【ダークナイト聖女アネモネの視点】
【ダークナイト聖女アネモネの視点】
完全に理解した。
みんなの難しい話は難しいけど、私が為すべきことは簡単だわ。
──敵を見つけて、殺す。
タリアは、守る為に動く。だから武器を全然思いつかないし、殺す策が出てこない。
勇者様は、バランスが良い。可能な限り守り、必要なら殺す。
だから安心できる。このポジションに私が立って良いのだと確信できる。
私は、迷わず敵を殺す。
勇者信仰の教えにある、あたり前のことを偉そうに言ってるだけの下らない話の中にも、戦いに関してなら役に立てることはある。
「自分達に出来る事は、必ず敵も出来る」
ガギィイン!という甲高い衝突音と、可聴領域から外れた聞こえない鳴き声。見えるわ。風の波が。どんな仕掛けも、答えが分かってしまえばやりようはある。
目の前の空が歪む。予想よりかなり大きい。
先に見ておいて良かった。ううん、全てはタリアの想定通りなのよ。このために先に見せたんだわ。
邪竜は恐竜で、鳥も恐竜で、ただの生き物じゃなくて魔法生物が敵。
一体何を言ってるのか全然よくわからないけど、わかった。言ってたもの。目印みたいなものがあるんだって。
だったら話は簡単よ。
「空に目印なんて付けられない。でも空が割れる。敵が鳥。つまり…」
『ーーーー!』
こういうことでしょう?攻撃が『見えない鳥』に当たり、聞こえない鳴き声が響く。やっぱりタリアとヤマトさんはすごいのよ!
分かってみれば簡単。敵は世界を割るようなとんでもない魔法を使う。だったら使えないわけが無いのよ、ただの『透明化』くらい。なぜ自分がそういう道具を使ってるのにすぐ気付けなかったのか。
魔法生物と言われるまで連想できなかったのが悔しいと言うか、勝手に鳥を食べ物だと侮ったわ。
やっと見つけ方が分かった。『見えなくても居るかも知れない』って連想さえ出来れば、そこらじゅうに風をぶつけるだけですぐ分かるじゃない。
特殊な魔物じゃなくたって、動物や虫も擬態くらい当たり前にするわ。無駄に目と耳で探し続けていた自分の相変わらずのバカさが恨めしい。
視力に自信があった。その自惚れで思考が硬かった。どうしていつまで経っても反省が活きないのかしら。常に思い込みに騙され続けてる。簡単に分かったとか思っちゃダメなのよ。
でも見つけた。向こうが完全に準備を整える前に。重要な位置も、倒すべき敵の居場所も、絶対この近くに決まっていたのよ。だってタリアが来てるんだから。完全に分かったわ!
「捕獲できるなら捕まえてタリアに見せて情報を引き出す。危ないなら殺して死体だけ持っていく。どうやら捕獲は大変みたいだから……殺していいわね!」
本格的に戦闘を開始する。
反撃の為に一瞬姿を見せた鳥は若干例の恐竜みたいでもあり、黒い魔法生物みたいな部分もある。重要な、邪竜。
透明化を道具ではなく魔法で維持していたようで、一定以上同時には操れないみたい。そうだろうと思っていた。
ティラミスライスとかいうヤマトさんの世界で有名な竜と戦った時に、遠距離攻撃の無効魔法を使われて驚いた経験が生きている。あの邪竜も強い攻撃と強い防御を同時には扱えなかったし、代わりに道具無しで相当高度な魔法をシンプルな呪文で操っていた。
少なくとも、私達に使える魔法や生み出せる魔法道具は全て敵も使えるとみて間違いない。魔法が苦手な魔力生命体とか居るわけ無いもの。
私が透明化の魔法道具を使えるなら、敵も同じことが出来ておかしくない。
遠距離攻撃無効の魔法が実現可能なら、敵も無効化出来るし対策もしてくる。
きっとタリアとウラニアさんの防御も対策している。絶対にやらせないわ。
『ーーーー!』
聞こえない鳴き声をあげながら魔力の推進を使った高速移動で逃げる鳥。目眩ましの弾幕を放ちつつ透明化と反撃を織り交ぜながら距離を取ろうとしてくる。
なるほど。タリアだけじゃない。今思えば、ヤマトさんが雑談みたいに言っていた『鳥も言葉を喋る』みたいなよく分からない長い話も意味があったんだ。
人間の言葉を真似る鳥みたいな話かと勘違いしてしまった。ちがうのよ。鳥だって鳥の言葉を持っているという意味で言っていたんだわ。種族が違うのに人間を基準にするのがおかしい。
鳥は鳥の魔法を持っている。竜魔法はもうおとぎ話じゃなくって、それは当然人間の言葉じゃないし、人類に聞こえる範囲の波長とも限らない。
「透明になって可聴領域外の呪文を使っているというのは一切想定していなかったわ。ずっとずっと探していたのに見つからない筈よ、驚いてあげる」
なんとか弾きながら接近して叩き切ろうと試みるが、やはり硬い。信じられないくらい硬い。表面のカリカリは分厚いのに、中身が柔らかくずっしり詰まってて衝撃が吸収されるような不思議な重さがある。おいしそう。もしかしてインパクトに合わせて硬さを弄っている?
