逆手持ち双剣
知らない内にすごく疲れていたのか、昨夜は爆睡してしまった。
いつベッドに行ってどうやって寝たのかもよく覚えてないレベルだったし、部屋も間違えてしまったのか、目覚めたら一緒に寝ていたらしいアネモネにしがみつかれていた。
朝日に包まれながらぼんやりする頭でモタモタと身支度をしていると急激にお腹が減ってきて、既にアネモネが部屋に持ってきてくれていた食事に飛びつく事になる。
昨日夕食も食べられなかったから気を利かせてくれたわけだ。光のアネモネの真価を知った。素晴らしい。素敵。お嫁にしたい。
一緒に寝ていて起きてからも一緒だったのに、出来立てのパンをいつ取りに行ったんだろう。
っていうか身支度してて思ったんだけどここ私の部屋では。
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昼過ぎまで周囲の様子を調べたり聞いていたが、謎のダークナイト様くらいしか異常は無かった。ダークナイトって何?なんかまだちょっと調子悪いのかも。天才賢者の私がこんなに色々分からない事ばかりなのって人生であんまり無いよ。
アネモネに抱えられて登山というか空を飛び再び観測所に行くと、まだ明らかに準備が出来ていなくてバタバタと忙しそうにしていて、この知的美少女プリンセス戦士が手を貸そうとするのだが普通に断られて腹が立った。
「なんでだよ!昨日はなんか答えを急いでくれみたいな感じだったじゃん!頼れよ、私を!」
「ちょっと準備がいるんで!後で!後でお願いします!」
「意味わからん、知力の分野でなんで私が後回しになるんだよ。」
「地図が読めないからじゃないか?」
「黙れヤマト!」
待っている間にこれをやっておいてくれと、ヤマトにテスト用紙みたいなものを渡される。
「おいまさかこの天才プリンセスに知能テストやらせるつもりじゃないだろうな。ちなみに私はテストで本来満点しか取ったこと無いし、式が書けないからとかいって減点されることに一度も納得したことが無いぞ。」
「地図の他に何が分からないのか判別しないと使いづらいから試させてもらう。地図の他に。」
「やめろ連呼するな。少しくらい得手不得手もあるだろうが。」
「得手不得手があるんじゃないか。はよやってくれ。」
ぐ、ぐぐ、こ、こいつ、ほんまに。何が勇者だ。小賢しさのほうが目立つわこいつ。
渡されたテストには箱の展開図とか図形問題とか心理テストみたいなのが並んでいる。明らかに空間把握能力とかが無いと舐められている。ちょっと苦手なだけなのによくも私にこんな子供向けテストを。
「……(ちらちら)」
「う、うぜーーー!!意味ありげに無言で時計を見るな!!」
煽り性能が高すぎる。許せん。
即座に答えを書きなぐる。勇者のやつ、変な知能テストを知っているなこれ。妙な雑学ばかり知ってて異世界人だるすぎる。どう見ても子供用だしこっちにもあるのは簡単だけど、ヤマト発案っぽい鬱陶しい問題も混ざってて地味に変な引っ掛かりがあり、普段よりちょいちょい時間を取られる。
だが舐めるなよ。私より早くこのテストを終わらせられる人間は居ない筈だ。ほぼ即答だらけなんだ、負けるわけがない。
ざざざっと最後まで一気に書き終わり、ヤマトにテスト用紙を突きつける。
「ほら!何が待っている間にだ!こんなの時間つぶしにもならんわ!」
「なるほどすごいな。答え合わせしてくるからちょっと待っててくれ。」
涼しい顔をしてヤマトは学者たちと合流しテスト用紙を持ってどこかに行く。間違いなんてあるわけないだろ私天才なんだから。だが凄さを自覚してくるがいい。
「酷いよねアネモネ、いきなり王女の知能テストする護衛とか聞いたこと無いぞ。」
「……ソウネ」
「よーしなにか隠し事あるなこれ!」
「違うの!お願い待ってタリア!もう一度挑戦させて!」
隠し事が下手過ぎる。本当によくそれで勇者を隠し通そうと思ったね。
