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口だけの理想主義者なんてダメなことくらい分かってるけれども



正直ちょっと実際の戦闘を舐めていた部分はある。

だって私天才だし。


必ず正解になるのだから絶対最後には負けないし。



けれど、今、私はかなり焦っている。



最適解の正解というのは、望み通りになるという意味ではない。


例えば明日寿命が尽きる人間を救えたりはしない。せめて安らかに過ごせる正解を見つけることになる。


すべての事故や災害が防げるわけでもない。天才で金持ちの王族の美少女でも出来ることには限りがある。



今も急な襲撃からこの街を守れているが、この先は?賢者の力が出す答えは、誰も見殺しにしていないか?




「落ち着いてくれ!タリア!大丈夫!大丈夫だから!」




無数の光弾が降り注ぐ爆音の中、ヤマトの声だけが響く。


落ち着いている。落ち着いているんだけど、どうしよう。私は頭脳で戦う知的天才戦士だから、戦場がうるさすぎて頭が回らないというのは結構な痛手なんだ。



やはり予想と本番は違う。爆音と閃光の中で冷静な判断しろなんて、もう私には二度と言えないぞ。


必死に腕輪を構えて庇うスキルを最大限に維持しているため、あまり耳も塞げないんだよ。きっつい。




「大丈夫だ!俺もかなり庇える!力を抜いて深呼吸しろ!多分タリアの判断が必要なんだ!!」




私を抱えて空に浮いているアネモネが痛いくらい私を抱きしめて、耳元で何か言っている。


「ーーー。ーー。」



だめだ聞き取れない。


アネモネの頬と手が耳に当たる。


どうやら私の耳を塞いでくれているらしい。でもまだうるさすぎる。まるで悲鳴のような爆音が



「ぁぁぁああ!わあああああああああああ!!!あ…むぐっ!?」

「タリア!!!!!」

「おわあっ!?!?」



一度口を塞がれたあと、遂に耳元でアネモネが叫び、ようやくヤマト以外の声を聞く。



「大丈夫!?落ち着いた!?」

「えっ全然落ち着いてるけど」

「嘘過ぎる!ずっと悲鳴を上げてたわ!!」



なるほど、いくらなんでも聞き取りづらすぎると思った。爆音に混じって私も悲鳴をあげていたのか。


体の中と外から爆音はいかに人体の耳の性能が高くても無理だよね。ここにきて可憐な乙女要素が出てしまった。愛らしさの化身で本当に申し訳ない。



「タリアお願い、私反撃に出たいの。でもタリアは空中から街を見ないと守れないし、敵が体当たりでもしてきたらそれは近接だから防げない。どうすればいい?」



出来れば私を勇者に抱えてもらって、自分は攻撃に行きたいという意味だろう。


確かにアネモネの空中戦も見たことがあるし、異世界の勇者に敵の抹殺を頼むのは何かが間違っている気もするので、良い選択だと思うんだけど……



一度深く呼吸して周囲を見渡す。ヤマトはいつのまにか警備の人らと陣形を組んでいて、恐らく私の予備となるような防御スキルを色々と発動させている。こっちを無言で見上げているが、意図は分からない。


アネモネは、焦っている。多分ヤマトがいつ反撃に転じるか分からないから。


街は守れている。自分の能力に感謝するしか無い。



恥ずかしながら自分が悲鳴をあげてる事にも気づいていなかったので、自分の焦り具合も実は実感しきれていないし、何に焦っているか理解出来ていないのも怖い。


全然落ち着いているつもりなんだけど、この手の震えは?




いやマズイぞ。マズイ。この感じ、このパターンはあんまり良くない。突然のガチの攻撃にビビったというのも少なからず無くも無いが、多分私の能力は何かもっと大事な危機に気がついている。なんなら私の直感も気づいている。理性だけが追いついていなくて言葉に出来ないような、不快なもどかしさがある。



必死に周囲を見る。守れている。守れているはずだ。間に合った筈。


実際にこの突然のふざけた卑劣アタックに対応できている。いつまで撃ち続けるんだというイラつきはあるけど、これならまだまだ守りきれる。



もっと必死に見る。範囲も十分過ぎるほど足りている。大きな街全体を余裕で庇いきっているし、恐らくヤマト達もカバーしてくれているから多少何かが起きたって保険すらある。


さすがに遠くの山や街の反対側の街道全ては無理だけど、そっちに弾は飛んでいないし、大丈夫、大丈夫な筈だ。誰も怪我すらしていない、筈だ。



「…………?」



いや。


やっぱり何かおかしい。何かおかしいんだ。だからこんなに焦っている。私は今すぐ何かをしなきゃいけない筈なんだ。それを知っている筈。何を見落としている?