一匹相手にあまり時間はかけたくない。空を地面と平行に割るなら、目印は一匹じゃ指定しきれないもの。最低でも複数居るはず。本当は不意打ちで即死させるべきだったかも知れないけど、どちらにしても単純に頑丈すぎて難しい。
そして積極的な反撃でも逃走でも無い、時間を稼ぐような鳥の動き。
多分、私に気づかれたことで『向こう側との儀式』を緊急で繰り上げさせようとしている。例え予定通りに行かずとも、今までの準備を無駄にも出来ないのでしょう?前回の無駄な突入もそう。引くことを知らない。
分かっているわ。散々みんなに教えて貰ったもの。ヤマトさんが、タリアが、ウラニアさんが、全て予想済みなのよ。
「もう知ってるわ。教わったもの。『獣だって、負けた相手に無策で再戦を挑んだりしない』。そうでしょう?色々な準備がしてあって、本当はもっともっと広く大きく一気に沢山の穴を開けたかったんでしょう?させないわ。ここで死ね」
突然空気の壁にぶつかった鳥が次に訪れた真空に対応しきれず動きが止まり、私のエクスカリバー?だっけ?と短剣の二刀攻撃が直撃する。
魔石部分が本当に多くて、殆ど鉱物が飛んでいるみたいなものだから全然斬撃は通らないけれど、大事なのは短剣の刺突だ。入った。魔力が流れる場所に。
確か、悪質な魔法兵器か魔法生物なんでしょう?私とこの短剣は、そういうものに『命令』するのがとても得意なのよ。適当に使ってたからよく分かってなかったけどなんかそうらしい。
『ーーーーー!?ーーーーー……』
死ねという命令が通ったのを確認して、教会から少し離れた場所に蹴り飛ばして落とす。ゴーレムと戦ったような感覚だった。硬すぎるせいで逆に殆ど破壊せず倒せたから、もしかしたら死体だけでも重要な情報が得られるかも知れない。
理想では割られる前に目印役の邪竜を全て破壊したかったけど、敵もそう甘くは無い。これはただの目印程度に考えていた私が甘かった。簡単には倒せないみたいだし、多分今度の襲撃ではかなり広範囲に陣取っているはず。
バギィイインという大きな音があちこちで鳴り出す。空が割れる音。
遥か遠くの空にまで細い亀裂が入っていく。南の国の南端海上から、中央にも届くほどの。
……もしもタリアが居なければ、大惨事になっていたかも知れない規模だわ。南の国だけの問題じゃない。
表舞台から隠れた教会の老いぼれ共も、中央のずるい人達も、すぐに気付いて派兵に協力したはず。ドラゴンに国境なんて関係ないし、そもそも最初は中央が襲われたのだから。賢者と聖女と勇者が南で防波堤になってくれるなんて聞いたら大喜びだったに違いないもの。想像しただけで腹が立つ。
ちゃんと手は打ってある。ヤマトさんの映像だ。あのときの話も本当に難しくて全然分からなかったけど、あの映像自体の価値は見ればすぐ分かる。
だから私は全てを守ろうなんてしない。上はムカつくし中間管理職の目は死んでるだろうけど、必要な現場に人は届いた。頑張ってるのは私達だけじゃない。なら届かないところまで無理しようとしなくていい。任せられる所は任せる。
私が守るのは、誰よりも早く一番危ない場所に駆けつけて、一番大事な所を守ろうとするタリアだけでいいのよ。
愛する人を守るために、愛する人の敵を殺せば、それが一番全てを守れる。実行する難しさはともかく、話は簡単。もう全部分かっちゃったんだから。これが愛の力よ!
『ーーーー!!!』『ーーーー!』
透明な襲撃。聞こえない魔法。複数。見えているわ。知らなければ凶悪だけど、知っていれば人間はいくらでも対処方法を思いつける。だから最初に答えを知る賢者は強いのよ。
一歩目より難しい歩みは無いわ。
私が活躍するのは、タリアが私をここに連れてきた時点で当たり前の話。だから自惚れも贖罪気分もいらない。今はただ役目を果たす。
賢者に見出された邪竜の天敵。それが私。そういうことなんでしょう?
賢者の力も、タリア本人も、私を見てくれる。聖女の肩書ではなく私の筋肉を見てくれる。それは愛よ。だから、私はただ愛に応えるの。私、完全に分かったわ。タリアが分かってるって分かった。
「無駄よ。私じゃない。あなた達は絶対タリアに勝てない。ぜんぶ全部分かっちゃってるんだから!タリアが!」




