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38,幸せの形

本編はここで完結とさせていただきます。


 「お父さん、お母さん」

 「「結婚おめでとう!」」

 「ああ、セレーネがウエディングドレスを着ている…!」

 「嬉しいわ…!」


 「先を越されたね」

 「そっくりそのまま返す。それに俺は婚約者がいるから問題ない」

 「お嬢様…!おめでとうございます!」


 今日は私の結婚式。家族や使用人がこれでもかというくらい祝ってくれる。


 魔物と戦って死んだり、前世の子供に再会したり元婚約者やその相手と衝突したりと、こっちに来てから沢山のことがあった。


 何があっても味方でいてくれた家族、いつも明るく笑ってくれた使用人、親が大好きな双子の息子、私に加護をくれて守ってくれた竜達、そして私が成人するまで待ってくれたセイ。


 みんな大好きで大切な人。


 王都までハルイお兄様の転移陣で移動し、国内最大級の教会で式を挙げる。あまり派手にはしたくなかったが仕方ない。ドラゴンゾンビを倒した竜騎士として国民なら誰でも知っているような人になってしまったのだから。私が死んでる間に何てこと…。

 悪い気はしないが。


 式やその後のパーティーに平民は参加できないがパレードが用意してある。前世の結婚式のような段取りだが戦士として戦わされていたあの時より自分の意思で戦った今の方がずっと幸せだ。今世でも一度死んだけど。


 この国のウエディングドレスに色指定はない。バークレイのカラーは黒、セイの新しい姓、ローレンスの色は橙。  

 だが、ウィルバイツ王国の結婚式で新郎新婦が纏う色は白。あの国のしきたりに従うなど嫌だったがカラフルな衣装の結婚式よりシンプルな衣装の方がが良い。


 ただでさえ豪華になるのだ。視覚情報が多いと頭が痛くなるだろう。


 その代わりと言ってはなんだがセイの胸には私の瞳の赤、私の首にはセイの瞳の黒が光っている。どちらもバークレイ領内にある鉱山から採れた石を使っているので品質は一級品だ。


 アイボリーの壁が可愛らしい教会に一歩踏み入れる。大きなステンドグラスの窓、見上げるほどの高さがある天井、赤い絨毯、花が飾られた椅子。

 はっきりわかる。私は今が間違いなく一番幸せだ。


 左右にある扉から入場する。周りが心から祝福してくれる。国王陛下も家族を連れて参列者席に座っていた。


 中央からは2人。右は私、左はセイ。エスコートを受けるのは久しぶりだ。神官の前に行き、立ち合い人のもと、誓いの言葉を述べる。


 私の立ち合い人はお父様が、親族のいないセイは騎士団のアルバート総括長が務める。


 「セレーネ・バークレイ、貴方は富めるときも貧しきも、病める時も健やかなる時も死がふたりを分かつまで、夫を愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか」

 「誓います」


 「アレクセイ・ローレンス、貴方は富めるときも貧しきも、病める時も健やかなる時も死がふたりを分かつまで、夫を愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか」

 「誓います」


 「では、誓いのキスを」


 私にかけられたベールが丁寧に上げられ、剣だこの多い手が頬に当てられる。頬擦りしたくなるくらい優しくて暖かい。が、今は我慢する。



 そのまま顎をクッと持ち上げられて触れるか触れないかくらいのキスをされる。

 両親や兄妹、先輩の前でするというのは中々に恥ずかしいが仕方ない。


 「セレーネ、大好き」

 「わ、私の方がセイのこと好きだし」


 小声で告げられた告白の台詞に言い返すとセイは綺麗な顔を可笑しそうに崩した。

 その後、結婚証明書にサインし、式は滞りなく進んだ。問題はここからである。


 ウエディングドレスを着るためにコルセットをギチギチにつけていた。筋肉のせいでウエストがあまり細くないので腰が…。


 それをパレードのためにもう一度付け直すのだ。で、大規模パレードの後屋敷の大広間で披露宴。翌日からはご令嬢を招いてガーデンパーティー。わかってはいたが、新婚って大変だ。財布的にも。ここ数日で散財しすぎでは?予算の資料を見て目が飛び出したわ。


 「セレーネ、お手をどうぞ」

 パレード用の上部分が大きく開いた馬車までエスコートしてもらう。豪華に飾り付けられているがゴテゴテしすぎていないのであまり嫌悪感はない。

 

 とても男爵家の結婚式とは思えないが対魔物戦での戦績で陞爵し、私が15の時に侯爵家になったので再び上位貴族の仲間入りだ。それほどまでに魔物は危険だったということか。



