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結ばれたい



「ねえ、あの、送ってから言うのって本当にダメかもなって思ってはいたんだけど、言いそびれちゃったんだよね……。」



全然わざとじゃない。わざとじゃないんだけども。



アネモネが聖女として提案した条件は


一つ目がモンスターの規模と邪竜の証拠。

二つ目が勇者召喚を求めない。

三つ目が防衛力強化の約束。

条件外の協力願いがアーティファクトの情報。



……勇者が今も健在な事を隠しているから、割と肝心な勇者の悪用禁止が無いんだよね。



「いや大丈夫だよ、さすがに見落としじゃない。俺はもう緊急時でも無いと表舞台に出るべきじゃないし、悪用される気もない。」


「あ、なんかあったのか。良かったー。わざと隠してたと思われてせこいとか裏切りとか言われたらどうしようかと。」


「隠そうとしてるんだから何もないわけ無いだろ。数年かけて色々あって色々終わって帰り方探そうねってエピローグのつもりだったんだよこっちは。」



業務上のとんでもないチェックミスを商品発売後に気づいたような青ざめきった第一王子がようやく呼吸を取り戻す。



「ぼ、僕は、てっきりタリア王女のトラップかと。気づいて心臓が止まるかと思った。」



こいつの私の評価はどうなってるんだ。



とにかく細々したことをやってる暇がもう無いような気がするので、宿で待機していた馬車は積み荷を乗せて先に南の中枢にある私の家に向かってもらったし、誓約書も国の方から聖女と賢者と第一王子の名のもとに最優先で動かして貰う事にした。


手柄が多少分散してしまうが第一王子を混ぜてやった為に動かせる範囲も広がり、さすがに超法規的な勢いで誓約書のみならず色々私の手を離れてギュンギュン動いているらしい。



動いてしまっているため今更気づいたマリウス王子が悲鳴を上げたわけだが。



「しかしこれでようやく一つだけ肩の荷が下りたかな。目の前のやるべき事を見過ごせない状態でこれが遅れそうなのがどうにもストレスだった。マルチタスクって結局どっちかがずっと重荷だし同時に出来ないし全然マルチじゃなくて嫌いだわ。」


「本当なら私がもっともっと時間をかけて動かそうとしていた案件よ。遅れるどころかタリアは大幅に時間を短縮しているわ。」


「やっぱり天才なんだよね私って。」

「そうよ。パートナーとして誇らしいわ。」

「あれ、親友からまた何か呼び名が変わってるな。」




通信を終えて事態が一つ動き、ようやく息をついた一時の休み時間。


観測所から町に戻ってもいいのだが学者達はまだまだ大忙しだし、もし別の町に移動したほうが良いような分析結果が出るなら早めにスケジュールを整えたいので、脳をリフレッシュさせたら手伝いに行かなければ。




#########################





「そういえばタリア、言い忘れてたんだが今後中央で現れたような空を割って出てくるドラゴンを空割りドラゴンって呼ぶことにした。」


「急に何を言ってる?」



ひと仕事終えて町に帰る道中、突然ヤマトがダサい名前を認めさせに来る。確かに一発でどんなやつか分かって便利ではあるがダサい。



「更に言い忘れてたんだが、俺は空割りドラゴンが複数いて、しかもタリアが想定している邪竜とは別のドラゴンじゃないかと疑ってる。」


「もっと早く言えよ!?はぁ!?いや、あれ?ちょっと待って、どういうこと?」



そして突然驚愕の情報が告げられる。えっじゃあ勇者は人違いというか竜違いで喚ばれて伝説って程でもないドラゴン倒しただけかもって話?


そういえば勇者召喚封印したがってるわけだから勇者じゃなくても倒せた想定なんだろうし…邪竜って弱いじゃんって勘違いしてたけど普通に違っただけかもって事?



やばい、完全に教会や聖女には独自に邪竜を断定する知識があるのかと思いこんでいた。じゃあもう誰にもどれが邪竜か分からなく無いか?



「い、いや?何かおかしいぞ。邪竜がどんなドラゴンか分からないならその空割りドラゴンが邪竜じゃないとも判別出来ないじゃないか。」


「まぁまだ推測程度だ。大体俺はタリアの言動のおかしさで気づいたんだぞ。伝説の竜が数年ごとにホイホイ出てくる事にお前が違和感覚えてない方が変だわ。」


「そりゃ違和感はあるけど、勇者が召喚されて邪竜倒したって言われたらそうなんだって普通思うだろうが。『勝手に邪竜だと思い込んで召喚しちゃっただけじゃないのぉ?』とか疑う方がビックリするわ。そんなわけないだろ。」


「死んでお詫びするね」


「ごめんごめんごめん!!!嘘!実はよくある!昔の技術ってそういうのよくあるんだよなぁ!だって昔だから!!歴史に現代の感覚を勝手に当てはめるのが傲慢っていうかぁ!!」


久々に短剣がアネモネの胸元にあった。キンって抜刀音が鳴ってからじゃ遅いのが本当に怖い。


なんかしれっとついてきてるマリウス王子は見慣れていなかったらしく声も出せずに青白い顔でパクパクしてる。



いやしかし、そんなわけあるんだなこれ。嘘でしょ、あれ邪竜じゃねって思ったら勇者を喚べちゃうようなノリなんだ。設計や仕様書が現代にあるまじきレベルでガバガバすぎる。


