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むちむちサキュバスの誘い



「ぐっ……!」



度重なるダメージを耐えきれず、体勢が崩れて倒れる勇者ヤマト。



「ふはははは!三回目のダウン!我の勝ちのようだな勇者よ!!」

「ぐっ…くっ………!こ、ここで勝てなきゃ俺は何のために格闘技を……!」



悔しそうに地面を叩くが、勝敗は誰の目にも明らかだった。



「いやいや。誇るが良い勇者よ。病み上がりな上に魔力を封じられているんだろう?完全な生身格闘ですら我と殴り合えるとはな!」



あれから数日経って、ヤマトの傷は恐らく完全に治っているものの、体に悪影響な魔力が漏れたままだと危ないので力を封印する魔法道具がベルトに装着されている。


あいつの格闘技はモンスターをあまり想定せず対人に特化していて、この世界では珍しい高度な対人フェイントだらけの面白い戦闘スタイルだった。


だけど……



「惜しむらくは同格との戦いを想定しすぎているか。身長差と体重差に不慣れ過ぎる!巨大な相手には自分も巨大化しないと勝てないか?まだまだ、浅い浅い!」


「ぐぅう……!参り……ました!」



一度立ち上がり、謎のポーズでお辞儀した後倒れ込むヤマト。相手は二倍近く大きかったのだ。単純な質量負けだろう。


ヤマトの戦い方では対応できていないなぁとも思ったけど、体格差は明確な有利不利なので、お互いがしっかり鍛えきった熟練者同士なら勝てないのが普通だと思う。



小さいのが頑張るみたいな定番の創作物も好きだけど、実際には大きいのも同じくらい頑張るわけで、小さいこと自体に利点が無いスポーツなら単なる覆せない不利だ。


基本的には体がでかいほうが足も速いし高く飛ぶので、小さいほうが素早いみたいなのも幻想だし。



むしろ、だからこそ小さくて強いやつは凄い。目に見えた不利という答えに怯まない。答えに怯みがちな私にはなかなか眩しい。



まぁ今回はヤマトが小さいんじゃなくて相手がでかいんだが。むしろ私の知ってる中ではヤマトは大柄な部類の人間だった。今日までは。



「ま、マリウス!頼む!かたきを討ってくれ!」

「えっ!?絶対嫌だよ!!」

「頼む!!」




あ、すごい。マリウス王子がヤマトを拒絶するシーン初めて見た。



「僕がタリア王女の研究所内で女性を殴っていいわけないじゃないか!だいぶ大事件だよ!?」

「し、しかし!契約が!男の夢が!!」



「ふはははは!学問の国では珍しく武術を愛する王子だと聞いたが、所詮はただの頭でっかちな格闘オタクか!!相手を選別して逃げるなど武の道には程遠いわ!!」


「武術愛好家マリウス。頭でっかちな格闘オタク代表として戦おう。武には学問があり、それが好きで何が悪い。オタクで何が悪いか。僕はオタクのまま武の道を往く。」



あかん。格好良さげな事言ってるがちょろすぎる。


こいつも弱点を既に見抜かれて完全に乗せられている。王族が容易く挑発に乗るな。




「フッ!」「っせい!」「はっ!」「っ!」



早速戦いが始まると、今度はかなり互角な戦いになっている。マリウス王子がヤマトの格闘技を色々習得しているっぽいのもでかい。


そして時折技名みたいなのを叫ぼうとしているが余裕が無くてフッとかハッで止まってる。アホだ。舌噛むぞお前。


アホで真面目な王子なりに善戦はしている。してはいるが……



「うっ……!」



どんどんパフォーマンスが落ちていく。相手が悪すぎる。



踏み込んだ足を上手く払われて体勢が崩れ、そこに流れるように蹴りと拳のコンボが入り、あっという間にダウンを奪われてからはもう全く歯が立たなくなっていた。



「ぐぅぅ……!まいり、ました!」

