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35,宮廷魔術師


 「セレーネ、セレーネ」

 「うぅ…ん……なぁに…」

 暖かい日差しの中、私は聞き慣れた優しい声に起こされた。


 「全くもう。セレーネは本当に朝が弱いね。ここベッドじゃないよ。昨日書類仕事して寝落ちしたんでしょう」

 「う………仰る通りです…」


 何も言えない。ハルイお兄様やお父様の徹夜癖も心配になるが私も大概だな。



 「陛下に呼び出しくらってるよ」


 陛下。へいか。


 「えっ!?私何かしたの!?」


 王宮直属の騎士団で先輩達ボコしたのが悪かったのか林檎飴をおねだりしたのが悪かったのか。うーん。わからんな。



 「宮廷魔術師に魔力属性を見させるってさ。僕らが元勇者と元聖女だろ?あの子達2人の存在からそれがバレちゃって。セレーネの記憶が戻ったから行かないといけなくなったんだよ」

 「ああそのことか。何かやらかしたのかと思った」



 だっていきなり国のトップに呼び出されたらそりゃ私だってビビる。流石に騎士団の人達集められたら敵わないかもしれないし。


 「セレーネはよく騎士団の先輩達から色々貰ってるもんね」

 「ちゃんと勝ったら貰えるって条件つきだからいいの」

 「わかってるよ。セレーネも脳筋気質だから」

 の、脳筋……否定はできない。

 「着替えてご飯食べたら行こうか。あの子達も連れて」

 「わかった。早めに準備する」



 今日の朝食はバゲットのサンドイッチ。あとはコーンスープとサラダ、カットした果物だ。着替えてからわかったことだが子供達もセイも私を待ってご飯を食べていなかったとか。申し訳ない。


 「お母さん、手を、繋いでもいい?」

 屋敷を出て馬車に乗り込むまでの間でセリーが可愛くおねだりしてきた。私よりも僅かに身長が高いが可愛い。ティアとどっちが可愛いだろうか。可愛いのジャンルが違うか。

 「良いよ」

 「ありがと」



 これは…良いな。エスコートとはまた違う気分だ。

 「くっつきすぎじゃない?」

 馬車に乗っても尚、手を握り続けるセリーにセイが不服そうに言う。これはヤキモチというものか。実の子供に向かって。


 「僕はいいの。だって僕お母さんのこと大好きだもん」

 「僕の方がセレーネのこと好きだし」


 あんたらは何をやっているのだ全く。

 レイラファールは冷静を装っているようだが家族揃っての外出に若干頬が緩んでいる。



 『セレーネ、着いたよ』

 「ああ、ありがとう」

 御者をやっていたシサーカがわざわざ呼びに来てくれたのでビクビクしつつも腹を括り、下車した。


 目の前には豪華に装飾された王宮。相変わらず大きい。



 「セレーネ、待ってたよ。おいで、案内するよ」

 「ありがとうございます、カイリお兄様」


 血がついたらしい純白の騎士服は真新しいものに変わっていた。そして私は竜騎士専用の制服、セイが新しく騎士団の方から貰ったという制服を着ている。

 ちなみにセイはカイリお兄様の隊、第三部隊に所属することになったので第三部隊を示す青のピンバッチがついている。


 騎士団は第一部隊から第八部隊まであり、それぞれに色がある。


 私が所属している第一部隊の色は金、だからクルーレスと私の胸にあるピンバッチは金色だ。金は濃紺の制服によく映える。

 で、第三部隊が青。服と同系色なのは第三部隊だけなのでピンバッジが見えなければ大体第三部隊だ。総括部はまた制服が違うので間違えることはないだろう。


 そして今から連れていかれるのは魔導師団。結界師と治癒師はここに属する。

 「お待たせ致しました、オルガリオ魔術師団長。妹を連れてきました」

 「ありがとう。急で申し訳ないね」


 魔術師団長の名はオルガリオ。名字はないそうだ。現在29歳、着任時は27歳。通常魔法に加えて普通は複数扱えない治癒魔法と結界も使える珍しい人材。ブルーグレーの髪と瞳を持ち、目元に小さくホクロがある、落ち着いた雰囲気の男性だった。