「アネモネ、ちょっと私の目をみてくれる。」
あからさまに目を逸らすアネモネの顔を掴み、目を合わさせる。
「天才を舐めないで欲しいなアネモネ。さてはテストに私が意識せず答えられるような観測データ混ぜたんでしょ。寝てる間に何か会議したね?」
「……!……!!」
信じられないくらい目が泳いでいる。ヤマトや学者たちはどうやら私に先入観などのノイズを排除した簡略化した質問をしたかったらしい。言えよ。いや言ったらダメか。でも今バレたよ。
ついでに何か会議で悪口言われてなかったか探っておくか。
アネモネの顔を両手でそっと挟み、顔を近づけて目を合わさせる。
「アネモネ、」
「ちゅっ」
「…なんでやねん」
普通に口にキスされて、質問を封じられる。思ったよりとんでもない手段を持っていたぞ聖女。乙女創作物のイケメンか何かか?強引すぎるだろ隠し方が。
「しまった、つい!?」
「ついじゃないが。」
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しばらくアネモネとイチャイチャさせられていると、勇者と第一王子が学者たちを引き連れて外に移動しはじめる。
「タリア、アネモネ、俺とマリウスは今から通信する。非戦闘員は建物から出ないようにしてくれ。」
「すごいな、一切私に説明しないまま次の段階に行く気じゃん。」
「もうどうせバレただろ。急いでるからまた後でな。あとこの戦闘の協力も報酬にカウントしといてくれよな。」
バタバタと出ていく野郎共。
いや。いや?全然許せんがあいつら。人を道具みたいに扱いやがってからに。
「……アネモネってさ。なんでかよくわからんけど意外と強いよね?」
「すごく強いわ。」
「通信ってさ、その波長次第で同じの使ってるモンスター呼び寄せちゃったり、変なとこに通話繋げたらいきなり死霊に死の呪文を唱えられたりするから危ないのよ。運用費と人件費がばか高いわけ。」
「知ってるわ。」
「ヤマトが活躍しすぎたらさ、まぁそれなりに報酬が必要になるし、あまり無茶もさせたく無いじゃない?」
「あの粘土みたいな魔法素材を一つ欲しいの。使うから。」
「任せた。」
今この瞬間からアネモネはもう本人が嫌がってる聖女ではなく戦友になってもらう。
「どうせ嫌がってたし、もう聖女扱いより戦士でいいよねアネモネ。」
「すごくすごく嬉しいわ。でも今の私はもう戦士でも聖女でもなくダークナイトだけど。」
「何があったのか全然よくわからないけどじゃあダークナイトね。」
謎のダークナイト隣に居たわ。
アネモネに素材を渡し、自分の分の魔法石も用意する。
「タリアは待ってるんじゃないの?危ないわ。」
「聖女をダークナイト?にして私が動かないわけないでしょ。」
魔力反射する魔法石を投げて、雷の魔法石を使う。跳ね返ってきた電撃が私とアネモネに近づく前に弾けて掻き消える。
「遠距離攻撃無効なんだよね、このビキニアーマー。戦士としての最高装備なのよ。」
「タリアって本当に天才なのにおバカよね。」
「あれっ!?なんで!?」
おかしい、国宝素材装備が褒められる場面では。
「近接戦闘が強いなら無敵だと思うわ。」
「近寄る前に投擲で倒す予定なんだよ。こっちは遠距離無効だから一方的に攻撃出来る。完璧でしょ。」
「どうしてオークや触手に捕まってたのかよく分かったわ。近づかれたらどうしようもないのね。もし一緒に外に出るなら、私が近接にならないようにするね。」
信じられない、私でも気づかなかった弱点をあっさり見抜くなんて。まさか聖女っぽい事以外は天才なのかアネモネは?それはそれでどうなの。
ヤマト達を追って外に出ると通信はもう始まっていて、危ないから建物から出ないように注意される。
「お、おい、俺とマリウスの連携も試したいし余計なことせず安全なとこにいてくれ。」
む、なるほど?