「ふはははは!挑発の為とはいえ悪く言ったことを謝罪しよう!強い!良い男だ!!悪かったな!!!ふははははは!!!」

「いえっ…!くだらない理由で舐めた態度を取り、恥ずかしく、思います!」



……なんかスポーツ物語してる。なんなのこいつら。



「では敗者どもよ!潔く精力を差し出して貰うぞ!うははははは!!!」

「ぐああああ!!!」「ぎゃあああああああ!!!!」



そして容赦なくトドメをさされる勇者と王子。酷いシーンを見てしまった。股間を鷲掴みされて魔力を奪われてる。


──サキュバスによる、本場の接触式エナジードレインだ。男が格闘戦挑んで勝てるわけねーだろと最初に言ったのに、バカな奴らだ。


勇者が魔力無しで戦えたのは面白かったが、王子はもう相性が終わってるわ。



「タリアさま、ボク忙しいんで他の作業進めてていいっすか」

「お前が呼んだんだろうが。どうすんだよこれ。」



どこからかムチムチのサキュバスさんを連れてきたのはウラニアで、先日庇うの効果を確かめたこの広い室内もウラニアの管轄所内だが、連れてきた当人は戦闘になりそうな流れを見た瞬間アホ勇者を見捨てて何か仕事し始めてた。


ちなみに、薄紫の長いポニーテールをなびかせて赤い目を光らせてる黒い道着姿の筋肉だるまがサキュバスだと気づくのには少々時間が必要だった。羽も尻尾も隠してるのか見えないし。爆乳サキュバスと言えば爆乳サキュバスではある。はちきれそう。筋肉が。



「ボクはただ商談とモデルの相談したかっただけだし。ヤマトさんが勝手に変な交渉し始めるから。」



そして勇者さま呼びが段々格下げされてってる。サキュバスの街に行きたいとか言うからだぞ。


しかも勝手に余計な交渉して勝手に負けたしな。バカ過ぎる。




「ふはははは!悪くはなかったが、鍛え直すんだな!!」

「くっくそ!俺が思ってたムチムチともサキュバスとも全てが違いすぎる!もっとえっちに誘惑されると思ってたのに!!」


「愚かな!エロさは人それぞれ!誘惑も人それぞれ!!例えば我は殴るのも殴られるのもえっちで大好きだ!!だが主流ではない!!ゆえに交渉なのだ。」



性癖が凄い。豪快すぎるだろ。



「最近はエロいのは見る専でエナジーは食事から派も増えてるからな。タリア王女からの商談ともなれば皆大喜びよ!種族レベルの美貌を活かしモデル料と肖像財産権で楽して暮らす!生活と切り離せれば性癖は自由で食べ放題!これよこれ!素晴らしいアイディアを貰ったものだ!」



食べ放題ではない。


そして私はまだ特に何もしてないのによく分からない私の商談とかが進んでる。いや一応約束は必ず守るのでサキュバス人形の準備は通信の時からしてたけどね。全然やりたくないから優先度最低なだけで。




「あれ?あいつサキュバスにそんな人気なのか。王子はともかく王女だぞ。」

「大人気だ!」

「えっ照れる。知らなかった、私って結構色んな層に人気だったんだ。」


「あの方が救ってきたものの中に我が個人的に救われたものもある!恩と愛!」

「いやいやいやそんな。照れる。」


「しかもすごくカワイイ!!」

「よく聞いとけよ皆!私は大人気でカワイイんだ!知らなかった嬉しい!!」



「許されるなら殴りたい!キュート…アグレッション!!」

「怖ぁああ!!!」



キュート…の後に一瞬溜めて力強く拳を上に突き上げていた。風を切る轟音が鳴っていた。怖すぎる。キュートアグレッションってそういうのだったか?


ついさっき聞いたえぐい性癖が自分にも関係あると気づいてしまった。確かになんかそういう感じの性癖も聞いたことあるような気がするが、ド直球過ぎるだろ。


性癖が多様化するほどサキュバスにも色々増えてるんだろうな。いや逆に原始的なのかこれ?