 「初めまして、私はここで魔術師団長をしているオルガリオと申します。本日は急な申し出にも関わらず来ていただいてありがとうございます」


 オルガリオ魔術師団長が頭を下げると緩く一つに纏めた美しい髪がサラリと揺れた。



 「セレーネ・バークレイと申します。婚約者のアレクセイ、息子のレイラファールとセリーです」

 お互いに挨拶を交わし、少し談笑したところで魔力属性を見る。


 聖女だった私の子供ということもあり、レイラファールとセリーの属性は聖だった。

 白竜の加護を持つティアやカイリお兄様は浄化魔法を使うがそれは聖魔法と同じと考えていただいて構わない。


 大きく見れば、白竜は聖、黒竜は闇だ。


 セイは魔力を使わず剣一本で今まで生きてきた。


 昔の、何も知らずに教会に連れていかれた私と同じ。

 もともと魔力はほとんどの人には宿らない。竜の加護がある国や人にだけ宿る。つまりウィルバイツ王国で魔力があったのはバークレイ領内の人だけ。


 だが、ティアバルト王国は国全体に竜の加護があるので国民は必ず魔力を持って生まれてくる。


 ウィルバイツ王国王都出身のセイに魔法が扱えるわけがなかった。しかし…


 「えっと…なんで光ってるの?」

 セイが手を翳した水晶は眩しく輝き始めたのだ。普通、魔力がなければ光らない。


 「アレクセイ様に魔力はないのですよね?」

 「ええ、生まれた時からありません」

 だが事実光った。色は白。無属性だ。


 「では、前世のご家族の属性かご自身の属性はわかりますか?」

 「両親に魔力はありましたが属性などはありませんでした。セレーネが風魔法や水魔法を使えるのと同じように魔法を使っていました。

 色々な魔物の肉を食べていたからかもしれませんが僕自身も特殊魔法以外は使えました」


 前世で魔力があったのなら記憶が戻ったのと同時くらいに急に現れてもおかしくはない。それか、今まで微量にあった魔力がここで見つかっただけなのか。

 オルガリオ魔導師団長もどうやら私と同じ考えだったようだ。



 私の番だ。

 前世は聖、今世は闇。属性がどちらかに偏るのは嫌だな。拒絶魔法にも愛着はあるし当たり前のように使っていた魔法が使えなくなるのは不便。


 ドキドキしながら水晶に手を翳す。


 「黒…じゃない?なんだろこの色。泥みたい」

 黒ではない。茶色でもない。でも白ではないから無属性でもない。



 「黄色があるね。お母さん、聖属性が使えるようになってるよ。闇属性もそのままだね」


 セリーが身を乗り出して可愛く解説をしてくれた。なにこの子。天使通り越して悪魔。


 「今まで黒一色だった水晶に黄色が混ざっていたのは恐らくセレーネ様が聖女としての記憶を思い出したからでしょう。アレクセイ様にも同じことが言えると思います。

 お子様は聖属性の貴女の子ですから聖魔法が受け継がれやすかったかと」 


 聖魔法か。属性が闇に偏っているのにその他のうちの一つが聖とは。


 「それで、僕の魔力はどれくらいですか?」

 セイが質問した。それは私も気になる。セリーとレイラファールは育て親の竜に魔法を教わったそうなので使えるし、自分の魔力量もわかっているが、私達は違うのだ。


 「アレクセイ様の今の魔力は平民の平均的な量よりも少し多いくらいですね。努力次第で魔力の量は変わりますが魔法攻撃には向いていません。


 魔物のロルフ様がしているように、剣に纏わせる練習をした方が効率は良いかと。


 セレーネ様は竜の加護を受けているというだけあり、初期魔力量が段違いに多い。魔法のみでも十分戦えるくらいの量はありますがそれなりに訓練を重ねなければ使いこなすのは難しいてすね」


 逆に言えば使いこなせるようになったら2属性での戦闘が可能になるということ。


 「早急に使いこなします」

 「本当に早急だね。僕も使いこなせるように頑張るよ。まずは体が魔力に慣れるかが問題かな。でも絶対できるようにする。今度こそセレーネの足手纏いになったりしないから」



 足手纏い?誰がいつそんなことを言ったのだ?

 「よくわからないけどセイを足手纏いと思ったことは一度もないしセイがいなければ今の私は存在しないよ。そんなくだらないこと誰に吹き込まれたの?私がシメてくるから言って」


 もう私はおこおこなので名前さえ聞けばタコ殴りにできる。

 「セレーネ、ごめんなさい。僕が勝手にそう思ってた。弱い僕じゃ役に立てないって」


 まさかの本人…!あらあらあらあら。

 ということで私はどれだけセイのことが好きか屋敷に着くまで語り続けた。セイは赤くなっていたけど他の人達はドン引き。解せぬ。


今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(13)

・アレクセイ(14)

・カイリ・バークレイ(15)

・レイラファール(15)

・セリー(15)

・オルガリオ魔術師団長

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