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告白しよう!

 

 聖夜祭とは、前世のクリスマスと大晦日が合体したようなイベントだ。


 一年の最後の日の夜、人々は貴族も平民も蝋燭の灯りを消すことなく、一晩中この祭りを楽しむ。


 元々は一年を無事に過ごせたことを神に感謝し、家族で穏やかに過ごす日だったらしいが、時代が下るにつれて、恋人とデートをしたり、友人と飲み歩いたりするようなお祭りへと変化していったらしい。


 その日に、私はリーンハルト様に告白する。


 夫婦なのに告白するなんておかしな話だと思われるかもしれない。でも、私は何がなんでも、リーンハルト様に「愛している」と伝えなければいけないのだ。


 だって私は、この半年間一度もリーンハルト様に「愛している」と言えていないのだから。リーンハルト様は毎日のように言ってくれるのに。

 

 これでは、公平(フェア)じゃないから············じゃない。


 今の私は、そういう、貸し借りみたいなものが気になっているからという理由で、この言葉を伝えたいんじゃない。




 リーンハルト様が、心の底から好きだから、彼にそう伝えたいのだ。




 一体いつから好きになったのかなんて、自分でも分からない。最初は彼のことをまるっきり誤解していて、ざまあをする気満々だった。その誤解が解けた後も、彼からの好意を信じ切れなかった。


 その、はずなのに。


 いつの間にか、彼に対する猜疑心や警戒心はすっかり消えてしまっていた。


 春の陽気が冷たい雪を融かすように、彼の気遣いと優しさと愛情が、私の心を融かしてくれたのだ。


 何か裏があるんじゃないか。いつか心変わりするんじゃないか。そんなことを考えるのが馬鹿馬鹿しく思えるくらい、彼は私に愛情を注いでくれた。人間不信の私が、「愛している」を疑わなくなれるくらいに、その想いをまっすぐに私にぶつけ、態度で示してくれたのだ。


 私を大切にしてくれる人。

 私を幸せにしてくれた人。

 私の味方でいてくれる人。

 私のことを愛している人。

 そして、私のことを愛し続けてくれる人。

 

 もはや私にとって、リーンハルト様は、血の繋がりがある人たちよりも、ずっとずっと家族だ。




 だから、リーンハルト様に「愛している」と言いたい。ずっと言わせっぱなしにしていた彼に、私も同じ気持ちであることを告げて、どこか不安げな彼を安心させたい。


 リーンハルト様は私の希望を汲んで、今はもう「愛さなくてもいい」「愛されないのは当然だ」といった卑屈な言葉は言わなくなった。


 でも、彼の考えが変化した訳ではないことは明らかだ。


 リーンハルト様の私への態度は結婚したときからずっと変わらない。よく言えば丁寧、悪く言えば距離を感じる接し方だ。


 例えば、スキンシップをするとき。リーンハルト様は、決してキス以上のことを私にしない。戯れのように、ときどきこめかみや頬に軽くしてくれるけれど、唇同士のちゃんとしたキスはまだしていない。それに、夫婦の寝室で共寝をしているのに、私たちは本当の意味で夫婦にはまだなっていなかった。


 リーンハルト様の態度や表情から推察するに、私に触れるのが嫌、という感じではない。恋人らしいスキンシップ自体はむしろ多い方だと思う。


 なのに、彼がそれ以上のことをしようとしないのは、彼が私からの愛を信じることができないでいるからではないだろうか。リーンハルト様は、未だに私がリーンハルト様のことを愛していないし、これから愛することもないと思い込んで、私に遠慮しているからのように思える。

 それでいて、彼はそれでも構わないとも本気で思っていそうなのだ。


 そんなのは嫌だ。私だってリーンハルト様を愛したいし、幸せにしたい。リーンハルト様は愛されるべき人だと本気で思っているし、リーンハルト様にもそれを理解して欲しい。


 それに何より、私はリーンハルト様と本当の夫婦になりたい。


 これは、白い結婚か否かの話をしているのではなく、彼が私に抱いているであろう悪い意味での遠慮をなくしたいのだ。


 リーンハルト様が私からの愛を受け入れた上で、肉体的な関係を望まないならそれでもべつにいい。私は子供が好きだし、子供を持つことに憧れを抱いてはいるが、リーンハルト様の意思をないがしろにしてまで子供が欲しいとは思えないからだ。

 けれど、リーンハルト様が私に遠慮をしていて、私に手を出せないでいるのならば、リーンハルト様に私の気持ちを伝えて、彼と深い関係になりたいと思っている。


 そう!!思って!!いたんだよ!!ずっと!!だけど言えなかったの!!恥ずかしくて!!


