④爆撃
高射砲の性能が格段に上がり敵国航空基地からの攻撃は当分無さそうだ。我が国はこれを見て敵陣を爆撃で叩く大反抗作戦を計画していた。爆撃後は俺たちの出番だ。なるべく民間人は避けながら軍人は殺す。これは自分たちの街を守るために必要だ。だが同じ人間を殺すので大義は要らないと思う。敵を殲滅せよという合図で飛び込んで行くのだ。
俺はと言うと今入院していた。いつもの敵の侵攻だったがスナイパーの数を間違え生き残った敵兵に撃たれた。右脇腹を打ち抜かれて瀕死だったが、味方が素早く病院に早く連れて行くことに成功し間一髪助かった。隊長が居ないことを悟られないようにいつもより多く国境線を超えて出撃していた。
「悪いミスった。心配掛けてすまない」
アカリには謝ったがゆっくり休んでねと言われた。
ケイは仕事を早く上がらせてもらい毎日看病に来ていた。
もともとこの年までには死んでいるだろうと思っていた。敵兵を数百人殺しているのに自分だけ生きているのは不公平だと感じていた。覚悟はとっくに出来てるはずだったのに撃たれた時に考えたのは生き残ることだった。アカリをまた一人にはさせたくないと思った。ずるい考えだが仕方がない。女を泣かせたくは無かったんだ。
「最近はアカリさんの店によく行ってます。隊長の代わりに」
と見舞いに来たハーランドが言ったので、行かなくていい迷惑だと言った。女に逃げられたこの軽すぎる男はあまり好きではなかった。
ハーランドだけではなくこの隙にアカリを誘惑しようとする輩が出やしないかとピリピリしていた。あれは俺の女だ、手を出したら殺すと毎日地下中に放送したかった。アカリは俺が入院中も店を出していた。常連も増え期待を裏切れないのだという。
二か月後俺は退院した。
退院後はすぐに職場に復帰した。死神隊長がいない間に規律が緩んでないか心配だったのだ。心配は杞憂に終わりむしろボス不在で結束が強まった感もあった。
アカリは店を開けてる時間を短縮し、より長く俺と過ごすよう努力をしてくれていた。むしろ俺の給料だけで充分やっていけるので店をやめて欲しかったが、あの店は特別なようなので言えなかった。
大規模爆撃作戦が成功したら軍人を引退したい。
アカリにそう伝えた。彼女はちょっと考えていたがお疲れ様と言って賛成してくれた。金は極端に使わない人間だったので貯金はある。もっと内地の戦闘が無い場所で二人で暮らしたかった。俺でもやれる仕事を見つけアカリが18才になったら結婚する。アカリと暮らし始めてからは将来のことばかり考えていたので潮時だと思った。
「タケルと一緒にお店を出そうか。楽しいと思う」アカリが言ったことに全面的に賛成した。店主がアカリなら客は寄って来る。後ろで目つきの悪い男が居ても目立たないだろう。
入院中支えてくれたケイにもその話をしたら賛成してくれた。三人で暮らせる家を建てると言われ一人多くないかと思ったが突っ込んだら負けなのでスルーした。
「あたしが初めて見たタケルは死神というより感情がないロボットみたいだった。でも哀しみに満ちているようにも見えた。アカリと出会って人間になれたのね」
なんとなく思い当たりがあったのでそうだと言った。
B-21による敵航空基地爆撃計画の日が迫っていた。部下には絶対このことは言わない。奇襲作戦なので隠匿性が重要だからだ。地上戦は小競り合いが続いていたがもう完全に我が軍が優勢だ。敵はゲリラ的な奇襲しかできない。何もかも上手く行ってる時に限って特大の不幸が襲い掛かる。根拠のない不安が俺を襲っていた。
敵の戦車部隊が増強されたという情報が軍本部から入って来た。特に重要とは思えないあの基地に何故金を出すのか。意図がわからなかった。そして危険が迫っているという思いが強くなって行った。高射砲部隊は24時間体制で警戒に当たらせた。
「なんか大規模な攻撃あるんですかね」ハーランドが聞いて来たので、特には何も情報は入ってないとそのまま伝えた。
「勘なんだただの。このまま上手く行くとは思ってない。小心者なんだよ俺は」
ハーランドは首を傾げたが信じますと言ってくれた。馬鹿だが良い男かも知れないと評価を上げた。
入院後アカリが店を閉める時間を早めたので、一緒に過ごす時間が増えた。四才で両親を失いずっと軍に居たので俺はもの知らずだった。どこかのイスラム系国のゲリラと大差がない。そのため喋るのはアカリが多かった。
彼女は人気歌手や俳優の話をよくするがまったく知らないので頷くだけだ。つまらない男で申し訳ない気持ちになる。学校に行ってないので当然無知だ。自分の国の言葉も喋れるが読み書きは苦手だった。
アカリは強い人間だ。両親を殺されたばかりだと言うのにすぐに商売を始めた。誘拐されかけたこともあったが今も健気に頑張っている。
「今度の水着も可愛い」
