【長文早口勇者ヤマトの視点・前編】
【長文早口勇者ヤマトの視点・前編】
「なぁタリア、暗黒物質って結局どういう物質なの」
「よくわかんないから暗黒物質なんて呼び名のままなんじゃないか?」
自称なんでも答えが分かるというタリアの力だが、段々何が限界なのか分かってきた。
最初に人の心を読んでいると思ったのはあながち間違いでは無かったようだ。本人には「心なんて自分にもわからないものだろ」と否定されてつい納得しまったが、タリアの持つ俺の世界の知識は、俺に分かる事までが限界になっている。
もし真の全知全能なら未知の敵の目的だって分かる筈だとずっと思っていた。それが人間じゃなくても。
テストや雑談で何度か試してきた感じ、タリアの知力はあくまで人知だ。賢者の力自体はもっといけるのかも知れないが、少なくともタリアの脳で処理できるのは人の知恵までと見て間違いない。
「俺の世界で、鳥の鳴き声の意味や文法を確かめた研究が割と最近あったんだ」
「求愛じゃなくて?」
「確か、シジュウカラは『蛇』とか『鷹』みたいな天敵を言い分けてて、『警戒』とか『集まれ』って文法はちゃんと順番通り伝えないと意味が成り立たないらしい」
「ああー。なんかこっちの世界でも誰か研究してたかも?鳥の魔物がどうとか」
「魔物が混ざるとややこしいからやめろ」
……つまり、なんでも翻訳出来ると言っているが、鳥の言葉を翻訳出来ているわけでもない。これももしかしたら出来るんだけどタリアが言葉だと認知していないみたいな話かも知れないが、なんにせよ現時点での分かりやすい限界だ。
辞書が見えるとか、名前を聞けば分かるという謎の説明から考えても、賢者の力は現状だとネット検索のマジカル上位版みたいなもののような気がしている。
だからなのか、邪竜を誰も認識出来ていないうちはタリアにも全然分からず、俺が恐竜だと認識すれば化石の知識も急に備わり、この世界と併せた予備知識まで補完された。
ものすごく雑に言えば、タリアだけが覗けるウィキみたいなものまであるのかも知れない。魔法というかオカルト寄りのアカシックレコードとかそういうアレの亜種みたいな。それはそれで嫌いじゃないんだが、なんで剣も魔法もドラゴンも揃ってて全然ファンタジー感が無いんだろう。
ただそうなると鑑定スキルとか無意識に正解の行動を取るとかいう話に違和感も出てくる。特に謎のRTAスキルはどう考えても賢者とかそういう問題ではない。
「マリウス、加護ってのは一人一個なのか?」
「そうだと思う。体全部を使った回路みたいなものだからね」
「でもタリアは?」
「なんかおかしいと思う。幸運すら特別なものに感じる」
「おい、今この知的天才美少女賢者様をラッキー頼りの雑なやつ扱いしたか?」
教会の地下で、恐竜の実物化石パズルを皆で組み立てながらの雑談だが、自分としてはかなり重要な会議だ。
既に俺はメタ推理の解放を宣言している。
パターンから考えれば、ここ最近「本物の魔法」とか「風の魔法使い」とか「星の魔女」って頻出するようになったので、もう多分アネモネとかタリアがそういうなんか本物の伝説のアレなんだと思う。もう絶対そういう流れでしょ。
……問題は、だから何だよって所だが。
いかんせん賢者も聖女も割ともともと伝説級の凄い存在っぽいから、「実はタリアは伝説の風の魔法使いだ!」ってなったとして、「…で?」という反応しか出来ない気がする。
俺が愛した面白い異世界モノと違い、この異世界だと情報はタリアのせいで余計なものまで雑多にすぐ会話で手に入るし、全然ドラマチックな推理にならない。そのうえ肝心の所はギリギリまで分からない。ひどい。
会話で物語を進めるなってアニメの批評で山程見てきたけど、実際に雑談で情報が引き出せるとなるとどう考えても楽で効率が良すぎるんだよね。ノーリスクハイリターン。人は堕落する生き物なんだ。人気作の主人公たちがどれだけ体張って頑張ってたか分かる。俺には無理だ。
ただなんていうかこう、楽なのはいいけどスッキリしないんだよな。ありえない魔法だらけで、謎の敵に襲撃されている推理パートなのに、なんでこんな地味なんだろう。もう歯の骨の掃除飽きたよ。どれが何の歯かなんて俺にも全然分からないよ。
