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教会に隠し扉は普通無い



調査地の一部土地所有者でもある海辺の高台の教会。


その教会の地下室には更に地下へと続く扉があった。




最近使ってなかった身隠しのフードはいつの間にかアネモネの人形用に改造されていたらしく、突然姿を現した二体の私っぽいフィギュアが手を鍵に変形して通常の鍵と隠れた鍵を同時に開けてくれる。


私に似てるけど絶妙に違うのはなんなんだろう。いや教会に隠れた地下室があるほうを先に突っ込むべきか?



「偉いわ、さすがタリアの子ね」




アネモネがにっこり微笑んで二人の人形を撫で、嬉しそうな私っぽいフィギュアがひとしきりはしゃいだ後、再びフードを被って姿を隠す。



「今私の子って言わなかった?」

「タリアと私の娘達よ」




幸せそうな母の笑顔でアネモネが微笑む。最近落ち着いてきたと思っていたらどうやら二児の母親になっていたようだ。私の子でもあるらしい。つまり私も母なのか?


気づかない内に大変なことになっていた。最初は確か私そっくりな人形を抱えていた筈なんだが、どうやらそれは私本人でもあり、結婚して子供も生まれていた。闇に現実が侵食されている。


どうしてこんなことに。大人しくなったんじゃない。超重力状態もまた重いまま安定してきていて、気づかれぬまま全力疾走し続けていたようだ。




「タリアさま、あの、どういうことっすか…?」

「深く考えるなウラニア」




ヤマトとマリウス王子は目を背けている。アネモネの突然漏れ出た重さにもだが、なぜか教会の隠し扉にトラウマがあるらしい。もう本当に意味が分からない。




「ほら、ドアも大きいし中も広いでしょ?もし暴れ出しても封印しやすいと思うの。一旦ここを使えないかしら」



地下に置いてあった書物とか箱を謎の風によって外に吹き飛ばしてから、アネモネが馬鹿でかい化石を肩に担いで地下に入っていく。ゴツンゴツンぶつけてる。



「……あの、歴史調査員の人、化石が心配なのは分かるけど、数人ちょっと今吹き飛ばした書物とかもチェックして貰えないかな。一瞬しか見えなかったけどアレはアレで重大な史料の可能性無いか?」


「あ…あっ!?」「自分、自分行きます!」「自分も!あの、聖女様、許可を貰っても」「あ、ごめんなさい、じゃあそっと置くのでお願いしますね」



どうやら遥か彼方に消し飛ばされそうになっていた教会の古い書物や催事道具っぽい何かが一階の広間にドサドサと積まれていき、それを数人の研究者が慌てて確認しに行く。




これはまぁどんなグループでもよくあることだけど、一定以上の規模がある集団は自分達にとっての常識、自分達にとっての『普通』に意識を絶対縛られてしまうから、『普通の事』だと思い込んでいる所に何かまだヒントが沢山あるかも知れない。このタイミングで外部の人間が調べて損は無い筈だ。



元聖女候補のニンジャのダークナイト候補?の人達も協力してくれて、地下に次々とドラゴンの化石が運び込まれ、上では教会の史料調査が始まる。



「俺は全然専門じゃないから、恐竜図鑑や恐竜博物館とかで組み上がった化石の見覚えがある程度だと思ってくれ。生物学的な助言は無理だ」


「図鑑!?」「恐竜博物館!?」




異世界の知識を存分に発揮してチヤホヤもされているのに、ものすごく不服そうなヤマトが必死に唸りながら専門家と話し合っている。


普段そういうのやりたいって言ってる癖にいざなると不満そうなのはなんなんだよこいつ。異世界知識でチートがうんたらって言ってたじゃん。




太古の竜と言ってもこうして改めてじっくり骨の形を見ると同じ原点を持つ動物なんだなという気がしてくる。骨という概念から違ったりする魔物より明確に同じ星の生物だ。




「俺には完全に同一種か判別する知識は無いんだが、呼称は一旦ティラノサウルスで行く。トカゲとかドラゴンの暴君って意味だったかな。変な事件が落ち着いたら、いつか正しく研究を進めて自分達の世界の名前を付けてくれ」



