⑤死神
政府は破壊された滑走路ただちに直し、F-16で爆撃を仕掛け敵航空基地に打撃を加えた。クラスター爆弾で我々と対峙している敵にも打撃を与え、戦力拮抗状態にまた戻った。
この街は首都にもわりと近く重要拠点だったそうだ。なら初めから守って欲しかった。
物心付いた頃には戦争は始まっていた。20年戦争が今も終わっていない地獄だった。SLBMを敵の首都に落として戦争を終わらせて欲しい。核を使えば国際的非難は必至だがその方が手っ取り早いのだ。死神スナイパーが何人居てもせいぜい数百人しか殺せない。
地上には新しい戦車や高射砲が届き隊員たちは喜んでいた。これでまた殺し合いが始まるだけだというのに。
地下を救った英雄として俺はポジティブな意味でヒーローになっていた。だが元々地下壕戦は待ち受ける方が有利なので当たり前でもあった。
対空砲を撃ちまくったハーランドは階級が上がっていた。二機を撃墜したからだ。正直レーダー支援ない状態で爆撃機を墜としたのは奇跡的なことだった。
「ハーランドは怖くないのが死ぬことが」
と聞くと女が居ないので死んでも特に構わないと言った。
俺は彼女に愛が重いと言われ捨てられるかもしれないと彼に相談した。
「アカリさんがそうなこと言うの意外すね。隊長束縛とかきつい方すか」逆質問されたので店もやらせているしたぶんそんなことはないと思いたい。自信なさげに俺は答えた。
「そう言えばタケルはアカリのことになると死神の面影がなく軟弱だ。っておっさんたちが言ってましたね」常連客にはとうの昔にお見通しだった。
死神の俺を見掛けてケイは一目惚れしたという。弱くなった俺には魅力がないのかも知れない。腹を打ち抜かれた後は戦闘数を減らしていた俺だったが、敵地下壕攻撃作戦に志願した。後方の航空基地はF-16をまた出してくれると言ってくれた。
ケイの父の会社は国際的な軍事関連会社だという。偵察衛星を一年後には軌道に乗せるという発表を政府とともに会見していた。一年の間に敵基地からの爆撃でまだ多くの人が死ぬ。でもないよりはずっとマシだった。
「なんで危険な国境の街に住んでいるのですか。武器製造なら内地でもできるはず」社長に俺は聞いた。ケイには家庭教師を付けているから勉学には支障がないと言う。それでもここに居るのは武器を作る死神として現場を見続けたいのだという。シェルターに隠れてるのは反則だがと彼は答えた。
「ケイが君を軍から引退させて内地に家を建てたいと言っている。君にはフィアンセが居たはずだが」
思いがけずケイの話が出たが、それは彼女が勝手に言っていることで俺にはアカリしか見えないと答えた。ただの気まぐれだと思うが人生はどう変わるか分からない。ケイのことも少しは考えてくれると助かると社長は言った。
社長は対穴倉戦の特攻武器を提供してくれた。味方基地から高射砲で放ち敵地下を攻撃するという簡易ICBMのようなものだと答えた。誘導式なので核を使う必要がなく火力も抑えていると話した。
人道的過ぎて涙が出た。地下が炎に包まれ地上に逃げてきたところを殲滅できるのだ。敵にとっては悪魔の兵器だろうが。
ハーランド部隊は盛大にそれを放ち大打撃を敵に与えた。敵戦車隊にもダメージを与え簡単に敵軍事基地まで到達できた。逃げ惑う人々を軍人だけ殺す、という訳には当然いかず民間人にも多くの犠牲者が出た。俺は地下に潜り仕上げとして地下軍事基地を殲滅した。死神最後の仕事だった。
新しい街での生活が始まる。この国で二番目に大きい都市に家はあった。本当は借家にしようと思っていたのだが、大勢に恨みを買ってる人間なんだからそれはダメという理由でケイの建てた家にした。ただしケイと同居が条件だった。
「これ家というより要塞で軍から出た気がしない」
正直に言ったが戦車砲くらい跳ね付けられない様じゃ家とは呼べないということだった。5階建てで最上階はお風呂だった。というよりプールみたいな大きさだった。
街を出る前に社長にIQテストを受けさせられたのだが、知識問題が0点にしては脅威的な数値を叩き出していたという。将来のためにと言うことでケイとは別の家庭教師が付けられた。アカリとケイはそれぞれ15才と16才になりケイは街一番の名門女子高に通い始めた。
俺とアカリは新しい店を探し始めた。屋台ではなくちゃんとした店を。勉強で付いていてあげられないので不安だったので護衛を付けてもらった。ケイのシェルターを守っていた私兵二人だった。ケイの父親にあまり借りは作りたくなかったがこれは仕方がない。
オフィス街の真ん中に店を借りバイトも雇った。この多国籍料理店には散弾銃を持った二人の護衛が居たので最初は客が入らなかった。が、もうベテラン料理人のアカリの料理は口コミで広がり、一カ月にはけっこう繁盛していた。
アカリを迎えに行き車で家に向かった。ほぼ装甲車のマイカーだった。
「店はどうだ。きつくないか」