こんな事してる場合かよとも思うが、どうもタリアが何か探してるっぽい気がして皆必死に協力している。例によって意味があるとは思うんだが、なんで魔法の世界で手作業で掃除になるんだよ。魔法のほうきで自動化しようよ。
明らかに魔法っぽい魔法はちゃんとあるのに、それはそれとしてこの世界の中心は普通の科学だ。逐一半端で、もどかしい。よくあるアレ、『断言しないのが実は一番賢くて正しい』みたいなグレーの世界が延々続く。もうずっと魔法と科学の区別が曖昧過ぎる。
「俺の世界に、有名な作家による『十分に高度な科学技術は魔法と区別できなくなる』っていう面白い架空原則があるんだ」
「前も言ったが、魔法と科学は別に相反していない。むしろ十分に科学が発達してようやくこれって本当に魔法なのではと区別出来るようになってくる。お前の世界だって未発達の時代のほうが神が元気で魔法と科学の区別もついてなかったろ」
「それはそうなんだけど、人知を超えた現象を魔法と呼ぶなら、人知を超えた科学は魔法だろ?」
「ああー。確かに。アネモネの謎魔法とかそういう意味で本物っぽいもんな。なるほど分からなくも無いかも。異世界面白いな。……いや人知を超えた科学って誰が開発するんだ?人が開発出来たらダメだよな?」
「まさにそういう小説が沢山生まれていた時代の架空原則だよ」
「えーおもしろ。読んでみたい」
ちまちまと破片みたいな骨を掃除しながら雑に賢い返事が帰ってくる。あれだ、オタクに優しい知的ギャルみたい。ビキニアーマー白衣メガネ緑髪ギャル。新たなジャンルの可能性を感じる。
別に普段も賢いと言えば賢いんだが、自我が混ざるほど知的要素が薄れて賢いアホになるので、作業中とかに話しかけるほど理想の賢者って感じになる。ウラニアに聞いたコツだ。あいつずるい。
「…………え!?私なにかした!?ごめんなさいタリア、愛する妻の話をちゃんと聞いてなかったわ」
少し遅れて、自分の名前がタリアの口から出たことにアネモネが反応する。雑用に集中していたようだ。そして気がついたら勝手に親友から妻になってる。油断も隙も無い。
聖女と王女のいちゃいちゃは言葉だけ聞くとものすごく清楚っぽいのに、実態は独特過ぎてハラハラする。念願の百合ではあるが思ったよりハラハラのほうが凄い。気がつくと一方的に関係が進んでいる。
いや待て、それどころじゃないぞ。自分もうっかり流してたタリアの発言を思い返す。『アネモネの謎魔法はそういう意味で本物っぽい』……また出た、本物の魔法。
やっぱり賢者の力が既にアネモネを本物だと認識してるじゃないか。まぁメタ推理っていうか普通に見たままおかしいもんな。俺からすると最初からずっと未知の凄い魔法使いではあったけど、特別な比較対象が増えるほどおかしさが浮き彫りになっていく。
勇者を超えるためのトレーニングをしてるのはずっと見てたけど、筋トレして空が飛べるようになるのはやっぱりおかしいよ。
あとタリアとアネモネ両方の共通点として、なんもかんも理解が雑だから自分の凄さもよく分かっていない。
「そういえばアネモネの短剣が本物の魔女の杖とか言ってたが、あれもそうか?聖剣とか杖にも人知の及ばない本物があるって認識でいいのか?」
「うん」
「てことは俺に刺さった聖剣も本物って事でいいんだよな?俺エクスカリバーの鞘とか体に入れるの長年の夢だったんだけど、ガチでそれが刺さってるわけだよな?」
「お前のはちがう。ただ聖剣と呼んでただけの倫理観がカスな魔法道具」
「違うのかよ!」「あれ?今教会の中で聖剣全否定しました?」「バカ反応するな!」
あまりの全否定に、うっかり聞こえてしまった歴史調査員の一人がつい反応して口を塞がれている。
内心かなり興奮していたのにどうしてこいつ俺の夢にひたすら容赦が無いんだ。内心エクスカリバーの鞘と既に呼んでたのに明確に否定されたんだが。
「エクスカリバーもアネモネの剣」
化石を細かく掃除しながら、こともなげに言うタリア。
「……え!?それエクスカリバーなの!?短剣が!?」
「ちがう。硬いやつ。多分翻訳の揺れじゃないか?鋼?カラドボルグ?カリブルヌス?」
「ちょちょ、ま、え!?どれ!?アネモネ、頼む、見せてくれ!」
「私!?あ、え、えーと、硬いやつって、これかしら?」
どこかから例の粘土っぽい魔法素材?が飛んでくる。まずそれがどうなってるんだ?
