちらかといえば非戦闘員かつ準備する側の気持ちになりがちだったけど、最後まで一切気は抜けない。




でも、自分が居ることに意味があると信じやすいのは良いっすね。出来ることを頑張ってみようという気力になるし、きっと出来ると思える。



やらかしてしまったけど、まだイジけるには早すぎる。



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