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サキュバス街に乗り込んで無事に済む筈無いよね



「勇気と無謀が違うってのは定番セリフだ。でも、無謀じゃない挑戦に勇気なんて必要ないだろ。」



勇者が勇気について語ってる。勇者信仰の教会とかだったらなんかウケそうなそれっぽいセリフだ。



「まぁ本人も内心無謀だと分かってる無駄な敗北を止める為のセリフだからな。本人に勝つ気が無いし思考も停止してるので実際に勇気でも無いって話だろ。」


「俺にはある。勇者という肩書を背負えるほどの勇気が。無謀だからと思考停止しない冷静な頭が。挑戦に怯まない覚悟がある。これは無謀だけど勇気なんだ。」


「全然いらないけどな今は。勇気も覚悟も。」



サキュバス街の入口にある「にゃんにゃん一号店」を目にした勇者ヤマトは無謀にも魔力が封じられた生身の体でにゃんにゃんしに行こうとしたようだが、アネモネに関節技を極められて動けなくなっていた。


ちなみにそういう店では無いのでこのやりとり自体が無駄である。



「だから止めないでくれアネモネ!放して!!どういう猫ちゃんなのか確認したいだけ!それだけなんだ!絶対気になるだろ、サキュバス街の猫ちゃんだぞ!?」

「ライラさん、どういう猫ちゃんなんですか?」

「かわいい子猫ちゃんだ!」

「ですって。分かったからもう行く必要ないですね。」

「ぐおおおお!くそぉっ!素人の関節技なのに!シンプルに力が強すぎる!!」



サキュバス格闘家ライラさんもよくみる慣れた反応らしくニヤニヤ笑っている。


めっちゃ高級なでかい馬車はよくある数人で向かいあうように座るタイプではなく、長い車体に進行方向向きの豪華なでかい椅子がそこそこの間隔で並んでいる。


ヤマト曰く「高級バスやんけ!」らしいのでバス馬車と呼ぼうかと思ってる。


ちなみに馬はほぼ飾りで長い車体から生えた沢山の足がシャカシャカ動くのでヤマト以外は皆ムカデと呼んだ。行く先々で悲鳴が上がるし、たまに御者さんが色んな人に謝ってる。給料上げたり見た目の改善しないと本当にダメだわ。


でも本当に便利なんだよね足。道路が整備維持出来れば車輪だけでもいいんだけど、地面が割られる度に移動手段が詰まってたら話にならん。




「にゃんにゃんを意味深に誤解してると思うが、あれ普通に女の子にも大人気な猫だらけの宿だぞ。食事も出来るというかそっちがメインになってた筈」


「えっ!?めちゃくちゃガッカリだけどそれはそれで行きたい!ネコチャン!」

「こいつ結構タフだな」

「じゃあ我らの研究所近くのにゃんにゃん三号店に宿を変更しておこう!猫とかフクロウとか好きなんだな勇者!」



ライラさんの提案で大はしゃぎしている。魔女の猫?とやらが居るのか聞いている辺り、どうも魔女の使い魔的なものに執着がありつつ猫自体も好きらしい。


ネコとフクロウって魔法生物じゃ無いならだいぶ不安になる組み合わせだが、こいつの世界どんな感じなんだろな。賢者の力で読み取れてる筈の知識と話が全然一致しないんだけど。魔力が無いけど魔法使いがネコとかフクロウ飼うのは常識らしい。


……魔法の使えない魔法使いが色んな動物飼ってたら、それはただの動物が好きな人じゃないんだろうか?


私は知的天才美少女賢者だから異世界の話も色々分かるけど、こいつが余計なことまで毎回ベラベラ喋りまくるせいでどれが創作でどれが本当かいまいち区別つかないんだよな。なんならどれがヤマトの世界の話だったかも分からなくなって混乱する。






###############################





にゃんにゃん三号店の周囲では商人らしき女性達が集まってガヤガヤと金の話をしていて、宿をとって馬車を停めるとそのうちの一人が白い袋を持って駆け寄ってくる。



「お待ちしておりましたタリア王女様ー!はい!お受け取り下さい!」

「えっなに?プレゼント?」

「はい!」



ぱたぱたと羽を動かしている人懐っこいサキュバス商人から、どうやら魔法石がごろごろ入った袋を渡される。


あれどうしよう、私ってこんないきなり色々献上されるくらいサキュバス達に人気者だったのか。さすがに照れてしまうな。



「珍しい魔法石がお好きと伺っていたので、色々集めておきました!つい先程そこの商隊が幾つか面白い石も拾ってきたみたいで、今ちょうど増えたんですよ!!皆から大量注文のお礼と思って頂ければ!」


