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【アネモネの視点】何度同じ反省しても直せないのが一番辛い



【アネモネの視点】



深夜。タリアが用意してくれた研究所内の豪華な客室。



「ヤマトさん」

「うわあああああああああああ!!?」



ヤマトさんの居る部屋に、謝りにいった。



「ごめんなさい」

「なにが!?不意打ちホラーが!?」



鍵のかかった真っ暗な部屋で待っていると怖いと必死に訴えられる。



「勝手に諦めて、泣いてしまった。また加害者なのに被害者ぶってしまいました。」


「いや、あの、本当に大丈夫だから!むしろちゃんとそういうとこまで逃げずに考え続けてるの本当に偉いと思ってるんだよ俺!」



慌てて身振り手振りを交えてフォローして貰える。



……でも、ヤマトさんはその優しさゆえに絶対に勇者召喚を許してはいない。




自分の召喚ではなく。勇者召喚という仕組みを。




自分の被害を許しているのと、それが他者に及ぶのを許すのは全く別の話。


自分が召喚されたことは怒っていないけれど、自分の世界の別の誰かがまた誘拐されて兵器にされるなんて優しいヤマトさんは絶対に許しはしない。



別の話。


あまり主張すると周囲に罪悪感を与えるから、言わないだけ。だから、私に協力してくれるし見捨てないけど、被害者の立場から勇者召喚を責めて私を追い詰めないようにも気を配ってくれているだけ。



そしてヤマトさんは恐らく真剣に、具体的に、勇者召喚封印の方法をちゃんと幾つも考え続けていた。


私は、自分の罪から赦されたくて無かった事にしようとし続けていた。



……その大きすぎる差が、今日もまたはっきり浮き彫りになっていた。



結局ヤマトさんは誰かを救おうとしていて、私は私を救おうとしている。

気づく度に喉の奥が痛くなる。反省しても反省しても私は成長できない。



みんな同じ失敗しなければいいよって口癖みたいに言うけれど、最初の失敗は取り返せないのだから良くなんて無いし、同じ失敗の避け方だって分からない。


自然に生きていて起こしてしまったミスは自然には避けられない。だから常に意識して注意しなきゃって思うのに、いつも後から注意できていない事に気がつくんだ。出来る人がどうして出来るのか分からない。



謝っても謝っても同じミスをする私はきっと皆に嫌われても仕方ないのに、聖女という肩書のおかげで誰もが優しくフォローしてくれて、期待してくれて、でも何も返せない。



「いいや。いいや違うねアネモネ。俺だけじゃなくって、人は思ってるより素直で冷酷だよ。失敗には冷たいし、ダメな人に優しくなんかしない。そして君はダメじゃない。」



軽く手招きされて、ついていく。

広くて長い廊下を歩いたり、倉庫なのか見分けのつかない乱雑な部屋を見たり。



どうみても睡眠不足な疲れた顔をした研究者さんがあちこちで難しい顔して悩んでいる。


ヤマトさんが指差す先にはウラニアさんの失敗作であろう壊れた木人が廃棄回収待ちになっている。



「俺は、武道を志した者としても、研究職の人間としても、失敗しちゃいけないという考え方を否定する。同じ失敗に怯える必要も感じない。」



なぜか誇らしげにヤマトさんは失敗作の廃棄品を手に取り微笑み、強い意志をもった通る言葉が廊下に響く。



「開き直って失敗や他人への迷惑を気にしないのも違う。負けや失敗はそういうのも含めてつらいのが正しい。そしてミスは絶対にある。二度目だろうと十度目だろうと、失敗を絶対にゼロにしろなんて挑戦しない人間の戯言に過ぎない。失敗しないものを挑戦なんて呼ばないんだから。」



視線を向けられた研究者さんの一人が疲れ気味の顔で力なく笑って頷き、ヤマトさんがそれに会釈と妙な力強いポーズを返す。



「きつい時は逃げて良いとは思う。皆も口を揃えてそう言う。でもそれはきつい環境から逃げるのであって、やりたい事から逃げるんじゃない。大体逃げて救われるかも分からないんだから、それだってただの勇気が必要な選択の一つに過ぎないだろ?やりたい事の方を主軸に考えるべきだ。俺はそこを間違えて後悔した事がある。」



なぜだか自慢げに後悔を語るヤマトさんと、やっぱり何人かが頷く研究者さん達。気がつくといつもヤマトさんは誰かと仲良くなっている。


多分、上手く説明出来ないけど、なんでも出来るんじゃなくって、現場で実際に一緒にやって難しさを分かりあう仲間みたいな感じ?