「じゃあ一戦目は任せる。」
少し離れた場所でかなり高級な結界用の魔法石を使って、安全な見学地点を作る。
「小部屋程度だけどこの高級結界魔法石より安全な場所は今この付近に無い。ここで次を待つ。二人の力も把握しておきたいしな。」
「ああっタリア様がまた無駄遣いしてる!」「散在王女!」「金持ち!」
第一王子の兵達にも大絶賛されている。
「うーん、どうするよマリウス。」
「この程度で後ろが守れないなら邪竜もダメだと思う。立場と常識的には絶対に止める場面だが、僕はいいよ。」
「おっ意外だ。」
「ちなみにあの結界は多分ヤマトくんが思ってる数百倍高い。大きくて豪華な家が買えるからね。」
「百倍で足りるかよ。聞くんじゃなかった、王族め。」
ヤマトが不意に手を上に突き上げ、何らかの魔法を発動させる。
そういえばもしかしてちゃんと勇者の力を見るのは始めてじゃないか?主にアネモネに妨害されていたからだけど。
キンッという音が聞こえたときにはアネモネがもう短剣を抜いて身構えていた。なるほどね。てっきりなんやかんやで許されたのかと思ったら、ヤマトが無茶したら力ずくで止める気なんだね。
「アネモネ、悪いがもう知り合いやほぼ全て気づいているタリアに隠している余裕がない。」
「分かりますが無茶まではさせません。」
「無茶じゃない範囲を探るためにも今日はやらせてもらう。」
ブゥンという振動音のようなものと共に勇者の掲げた右手が光り輝き、誰でも知っている見覚えのある紋章が浮かび上がる。本物の、勇者の紋章だ。一種の特別な魔法陣。あいつの世界で言えばルーン魔術に近いのかな。
おおおとざわつく声が広がる。一応伝説の勇者がその力を使う場面なので、性癖がカスなのを考えないようにしたら神々しい眺めではある。
「ヤマトくん、多分通信に乗った死霊が最初に来る。その後も不定形が多い。」
「分かった。」
おお、マリウス王子も何らかの索敵が出来るのか。こっちはこっちでアネモネとちょっと近しいものがあると言うか、第一王子とか学問の国と関係なさそうな部分がやたら優秀っぽいぞ。
見るからに騎士っぽい鎧姿で両手剣を構える王子と、ラフな服装の勇者。これちょっと撮影しておこうかな。特定の真実の愛が好きな研究者達との交渉に使える気がする。
『勇者は、一人の称号では無い』
え、なにそれ。
ヤマトが呪文なのか意識高いセリフなのかよくわからんものを呟くと、周囲の兵や私の手にまで勇者の紋章が光り輝き、見たことのない防壁と身体強化らしきバフが発動する。
昨日の少女の手にも微かに宿っていたからなんとなく分かっていたが、勇者は意外にも支援魔法が得意らしい。
そしてさっき呟いていたセリフが紋章に刻まれている。
呪文自体珍しいが、私にも全く見覚えのない未知の魔法だ。私ってば加護とは別で趣味でも魔法石や魔法関連には詳しい博識美人王女だけれど、それを踏まえても全く知らない。魔法のない異世界から来た人間の魔法。
勇者独自の魔法としか言えないが、それをヤマトに教える人間も居ないだろうし…まさかこれヤマトのオリジナル魔法って事か?なんで魔力も無い異世界人が未知の魔法を編み出しているんだ?何かちょっとおかしい気がする。
というか私の手めっちゃめちゃ輝いてて眩しいんだけど。
「……タリアって割とロマンとかにも弱いわよね。さては意味が通じてないでしょ。」
「えっ何?どういう事?」
アネモネの方を見ると、光のない目で私の手の紋章を見つめている。そして周囲の人間でアネモネだけは手が光っていない。
「おい嫌な予感がする。一人だけ省くみたいなのはやめろヤマト!」
「ち、違う!俺の意思で対象が変わる魔法じゃない!」
ズシンと重くなる空気。闇のアネモネが今日も元気でとても重力が強い。
「タリア、刻まれている紋章と文字の通りよ。あなたには勇気がある。そして誰もが誰かの勇者になれる。マリウス王子も、民を守る兵も、妹を庇う少女も。国を救いたいタリアも。」
「な、なるほどね。ヤマトぉ!」
「だから選べないんだって!広範囲での条件発動魔法なんだよ!」
