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Survivor   作者: 神田竜人
1/8

①アカリの屋台

敵兵の数を数えたら瓦礫の影に隠れ息を潜める。ぎりぎりの射程だが当てる自信はあった。3点バーストで狙いを定め二人をまず倒した。まだ後三人潜んでいるはずだが今の被弾で鳴りを潜めた。こちらの位置は完全には分からないはずだ。痺れを切らし敵兵が乱射してくるのを待つ。三分後に一斉に乱射してきた。そこじゃない俺はここだ。敵位置を把握したので反撃開始、殲滅まで一分掛からなかった。


「とりあえず殲滅したので後はよろしく。まだ残ってたらごめん」ボスに連絡し、一旦地下基地に戻ることにした。

地上は瓦礫だらけだが塹壕という名の地下は歩いても躓かない程度には整備されていた。頑丈な鉄扉の向こうに俺の部屋がある。スパイとして敵が来ても簡単には殺られないように堅牢な部屋だ。シャワーが付いている個室はあまりないがここにはある。ボスに腕を買われているのだ。少し寝たら腹が減ったのでどこかで食事を買ってこようと思い部屋を出た。


見慣れない屋台に見慣れない少女。ピロシキとおにぎりを買った。

「無国籍料理なのかここは」少女に聞くと頷いた。


ここは女に飢えた兵士が大勢いる。そこで一人で屋台を開くなんて危険極まりない気がした。


案の定だった。ドアを叩く音がして出てみると少女の隣で屋台を出していたおばさんが来た。今日来た少女が軍人二人組に攫われたと言った。


地上に出るとジープが遠くに見えた。目はやたらといいので三人乗ってると確認できた。バイクを走らせ短銃で威嚇射撃ををしたが止まらない。それどころかこちらを撃つ気配があった。蛇行しながら追いつき並走して投降を促すと銃でこっちを撃ってきた。問答無用で二人とも射殺した。


「おい、大丈夫か。何もされてないか」と聞くと首を振った。一応スカートをめくりあげ出血がないことを確認し安心した。


ボスにはどうしようもない獣を二匹射殺したと伝え了承された。


少女に家を聞いて行ってみると、バラック小屋をさらに酷くしたようなところで今晩にもまた襲われそうだった。仕方なく自分の部屋に連れてきた。


「今日は二時間程度夜勤があるから、シャワー浴びて寝ててくれ」と言うと彼女は頷いた。


夜勤から戻ると彼女は同じ服を着て寝ていた。服を与えて安全な住居を探さなきゃなと思い床で寝た。


朝起きるとベッドを使ってしまいごめんなさいと言われた。声を初めて聞いた。


「俺の名前はタケル、お前の名前は」

そう聞くとアカリと彼女は言った。


握手を求めたら手が震えていた。攫われそうになったわけだし男が怖いんだなと思い手を引っ込めた。


彼女が朝食を作ってくれたので金を渡してから食べた。その後二人で地下壕の中を安全に暮らせそうな部屋を探したがなかなか堅牢なところは無かった。お前の部屋でいいだろうとボスに言われたので暫くはそうすることにした。


この街は度々敵国の兵士が侵入するほど治安が悪かった。そこでボスは私兵を集め幼いころから俺はここに居る。親は四才の時に敵の爆撃で死んだ。ボスは雑用として子供の俺を雇ってくれた。武器の使い方も教えてもらった。センスがあったようで射撃の腕はこの街では一番だ。死神のタケルと呼ぶ者も居たが事実なので無視した。


アカリには俺が横に居る時だけ屋台の営業を許可した。ただの殺し屋なので時間は割とあった。アカリは身長こそやや小ぶりだが秀麗な見た目で男どもからけっこう人気が出た。男になった感想はどうだと聞く仲間が居たが、そもそもとっくに男だと嘘を付いた。


屋台で頑張っているアカリを見るのは癒しになった。俺もこういう仕事がしたかったが、今更ボスが手放す訳が無いのは知ってる。今日の昼食はイカ焼きとパスタで相変わらずの無国籍ぶりだった。


今日はジープに乗り込み敵の歩兵を十人射殺した。いくら殺しても沸いてくる蛆虫のような奴らだと思った。


「お帰りなさい」とアカリが言った。


一瞬間を置いてただいまと言った。こういうやり取りは無いと思っていたので返事が遅れた。アカリはいつもの様に夕飯の支度を再開した。殺しを職業としてる人間には夢のような家庭感に溢れていた。アカリには軍人じゃない男を探してやる必要がありそうだ。


シャワー室の前に仕切りを作ってみたが、病院のベッドの間に置かれる薄い布みたいだったのでアカリの着替えが僅かに透けて見えた。俺は咄嗟に目を伏せた。


「ジュースと珈琲どっちがいい」とアカリに聞くとジュースだというのでオレンジジュースをあげた。この部屋に来たばかりの時、両親が目の前で殺され襲われそうにり、ボスの部隊が助けてくれたと言っていた。その前はもう少し明るい性格だったように思うとも言っていた。