なんとなく知識と会話力が凄くて打ち解けているんだと思っていたけれど、むしろ経験と共感のような気がする。似た経験を積んできたっぽい人への親近感というか。




「アネモネはちゃんと自分で決めた事を貫き続けている。嘘で逃げていない。甘さや失敗を認める事からも逃げていない。鍛錬も欠かしていない。抱え込んで病むのは心配になるが、辛さを正面から抱えて絶対に離さないのは尊敬できる。」



まっすぐ私を見て話すヤマトさんの言葉が今までに無いほどはっきりと聞こえる。耳というより心の奥にまで声が届く。




……きっと今までも何度もこういう言葉を言ってくれていたのに、聞こえていなかったんだと思う。


聞き覚えはあるもの。私に届いたのは今聞いた言葉だけど、言葉や伝える人が変わったわけじゃない。聞く側がちゃんと聞いてやっと言葉になるのを、私は今身を持って体験している。



タリアに日々心を軽くしてもらって、今日は散々泣ける環境も与えられ、愛する人に寄り添われて、甘いものを食べて、それでようやくヤマトさんの言葉を正面から聞き取れるようになった気がする。だって、違うもの。世界の色も音も、南に来てから全然違うもの。



「……私、やります」

「皆でやろう」



手を大きく広げるヤマトさん。多分視野を広げようというジェスチャーなのかな。



「どうせ女の人と話すの下手だからデリカシーとか捨てて冷たく言ってしまうが、今は誰かに責任を取らせる事なんかより目的を成し遂げることの方がどう考えても重要だ。邪竜からこの世界の人々を守り、勇者召喚から俺の世界の人々を守る。俺は仲間として君を頼る。どんどん仲間を増やして皆でやろうアネモネ。」



涙がこぼれないように唇を噛みしながら、必死に頷く。



絶対に、絶対に逃げない。私は。






####################################




少し夜風に当たってくると伝えてヤマトさんと別れ、外から研究所の屋上に飛び乗る。


びっくりするほど大きくて頑丈な施設だ。


ヤマトさんが、確か「こういうコンクリっぽい建物をファンタジーで見ると萎えるけど学校有り系ならまぁセーフか」みたいなことを言って、タリアにこっちの世界を舐めるなよと怒られていた。


なんだっけ、大昔の闘技場がどうとか。相当昔からあるだろとか良く分からない怒り方をしていた。


たまに変だなとは思っていたけど、タリアは段々ヤマトさんの世界のことまでかなり詳しく分かってきてるみたい。すごすぎて良く分からない。


ヤマトさんは私達の世界をファンタジーとよく呼ぶけど、ヤマトさんの世界の話を私が聞いた場合もファンタジーだとしか感じないもの。多分タリアだけが両方を現実的に感じている。




……晴れた穏やかな気温の夜。夜風が心地よくて、星も綺麗で、家々の明かりも心が安らぐ。


頼れる人に甘えながら泣いてスッキリしてる自分の幼稚さにちょっと恥ずかしさはある。


タリアとヤマトさんはちょっと似ているから、きっとどっちも泣くことの効果とかを理屈っぽく言って泣いていいんだとか言ってくるんだ。



あれはもしかしたらちょっと照れ隠しみたいなものなのかも知れない。ううん、理屈の大事さも信じてて、照れ隠しもあって、どっちもなのかな。どちらにしても、私は救われてしまう。



なんだか少し愉快な気分になって、いつもの練習もちょっと楽しくなってくる。


体の鍛錬が心を救ってくれるっていうのは本当だ。確かに何かが上手くなるほどそれが心を支えてくれるし、単純作業にもきっと救われていた。ろ過器もそうだけど、心が渋滞してる時って単純なものが凄く心地よい。



聖女なんて無意味な肩書ではなく、アネモネとして。せめて魔力の扱いだけは。これだけは誰にも。本気を出した勇者様にも負けてはならない。今は無理でも、必ずヤマトさんより前に敵を殺せるようになる。


別世界の他人に手を汚させる存在を聖女だなんて、よくもまぁ昔の人は恥ずかしげも無く言えたなと不思議に思う。


ううん。多分だけど、そういうことにしたんだ。本当はずるいのが分かってて、自分にも歴史にも嘘をついて正当化したんだ。そういうずるい悪意が無ければあんな召喚には絶対にならないもの。絶対に断ち切らなければ。