もう一度見渡す。


街全体に光弾が降り注いでいるが、弾は全て庇われている。恐らく届かないであろう反対側のかなり遠くの街道すら全くの無傷だ。



もう一度空を見上げる。光弾の軌跡を。


もう一度街を見る。反対側の街道を。



「……違う。私だけじゃない。」

「どうしたのタリア?どういうこと?」

「反対側でも誰かが庇っている。勇者のバフを得た警備や衛兵…?でもこれは…」



ちがう。国家機密レベルだと。高級警備もそういって驚くような特別な規模だ。本来は奥義のような。


ようやく違和感に気づいた。この庇うスキルの範囲は私だけじゃない。誰か別のスキルが逆側をカバーしつつ私の負担を減らすかのように更に巨大に発揮されている。



さっきまで確かめていた感覚と明確にズレた、広すぎるスキルの範囲。途中から少しずつ減った負担。



私と同じ道具を私以上に使いこなせる、もう一人の人間。



「ウラニア!!!」



大事な研究員の名を叫び、彼女が作った次世代の魔法道具を再解析して自分への魔力負担を上げる。カバー範囲を出来るだけ奪い返す。



これを使える人間がもう一人だけ居たのに。きっと最初からどこかで気づいていたのに、激しい攻撃にちょっとだけ焦ってしまい判断が遅れた。いや違う、道具を受け取った時点で気づくべきだった。




「何!?タリア!?」



驚くアネモネに、私は自分のビキニアーマーの上部分であるブラ鎧を外して持たせる。



「お願いアネモネ!」

「!?!?!?!?」

「ウラニア!届けて!!」

「なっ……!」



魔法道具と、もう一つの発動位置であろう方角を繰り返し指差す私を見て、意図を理解し青ざめるアネモネ。



「心臓付近の素肌!着なきゃダメ!完全に覆ってもダメ!」

「あ……っ!」



今、だからそんな痴女装備だったんだって顔をしたぞ。このシリアスの急いでる時に。逆に理由のない行動なんて人間には無いんだよ。



「じゃあ下も意味…」

「黙れヤマト!」



魔力装備を最大限発揮出来る場所と言ったらそりゃ心臓付近か、その、下腹部の下あたりになるだろうが。バカが。カス性癖が。でも白衣貰っておいて良かった。まさか上だけ渡すような事態は想定していなかったので危なかった。



「アネモネ、お願い…!」

「……!でもっ私が戦わなきゃ……!」

「ウラニアを守って!」



アネモネがすごい顔をしてヤマトと私を見比べている。ごめん、今この状況ではヤマトじゃなくアネモネに頼むのが正解だと賢者の力も私の心も強烈に訴えている。



いま明確に動けるのは多分アネモネだ。ヤマトは警備も守ってるし予備の庇う要員でもある。そして私を連れ回すのは敵の攻撃を連れて行くようなものだから、なるべく動かさず高い屋根にでも置いていってもらうしかない。



私への近接攻撃が来たらマズイから、張り付いて守ってくれているのはちゃんと分かっている。でも今それは無い。警備も勇者も下に居る。


隙をさらす失策かも知れないけれど、姿をさらさず攻撃できている優位を捨てて敵が突進してくる僅かな可能性に固執するより、普通にウラニアを一刻も早く守るほうが正解の筈なんだ。



それにアネモネだってきっとウラニアは絶対に守らなきゃいけない人でしょ。



「うっ…ぐ……ッ!」



強く唇を噛み締めた後、ブラを受け取ったアネモネは私を軽くふわりと投げ上げて、同時にどこから取り出したのか例のろ過器を複数空に放り……



キンッという抜刀音が遅れて聞こえ、水筒みたいなろ過器が無数に切断され粉々になる。あの素材の剣ではない、聖乙女の短剣による本当に目にも止まらない超高速の斬撃だ。



『浮かべ!守れ!』



ふわりと投げ出されたままの私は、なぜかそのまま落ちることがなくなり、ふわふわとした光の粒子によるバリアのようなものに包まれる。これは……?