その瞬間、ズシンという衝撃音と共にいつのまにかアネモネがサキュバスの前に現れる。



「……交渉を、続けましょう。」

「……ほう?」



フードと武器を投げ捨て、普通の町娘っぽい白系衣装のふわふわ金髪美少女が腕まくりしていく。



「格闘戦で勝てば、条件を加えても良いのでしょう?街への案内は要らないけど、私が勝ったら二度とタリアに色目を使わせないわ。」


「本当に色目だったかなアネモネ。どちらかというと命の危機だったよ私。」



「ふはははは!!言われずとも恩人に性癖を押し付けるほど我は愚かではない!密かに人形を作り殴るくらいだろう!!」


「思ってたより生々しくてやばすぎる。本人の前で宣言するな。」



本当に、本当に好かれ方がやばすぎる。なんでどいつもこいつも色々歪んでるの。



「愛が重いっすねタリアさま」

「拳の重さのほうが気になる」



あと、他人事みたいに言ってるが、あの目は多分ウラニアも好みだよ。



「……ウラニアさんの交渉内容承諾と、タリア人形の技術共有。及び絶対にタリアに色目を使わないという誓いを。その代わり、私が負けたらサキュバス街全員のあらゆる性癖を私が受けると誓いましょう。」


「ねぇアネモネだいぶおかしいよ?多分その交渉要らないと思う。ウラニアの交渉内容は全然普通に通るから、本当に余分なだけだと思う。」



拳を突き出し、同意を求めるアネモネ。

だめだ。全然話聞いてない。



「ほう……だがいいのか?予め言っておくが、まともな試合にはならんぞ。」

「私はちゃんと手加減出来るわ。」



おお、なんか洒落た挑発しあってる。そういうの出来るんだアネモネ。恐らく同意があってお互いの拳が突き合わされ、一旦軽く間合いを取る二人。



「我は戦いで死んでも本望だが、交渉は揉めるぞ。本当にちゃんと手加減出来るんだろうな!」


「出来るわ。練習してるもん。」

「練習が必要な感じか!!ふはははは!!怖い!!」



あれ、なんかちょっと違うかも。なんかちょっと不穏じゃないかな、話の流れが。




ざん!と足音を立てて一歩踏み出すサキュバス。


「サキュバス格闘家、ライラ!武人として、命を賭けて伝説に挑もう!!」




ズシン!と足音を立てて床を割るアネモネ。


「流星のダークナイト、アネモネ。タリアに近づくものは全て消すわ。」




ぞわり!と悪寒が走る私。


勝手に私が賭けられてるし、なぜかライラさんの命も賭けられている。あかん、止めたほうがいいかも。というか流星のダークナイトって何。



「っせぇえい!!!!」



戦いが唐突に始まった瞬間、大柄なヤマトより遥かに大きいムチムチな筋肉だるまが凄まじい勢いで飛び出し連続攻撃を仕掛ける。


どうやら今までのはかなり手加減していたらしく、高速で暴れる巨体は迫力が凄すぎる。



「……十秒。」

「…ッ!!」



ただ、全ての攻撃が届いていない。


アネモネは微動だにしていない。思い出した。そういえばアネモネは空中に立てるし、そこからとんでもない高さにまでジャンプ出来る。


ということは、アネモネは空中にそこそこ硬いものを生み出せるわけだ。意味がわからなくて思考放棄していたけど、なるほど戦闘にも使えるんだね。少しずつおかしさが分かってきた。おかしさしか分からないとも言う。




「十秒くらい、溜めるわ。崩せなければ、覚悟して。」

「……ぉおおおおお!!!!」



凄まじい連続攻撃と共に、室内である研究所内に暴風が吹き始める。


だが感覚とは逆だ。アネモネ達に向かって風が吹き荒れている。そういえば空気中の魔力を操ってるっぽいなと考えたことがあった気がする。


溜めるって聞こえた気がするし、空気とか魔力とか圧縮して溜めてるのかな。



大迫力の戦闘で誰も声を出せなくなった中ぼんやりとそんな事を考えていた。空気を圧縮。空気を……圧縮……?