ジャグジーで水色のワンピースを着たアカリを眺めながらそう言った。アカリは顔を真っ赤にしながらありがとうと言った。内緒で水着アカリをスマホで撮ったら音でバレた。待ち受けにするんだと誤魔化したがまた嘘がバレた。夜のおかず用ですと正直に話した。
「今脱ごうかこれ。どうせシャワーの時脱ぐんだし」
アカリが提案してきたが却下した。アカリは大胆になってきていた。いや、これくらい普通なのだろうか。同衾までしてる仲だし。でも結婚までは童貞で綺麗な身体で居たいと言ったらアカリが大笑いしていた。それは女の子の発想だよと。
今の話をケイにしたら白けた顔をされた。
「アカリが他の男と寝たらどうすんの。タケル捨てられるよ」と言われた。
ハーランドは女に浮気されて別れた。そういうこともあるんだと今更気が付いた。最近は心情が顔に良く出るらしく狼狽してる様がケイにはすぐに分かったらしい。
「その場合はあたしが彼女になってあげるから安心していいよ」
ありがたいが却下だった。アカリしか欲しくないと言うと不思議な顔をされた。男なんてすぐ浮気したがるじゃない。他の女に目移りとかしないのと聞かれたので正直にないと言った。
「一途なのはいいけど上手く行かなかったらタケル自殺しちゃうよ。もう少し周りも見なさい。例えばあたしとか」
そう言われたのでケイをじろじろ眺めたが、特に性的に興奮しないと言ったら蹴られた。
なんで家にケイが居るのとアカリに聞いたら、彼女が庶民の暮らしをみたいと言ったから招いたらしい。
「普通かどうかは分からないがどうぞ見学していいよ」と俺は答えた。
物が少なすぎるし普通じゃないとケイが言ったのは合ってる。二人とも物欲があまりないので家がさっぱりし過ぎていた。
飲み物を用意してる間にケイは勝手に俺のスマホを見ていた。アカリ夜のおかず集だった。慌てて取り返したが憐みの表情をされた。
ケイはアカリにおかず写真フォルダのことをばらした。
「なんとなく知ってたよ。けど愛が重すぎるかなあとも少し思う」
とアカリに言われ血の気が引いた。アカリは強いからどこでも生きていける。けど死神じゃなくなった今の俺は一人では生きられそうにないと思った。
「タケルは今からあたしを撮りなさい。アカリ水着貸して」
と言って俺の手を引いた。いいけどNTRはダメなのでわたしも一緒と言ってアカリもジャグジーに付いて来た。
俺が全然ケイの方を見ないので彼女は憤慨していた。
「毎日見れるもの見ててもしょうがないでしょ。あたしを撮りなさい」
渋々言うことを聞いてケイを撮ってみたら大きな反応があった。下半身に。脱いだら凄いと自称してたがアカリのやや幼児体型と違い出るとこがきちんと出て腰はくびれていた。俺の反応に気付きケイは満足そうだった。あかりは頬をぷくっと膨らませ水着を脱ごうとしたのでケイが慌てて止めた。
「タケルは不器用過ぎてアカリが一緒に付いてあげなきゃって思うんだよ」
「それはあなたの感想でしょう。タケルだっていろんな世界を知っていけば変わるわ」
今晩はアカリとケイの二人で一緒に寝てもらうことにした。自室で俺はおかず集を使うことにした。
その晩大きな爆撃音と共に大きな揺れが襲った。敵の奇襲だった。
本来友好国から敵爆撃機の発進を知らせてくれて迎撃できたが、この日は連絡は無かった。
NTRか、心の中で呟いた。地上の戦車他全て爆破されただろう。後方にある空軍基地も全滅しただろうことが容易にわかった。
アカリにはケイの家のシェルターに逃げ込む様伝えた。そして二人に死んだらごめんさよならと言って出て行った。
部下を集め作戦を指示した。俺は死神として敵を殺しまくる。俺の盾になれる勇敢な人間だけ付いてこい。居ないなら一人で行くと決意を語った。
狙撃部隊は20人だった。
この地下は要塞化されている。ボタンを押したら上から鉄の槍が無数に降って来る。そんな原始的なものばかりだが。
敵は地下に降りてきた。
地獄にようこそと彼らの命の最後に祈りを捧げてから狙撃を始めた。暗視スコープで狙いを定め降りてこようとする兵を次々に撃つ。どうせ爆弾を投げつけてくるから撤退と攻撃を繰り返す。それでも降下に成功する敵兵も居る。無線で地下基地に合図を送り装甲車を走らせ轢き殺す。ケイの家からも全ての私兵が投入された。全員ビームライフルを持っている。
この地下には入口は二か所しかない。一か所に集めるように誘導し最後はレーザーライフルを乱射して敵を殲滅した。
俺はすぐに地上に出た。まだ敵は居るはずなので戦車他武器を鹵獲するためだ。逃げようとする戦車や装甲車を見掛けて撃ち抜いた。ケイの私兵も相当な腕なので役に立った。地上では人間はいい。とにかく武器になる車両を打ち抜き動きを止めていた。やがて朝になり戦闘は終わった。
死神は死ななかった。