「タリア!お願い!出来る限り止めておいて!」



最後に泣きそうな顔で私に願いを託し、アネモネが閃光の降る空を高速で駆け抜ける。


大丈夫、私だって本当にどうしようも無くならない限りヤマトに無茶をさせる気は無い。



ふわふわと浮かびながら真剣な表情で見送る。一瞬で見えなくなったし、もう一つの庇うの効果も続いているので、きっと間に合う筈だ。



私には全くの想定外だが、恐らく私の能力はこの謎の浮遊とバリアまでも読み切ってアネモネを適任とした感じがする。正解、多分正解の筈。



……ところで、ふわふわと浮いているのは何で?



「……なるほどな。切り札を隠していたのか。俺も水がありがたいから油断してたわ。タリアの判断を待って正解だった。」


不敵な声。ヤマトが呆れたような困ったような顔で呟く。



「おいなんだその裏切り者っぽいセリフは。お前裏切ってたのかヤマト!」

「世界レベルの余所者に裏も表もねーよ。まぁアネモネの気持ちは裏切るけどな。」



お、おい。まずい。ちょっと待って。ごめんアネモネ、止めてって言われたんだけど、これ降りられないけど?いや降りたら街を見渡して守れないので降りるわけにもいかないんだけど、ちょっと待って。


これ止める手段無くね。



「警備の皆。王女だ。タリアへの近接攻撃さえ防げば何が起きても防ぎきれる。俺は余所者で、この街とこの国の本当の勇者はあんたらだ。信じて任せる。俺は巻き込まないよう離れて戦う。」

「「「「はい!!」」」」


「はいじゃねーよ!待て!ちょっと待って!アネモネの話聞こえてただろ!余計なことするなよヤマト!」



完全に私を無視して下で打ち合わせをしている。まずいまずいまずい。



「悪いが離れた街道だろうと河川敷だろうと破壊させるわけにはいかない。誰もが油断してしまうほどの余裕の圧勝じゃなきゃ、不謹慎という世論にあいつらが長期間邪魔されてしまう。」



ゴッという地鳴りが響き渡り、ヤマトの髪の毛が赤く光って逆立つ。元々尋常じゃない魔力を放ってはいたが、これは抑えていたとかそういうレベルでは無い。明らかに人知を超えている。周囲が歪んで稲光が走りオーラが吹き上がるような不自然な姿。



「痛ででで…っ。まぁ、こんくらい。憧れの異世界勇者で、憧れのシチュエーションで、シリアスな現実だ。こんくらいどうってことない。自発的にやる。でも報酬はもらうぞ。フクロウとサキュバスの。」


「報酬は何でもやるから余計な無茶すんな!安全に!私今は守りたいだけなんだって、皆を!」



にやりと頷いて、アネモネが向かったのと反対方向に飛び立つ勇者。あふれる魔力が光の帯として飛行の軌跡を残す。


いや、にやりじゃねーよ!!行くなって言ってんの!これだから戦闘好きな男どもは!


やばい本当にちょっと待って、行っちゃったんだが。どうしよう、泣きそうなアネモネの願いが余裕であっさり断ち切られた。気まずいじゃ済まないぞこれ。謝っても謝りきれない。



私も手が離せないのが詰んでる。しかも降りられない。これどうなってんの?アネモネは確かにろ過器を切っていたけど、この光の粒子は…?ヤマトは切り札って……いや、あいつに分かって私に分からんわけが無い。


必死に考える。アネモネはそれはもう四六時中ろ過していた。水の音で癒やされるとか言ってたし趣味になっていたんだと思うが、実益もあったって事だ。



……水じゃなかったって事?集めてたのは、逆?


魔力を帯びた砂を作り続けていた?