例の巨大な邪竜、ティラノサウルスの模型組み立てと異世界勇者の恐竜解説が始まっている。




「勇者様の世界でも邪竜はこんなに巨大だったんですか?魔物でも無く改造でも無く、魔法の無い世界でもこんなに巨大な肉食動物が海中ではなく地上に自然に居たと?」


「ああ。これよりもう少し大きな肉食恐竜も居たし、首の長い草食恐竜は全長がこの三倍以上あるのも居た。ただ数百万年単位で生息時期が違ったりするから、デカい恐竜として一括りにして良い話なのかは自信が無い。」




相当研究が進んでいる異世界の知識は非常に参考になるが、異世界と全く同じとも限らないわけで、ネタバレを食らう割にそれがどこまで正確なのかわからないという妙な難しさがある。


絶対似てる筈だが、『似てる』というのは『同じ』という意味ではないわけで。だからまぁ話を必死にメモしている調査員の人達もずっと複雑な顔をしている。可哀想。



あ。ヤマトが深く息を吸った。賢者の力が危険を察知する。めんどくさい早口の気配だ。



「恐竜の大きさについては体の構造の雑学を山程見たけど、個人的にはまず先に気候関連の学説が大事だと思うんだよな。二酸化炭素の濃度が高く、温室効果で暑かったらしい。豊富な炭素と熱で植物が大喜びなわけだ。まず植物が巨大で豊富に無いと動物だけデカくなっても養えないじゃんって話のやつ。木が高くないと首の長い竜が生まれる意味も分からないし。というか星の歴史が似てるなら逆に今が寒冷期なんじゃなかったっけな。で…」


「うわっ!?」「急に早口が凄い!」「余分なネタバレまで続々と!」「勇者様!?」「駄目だ話に割り込めない!」「長い長い!雑学が連鎖してる!!」




そしていざ話し始めるとこいつ止まらないんだが。よく考えたら雑学オタクに語る場所と難しい話が通じる相手を与えてしまったわけだ。



ヤマトはあれでも普段はあんまり異世界知識で余計な影響を与え過ぎないようにしてるみたいなんだが、いつもいつも夢を破壊されて鬱憤が溜まってるし、情報が必要なのは確かだし、あまりにも都合の良い生贄が現れてしまったんだ。オタク語りが爆発してる。




「滅びた竜という扱いになっているが、一応そこらへんを飛んでる鳥がこいつら恐竜に近い存在だという説が有名なんだ。二足歩行とか卵生とか言われてみれば確かに特徴が近いんだよな。恐竜の子孫というか、当時から恐竜の一種で今も残っている種みたいな感じだったような。」


「鳥!?」「そのネタバレ今要ります!?」「なんか八つ当たりじゃないですか!?」「なんで鳥のネタバレまで!」「知り合いの鳥類研究家に伝えて巻き添えにしたろ」



防御不可能の無差別攻撃が続く。


自分はもう助からないので今居ない仲間まで巻き添えにしようとしてる邪悪なやつまで出てきてるぞ。




「分かった。鳥が邪竜だったのね」

「あっ!?違う、待ってくれアネモネ!違うんだ!!絶対ダメだぞ鳥類への無差別攻撃は!!」




そしてアネモネがまた適当に理解して、ヤマトが必死に訂正している。



ようやく難を逃れた研究者達に声をかけに行く。


「良かったね、カウンターが居て。」


「賢者様の苦悩の一端を知りました。知識を得るのは大好きですが、謎解き前に全ての答えを横から知らされるのはあんまり幸せじゃ無いなぁと。こういう雑多なネタバレを常に脳内で受け続けてるわけですね」


「そうなんだよ!雑多な情報ばっかり脳内に溢れてて肝心な答えは分かりづらいしさぁ!余計な話がなげーんだよ、賢者の力もヤマトも!」




そして共感者になってしまった事で彼ら彼女らは私の愚痴まで聞かされる事になり、勇者、研究者、アネモネの三すくみは早速崩れてまた一方的な蹂躙になっていった。






#########################





聖女が問答無用で吹き飛ばそうとしただけあって、教会の隠し扉の奥に仕舞われていた書物や催事道具は本当にしょうもなかった。



誰々は勇者様の偉業を最初に語り継ぎ始めた人の遠縁の子孫がどうこうとか、そもそも最初の一歩目から何者でも無いじゃないか。


しかも語り継がれてない。要約すると「邪竜はヤバくって、勇者はそれを倒した」というだけの文章が色んなパターンで沢山あるだけで中身が無さ過ぎる。




催事道具も壊れた古い近接武器だらけだ。教会は戦闘員の養成所か何かなのか?