と聞いたが問題ないしむしろ楽しいという。都市に来たんだから彼女にも学校に通ったらどうかと言ったが、強い意志でお店がいいと言われた。アカリには勉強はどうと聞かれ、もう普通の高校生よりだいぶ上だと言われてると答えた。
「タケルは頭良かったんだね。馬鹿なアカリじゃ釣り合わないかも」
と言われたのでそれはないと大声で答えた。
先に護衛に送られて帰宅していたケイが出迎えてくれた。夕食の支度終わってるからと言われリビングに呼ばれた。アカリの店で修業したケイの料理は美味しかった。
平和な生活も悪くないと思っていた。東欧らしい美しい街並みを歩くのも楽しかった。
休日、三人で教会に行った。ステンドグラス張りで高い天井が幻想的だった。だが神などいないことは戦闘で分かっていた。この神の子だというメシアの子孫は人を殺し続けていた。
「お前は悪魔だったのか」
声に出して十字架に掛けられた男に問いかけた。信者が俺を睨んだが睨み返すと目を逸らした。死神はまだ俺の中で眠っていた。
「こんなとこよりももっといい場所に行こう」俺は二人を軍事博物館に連れて行った。
ケイは父が武器屋でアカリも戦場で暮らしていたので見知ったものばかりだった。俺はこれをどう使ったいいのか考えていた。
「タケルはまだ戦いたい?アカリはもう嫌だよ」
「もうあんたは十分に戦ったわ。後は幸せを掴みなさい」
二人の頭を撫でながら分かっていると答えた。平和な生活の形が見えないだけだ。
新居にはサウナがあった。被弾した脇腹を庇うため腹筋と背筋を鍛え、汗をかいたのでジャグジーに入りサウナに入っていた。二人も後から水着で入って来たが、二人のおかずフォルダで見慣れていたので大丈夫だった。
「そう言えばタケルたちの親の祖国では裸で入るらしいわね」
そういうとアカリが脱ごうとしたので必死で止めた。
そう言えばなんでアカリと俺はこんな辺鄙な国に居るんだ。両親の国は経済力が世界第四位でこんなとこに来る必要はなかったはずだ。
「ケイ、俺とアカリは似ているか」確認せずには居られなかった。
「東洋人の顔なんて同じにしか見えないわよ。そうね似てると言えば似てるわね」
嫌な考えが浮かんだが証拠がある訳じゃない。アカリとは好き合っているから問題ない。しかし、その日から夜のおかずにアカリは使えなくなった。
行ってくるわねと言うケイの姿を眺めていた。
「ケイはまだ俺のこと好きか」
と聞くと顔を真っ赤にして当たり前でしょと言って家を出て行った。ケイが言うには目付きが良くなって来た俺はかなりの美形だと。学校で学友に俺の写真を見せたら羨ましがられたと言う。いつ写真撮られたんだ俺は。
「アカリは本当に可愛いから店でも人気あるだろう」
というと三人から求婚されたと言う。今すぐそいつらを抹殺したいが今は武器すら基本持っていない。そしてアカリと結婚できない未来は考えられない。
「タケルからの求婚待ってるから心配しないでいいよ」
アカリがそう言うので久しぶりにキスをした。
ニュースが国境を越えて敵の村を占領したと言っていた。抗争が無くなり戦争の終わりを感じていた。
装甲車のようなマイカーを走らせ俺は元居た街を目指した。まだ半年も経ってないのにとても懐かしい気持ちになった。
軍に寄る前に住んでた部屋を見た。誰もまだここには暮らしておらず部屋を見て懐かしくなった。アカリと寝ていた部屋もそのままだった。命の危険があったが幸せだった。
「あれ元隊長、帰ってたんですね。お帰りなさいっす」ハーランドが寄って来た。
「たまたまやることないから来ただけだ。もうこの基地には人は少ないんだろう」
ハーランドが言うには俺が率いた最後の戦闘で敵軍は基地を捨てて後方に下がったという。だからここに敵が来ることはなくなり軍本体は敵国に侵攻して前線基地を作ったと。いろいろと話を聞いたので帰ろうした時隊員の一人が地上が襲われていると血相を変えて飛び込んで来た。歩兵だけだがまったく歯が立たないと言っている。
「歩兵も他の部隊も撤退しろ。俺の武器を用意してくれと言った」
地上に上がり身を隠すしながら敵兵を探す。が銃撃音だけで姿は見えない。20分して初めて敵兵の一人を発見したので撃ち殺した。あれは初めて見たが他国の特殊部隊だ。
「援護だけで絶対に出るな。俺が殲滅する」
今度は二人見えたのですかさずビームライフルで打ち抜く。ハーランドに敵を運んできた車両を探し破壊するように伝えた。この先はもう敵は動かないだろう。ならばこちらから攻めるまでとナイフに手をやった。敵影が見え撃ってきたが建物に身を隠し躱す。待ち伏せして一人づつ刺していった。五時間ほどの戦闘で全滅させた。たかが十数人で来たのだ間違いだったな。地の利もあったが場数が違い過ぎだ。
戦闘が終わったので装甲車もどきに乗り込んで帰った。ハーランドには、軍には今日のことは自分の手柄にしといくれと言った。あと増員要請もしておけと。
死神の血はまだ死んではいなかった。