……いやなんとくそこまでは分かるが、だから何って話だ。それがそんなに凄い事なら、今頃もっと皆同じことやっている。私も不思議に感じたりしない。


誰にでもメリットがある事なら、ろ過器どころじゃなく河川にそういう設備が作られただろう。誰もやらない事を新発見みたいに扱って失敗しがちなのは大体やらない理由を見落としているからだ。



魔石みたいに大きく結晶化してれば色々出来るが、砂を集めたところで力の分散が細かすぎる。金鉱石の近くで砂金集めするみたいなもので、あえて微小なものを集めるよりそこらのダンジョンで大きな魔石を探すほうがどう考えても楽だ。アネモネなら私から魔石を貰うだけでいい。



いや、でもアネモネは近くの空気中の薄い魔力すら操っていた。あれほど自由自在に魔力を扱えるなら、結晶化して方向性が固まっているより魔力を帯びただけの粉末とかのほうが便利だったりするのか…?



うーーん……切り札と呼ばれるほどの実用性かも分からないし、なんでそんなことが出来てるのかも分からない。アネモネは妙に分からない。聖女とは。アネモネとは。



「……あれ?」



そして、若干騒音が小さくなる。一瞬理解出来なかったが、街の反対側でウラニアに起動されているであろう強大な庇うスキルの範囲が更に一回り大きくなったようだ。私の負担がかなり奪い去られていく。


恐らくアネモネが間に合ったのだ。ごめん。本当にごめん。私は今、頼まれたこと何も出来ず現実逃避して無関係な思考に溺れてるとこ。



アネモネは友達の期待を裏切ったりしない。私と違って。うっ胸が痛い。




かなり離れた場所から、一度何かの光が空に放たれる。


ヤマトが動き始めたんだ。


どうすればいいのか、などと呑気に考えている間もなく戦闘は始まってしまい、勇者の本当の力が解き放たれていく。



最初は数本。次の瞬間には数十本。光の束が、加速度的に本数を増していく。


それは空の穴から撃ち込まれる光弾と似ていて、けれどその数は比較にすらならない。



なにが謎のビームだ。


あれは、シンプルな魔法攻撃だ。古典的で、もう誰も使わないであろう、燃費の悪い魔法。



一瞬遅れて激しい雷雨の時のような破裂音が天から嵐のように降り注ぐ。



「うわああああ!?」

「!!」「うっ!?」


ちょっと浮いている私と、下に居る警備達が衝撃と音で思わず悲鳴をあげて怯む。


天からの轟音は止まらない。だが敵の光弾はもう降り注がない。



……いや、もう空の穴から何かが落ちてくるような隙間が無い。勇者による下からの攻撃で。立場が逆転したのだ。今は敵がずるい穴越しチート攻撃を受けている。



ぐねぐねと曲がる気持ち悪い魔力の収束砲が大量に空を駆け巡り、恐らくは尋常じゃない数による総当たりで穴を見つけて向こう側を徹底的に攻撃し尽くしている。



「あれは……まさか、ただのマジックショットを………?」



下の方で警備の一人が呆然と呟く。多分そう。


マジックショット、魔法弾、魔力弾。呼び名は色々あるがやってることは単純に魔力をぎゅっとして遠くに飛ばしてるだけ。


別名、人力水鉄砲だ。



凄い魔力の持ち主が極めればとても遠くまで小石の投石くらいの威力の攻撃が出来るだろうが、誰がどう考えても弓より弱い。矢を消費しないかわりに体力と魔力をアホほど消費する。


魔力系の攻撃が不便というわけでもないのだが、物質というのは言わばエネルギーを凝縮した塊であり、フワフワした魔力のエネルギーをめちゃくちゃ集めて石くらい固くして、それを更に別の魔力で発射するというのは、どう足掻いても最初から固い石を投げるより不利だ。



なんなら投石自体は優秀な攻撃手段であり、その距離や威力を伸ばせるような肉体強化魔法のほうが便利な上に圧倒的に強いのでシンプルに下位互換だ。


それが、膨大な本数で自由自在に空を駆け巡り、空の穴を穿っている。物理法則も魔法の常識もガン無視だ。まさか何か同時に別の魔法を使っているのか?