魔力を踏み台にして軽めに浮かび上がり、あの素材を取り出して剣を作る。



『これは、硬い、刃』



自分では意味がよくわかってなかったけれど、世界にこれが硬い刃の剣だと定義しているんだってタリアが言っていた。魔法というか本物の言葉?がどうとか、本当の名前がどうとか。やっぱりちょっとよくわかんない。



「回転。」



ぎゅいいいいんとドリルが回る。頼まれて回したのに不評だった。なんでなんだろう。


……もしかして、あれかな?別の回転するやつ。木とか切れるやつ。



そうだ。回転のこぎり。



ひゅいいいいいいっという高速回転の音がする。確かに絶対に強そう。そうだ、飛ばしたっていいかも。



「これだわ。皆の見たがっていた、かっこよく回転する剣技。」

「違うっすよ!話の流れは全然分からないけど絶対違うっすよ!」

「え!?」



不意に声をかけられ目を凝らすと、研究員のウラニアさんがいつの間にか屋上に上がってきていた。



「びっくりしたー!本当にびっくりしました!今それ試し切りするつもりで獲物探してキョロキョロしてたっすよね!?」

「はい」

「はいじゃなくて!いや怖っ!ほんとに急に残虐シーンみるとこだった!そんなん見たら泣いちゃいますよキッズな男共は!」




話を聞くとどうやら私がヤマトさんに泣かされそうになって外にフラフラ出ていったのを遠目に見かけたので、心配で追いかけたら屋上に飛び乗ったので追いかけてきたらしい。


実際泣かされそうにはなったけど妙に人聞きが悪いので必死に訂正する。



「でも勇者さまオークや触手にえっちな事されてる女騎士の漫画が欲しいって言ってたっすよ。多分酷い目にあって泣いてる女が好きなカス性癖っすよ。」


「……ここまでの流れ的にどうしてもヤマトさんをフォローしたいのだけど本当に出来ないの。その性癖の話は本当にフォロー出来ないのよ。」


「うっかりアダルト同人誌を休憩所に置いていたボクが悪いけど、食いつき方がやばすぎたっす」



せめて別の日に聞きたかった。その。情緒が。どうして今。




「男の人同士のエッチな漫画に食いついたもんだから一瞬期待しちゃったっすけど、単にアダルト同人誌があるという事が嬉しかったらしくてガッカリしました。そして即売会とか秘密の図書館とか余所者があまりにも裏の事情に詳しくて質問責めされてビックリしました。」


「…………ちょっと待って?もう少し詳しく話を聞いてもよいかしら?」


「おや?……おやおや?」



そういえば言っていた。タリアが。研究者から聞いたって。真の愛は男が男に向ける愛がどうとかって。



まさか。まさかこのいかにも明るく元気そうなウラニアさんが。あらたな光をくれてあれほど頼もしく感じた凄い人が。



「一つだけお教えします。」



ごくりと喉がなる。うそでしょ。



「私が、ではなく、私も、ですね。数多くの同好の士の一人であり、秘密の即売会を知る者の一人でもあるっす」




ああ、どうして。

思わず両手で顔を覆い天を仰ぐ。


せめて別の日に聞きたかった。

私、あんなに……。情緒が……決意が……。どうしてこんな……どうして今なの……?



「いやーしかし、とんでもない魔力操作ととんでもない剣を見せてもらえてラッキーです。ボクにとってはかなり有り難い体験です。」



ニコニコと可愛い笑顔。



「今後も色々見せてくれるなら、お礼に表裏問わず色々な面で協力するっすよ。色々な面でね。もちろん見返りは求めるっすけど。」


「なんでもします」



見た目は愛らしい年下の後輩のような人懐っこい笑顔の女の子なのに。ああ、どうして。


せめて今日は美しい気分で眠るべきだった。



眠れなくなってしまう。全然真面目でも重くも無い何かで、辛かった眠れない日々と違う良くない何かで今日は眠れなくなってしまう。



絶対今日聞くべきじゃなかった。たすけてタリア。




「……まぁ図書館や次の即売会が無事かは正直怪しいっすけどね」



不意になんだか寂しそうで、諦めているような影が差す。

「…まさか邪竜の話ですか?あれは倒せないほどでは…」



ふるふると首を振って否定するウラニアさん。



「……タリアさまは絶対に正解する。たぶんアネモネさま達はその意味と怖さがまだ理解しきれてないっす。」



不意に背筋がぞわりとする。不吉な悪寒。何か後ろめたさのような冷たい感覚。私はなにかに気づいていて見ないふりをしている…?