「ヤマトくんもう来てる!もう敵来てるから!無理しない感じにね!」
騒いでいる間に死霊やら電気系の魔物が通信機から飛び出してきて、マリウス王子が出てきたそばから即座に斬っている。元々学問の国にあるまじき強さの持ち主だが、また随分凄まじい強化を受けていて魔力が迸っている。
これはなかなか。私はまた知らない内にとんでもない正解を引いていたらしい。この二人を組ませるとかなりいいぞこれ。マリウス王子とその兵まで強化されるなら勇者単独の戦いと比べて防衛戦の余裕がかなり変わってくる。しかも強化魔法だけじゃなく魔法防壁まで貼られてる。お得すぎるぞ、勇者。
「これを見れば誰だって勇者様を頼りたくなるでしょう?どんな凶悪な魔物が現れても被害者を出さなかったわ。あれから私の見てきた事件で傷つき苦しんだのは勇者様だけ。タリア。見せたくなかったけど見た。あなたの判断は?」
思わずごくりと喉がなる。これは間違えると非常にまずい。光のアネモネに優しく懐かれても闇のアネモネが容赦してくれるわけじゃないのが非常にわかりやすい。
あまりにも便利だ。頼らないのは嘘。少なくともこの魔法には間違いなく頼る。
しかし確かにほぼ戦っていないのにヤマトの表情は痛みを隠す嘘の顔をしている。正直見れば一発で鑑定出来ると思っていたが、ありえない魔法を存在しない魔力で発動しているので何がどういう痛みを生んでいるのか理屈が理解出来ない。
魔法を発動する姿をハッキリ見るまで気づかなかったが、あいつ、体の構造が何かおかしいぞ。力の流れが不自然だ。
……状況から考えても、私の能力から考えても、体の中に魔力を生む異物を埋め込まれてるとしか思えない。
ヤマトの妙な自己治癒も何らかの加護なのかと思っていたが、加護というより勇者の力って物理的な埋込式なのか?だとしたらだいぶえぐいぞ、確かにアネモネ達が封印したがる位には非道な事を必ずしている。そうじゃないと成り立たない気がする。
取ってやるべきだと思うが、異世界の成分を毒に感じるやつから毒も治してるかもしれない埋め込み装置を取って大丈夫なのか?
「……アネモネ。多分、大丈夫な範囲で頑張ってくれるっていう話になってるんでしょ?」
「そうね」
「私も恐らくこれには必ず頼ると思う。」
「……」
光のない目がじっと見つめている。
通信機の側ではマリウス王子がほぼ一人で魔物を瞬殺し続けている。別に何の強化が無くても倒せるには倒せる力の持ち主の筈だが、これほど圧倒的に強くなるなら話が変わってくる。これは絶対に必要だ。
「恐らく非道なやり方で、代償を伴う力を使わせているのは分かった。これを悪用したら私も怒るよ。かといって救えると分かっている方法を捨てて人を見殺しにも出来ない。」
「……」
あ、あ、まずい、空気が重い。考えろ、考えろ。
「し、視点を変える。まず最初に解決すべき問題は痛みなんじゃないか?どうせヤマト自身も人を見捨てられない。痛みを伴う力の使い方の改善だ。」
「……」
「鎮痛だけなら簡単だが、痛覚は大事な信号だ。痛みを感じなくさせるという方向の話じゃダメだと思う。むしろ今の状態こそ見えない傷を我慢できるからと軽んじている危ない状態かも知れない。頼るなら、改善してから。」
「……なる、ほど?出来るの?」
「出来ないなら私は無理に頼らない。というか大事な場面で重大な傷が発覚し頼れなくなる可能性だってあるわけで、感情を抜きにした理屈としても痛みを我慢させたままの無茶な運用は正しく無い。」
「…うん。そう。そうよね。」
「……ただ、正直に言うと間に合わないままヤマトが自分で無理して動く場面が来そうで怖い。現にあの姉妹はそうだった。時間さえあれば絶対にどうにかするけど、どうにもそこが不安だ。」
「…タリアは、時間が不安…」
光のない目がまたしばらく私をみつめていたが、すこしずつ光を取り戻していく。もしかして許されたってことなんだろうかこれ。
「分かったわ。時間ね。」
「う、うん、私も急いで研究を動かすから後で通信使いたい。」
「時間に関してはタリアのせいにしないわ。あなた以上に焦って早く動いている人は居ないし、あなたの代わりを出来る人も居ない。」