明るかった頃の彼女にも会ってみたいと思った。だが戦況に変化はなく明るい未来は大抵の人には見えない。俺の未来も明るくは決してないだろうと思った。


ビームライフル、最近主流になりつつあるものだ。別にビームが曲がって敵に向かって飛んでいく訳ではないから同じじゃないかと聞いてみた。すると貫通力がけっこうあり旧型戦車なら一撃だと仲間に言われた。対戦車砲と同じと言いかけてやめた。


実際に使ってみたら真っ直ぐ飛んで使いやすかった。弾道を計算しなくて楽だ。だが敵もこれを使ってきたら被弾率高まるなと思った。


おかえりなさいと言われただいまと言う。家族みたいな生活になっていた。ベッドを二つは置けないから大き目のに買い替えた。一緒に寝てはいるがなにもない。アカリには平和な男が合っている。地上がもっと穏やかになったらいい男を見つけて嫁にでもなるがいい。それまでは守ってやるからと思いながら眠りに付いた。


サイレンが響き渡って夜中に起こされた。銃を構え外に飛び出すと逃げて行く人影が見えたので追いかけた。軍の連中も追って来た。ボスがスパイに殺られたらしいという会話が聞こえた。一瞬見えた逃亡者にビームライフルを放ち貫いた。もう死んでいるが血と肉になるまで撃ち続けた。


ボスの葬儀にはアカリと出席し最後の別れをした。


彼のカリスマ性が有っての部隊だったので、代わりを務まる人間が居るようには思えない。街を出る準備をしようと考えたがアカリが屋台で働く姿が浮かんできた。アカリは静かに泣いていた。両親が殺された時に救ってくれたボスまで死んだのだ。俺は静かに彼女を抱きしめた。


ボスが居ないのですることがない俺はアカリの屋台を手伝った。食材を切るだけだったが彼女はトムヤムクンにスズキの刺身、自前で焼いたパンを客に振る舞った。相変わらず国籍不明だったがファンは増え、テーブルと椅子が何組があるお店になっていた。俺は新作猪ラーメンを食べながらこれなら平和な国に行って立派なお店を開けるよと言った。


「その時はタケルとお店を一緒にやりたい」

思いがけない言葉に一瞬言葉を失ったがそうなるといいなと返事した。


二人でベッドで横になったんだが、彼女は俺のバスローブの後ろを何度も引っ張った。なんか用かと尋ねるが何も言ってくれないから、また寝ようとしたら後ろから抱きついてきた。その意味は分かったがいつ死ぬか分からない男はダメだぞ、と心の中で呟きやがて眠りに付いた。


翌日基地に行くとボス亡き後の幹部が待っていた。そこのソファーに掛けて欲しいと言われそうした。

「お前に隊長になって欲しい」現代行隊長はそう言った。


ただのスナイパーが隊長とか聞いたことがない。悪いが他を当たってくれと言ったが引いてくれなかった。


幼い頃から戦場に出ていたので経験は申し分ない。あとはその威厳だ。若いことで反感を持つ者も居るがその声は幹部が抑え込む。なにより隊長になれば基本指揮だからここに居ることが多い。お前の彼女を守るためにもいい。彼女ではなく面倒見てるだけだ、と言ったが最後のは魅力的だった。


隊長を引き受けた後の部隊は以前の強さを取り戻した。俺がスナイパーもやるので敵の侵攻をぎりぎりで食い止めていた。アカリが誘拐されないよう強い護衛も付けたのでアカリの店は安心して継続できた。


部屋に戻るとアカリを呼んだ。

「ちょっと早いと思うが」

俺はアカリの薬指に指輪をはめた。要らなかったら捨ててくれとも言いながら。

「タケル好きだよ」と言われ俺もそうだと言った。


俺の薬指を見て皆も祝福してくれた。結婚はするか分からないから飾りだと言っておいた。


おかえりと言われただいまといつも言っている。人を殺すことしか脳がない男がアカリを幸せに出来るかは甚だ疑問だった。だが人生で初めて幸せな気持ちだった。


寝て起きたらアカリが居なかった。何も着ないで慌てて外に飛び出すとアカリが店を開けていた。ほっとしたと同時に怖かった。またアカリが攫われてしまうんじゃないかと。


「アカリ、俺が居ないところでは止めてくれ。死んでしまいそうなくらい怖かった」本音だった。

するともう来ていた客たちが笑いながら俺たち退役軍人が守るから現隊長は心配しなさんなと。

「アカリの婚約者はアカリのことになると弱くなるな」

図星だがどうしようもない。最初の頃には考えられないほどアカリを愛していた。









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