伝説の勇者だけはある。やってることが伝説レベルに古くて、でも格が違う。なぜ魔力を持たない異世界のアイツが知っていて膨大な魔力で使いこなせるのかは分からないが、確かに神話を見せられているみたいな光景だ。変な信仰や英雄譚が生まれるだけはある。



「タリアぁああ!」「タリアさまー!」



聞き慣れた声に振り返ると、聖女アネモネとそれに抱えられた研究員ウラニアという結構な美少女ペアが屋根伝いに駆け寄ってきていて、軽いジャンプ後にふわりと空中に着地する。


片方が白衣の下にビキニアーマーという狂った痴女研究員じゃなかったらなかなか幻想的で絵になったのにな。なんだその格好。しかも胸ぶかぶかだぞ。




「あれ?なんか反対側を守るみたいな感じかと思ってた。だからアネモネにお願いするしか無いって…」

「いや普通に範囲もっと大きくしたっす。ボクのはセーフティゆるいし、タリアさまとの二段構えだから多少チャレンジ的に変えれる保険があるんで。」



そういやデカくなってたわ。



「ご、ごめん、アネモネ、私止められなくって」

「ううん!ごめんなさい、分かってる、無茶な事言ってるって分かってるの!それよりヤマトさんはこれに気づいていた!?」




これ、とは多分私の周囲を覆っている光のモヤみたいなものだろう。多分ろ過器に使っていた砂?



「う、うん。切り札って……」



両手で顔を覆い、天を仰ぐアネモネ。本当に秘密の切り札だったようだ。本当にごめん。


恐らく、ほんの僅かでも私の防衛から離れるなら、切り札を使ってでも守りを固めるべきだと判断してくれたのだ。万が一にでも私を攻撃に晒さぬように。



それこそ理屈ではそんな僅かな可能性に怯えて使わなくても大丈夫だろうと分かっていて、それでも心で即断したのだろう。



「……あの、本当に申し訳ないっすけど、多分止めるっていうのは最初から無理でしたよ。」



そう言って右手の甲を私に見せるウラニア。それはもう眩しいほどに勇者の紋章が光り輝いている。



「最初、から?」


「はい。ボクと勇者さまは最初から広範囲の遠距離攻撃を予測して準備してましたからね。防御と、反撃の。アネモネさまにも夜ちらっと話したじゃないすか。」



アネモネと二人で唖然とウラニアを見る。



「そ、そういえば、ウラニアさん、覚悟が決まったって…」

「え?なに?二人でなんか話してたの?ここから更に私だけ置いてかれるの?」



一瞬黙ってこっちを上目遣いにジッと伺うウラニア。こいつ、背の低さも相まって見た目は本当に可愛いんだけど、こういうとき大体発言に容赦が足りないんだよな。口が悪いと損だぞ。



「か弱いボクが何の準備も無く街全体を庇ったって一瞬で死んで意味ないじゃないすか。」

「あれ…?たしかに…?」


「騙されたんですよ勇者さまに。ボクを守ってたのは勇者さまなんですから。あのとき怪しいコンボがどうこうって色々確認してたでしょ。」



スラスラととんでもない事を言うウラニアと、それを裏付けるかのように光り輝く紋章。私もアネモネも言葉を失うしか無い。



あいつ、さも警備を必死に守ってて動けませんみたいな顔してたが、言われてみれば本当はもっとくそ広範囲を余裕で守れるし、良く考えたら勇者のバフ付き高級警備だってむしろ自分らが周りを防衛出来る側じゃないか。


あいつ忙しそうな演技しながら裏でウラニアを集中して守ってたのに隠してたのか。裏も表もあるじゃねーか!



仲間のピンチを守って自分がダメージ引き受けつつそれを内緒にして戦略に使うとは、クズ野郎が!いや全然クズでは無い。表でも裏でも感謝しか無い。逆に感謝しきれん。くそっ面倒なやつめ!ズルして善行するな!