お、お、一旦通ったのでは。合格では。
「でももう一つの選択肢も見てもらう。私、ヤマトさんが力を使う前に敵を殺すって伝えたわ。」
あ、ダメだ、早速光が消えた。今日は点滅が激しい。
「見てて、タリア。ちゃんと。私の力を。」
私に私の人形と濾過器を預けて、アネモネがゆっくり通信機へと歩いていく。色々細かい部分に目を瞑れば、セリフと動きはめちゃくちゃかっこいい。
「ヤマトさん、マリウス王子、どいて下さい。」
「えっ!?」「い、いや、しかし!?」
男二人だけじゃなく、周囲もざわついている。勇者の魔法で盛り上がっていた中、ただ一人紋章が輝いていない美少女が戦闘しようとしているので無理もない。聖女だと知ればざわつきどころじゃ無いだろう。というか何人かは知ってそうで凄く動揺してる。
「ここからは私が殲滅します。どかなくても良いですけどその場合はちゃんと避けて下さいね。」
アネモネがさっき渡した素材を右手にかざす。
『これは、硬い、刃』
そしてまさかの呪文式魔法被り。日に何度も珍しい呪文の発動を見ることになるとは。
呪文と言うか命令だけど。こっちはオリジナルじゃない。古いと言うか大昔の原初のレベルだが知っている。多分意味が分かればヤマトが大はしゃぎするであろう本物の太古の魔法だ。
アネモネが呟いた途端、本来膨らませて削る中間素材は一瞬で言葉通りの硬い刃の剣となる。
固く尖り、刃は荒く、ただ持ち手の部分だけ細くしたような無骨な原初の剣だ。何もせずとも完璧にぬいぐるみまで作れる優れた技術者が、強く魔法を込めて練り上げた魔法剣だ。
すごい、教会由来なのかアネモネが何らかの技能を有しているのか分からないが、あんな安い素材がこうなるのか。
「ま、まさか、アネモネ様……!?」
てっきりヤマトの方が反応すると思ったのに、意外にもマリウス王子の方が食いつく。私じゃなくてもあれが鑑定できるならなかなかのものだが、そんな加護だったかな?なんか武術関連に偏ってて本人がコンプレックスみたいな話を聞いたような気もするが。
「双剣逆手持ち!?」
「うおおおおお!?」「うおおおおお!!!」「かっこいいいい!!!」
いや全然どうでもいいわ。何に反応してるんだこいつら。左手が聖乙女の短剣で右手が原初の魔法剣だぞ。なんで持ち方なんだよ。
「……?」
アネモネも困惑してる。
「双剣の逆手持ちには致命的な弱点があるんです!」
「えっそうなの。この知的天才美少女の私も知らんが。」
興奮したマリウス王子の言葉につい反応してしまう。
「格好良すぎて逆に利点を信じてもらえない!ちゃんと意味がある場合でも、見た目重視と思われてしまうんです!」
「どうでもいいわ。」
そして反応して損した。こいつ武術オタクなのか。なるほどヤマトと仲良くなるわけだ。勇者の力と関係ない部分でも未知の格闘術の使い手で強いってアネモネがちらっと言ってたもんな。しかも雑学に強いから武術雑学とか語り合ってたんだろう。
というか武術オタクの割に、アネモネのあの構えの不吉さが分からないのだろうか。
絶対望んでる感じの戦い方じゃないぞあれ。
「……!」
早速死霊が通信機から飛び出してきて……
ぶすっという本来鳴らないであろう音が鳴り、まだちゃんと通信機から出切っていない死霊の頭に黒い無骨な剣が刺さる。
『死者は死ね』
「グギャアアアアア!!?」
「あ!?」「うっ…!?」
瞬殺だ。死霊が恐怖と絶望の表情で更に死んでた。怖い。なんかちょっと格好つけた騎士っぽい攻撃をするマリウス王子より直球での瞬殺だし、殺意がすんごい。
現れようとしていた次の被害者候補の死霊達が体を出す前に逃げ出し、反転が間に合わなかった個体の頭には短剣か魔法剣がドスドスドスと次々凄まじい速さで突き立てられていった。もぐらたたきってどの世界にもあるのかな。というか実体が無くてもアネモネが刺すと決めたらぶすぶす刺さるもんなんだね。
そしてやっぱり思ってたのと違ったのであろう野郎共が言葉に詰まっている。動作としては机を拳でドンと叩いたり、ドアを拳でどんどん叩いたりするような動きだ。通信機も大人数用の大きなテーブルみたいな大きさだから、出てくる魔物も机を叩くような位置関係ではある。