『これは、硬い、刃』
ああ、なんだこれか。素材を加工した魔法剣みたいなやつ。
固く尖り、刃は荒く、ただ持ち手の部分だけ細くしたような無骨な原初の剣。
「なんだこれか、みたいな顔をしてるが、お前の言う『エクスカリバー』という言葉の原点は『凄い剣』だ。どの世界の、どこの国の、どんな翻訳を通ろうと、神話や英雄譚の剣の原点は変わらない」
「…あ!?」
そうか、原典とか語源のやつじゃん!興奮してきた。硬い刃ってまさかカレトヴルッフって言ってたのか。おい俺の翻訳機能直訳すぎる!
いや違う、魔法や異世界に半端に慣れて俺のオタク度が下がっていた。なぜすぐ気づかなかったんだ。
「『鋼』でも『硬い』でもなんでもそう。詩人や語り手が何をどう盛って唄おうと、それを誰がどう翻訳しようと、本質にあるのは『英雄に相応しい凄い剣』であり、アネモネの剣はその本質の具現化だ。そこにあるのは真の神話の聖剣だよ」
ウラニアと細かい化石パーツや謎の図面起こしをしていて忙しいらしく、逆にとんでもなく賢者っぽい話がスラスラ飛び出てくる。なんでこいつ地図読めないのに図面引けるんだろ。いや答えだけ知ってトレスしてるからか。
「アネモネ!!!それ俺にも下さい!!!鞘も欲しい!!!」
「ど、どうぞ!?」
「これで先日の気まずいのチャラな!むしろ儲かってラッキー!!」
「そ、そんなに!?変に私を許さないで下さい!」
無骨な剣と、それを納める為だけの無骨な鞘を貰う。思ってたのと違いすぎるが急に熱くなってきたぞ!原初の聖剣!!そう思って改めて見ると、めちゃくちゃそれっぽいあれじゃん!
「うおおおおおお!エクスカリバー!!楽しくなってきたぞ!」
「アネモネが持って謎の凄い魔力が通ってないと言葉通りのただの硬い剣と鞘だよ」
「うわああああああああああ!!!」
酷い。どうして。ショックすぎて膝から崩れ落ちた事を自覚出来なかった。
どうしてこの世界は逐一こうやって期待させてから奪うんだ。タリアは毎回俺の夢に何の恨みがあるんだ。別にこれは黙って喜ばせてれば良かったろ。
「よその世界の現実を夢扱いするのが悪い。ファンタジー気分は見つけ次第破壊する」
「いいじゃんちょっとくらい!」
「だめ。危ない」
実際に生死の掛かってる生々しい現実で、いつまでも浮かれてるべきじゃないという意図はわかっている。わかってるんだけど、ちょっとだけ!ちょっとくらい許してくれよ!