「お二人には悪いですけど、ボクはタリアさまの命と街の人の命が最優先です。その為に命くらい賭けるし、非道で痛みを背負わせると教わった上でも勇者さまを頼る。皆が助かった後でなら代償は命だって体だってなんだって払うっす。」


「バ…ッ!おばか!何を言っている!?」

「か、覚悟が!本当に覚悟しすぎてるわウラニアさん!?」



さも当然という感じに自然に言い放つウラニアが怖い。



「というわけで、切り札があることも読まれてたっすよアネモネさま。恐らく勇者さまが待っていたのは街の守りを誰かに任せられて、アネモネさまに止められずに全力で反撃できる状況っすからね。」



なぜこの大ピンチに仲間内で読み合い騙し合いをしてるんだ私達は。しかも誰も悪気なく、誰かを守るために。ややこしすぎるだろ。



「……ボクがこうやって長話で引き止めているのもそれへの協力です。ごめんなさい、無事に皆が助かってボクの命も残っていたら、後で必ず償ってみせます。」


「!!」「!!」



飄々と話すし、事情は絶対聞くべきではあった。でもウラニアと勇者のセットは基本的に頭が良く、デリカシーと容赦がない。何より覚悟のレベルが違いすぎる。今は勝てる要素が無い。会話するだけで負けていく。



ある意味では病み状態のアネモネより病んでるぞ。過剰も不足もダメなのは、正しさと優しさもだ。



一見知的で冷静なようだが、真の理屈的な正解は別に人の命を特別視なんかしないし自己犠牲も選ばない。それをよーく知っているからこそ私は感情と直感も信じている。


偏っちゃダメなんだよ、もうなんでもかんでもそう。偏りはダメ。


冷静な理屈という武器を活かすため、直感的な行動を押し殺して犠牲も許容しようとしているが、実際には全然心で納得していないからその犠牲を可能な限り自分で引き受けようとしすぎてしまう。



良くない二人を組ませてしまったかも知れない。


非常に頼りになるが、頼りすぎてはいけない。こうやって自分の知り合いが丸腰で広範囲を庇うような危険な正しさを目の当たりにすると、無理やりにでも勇者を止めたがるアネモネへの共感も深まる。



どうしてどいつもこいつも自分を大事にしないのか。



……実際に人を救うのは結局こういう勇者やウラニアだ。それは分かっている。英雄で、勇者だ。献身に人々は感動し、感謝するだろう。代案も無く邪魔するのは愚かなだけだ。



でも、こういう奴らにこそ無事に健やかに生きていて欲しい場合はどうすればいいんだ。




勇者を止めて街の人に犠牲が出たらどうするんだとは正直私だって思っている。だが、だったらヤマトやウラニアが傷ついても良いのかと言われるとこれも絶対否定しなければならない。



現実を見ていないお花畑な夢想論っぽさはあるが、例えば私が先にウラニアも庇う可能性に気づいていれば最初から装備を分けたり準備出来ていたわけで、簡単に夢想だと一蹴して逃げて良い話じゃないんだ。


現実的っぽい犠牲を伴う手段に簡単に流される方が、現実から逃げて思考停止している。夢想や理想は大いに求めなければ、出来たかもしれないより良い結末を見逃してしまう。


バランスなんだよ、理想と現実だって。それをもっと早く自覚してれば色々出来ていた。分かってるつもりのものほど分かっていなくて、いざ急に実戦となると全然活かせない。




「アネモネ!と、とにかくこれ一旦解除して!…でも降ろされたら困るんだけど!」

「う…!く……っ!」



私を包む光のモヤを解除すべきか一瞬迷ったアネモネは、聖乙女の短剣を珍しくゆっくり取り出し、まるで指揮者のように空をなぞる。


キラキラと輝く砂が今度は私とそこに降ろされたウラニアの二人をゆったりと大きく囲んでいく。



「これは……」



ウラニアが未知の魔法に子どものように目を輝かせる。


……けれど私は酷く気持ちが沈むのを感じた。



「……アネモネ…」

「……っ」




本当にそれで良いのか問うように名前を呼び、無言の肯定が返ってくる。



──アネモネは、恐らく今、ヤマトを止める事を諦めて私達を守ることを選択した。

私が切り札を使わせてしまい、私達を守らなければならないから、諦めた。


一番正解で、一番理性的だと思うけど、これは負けだ。


私もせめてアイツの痛みの原因や代償をちゃんと分析して対策しない限り無理させるべきじゃないと思ってる。思ってはいるのだ。



でも実際に目の前の被害を見捨てるのは難しすぎる。大勢の人の命がかかった重要な場面で、優秀で頼れる人を頼らないのは難しすぎる。今、それを私とアネモネは痛感している。