先日見た勇者直伝のやばい魔法を思い出す。空気でもなんでもすんごく圧縮したらすんごく熱くなる。火球とは圧縮された空気の熱が関係していて……もし急激に気圧が上がったらそれだけでも私達は鼓膜とか色々やばいけど、暴風の割に気圧は……でも熱が……



「うおおお!ストーーーップ!止めろ!!アネモネぇ!!」

「……サキュバスの!名に賭けてぇええ!!」



恐らく誰よりも速く私の声に反応したサキュバスのライラさんが、格闘攻撃を即座に停止して両手を天地に大きく開き、受け止めるような構えを取る。


本気のエナジードレインだ。それも非接触式の。格闘ではなくサキュバスとしての奥義かも知れない。大気と魔力の渦が二人の間で歪んでいく。



周囲の全員を私の庇うスキルが覆い、ライラさんの強烈なエナジードレインが圧縮されていく空気と魔力を乱して崩す。


二人に集まる嵐と、拡散される暴風で、もう前が見づらい。室内に風が吹き荒れている時点で頭がおかしくなりそう。



「……やるわね。この風を崩すなんて。」

「これは!格闘の!範囲外では!!」


「大丈夫。ファイアボールじゃなくって、ちゃんとパンチだもの。パンチを、飛ばすのよ」

「あ…あ!?違うアネモネ!それは生身の技じゃない!」



慌ててヤマトが訂正してる。もう大体分かってきた。アネモネの非常識な技の出どころが。後で覚えてろよアイツ。



「……じゃあ行くわ、ライラさん。」

「応ッ!」



その一瞬、音が消えて、ぐにゃっと視界が曲がった気がした。




「──ロケット、パァンチ!」




光。


まるで時間がゆっくり流れているような錯覚。



そして、音のない世界から元の世界に引き戻されるような、爆音。

だけど予想していた程の大きさでは無いし、衝撃波も無い。



あまりのことにビビったけど、思ったよりちゃんと手加減したのかも。……という淡い期待は、不自然な声の聞こえ方や反響で現実に引き戻される。



……これは、幾重にも重ねられた見えない空気の壁だ。なんか防護壁みたいのがある。硬い空気と魔力の壁と、真空断熱の壁…?


それで指向性を持たせつつ周囲への被害を抑えながら高エネルギーパンチを筒の中に放ったわけだ。


空気で作った空気砲…とはちょっと違うか。何も発射されない。一番奥で敵と空気がギュッてなる。絶対人に向けて使って良い技じゃない。


ついでにロケットでもパンチでもない。



「まい、った!!」



ズシンと倒れるサキュバス格闘家ライラさん。庇って無効化したのでダメージは無いと思うけど、あの膨大な魔力を急激なエナジードレインで半減したのだ。さすがに無茶だったのだろう。



「手加減はどうしたのアネモネぇ!!」

「えっ!?ちゃんとしたわ!」


「庇わなかったら死んでたよ絶対!!少なくとも鼓膜はなくなってたよ!」

「ちゃんとライラさんの前にクッション作ったもの!あ、庇ったから逆に分からなかったのよ。ほんとよ?」



容疑者の言い分も確認し、まだ残っている見えない壁とクッションとやらを確認する。


すごい。ペタペタふにゃふにゃと触れる。硬いのも柔らかいのもある。



「……ヤマト。ここに来て立って。ダメそうだったら庇うから。」

「嫌だぁ!!絶対嫌だ!!」


「お前が教えた技だろうが!!」

「あれは巨大ロボットが本当に手を発射する技なの!!」


「巨大ロボットが手を発射する!?なに、どういうこと?やっぱりお前の世界のがファンタジーじゃないか!!」

「違う!違うんだってぇ!」



容疑者及び共犯者の主張には怪しさもあったが、よく考えたら検証でも新たな災害を生みかねないので、室内でのロケットパンチとファイアボールは絶対禁止という約束のもと現場検証を打ち切った。疑わしきは罰して封印。




