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ビオラ・バルバト

 話しかけられるまで、全く彼女の存在に気が付かなかった。少し、気を弛め過ぎたのかもしれない。


「久しぶり、貴女も元気そうで良かったわ」


 無難な言葉を言って微笑む。私のその反応が意外だったのか、ピクッとビオラの形のいい眉が動いたが、すぐに淑女の笑みに戻る。社交はあちらの方が慣れている。ここで実家のように騒ぎ立てるようなへまはしないか。


 どうせ、不幸な結婚をした私を嘲笑いに来たのでしょう?残念ね、もう私は貴女の知る私じゃないのよ。


 どんな嫌みを言われようと、反撃してやろうと気合いを込める。すると突然、リーンハルト様は私の腰を抱いて引き寄せると、ビオラをスッと鋭い視線で射貫いた。


「失礼、そちらは?」


 丁寧だが、冷たい声がリーンハルト様から発せられる。その発言にピリッとした緊張感がビオラと私たちの間に流れるのを感じた。


 基本的に、公の場では身分の低い者が身分の高い者に声をかけるのはご法度である。またこの場合、夫婦同伴でいるにも関わらず、公爵本人を無視して公爵夫人の方に話しかけるというのも公爵閣下に対する無礼に当たる。

 しかし、親しい友人関係であったり、親戚である場合はその限りではない。

 そのため、私の妹であるビオラが義兄であるリーンハルト様より先に、姉である私に声をかけることはそこまで目くじらを立てられる行為ではない······のだが、リーンハルト様の発言で、私たちが()()()関係であるという前提が崩された。


 つまり、リーンハルト様は「お前なんか親しくも何ともないし、そもそも誰?無礼なんだけど」と言って、私に話しかけたビオラを牽制しているのだ。


 ちなみに、リーンハルト様はビオラと初対面ではない。結婚式で顔合わせをしたはずだからだ。もし本当に初対面であったならば、内心ではリーンハルト様のことを娼婦の息子と侮蔑しているビオラも、リーンハルト様を無視することはしなかっただろう。ビオラはあくまでもマナーの範囲内で私を馬鹿にしようとしたはずだ。そうでなければ、傷がつくのは自分の名誉である。


 従って、この状況はビオラにとって予想外のものであり、かなり屈辱的であるはずだ。


「······失礼しましたわ、ディルガー公爵閣下。私、ビオラ・バルバトと申します。貴女の妻の妹でございます。()()()()()()()()()()()()


 ビオラの言葉は形式的に謝罪の体をとっているが、目が笑ってない。それに、リーンハルト様の「あんた誰?」発言に対して「てめぇが忘れてるだけだわボケ。よくも恥かかせてくれたな」と言う意味を含めた言葉で応戦している。


「ああ。私を差し置いて妻に話しかけるなんて無作法を誰がしたかと思ったら、妻の妹君であったか。これは失礼した。久しぶりなので気が付かなかった」

「いえお気になさらずに。閣下は領地経営に尽力を尽くしておられる方。その分社交が不得手になってしまうのは仕方ありませんものね」

「自分の領地を富ませる努力をするでもなく、ただ享楽に耽り、媚を売って甘い蜜を吸おうと群がる()()()とは付き合わないと決めていましてね。それでも()()()()()は怠ったことはありませんよ」

「あら、誤解なさらないで、閣下。私、本当に閣下の手腕に感心しているのですよ。人を動かすのではなく、自らが主導して領地経営を行うなんて。しかも、先代当主や分家の当主の代替わりにもかなり積極的に動いたと聞きました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には到底できないことですもの」

「ははは」

「うふふ」


 この二人、笑みを浮かべて談笑をしているように装ってはいるが、互いに射殺さんばかりに冷たい目で睨み合っている。

 そして、会話の内容は、含みがあり過ぎる言葉の応酬合戦だ。「お前みたいな低俗な奴と付き合いたくないわ」「労働や金儲けなんて平民のやることでしょ。賤しい血を引く半分貴族はこれだから」と遠回しに貶し合っている。この二人がバチバチやり合っているせいで、私が付け入る隙がない。


 あれぇ······。私、前のように私を馬鹿にする気満々でいた妹に思いっきり言い返して出鼻を挫いてやるつもりだったんですけど······思いっきりざまあしてやるつもりだったんですけど············どうして蚊帳の外に置かれてしまっているの?

 

 リーンハルト様は普通、こんな風に食ってかかるような物言いをしない。リーンハルト様はビオラが話しかけてくる前に、私を探るような目で見たり、リーンハルト様にゴマをするような態度をしたりした貴族にはもっと無難な感じであしらっていたから、間違いない。


 リーンハルト様の態度の理由は分かっている。リーンハルト様がビオラの意識が私に向かわないようにしてくれているからだ。リーンハルト様が私を守ってくれているからだ。


 でも、どうして?


 私は、実家で家族とどんな関係だったのかこの人に話したことはないのに。


 どうしてリーンハルト様は、当然のように私をビオラから守ってくれているの?

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