でもそうだよな、根本的には手に負えない別格のモンスターへの対抗策に昔の人が編み出したってだけだろうから、邪竜だの勇者だのは後付けで決められた筈だもんね。



なんか急に不安になってきたな。そんなガバガバな昔の儀式なのに、出てくる勇者自体は現代から見ても強すぎるってなると、今の私達の感覚じゃ絶対あり得ないような外道魔法の気配がどんどん強くなってくるじゃん。薄々そんな気はしてたけど余計頼りづらくなってきて嫌だなぁ……。



「や、ヤマト、私の言動がおかしいってのは何?」


「下手なこと言って意識させたせいで最適解からズレると困るし、黙ってたせいで気づくのが遅れるのも困るので返答に迷うな。タリアはどっちが正解だと思うんだこれ。」


「関係ないからどっちでもいい。私の天才性と私の選ぶ正解が揺らぐことは無いからなガハハ。」



「じゃあ天才様にはこれ。アネモネにも、はい。」



ヤマトから折りたたんだ紙を渡される美女二人組。なんだろうと思って開いてみると、それは地図の読み方講座と、色々書き込んである南の国の地図だった。



「……」「……」



黙ったまま露骨に嫌そうな顔をする私達。



「俺からのサプライズプレゼントだ。最低限地図が分からないと詳細な説明できんし。」

「お前は一生モテないよ」「なんで私もダメだってバレたんだろう…」



「なんとか夜中までにその地図使えるようになって次の目的地を地図で示せるようになってくれ。もしかしたらタリアの能力は明日にでも出発したがってるかも知れないが、タリアがアホなせいで分かってないオチかも知れない。」


「あっそういえば元々はもう出発してる予定だったわ」


「日が沈むまでに地図習得な。マリウス、先に教会のあの部屋借りに行こう。アネモネ、抱えて飛んできて。」



それまで普通に道なりに山を下っていたのに、勝手に指示を飛ばして木々を踏み台に空へと駆け上がっていく勇者。そしてそれを追うまだ顔面蒼白のマリウス王子。


いや勝手に仕切るなよ。目の前に天才が居るのに全然頼らず仕切るなよ。私の出番と役目が食われていく。



そしてアネモネにお姫様抱っこで抱えられる私。わぁいい匂い。



「あ、あのう、でもこのポーズで狭い木々の間とか飛び上がられると私の顔面と枝が仲良くなりすぎる危険性があると思うんだよね。」


「私、気分が高揚してきたわ。」

「あっ話聞いてないなこれ。聞こえない状態になってるな。」



アネモネが存在しない足場を踏み台にぴょんぴょんと空へ登り始める。間近で見るとどうやら大気中に含まれる魔力の成分とかを、こう…冷やしてギュッと集めて、足裏にそれと反発するような魔力を発生させてるみたいだ。そんなこと人間に出来るんだ。



なるほどなるほど、素材加工でも思ったけどアネモネは多分魔力を操作するのが尋常じゃなく上手いんだな。


必死に思考を巡らせて、パラシュートも無ければ安全ベルトも無い空の旅が間近に迫っている事を考えないようにする。


様々な魔法事例の注意喚起が載っているヒヤリハット資料で見た、飛行魔法で失敗した研究者どもの末路が脳裏をよぎる。本当に怖い。幸い木々や枝に顔面をぶつける心配は無くなったが、背の高い木々よりも遥か上空に居る状況は頭をぶつけるより二億倍くらい怖い。



「あ、あ、いや安全ベルトは欲しいな?アネモネ、私を何かで結ぶ気は無い?」

「……喜んで。私と結ばれてくれるのね、タリア」


「ん!ちゃんと聞いてないな!話をさ!!紐!紐でいいの!結べるなら!」

「大丈夫よ、ヒモじゃないわ。私ちゃんと働けるもの。うん。とても高揚してきたわ。天にも登る気分よ。」


トーンという軽いステップで本当に天に登っていくアネモネ。もしその腕の中に私が居なければ聖女のジャンプ力ってすげーって褒めてた。



「ぎゃああああああ高い高い高い!待って!登るのも怖いけど、本当に待って!?」



何度目かの多段空中ジャンプが頂点に近づくにつれて、登るよりもこの先の方が怖いことを本能が察知する。



あ、内臓がふわってする。なるほど、自分の意志じゃなく飛び上がったり空から落ちると体が中身から先に浮くみたいな感覚がするんだなぁ。


山よりも遥かに高い空から、地面へと落ちていく私達。およそ人間のジャンプで見て良い景色では無い。



「ぁぁぁぁあああああああああああ!!!こわあああああああああああ!!!」

「うふふふはははははは」



高笑いしながら落ちていく聖女と絶叫してそれにしがみついている王女。


全く減速する気配が無いまま眼下に町が近づいてきて、あまりにも怖すぎて一瞬目を閉じた瞬間



……私達は音もなく教会の鐘の上に立っていた。



「……!?!?!?」



減速は!?衝撃は!?!?何をどうやった!?


減速も着地の感覚も何も無かったので体の感覚がおかしくて気持ち悪い。全力疾走していた馬がなんの慣性も反動も無くピッタリ止まったみたいな気持ち悪さだ。


いつのまにか姿を隠すマントみたいなのに二人一緒に包まれていたらしく、何事も無かったかのようにそのまま鐘のある場所から教会の中へと入っていく。不法侵入だね。



「……あ、あの?あれ?私まだ思考が追いついてなくって…?何がどうなった?」



そっと降ろされるが足がガクガクしてうまく立てないです。



「私達結ばれたわ」

「うん、今日中に安全ベルト作るよ私。」


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