「……庇われず、受けて見たかった。受けきれたら絶頂していたであろう。でも絶命したら味わえない。このもどかしさ……これが、恋か!」


「違うよライラさん。絶対に違うよ。」



まだ大の字に倒れたままとんでもない事を言い出すサキュバス。


ダメだ終わってる。言ってたね、殴るのも殴られるのもえっちだって。好きとか嫌いとかの次元じゃないんだよね。暴力がえっちなんだよね。性癖歪んだサキュバスやばすぎる。



「約束通り、全ての条件を飲む。我はタリア王女を狙わない。アネモネの姉御を生涯追うと誓おう!」


「えっ私!?」



……うん、まぁ、そうなるか。




「サキュバスに襲われるヤマトさんとマリウス王子というルートも有りだ…と」


「ウラニアは何をメモしてる?歪んだ性癖を音読するな。お前そのカップリング間に色々挟みたがるの本当にやめなよ。どうなってるんだ感性。」


「なんでバレたっすか!?」

「音読するな。」



よろよろとライラさんが立ち上がり、魔法生物らしき何かを外に飛ばす。



「頼まれものは依頼から同人まで、最速で届けよう!」

「同人?」「あっ秘密っす!」



あっそうか、エロ同人……サキュバス……こいつらそういう流れからの人脈か。どういう知り合いなのか完全に理解したわ。



──不意に、ライラさんがじっとウラニアとヤマトを見つめ、何かを考え込む。急にシリアスな顔をしている。



「……ウラニア嬢。勇者を街に案内する話、一緒に来たほうが良く無いか?」

「ボク!?ほんとに忙しくて手が空かないんっすよ。それで我儘言って色々条件付けて来てもらったわけで。」



なるほど、そういえばウラニアは自分で重要な開発も進めつつ人手を集めたり情報を集めたり、ここ数日メチャクチャ忙しそうだ。マリウス王子が色々力を貸してくれて信じられないくらい助かるとか言ってたが、そのせいでむしろ余計に仕事しまくってる。


元々優秀さゆえに常に多忙ではあるのだが、今は割と全ての鍵になる超重要人物ではあるのでもはや食事もままならない忙しさ。あとちょっとなんか罪の意識もあるらしい。



「多分だけどすぐにはどこも襲撃されないと思うし、なんか行かせたほうが良い気がするな」

「タリアさま!?マジっすか!?」

「え、うん。なんか大事な気がする。というか大事だから提案された気がする。」


「いやすぐにはどこも襲撃されないって話!マリウスさま!」

「このあとすぐに通信回しておきます」



「え……いやそりゃそうだろう。ここを狙う意味があって、すぐには再襲撃出来ないから最期にあの無謀な突進になったんじゃないのか。すぐ次の穴開けられるなら素材に使える空割りドラゴン飛び込ませないだろ多分。」


「分かってんならはよ言って下さいよ!他の人の意見なら単に空割りドラゴンが使い捨て出来るくらい余ってるだけの可能性とか色々あるけど、タリアさまだと話が別なんすよー!もー!」



怒られた。



でっかいライラさんに視線を向けると頷かれる。武人の朗らかな笑顔だ。なんでサキュバスが武人なんだ。いや性癖のせいだわ。



「命の危機に瀕して一度頭がクリアになったのだ。性癖以外は結構頭脳キャラで通ってるわけで、襲撃が遠いという前提で色々進言したい事が出来た。」


「頭脳キャラなの!?あ、いや、そうか、交渉に来たくらいだし、そりゃそうか。」



ふははははと笑う豪快サキュバス。ごめん本当に外見には頭脳キャラ要素が一切無いよ。私もよくそう言われてたけどメガネでちょっと反応変わったからメガネかけなよ。



「気づいたことが二つあるのだ!まず勇者!」



手招きして全員集める。



「俺、サキュバスの街に行って良いの?この世界に来て良かった!」


「勇者は触手やオークものを見るのが好きと言っていたろう。サキュバスにも『そういうのを見たい』性癖が居る。この意味が分かるか?」

「言う事を聞いておとなしい行動を心がけます。」



全然聞かなくていい話だったかも。



「実際の所、勇者には恩がある。この街の仲間や友達を、文字通りその身を燃やして救ってくれた!ありがとう本当に感謝している!ゆえに選択肢を提案したい!」

「選択肢?…ひぇっ!?」



突然豪快に勇者のけつを揉むライラさん。何を見せられてるんだ。


右手で勇者にセクハラして、左手で水鉄砲みたいな弱いマジックショットをちょろちょろと放っている。



「……これ!勇者本人が出来ればいいんじゃないのか。魔法道具で。」

「あ、あ!?自分にエナジードレインっすか!?」


「恐らく普通程度のじゃなくて、我がサキュバスの奥義を研究した完璧なエナジードレインをな。痛くないだろう勇者?」

「痛くない。気持ちいい。そうか、安全な配管と蛇口を付けるのか。そしてそういう吸い取り方のプロって事か!」

「そういう種族だからな。ふはははは!!」



なる、ほど?