「アネモネ、今更だけどなんで教会に隠し扉があるの?」

「えっ?」




すごく予想外の事を言われた顔でアネモネが戸惑っている。早速当人達だけの普通が出てきたようだ。教会には普通隠し扉があるよねという顔。


どう考えても普通は要らないだろ。鐘の下には秘密会議とか尋問とか出来そうな隠し部屋があったし、地下は巨大で頑丈な倉庫か何かで、秘密の脱出口もあった。


最初はここだけなのかと思ったが、ヤマトとマリウス王子の証言でどうやら他の教会もこうなってる事が判明する。



孤児院とかも兼ねているというだけあって、集団生活出来る設備とか集会にも使える大広間とかは別に全然不自然じゃないと思うんだけど、見晴らしの良い鐘塔とか隠し部屋とか全部をなるべく先入観を排除して改めて眺めると……




「もしかして勇者信仰の教会って冗談抜きで戦闘を想定した施設じゃないか?」




なんか儀式的に鐘を鳴らす神聖な施設みたいなイメージよりも、見張り塔のある砦に見えてきたんだが。襲撃だーって言ってガランガラン鳴らす光景のが合ってそう。




「……?」



なぜかアネモネが不思議そうな顔で見てくる。こっちの反応なんだがそれは。




「私、最初に王都と教会から兵を出すって言ったわ?」

「言ってたね?」



なんで伝わっていないんだろうという顔。




「だから警備兵も居るし、教会だって砦になるわよ。だって勇者信仰だもの」

「そうなの!?」



勇ましい者への信仰を掲げていたら戦えないほうがおかしいじゃないと、さも当然のように言い放つ聖女。


他人の信仰に口出しとか介入とかって普通はしないのがマナーだし、勇者信仰の人も別に親やその前の世代が属していたからそのまま所属を続けているだけで、何か特別な風習とかイベントとかするわけでも無いって感じだから、そんなパワフルな常識持ちだとは全く思わなかった。




「何か教会が凄い権力持ちで、凄い私兵がいっぱいいるから力を貸してくれるみたいな認識だったよ私」


「権力はあるわ」

「あるんだよね」


「私兵も居るわ」

「居るんだよね」


「でも身寄りも何も無い男の子の聖女候補を兵職に就きやすくしてるだけよ」

「男の子の聖女候補」


「ほら、学問の国みたいに頭脳職が豊富で戦わずに生きていける場所だけじゃないもの」



やばい。思ったより筋肉が全てを解決する信仰だった。男の子の聖女については疑問にも値しないのか完全スルーだ。そういえばさっき元聖女候補のお姉さんも筋肉を示唆していた。


勇ましい者への信仰なので、言われてみれば文字通りであり全然何もおかしくはないんだが、想像以上に思考まで筋肉だぞ。


アネモネを見ていれば分かるだろうという話ではあるが、公の場の聖女はきっちり清楚だったんだよ本当に。いや、普通はそういう畏まった場所でしか王女と聖女って会わないからか?




「でもやっぱり頭を使うのって大事よ」

「学問の国でそれと逆の事を言ったら大変なことになるよ」




なぜか急にしょんぼりしてよくわからない道具を差し出してくる。



「ちょうどこの教会に送っていた映像があったから、タリアとウラニアさんに観て欲しいの」




ああー。これはあれだ。勇者召喚の記録映像か。妙な機械がついているが、どうやら珍しい他国の映写機型のようだ。視界の共有じゃなくて色々信号を変換して映し出すやつ。奥行きや立体が掴みにくくなるけど大勢で観るなら便利って事かな?




「酷い事をしている映像だから、ショックを受けそうだったら直視しすぎないで。……あと……ううん……なんでもない」



……多分嫌いにならないでと言いたいのだろうが飲み込んだようだ。大丈夫だよと言ってあげたいが、中身を見ないで言うのは不誠実だろう。



下で作業を進めていた皆にも声をかけ、一旦鑑賞会を開く。




鐘の下にある秘密の扉が重苦しく開いていく。


私とウラニア、歴史調査員からも二人、そしてヤマトとマリウス王子。




一番強そうな野郎ども二人組が一番青ざめた顔をしていて、最後の順番になるまで部屋に入ろうとしなかった。

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