 街の皆が祝福してくれる。昔は作っていた顔が作らなくても良くなった。心の底から笑えるようになったから。結婚式には参列できなかった騎士団の先輩達がオイオイと泣いている。大男が揃って。


 口だけで「ありがとう」と言えば、滝のような涙を流し始めた。さっきより酷くなってるじゃん。全く、仕方のない奴らだ。好きだけど。



 パレードは長い。が、国境までの道のりも長い。パレード帰宅にならなかっただけ良しとするか。


 帰宅したらパレードの間に先回りしていた家族やオイオイ泣いていた先輩達がスタンバイしていた。家族はともかく、どうやって先回りしたのだ先輩達は。

 「お嬢様!さあさあこちらへ!」


 そして、メイドに連れられてまた着替え。ドナドナ〜。セイも着替えて披露宴会場へ。



 一瞬、瞳をキラキラさせたティアと目が合った。うん、今日も可愛い。アリス様とセリーも一緒だった。


 可愛いが大渋滞。

 レイラファールはお父様とお母様と一緒にいる。クルーレスはレウクルーラ団長と一緒にいた。


 ヒョロリとしていたクルーレスも私にボコボコにされたからか対抗心を燃やし、細マッチョマンになっている。昔は危なげなく勝てたのに今は時々ヒヤリとする。


 そしてまた問題発生だ。ケーキ入刀というものがあるのは知っていた。どうしようか。

 目の前にあるウエディングケーキはほぼ生クリームの塊だ。生クリームとイチゴしか見えない。絶対甘い。私は甘いものが苦手なのでこんな時は自分の舌を恨む。


 しかも切るだけじゃなく食べさせるのまであるとは。


 「ん…」


 ち、小さい…!しかもほぼイチゴ!セイ、優しすぎる…。私が甘いものが苦手ということを知っているセイは上に乗っているイチゴだけをくれたのだ。こんなん好きになるわ!


 「ありがとう…美味しい」

 「ふふ、微妙に顔に出てたよ」


 あからさまに歪めなくてよかったと心から思う。

 ケーキを皆が食べている間、また着替え。締め付けの緩いコルセットにしてくれた。ふぅ。


 戻ると、私の座る場所にケーキが置いてあった。あまり甘くない、シンプルなチーズケーキ。なんてできた料理人なのでしょう…!感謝。


 「美味しい…!」

 しかも味まで良いとは。

 「こっそり頼んでおいたよ」


 隣のセイがコソッと耳打ちしてくれた。ウィンクもキマっている。かっこよすぎだろおい…。



 ボスンッ

 全てを終わらせた私は部屋に戻ると淑女の仮面を剥ぎ取り、ベッドにダイブした。ガーデンパーティーが終わると引越しをするので暫くこの布団とはおさらばだ。


 ロルフはあっさり引いたがシサーカは大分ぐずり、結局竜の姿で新居に移るまで私と一緒に寝ることになった。それを知ったセイがシサーカにガン飛ばしたのは言うまでもない。



 もう一つ。

 ガーデンパーティーも終え、ローレンス名義の屋敷に引越した後、同じ時期くらいにティアとクルーレスから相談を受けた。


 「好きになってしまったかもしれない」


と。

 私としては何の問題もない。クルーレスなら浮気はしないだろうし私の剣を受け止められて背中を預けられる人だ。暗殺者も来る前に自ら出向き、徹底的に叩き潰すだろう。



 先日、交際を始めたようだ。クルーレスは上位貴族に婿入りするには足場が足りない。

 そこで、発言力が高いアルバート子爵家に養子として迎えられることになった。身分差はあるが、発言力で言えば大した違いはない。


 今は剣術だけでなく領地経営のことも学んでいる。


 婿入りして王族になるカイリお兄様、未だに魔道具と結婚するんだと言うハルイお兄様、となると領地経営はクルーレスが主体になるしかない。

 ティアのことが好きすぎて吸収力が恐ろしいとアルバート総括長は身震いしていた。


 まあ、2人の出会いの役に立てたならコルセット地獄を耐え抜いたあの時が無駄でなかったんだと安心する。


 アリス様が18になったタイミングで、カイリお兄様も盛大な結婚式を挙げた。


 晴れて王族となったカイリお兄様だが、騎士団の方で会うのでさほど寂しさはない。ティアは少し寂しがっていた。よしよし。



結婚から数ヶ月後、アリス様は双子を身籠ったが、それはまた別の話。

今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(16)

・アレクセイ・ローレンス(17)

・バークレイ一家

・ロルフ

・シサーカ

・レイラファール(18)

・セリー(18)

・アリス王女(16)

・先輩騎士達

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