「大量注文……?」


「なんでもアダルトサキュバスグッズを作られるそうで!大儲けですよ、大儲け!あ、だめ、王女様の御前で絶頂しそう。」



ああー。どうしようサキュバス人形ってもう量産の想定でぐんぐん動いてるんだ。しかも素材もサキュバスから買ってるんだ。国の金がものすごい勢いで流れ込んでるぞ。


あとサキュバス商隊の性癖も一目で分かったね。私は金の払いがいいからね。お金が好きってのにも色々あるんだなって。



袋の中身を軽く確認すると確かに色々珍しい魔法石が入っていて素直に有り難い。


鑑定すると一番目立つ白い魔法石は視界共有や録画の出来る便利な白フクロウが呼び出せるやつで、どう考えてもヤマトが好きそうなやつ。



「……あっ!?タリアそれ俺の!」



やっぱり。まだフクロウ出してないのによく中身が分かったな。



「私が貰ったんだが?」

「そうじゃなくて!俺がウラニアに貰ったやつ!!」

「え?」



話を聞くとどうやらこれこそ勇者が川の下流に落としたと言っていた魔法石らしく、河原の石に混ざるどころか流木にぶっ刺さって流されていたようだ。


それを偶然サキュバス釣り人が見つけてサキュバス商人に売り、私へのプレゼントになったと。


まだ探してくれてる人達ゴメン、変なとこにあった。




あとサキュバス釣り人の性癖が気になりすぎる。



「いや凄いな。本当にタリアの能力って知識系なのか?絶対幸運系だと思うんだけど。」


「幸運を得やすい行動にだって最適解があるんだよ。私がケチだったら今回の幸運な上振れ結果も得られないだろが。今日ここに来た運だけじゃなくて、普段の適正よりちょいオトクな取引の結果とかが積み重なってるわけ。」



サキュバス商隊が相槌をうつ。



「私らみたいに流れの商人やってたら最初はビビりますけどね、タリア王女様には。」


「あらゆる分野の完璧な鑑定持ちで下手な商品出せないし、不当な価格と言われたら自分の力量不足の公開処刑ですからね。王族だから反論できないみたいな話とは格が違う。」


「実際不当な割高には厳しいけど……安すぎにも厳しい!段々苦しくなるような歪な市場は直してくれる!あれもこれもちゃんとお金に!お金!最高に興奮する!」


「うおおおお経済大回転!あっ絶頂しそう!!!」



相槌では無いかもしれない。絶頂しそうというか一人倒れたが。



「ねえこの街のサキュバスの性癖本当に大丈夫かなライラさん。」

「我らはまだまともな方だぞ。」

「怖い。」



サキュバスに夢見すぎのヤマトなんか天を仰いで泣いてるぞ。


見た目は美形だらけだし体も豊満でえっちなんだけどね。その利点ってえっちな事以外にも有利に働くから。


商売でもなんでもやっぱり見た目の第一印象って凄く大事で、第一印象に関しては最強の種族だ。サキュバスともなると男にしか効かない程度の美貌では無い。



実際ライラさんも特定の層を男女問わず虜にするだろうし、オシャレな美人お姉さん商隊がオシャレな衣類やアクセサリ売ってると狂うのは野郎どもじゃなく女子だ。サキュバスの美的センスに間違いは絶対に無い。そして常に新しく、常に美しい。



まぁ、どいつもこいつも性癖は終わってるんだけど。




###############################




サキュバス格闘家のライラさんが所属している魔法道具研究所の一室を借りて、ウラニアが白い魔法石を修繕している。



意味が分からないような、戦闘や防衛に使う魔法道具の研究所に強い戦士も所属しているのは普通のような、よく分からない気持ちになる。



「我は格闘家だがテスターじゃなくて技術開発部で普通に働いてるぞ。」



どうしよう、ライラさんが素手で金属加工して見せてくれてるけど、それは普通の技術開発じゃないって教えてあげたほうがいいんだろうか。手作りの試作機を本当に手で作れるタイプだ。アネモネが対抗して真似しようとしているが室内に風が吹き始めたのでチョップして止める。




「ちょっと時間かかるっす。また優先順位がややこしくなっちゃったし、明日までにはなんとか…。ボクしばらくここから動けないんで、皆は一旦自由時間でいいんじゃないすか?」


色々な道具で白い魔法石を弄りながらウラニアが自由時間を提案し、それを聞くやいなや勇者が王子を連れてサキュバスの街に飛び出していく。



多分今日あいつらは無事に宿に帰ってこれないだろう。


サキュバス初心者の男は性癖を「ぶつけられる側」だという自覚が足りないのだ。エナジードレインは生きるために必要な食欲の近似であり、実際えっちな事が効率良い摂取方法でも、それが性欲と一致しているとは限らない。


傾向的にかなりエロい事に寛容ではあるが、だからこそ普通のエロい事に種族レベルで飽ききっていて、ご覧の通り多様化とねじれ方が年々凄いことになってもいる。



その意味があれだけライラさんにボコボコにされてもまだ理解出来ていないとはな。愚かなり勇者。自分も性癖歪んでるくせに相手の性癖の歪みの想定が足らんのだ。




……じっとりした目でヤマト達が消えた方向を見送っていたら、不意にアネモネが近寄ってきて顔を覗き込んでくる。ぺたぺたとあちこち触られるがなんだろう。なんかのコミュニケーションだろうか。