「う…っ!うう……!」


苦しそうに唇を噛み締め、アネモネが迷っている。そして



「うーーー!!」



ドスッ!と、それはもう止める暇も無く、一瞬で、聖なる短剣を自分の太ももに突き立てた。



「アネモネえええ!?!?なんで!!!?」

「ええーーー!?ごめんなさい、そんな!ボク、ごめんなさい!!」



パニックになる私とウラニア。



うちの研究員だって、さも現実見てて冷静でーすみたいな顔してたのに、実際に誰かが傷つくのを目の前で見るとこんなもんよ。まぁあんな自己犠牲の覚悟決めてる時点で、誰かが傷つくのが自分の痛みより嫌だって叫んでるようなもんだけど。


直感に従うか、直感を抑えて理論的に振る舞おうとするか、違いはあれど根本は一緒。



というわけで、つまり、私も同じく一緒にパニックである。何してんの!?!?




『……守れ……!!』



その瞬間、ものすごい魔力がアネモネから吹き上がる。これは、まるでさっきの勇者の……!?



キンッといつのまにか短剣が鞘に仕舞われ、刺した太ももには傷一つ無く、血も見当たらない。えっなに?手品?




「ヤマトさんは…っ!勇者様は、きっと、きっと私なら街を、二人を守れるって、任せたはず…。わかってる、私はちゃんと分かってる……」



思わずウラニアと二人で息を飲む。



「私は、私が嫌だから、勇者様を止めたい。私を救いたい。でも、でも、多分、今は、今だけは……。せめて、頼られた役割だけは……!」



金色に輝くアネモネ。必死に激情を抑えるように、深く深く呼吸している。



「……勇者様は、今日必ず傷つく。絶対に勝つけど、絶対に傷つく。それは止められなかった私のせい。……切り札とかじゃない。私がまだ弱いから。私一人に反撃を任せられるくらい強かったらこうはならなかった。現実を。負けを、認めるわ。」




私とウラニアの多重の庇うスキルに共鳴するように金色の光が街を覆っていく。これは、私達のスキルを何らかの手段でブーストしている…?



「……ごめん、なさい。ウラニアさん。タリア。気づかなかった。二人はとっくに勇者様と共闘していたのに、私は……」


「うぇええ!?泣かないでアネモネ!私もヤマトもめちゃくちゃ頼ってるから!自分で分かってないだけ!」

「うわああごめんなさい!?ボク、ごめんなさい!」



ポロポロと涙をこぼしながら私達に謝り、勇者の向かった方向から私達を庇うように前へ進み、剣を構えて空に浮かぶ。凛とした背中は格好良くて、儚い。魔力の奔流になびく、長くてウェーブのかかった金髪が光り輝いて幻想的だ。


泣き虫で強情なダークナイト聖女の、諦めと決意を秘めた後ろ姿はなんだか心に来る。ダークナイト聖女ってなんだよ。



ちなみに空を飛んでる私達の真下には警備がちょっと前まで居たが、見上げるととんでもないセクハラになるし私を守るために離れるわけにもいかないので、もうずっとひたすら少しだけズレた場所で困り続けている。



そして、アネモネの光に呼応するかのように勇者の力が更に何倍も大きくなり、反撃開始から一方的に攻撃し続けていた撃ち合いが更に圧倒的なものになる。



素手でも結構強いなんてとんでもない。あんなの気にするまでもない誤差だ。アネモネがあの程度なら隠そうともしなかったのも無理はない。桁が、世界が違う。こんなの人間が一人で出来て良い攻撃じゃない。


けれど、それを見るアネモネは何かから守るように私達の前に立ち、ヤマトは攻撃の手を一切緩めない。




「あ、あの、アネモネ、これもう勝ったんじゃないの?人の手でも倒せるみたいに言ってたじゃん。こんなん既に割と無理だけど?」


「私、もう油断しないわ。多分ヤマトさんも。」



その瞬間、ずしんという重い衝撃音が天高くから響き渡る。雷の音にも似ていたが、そうじゃないのはもう分かる。



「!」



身構えるアネモネ。震え上がる私とウラニア。




そして、ギィイイイという甲高い悲鳴のような音と共に空間が軋み、




空が、割れた。



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