「聖女と勇者を連れてきたからにはそれが絶対に必要なんです。そしてタリアさまはその上で広範囲の人間を自分にしか出来ない方法で庇おうとしている。ご本人はともかく能力の方は間違いなく市街地を巻き込んだ厳しい戦闘を想定しているっす。」



「……待って、でも、私が、私が頑張れば……私が真っ先に敵を…!」

「言いましたよね、絶対に正解するって。必要ないならあの装備は生まれてないっす。」



怖い。これは、ウラニアさんのこの表情は、知っている。悪い予言を信じる信者のような理屈を超えた諦めの顔。でも、それが予言じゃ済まないのだとしたら、信者ではなくきっと誰でもこうなるのでは……それこそタリア本人でさえも。



「言っていませんでしたか?タリアさまは先にこの街を通り結界等の再調整をしていました。そして今この街にやってきた。ボクの研究もギリギリ動かせる段階まできた。強力な戦力も連れてきた。さすがに覚悟は決まったっす。」



空を見上げるウラニアさんに釣られて自分も見上げるが何も無い。邪竜…じゃなかった空割りドラゴン?は現れる前に空を割る。予兆は無い。でも、タリアは来た。



「これはヤマトさまとも話しましたが、一度勝った相手に油断するのは致命的に考え方が間違ってます。」

「油断……。」


「油断しています。よく考えて下さい。今回だって、一度失敗したあと数年単位の期間があって、何の準備もせず同じやりかたで同じ失敗をしに来ると思いますか?獣だって負けた相手に無策で再戦なんかしないっす。」



何かがガラガラと崩れていく。私の想定はいつも本当に甘い。自分のことしか見えていないから、敵のことも見えていない。タリアの焦りも、ヤマトさんが積極的に介入しだした事も、分かっているつもりで分かっていない。



ヤマトさんは複数体の可能性やもっと強い邪竜が居る可能性にすぐ思い至っていたけど、ウラニアさんの話も踏まえるともっともっと致命的な問題がある。あるいはヤマトさんもその強さの想定違いに気づいていて私に隠している。



二回目の襲撃というのは、二つの意味を持っている。


ウラニアさんは「今回だって」と言った。それは今回の話だけじゃないという意味だ。



一度目の襲撃で敗れた相手が、何らかの勝算か、戦わざるを得ない理由を持って再び襲ってくるという想定で考えるなら。


……遥か昔に敗れた伝説の邪竜が再び現れたというのも、「二回目」に該当する。


そして私達は伝説と同じ悪辣な手段で勇者様を召喚し撃退したが、敵はそれでも再びやってくる。



「まさか……数年前のドラゴンは……勇者様の様子見……?」


「あくまで可能性っすけどね。でもボクらは最初に切り札を使ってしまい、敵はそれでも引き下がらなかったのだから、相手にとって勇者の力は想定内だと思うべきっす。」



ギリギリだ。全てがあまりに都合よく、そしてギリギリだ。勇者召喚の殺し方を聞く前にこっちの話を先に聞いていたら私の心は間違いなく折れていた。


異世界から勇者にふさわしい優しい人を攫って最強の兵器にして、その人が負けて殺されたら……?私は、私達は、もっと別の人を沢山呼んで戦わせていたのだろうか。だって、勇者様より強い存在は恐らくこの世界に居ない。


教会の勇者召喚には私が必要だ。あれを動かせるから聖女なんだ。


私は……この世界の人々と、別世界から次々誘拐される被害者のどちらかを見殺ししなければならなかったかも知れない。もしかして、本来なら訪れる筈だった絶望的な状況からギリギリでタリアに救われている……?



何もしなければ最悪の悲劇が待っていた私と勇者様の物語を、タリアが書き換えている?



「タリアは……私の運命の人……!」

「おや!?どういう流れっすか!?」



星が光る深夜。私はウラニアさんの体が冷える前に彼女を部屋へと送り、貰った知識のお礼と今後のお礼を何度も伝える。


今は恐らく本当に時間が無いけど、もし運良く無事街を守りきれたら図書館を案内すると言われて、ヤマトさんがスケベな報酬で釣られていたのを思い出し苦笑いした。


そして本当に正直に言えば、確かにちょっと欲望があった方が心の余裕が生まれているかも。なんだか少しだけ笑ってしまう。




タリアの部屋に侵入して眠りにつく。


ウラニアさんは別れ際に一番真剣な顔で私に言った。タリアを守って欲しいと。私達の真の切り札はタリアであり、そのタリア本人が自分の力に振り回されて苦しむので、守ってくれと。



世界と、愛する人を守ろう。

あんなに後ろ暗い旅立ちから、私はこんなにも……。


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