 素面のままでは無理だと思い、酒の力に頼るために酒を浴びる程飲んでみたり、あるいは普段のリーンハルト様みたいに自然な感じでさらりと告げようとしたりしたが失敗した。

 私の今世の身体はザルどころかワク並みに酒に強いことと(一緒に飲んでいたリーンハルト様が途中で撃沈した)、普段言わないことを自然に言うのは至難のわざだということを実感しただけだった。


 思えば、これまでの人生、人に愛の告白なんぞしたことがない。今世では結婚するまで父親以外の男性と録に会話したことがなく、前世では告白されて付き合った人はいたけれど、すぐに別れた。


 つまり、喪女!!


 そんな私が愛情表現をオープンにするなんて無理!!

 一体何故リーンハルト様はあんなにもスマートな女性の扱いを心得ているのだろう。彼も恋愛経験は私以外にないはずなのに。


 リーンハルト様に想いを伝えたいと心の底から思っているのに、本人を目の前にすると何も言えなくなってしまう。

 いや、分かっている。こうしてぐだぐだと悩んでいる時間が一番不毛だと。最初の一歩を踏み出せないでいるから、必要以上に緊張や気恥ずかしさを感じてしまっているだけで、一言言ってしまえばすぐに大したことではなくなると。


 それが分かっているのだから、さっさと言ってしまえばいい。


 って、頭では分かっているんだけどな~!

 どうしてこの口は素直に自分の気持ちを言うことができないんだろう!!


 でも!!でもでも!!

 そんな風に悩むのも、この聖夜祭までの話だ!!


 聖夜祭というイベントの雰囲気に乗っかっれば、喪女の私も告白しやすいだろう(希望的観測)!!


 リーンハルト様に告白して、リーンハルト様の不安を取り除いて、溺愛して、幸せにする。

 今のリーンハルト様は、結婚したばかりの私と同じだ。自分なんかが愛される訳がないと思い込んで、幸せを他人の持ち物だと考えている。


 でも、そうではないのだ。


 私もリーンハルト様も、お互いに想い合っているし、一緒に幸せになれる。


 そのことをリーンハルト様に理解させるには態度だけでは足りない。彼は少し思い込みが激しい所があるので、言葉でもはっきりと伝えなければ、彼の誤解を解くことはできないだろう。


 彼の人間不信ならぬ愛情不信を治し、彼の遠慮や不安を取り除くには、私が彼に飽きる程「愛している」と伝えるしかない。


 私が、彼にそうしてもらったように。




 ぴとり、と私はさりげなく隣にいるリーンハルト様の身体に自分の身体をくっつける。リーンハルト様は一瞬身じろぎしかけたが、相手が私だと認識したからかすぐにそれを受け入れた。


 いきなり告白するにしても、その告白を信じさせるだけの土台が必要だと考えた私は、私のできる範囲で、少しずつ私からの軽いスキンシップを増やしていた。


 現状、中々上手くいっているのではないかと思う。リーンハルト様は受け身だった私が積極的になったことに戸惑っているようだけれど、私を拒絶することはないし、彼もそれに応じてスキンシップを返してくれる。私からのアプローチによって親密度がより上がった気がするのだ。


 つまりリーンハルト様は、溺愛するのはいいけど、溺愛されるのは嫌、とかそんな嗜好を持ち合わせている訳ではなく、単純に私からの見返りを求めてようとしないだけで、私から愛されるのはちゃんと嬉しいらしい。


 ならば方針はこのままでいく。


 リーンハルト様が、与えられる愛情を疑い、拒否するのが馬鹿らしいと思えるくらいに、私が溺愛し続ける。


 彼が私の想いをちゃんと受け入れてくれたとき、ようやく私達は本物の夫婦になれると、そう思うからだ。

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