最近病みっぷりが改善されてきた上に聖女の堅苦しさも無くなってきたので、戦闘時以外はあどけない美少女そのものだからちょっとドキドキしてしまう。いや戦闘時もドキドキはするけども。



「ライラさん、どこかゆっくり出来る場所って無いかしら。タリアってかなり体力が無いみたいで移動の度に疲れ切っちゃうみたいなのよ。常に疲れたジト目してるから差がわかりにくいけど。かわいい。」


「えっ私そんな疲れた顔してるの」



そして人選ミスである。どう見ても体力オバケなので疲れを癒やしにどこかに行くみたいな経験が全く無いようだよライラさんは。



どうやら自分も疲れ知らずのアネモネとライラさんが悩んでいると、不意にいかにも切れ者上司っぽいクールなビジネスサキュバスが颯爽と部屋に現れ、ツカツカと歩いてきて私の前で跪き、謎の黒いカードと封筒を渡してくる。


VIPカードって書いてあるけど……?



「余計な接待で逆に信用を失わないかと不安だったのですが、疲れを癒やすという話でしたらどうかお受け取り下さい。」



それだけ言うと一礼してスッと去っていくクール美女。所作まで含めて見た目が良すぎる。


封筒には店の名前と地図。そしてVIPカードにはサイン。どうやら一見さんお断りのお店でVIPが誰かを招待する時のセットのようだ。


私ってば知的天才王女なので特別な店にも色々出入り出来たりするのだが、ここまでのは滅多に無いぞ。ちょっと興味が湧いてきた。



ライラさんの方を見ると首を傾げていたので、本当に結構秘密な場所のようだ。



「ねぇウラニア、手伝うこと無かったら私行ってきていいかな。」

「タリアさまは休める時に休めるだけ休んで下さい。まじで最優先に休んで下さい。」



優しんだか冷たいんだが、作業場から追い払われる私とそれに着いてくるアネモネ。



外に出ると白馬と黒の車体のなんだか豪華な馬車が待っていて、さっき渡されたカードと同じ店のマークか何かが刻まれていた。


スラッとした見た目のかっこいい御者サキュバスにエスコートされて馬車に乗り、なんだか羨望の眼差しを浴びながら謎のお店へと運ばれていく私達。



「すごいねこれ。お姫様になったみたいだ。」

「タリアはお姫様でしょ?」

「一応そうなんだけどね。しょうもない伝統儀式は色々あるのに嬉しい特別扱いはあんまり……あれ、だとするとただ不利なだけじゃないか?許せなくなってきた。」

「分かるわ。凄い分かる。許せないわよね、伝統。」



謎の共感をする王女と聖女。まぁ王女の方は第十七番で聖女の方はダークナイトなんだが。


あと私はアネモネほど許せない度合いが過激じゃない。



足も生えてないのになぜか全く揺れない謎の超高級馬車は段々坂道を登りはじめ、やがて見晴らしの良い高台の大きなお屋敷に辿り着く。


お店っていうかこれもうここらへんを治める大地主の城とかじゃないの。立地の良さもあって南の中枢にあるそこそこ貴族な家とかより普通に豪華なんだけど。



でっかい門を通り抜け、屋敷内へとエスコートされる私達。



「お帰りなさい、お嬢様」

「ひゅえっ……!?」「ひゃいっ…!?」



中では中性的なハスキーボイスの凛々しい青年……のような男装美形サキュバス執事達が恭しく出迎えてくれて、腰が砕けそうになる良い声と良い容姿に囲まれながら贅沢の限りを尽くさせようと誘惑してくる。



いかん。いかんよこれは。とにかく声と顔が良い。そしてそれを服装や景観が凶悪にブーストしていく。いかんよこれは。



こんなのお茶を頂くだけでも大変な事になってしまう。



「お寛ぎ下さい、お嬢様……さぁこちらへ。」

「ひゃい…!」「……!」



良い。あまりにも。



席に案内されて誘われるがまま軽食に手を出してしまったアネモネはさっそく甘いデザートに味覚までやられてしまい、どうやらもう帰ってこれなくなっている。五感の全てで破壊されている。



なんてことだ。サキュバスがVIPカードを持ってた時点で気づくべきだった。サキュバスすらも虜にする最上位サキュバス達って事じゃないか。やばすぎる。こんなところにまで食物連鎖が。



最強の声と容姿を持つ男装サキュバスの執事達。そこで提供される快楽を極めし者達の本気の贅沢。



「お嬢様、後ほどマッサージは如何ですか?」

「ひゃい…!」



ダメだ。私達はもうダメだ。そこまで低音じゃないと思うのに、まるでお腹の奥に響くような素敵なハスキーボイス。快感を覚えるほどの贅沢な飲食。夢見心地の待遇。良い香り。良い顔。もうダメだ。ヤマト達を他人事みたいに見捨ててる場合じゃなかった。




──今日は、私達も無事には帰れないだろう。


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