封印内から安全に力を吸い出す方法があるのなら確かに……。結局吸い出してからどう使うんだって言う問題はあるが、そこは別の魔法道具もあるし、いつか勇者をヤマトという人間に戻す時にも魔力はしっかり抜かなきゃいけない。


サキュバスに魔力抜かれて気持ちいいって言ってる勇者は気持ち悪いが、良いアイディアな気はする。



アネモネの方を見る。ぶんぶん頷いている。


結局、対策できない内に襲撃されたらヤマトはまた無茶をする。違う手段を早い段階で手に入れるのは有り難いよね。



「で、でもボクかなり難しい研究も同時にやってて……やっぱりタリア王女のミスでとんでもない高難易度研究が上手く回ってないんすよ。人手を回してもらったりデータ共有したり本当に手が離せなくって。」


「あ、え、ごめんなさい。また何かやってたか私。」



どんなに難しくても答えが分かるので、難しさの判断がどうにも苦手で。天才ですみません。



「それが二つ目の話だ。ウラニア嬢、我はさっきの姉御との戦いで一か八かの反撃をした。自分でもあれほど上手く出来るとは思わなかったが、かなりの魔力を崩した。……分かるか?」


「……? ……!?」



話を一旦待って欲しいというように開いた手をばっと前に出して何か考え込むウラニア。



「……確かに……反転してる……!?エナジードレインって……!」

「だろう?聞かれて幾つか候補を考えていたんだが、我らには当たり前過ぎて一番の有力候補が抜けていた。エナジードレインを前方に撃つとき、力は後ろ向きに働いている。」


「そうか…そうか!うわ早く気づいて欲しかったすよライラさん!」

「だいぶ早いだろ。」


「他の候補も後で全部聞きたいっす。そうか、一つの反転する特別な凄い仕組みの魔法じゃなくて、こういうのを集めて整理して地道に組み合わせるんだきっと。うおおお、見えてきて嬉しいけどめんどくさい!」



あ、魔法の反転の話だったのか。そういえば随分前の事なのになかなか開発が進んでない。


「いや私に聞けよ!?私魔法の反転出来るよ!?」

「タリアさまを解剖していいなら体に聞くっす」

「ひっ…!?あ、そうか、髪の毛通して体の外も中も使ってるって話か。いやー…なんて説明したら…途中の式はちょっと……反転はこう……反転させるんだよ。」

「体に聞くっす」



「……我、今の興奮した。」

「ダメって約束したわ。」

「はい。」




セクハラから逃れて、少し離れた場所でボソボソとヤマトとマリウス王子が小声で色々喋っている。どうやら王子を一緒にサキュバスの街に連れていきたいらしい。


お硬い貴族が第十七王女とその専属研究員の女の子と一緒にサキュバスの街に行ったという報告をするのは大変そうだが、残念ながら選択肢は無い。



国との連絡作業とか事務作業とか全部第一王子が地味に地道に活躍してるのだ。こいつが居ないともう面倒過ぎる。全てが解決したらもうちょい報われて良い便利さ。


関所で面倒事が起きたように、なんやかんやで色々派閥とかそういうあれこれもあるにはある。そんなときに、はいこれ。大人気第一王子。



「ついでに格闘技学んできたらいいじゃんマリウス王子。本気のライラさん、素の肉体の強さと魔力による強化の素晴らしい融合バランスだったぞ。動きもヤマトとは別の対人系で面白かったし。」


「ふはははは!照れる!宜しければ挑発の無礼の詫びも兼ねてサキュバス格闘技をお教えしようじゃないか!」


「お願いします!必ずお礼もする!」



サキュバス格闘技ってなんだよ。あっさり釣られてがっしり握手してるし。そしてちょっと手の接触部から魔力吸われてる。慣れるとこいつちょろすぎるな。




「決まりだな。すっぱり決めちゃおう。手続きが済んで準備が出来次第、サキュバスの街に行くぞ!」



勇者の歓喜の声。こいつほんまに。


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