静かにブチギレてた人が包丁を思いっきりドンって机に突き立てた動作が一番今見た場面に近いだろうか。
あえて剣技で言うなら、まぁ技というか…剣を地面に突き立てる動作を正面斜め下にしたバージョンだ。刺す位置関係からして別に誰でも逆手になると思うんだが。武術はそこまで興味ないからよく知らんけど。でもかっこいいより先に怖いが来ると思ってたがやっぱりそうじゃないか。
しかしやばい。こっちとしてもちょっと分からなくなってきたぞ。何かとんでもない物騒な命令をしてたような気がするが、呪文じゃなかったかあれ?もちろんそんな呪文は無いしどう考えても口が悪いが。
戦闘…というか虐殺?…が落ち着くと、勇者と第一王子が泣きながらしょうもない事を懇願しているのが見える。
「お願いだアネモネ!割り込むならせめて夢を!もう少し夢のある攻撃にしてくれ!」
「……?」
「お願いします!もっとこう、回転したりニンジャっぽい動きするような!」
「……?」
少しの間をおいて、波長に引かれてしまったのか電気が実体化したような魔物が飛び出てきたり、同じく似たなにかで獲物を探知するのであろう空の魔物が近づいてくる。来ちゃダメだ逃げて。
通信機から出た雷の精霊みたいな魔物が…
「「「ギョアッ!?」」」
左手の短剣で右から左に薙ぎ払うように数体まとめて貫かれ、そのまま聖乙女の短剣が魔物の団子つきで地面にドスンと突き立てられる。アースに刺されるの嫌いだろうからね、雷系のやつ。剣で電気を刺せるって知らなかったけど。
「かげぬい」
「あっ違う!アネモネ違うよこれ!」「これ生身です!生身縫いです!」
「……?」
「だ、ダメだ!なんで影と一緒に生身を縫ったらダメなのって顔をしている!反論出来ないぞマリウス!!」「そ、そんな、どうして…!?」
バカどもが嘆き苦しんでいる。
そして……右手に持っていた魔法剣がバキバキと音を立てて大きなドリルのような形になり……凄まじい高速回転を始める。
「回転」
「あっ!?ちがっ」「待っ…!」
次の瞬間、物騒なドリルを順手に持ち替えたアネモネが上空へと飛び上がり、人間を襲う体制になりかけていたコウモリっぽい魔物や鳥系の魔物の群れに凄惨な悲劇が訪れる。
そうだね。手と腕の回る角度には制限があるからね。正面側の広範囲と上方向を強く攻撃できるのは順手。そのかわり逆手は下方向に強く左右や真後ろも強く刺せるね。
だから闇堕ちして刃物を逆手で持っている女の子と対峙したら左右も後ろも危ないので空に逃げたほうがいいけど、ドリルを順手に持ち替えて飛んでくる可能性も考慮しなきゃいけないんだね。
ギュイイイイイイイというあまり聞きたくない音が鳴っている。
ギョエエエエという魔物の悲鳴が響き渡る。
私色々見えちゃうので視覚に優しいフィルターがちょっと欲しいなって。
「おい第一王子…!お前が余計な事言うからグロいもの見ただろうが…!」
「あっ、あ、違う、違うんですタリア王女…!回転ってこういうことじゃ…」
恐怖で逃げ惑う空の魔物達。存在しない足場を蹴って空を追いかけてドリルで肉片に変えるダークナイト。
『近寄るな。』
うん、そしてまたうっすら何か唱えているな。多分それ呪文じゃなくて脅しだけどね。口が悪いし。
警告音の鳴き声を発しながら関係ない魔物達まで遠くに逃げている。これかぁ……昨日魔物が山に居なかったのは……。ずっと恐怖の対象がそこに居るわけじゃないからそのうち戻るだろうけど、これはこれで生態系が……。どうしよう一応聖女による魔物を近寄らせない魔法…?的な何かだけど、ダークナイトか聖女かって言われたら、その、まぁ……。
一通り惨劇が終わると魔物が全く出なくなり、私も追加で通信を使わせてもらったがもう何もグロいものを見ずに済んだ。
私の力を見ててって格好良く美少女に言われて見せられるのがアレなの、夢見る子供が見たら色々な意味で泣いちゃうよ。実際でかいガキの男共の嘆きもしばらく収まらなかった。