「そろそろ第二波だからな。次こそ勇者には活躍させない。無駄にはりきられても困るから普段より余計に厳しく行くぞ」
「そんな酷いこ……!?」
あれ、こいつ今なにか
「……タリアさま、今なんか凄いこと言わなかったっすか?」
「えっなに?ごめん集中してた」
ウラニアが手作業をふと止めて冷静に突っ込むが伝わらない。
じわじわと、本当にじわじわと皆の視線がタリアに集中していく。
グロい映像鑑賞回から数日、無限に続く単純作業で皆疲れていたのだ。頭もそりゃ働かないよ。魔石入り化石パズルもだけどまず丁寧に掃除するのが辛くって。
「……第二波?」「第二波!?」「そろそろ!?」
ざわつきが強くなっていく地下室。
「おいもっと早く言えよタリア!」
「えっあれ!?そうなの!?第二波!?」
自分でびっくりしている。意味が分からんでしょ、自分の知識に驚く賢者ってどうなってんだよ。
「まさか既に空がちょっと割れてるのか!?何か判別出来る予兆がある筈だ!マリウス!」
「待ってくれヤマトくん、こっちも問題発生だ」
先程から少し離れた場所で兵と何やら話し合っていたマリウスが、ものすごく嫌そうな顔で近づいてきて答える。急に忙しいな。
合図されて二人で外に向かう。あまりタリア達に聞かせたくない話らしい。
……アネモネが、立ち去る俺達を凄くじっとりした目で見ていた。いかんまた何か疑われているんじゃないか?
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「王女三姉妹がこちらに向かっているらしいんだ。第一王女から第三王女までの、一番王に近いフルセット姉妹だ。なんせ現王の娘達だからね。僕より年上だし」
「それの何がまずいんだ?」
「南の国に来た時、関所で揉め事があったって言ってたよね。その手配書の発信源だ」
頭を抱える。
このわけわからん緊急事態の最中に、今更王族同士のねちょねちょした権力争いを!?
「どう考えてもそれどころじゃないだろ!?」
「僕らが中枢に寄りもせず思い通り動けているのは、国の中心で当たり前の事を普通にこなしている人達のおかげでもあるんだよ。特に権力と金回りで三姉妹の協力は絶対に欠かせない」
「だるー!というか俺に相談されてもどうしようも無いだろそれ。異世界の庶民に貴族ネタはあまりにも縁が遠すぎるぞ」
「ヤマトくんの異世界武術なら、なんとか気づかれず穏便に気絶させて力ずくで中枢に送り返せないかなって」
「穏便とは!?!?処刑されてもおかしくないだろ俺!」
温厚なマリウスからとんでもなく野蛮な作戦が飛び出してきたんだが。そんなにやばいのかよ第一から第三王女。
教会から少し離れた海が一望出来る広場は景色も風も最高だったが、その爽快さをもってしても会話の最悪さを打ち消せない。何が悲しくてファンタジーな異世界で過激な権力争い事件の実行犯にされにゃならんのか。
悪役令嬢がどうこうとか国の陰謀がどうたらみたいな流れだったらまだ分かるよ。魔族が黒幕で云々みたいなやつな。最初からそっちだったら俺もなんかシリアスでダークな感じに頑張るよ。全然嫌いじゃない。
でも羽の生えたクソデカヤモリが降ってきて、何故か恐竜も暴れるB級パニック映画の最中にそんなこと言われても、空気を読めよバカとしか言えないだろ。今忙しいんだよ!
カサッ。不意に何も無い場所で足音が聞こえた気がした。
「……」
気づいていない振りをして、視線のフェイントをかけてから見えない影に飛びつく。
指先を掠めた。避けられた気配。
「まずい。マリウス!」
瞬時に媚薬を飲み戦闘態勢に入るマリウスと共に、不可視の盗み聞き犯を追う。明確に動き出したから音で気配は分かりやすくなったが、クソ速い。ベルトのスイッチを入れて内部魔力を解放する。
いや別にそんなに重要な話をしてたわけじゃないんだが、緊急事態の可能性もある。
……明らかに小さかった。まるで人形みたいに。
「ストーーーーップ!!ダメ!絶対ダメだぞ!もうバレてるからな!!変なことしたらタリアに言いつけるぞ!!!」
「……っ!」
しまったという空気を感じた。だが止まらない。
突如始まった、見えない小さな人形を捕まえる鬼ごっこ。異様に素早いが、逃したら国際問題が待っている。難易度と失敗の代償が釣り合って無さ過ぎる。俗に言うクソゲーだ。
「くそっ!まずい、マリウス!!アネモネは催眠術が使えるんだ!人形が話を聞いてた!!」
「あっ!?そういう話!?じゃあ全然任せたいな僕としては!」
「バカ!ダメに決まってんだろ!!」
なんてことだ。とうとう俺だけが常識側に。この世界、無駄に難しい時とバカな時の差がえぐすぎるぞ。




