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30,聖女 ???side


 私はごく普通の平民の家に生まれた。父は農家で近くの市場に新鮮で綺麗な野菜を卸していた。私も父の野菜は大好きで抵抗なく食べることができた。お世辞にも裕福だとは言えなかったけれど家族皆仲が良く、凄く幸せな時間が流れていた。


 でも、異変は忘れた頃にやってくる。


 動物の大量死、不作、犯罪件数の増加。明らかにおかしかった。でも、これといった原因はわからなくて国も頭を抱えていた。


 そんな中、疫病が流行り、多くの人が苦しんで死んだ。私の両親も、例外じゃなかった。家族を失った。


 大切な人だったのに、助けられなかった。だから私は今まで信じていなかった神に祈った。心から願った。


 今世、苦しんで死んだ人が来世では幸せだと笑って天寿を全うできますように。


 これ以上、人々が苦しい思いをしなくてすみますように。


 こんなの祈ったところで神はいるかどうかもわからないし、薬ができても平民じゃ買えない。どうにもならないと思った。


 これからの人生も、両親を亡くした悲しみを、いつ病気になるかわからない恐怖を、味わっていかなければならない。そう思うと目の前が真っ暗になる。


 でも、ある日突然その日常は終わりを告げた。疫病がパタリと消えたのだ。枯れた草木は青々と茂り、死んで海岸に打ち上げられる魚がいなくなった。


 国中が歓喜に包まれた。勿論、私もとても嬉しかった。これからは平穏な生活に戻れると。少なくとも、1人の使者に連れて行かれるまでは。


 気がついたら教会にいた。

 そこには同じ年くらいの女の子が沢山いて、神官と呼ばれる人に魔力属性を見たいと言われた。

 私は平民で、学校に通ったことがない。だから魔力がどうとか属性がどうとか言われてもわからない。


 「手をかざすだけで良いのです」と言われ、逃げることもできそうにないので仕方なく、右手を水晶にかざした。


 「おぉ…なんと…貴女様はもしや…!」


 神官のざわめきは私にはわからなかった。だって私は何も知らないのだから。


 「貴女は聖女様です…!今までの悪い気は全て貴女様が浄化されたのです!この世界は悪の魔王が支配しています。貴女様のような清らかな心を持つ乙女にそれを倒していただきたいのです」


 セイジョとは何かわからなかったが、自分の知らない他人のために命を捧げろという意味だと捉えた。


 ユウシャと認定された国外の少年と2人きりで私は何かもわからないマオウのところに行かなければならない。


 毎日不安で仕方がなかったけれど、一つ救いだったのは、その少年との仲が悪くなかったということだった。私達はお互いに名前は言わず、家名だけを名乗った。


 私の家名は、ティアバルト。そして彼の家名は、バークレイ。


 バークレイは凄く強かった。彼は冒険者の次男だったそうで、私と同じように疫病で家族を亡くした経験を持つ。原因となった魔王を倒すということが私達の共通目標で、無茶な要求も受け入れられた。


 1年かけて魔王を倒した。凱旋が行われ、お祭り騒ぎの1日になったけれど、あまり嬉しくはなかった。どれだけ辛いことがあっても立場があると突き放されて私達は何もしてもらえなかったのだから。


 「魔王を倒せず俺達が死んでもきっと彼らは悲しまないよ。だって、俺達は国に認められた道具でしかないんだ。失敗したら非難してまた新たな道具を探すだろうね」


 隣にいたバークレイの悪態に思わず苦笑する。私は道具でも良い。嬉しいわけではないけれどそれで皆の役に立てるなら。


 そして魔王を倒したセイジョとユウシャは結婚した。


 「この結婚だけは感謝しているよ。好きだ。ティアバルト、俺と結婚してほしい」

 「はいっ…!」


 私達は結婚式の日、両想いになった。

 





 めでたしめでたし


となるわけもなく、私達は死んだ。私が双子の男の子を産んで1年、結婚から2年が経った冬の日。家に火がつけられたのだ。外から乱暴な声が聞こえたからきっと放火だ。


 まだ小さな息子達は自分の身を守れない。私達には魔王討伐時代、竜という者と仲良くなった。困ったら頼れという言葉通り、私達は愛する息子にキスをして竜の元に送り出した。

 そして、煙を大量に吸い込んでしまったことが原因で、十数年の人生を終えた。


 発見された遺体は、2人で抱き合っていたそうな。


 殺されても尚、私は人を憎めなかった。なぜだろうか。そんなの、わからない。

今回の登場人物

・聖女

・勇者


セレーネの家名がバークレイなのは、勇者の生家だからです。当時の先代の死後、勇者の叔父にあたる人がバークレイを継ぎ、勇者が魔王を倒したことで公爵家になりました。

王族の家名とティアバルト王国の名前が一致していないのは魔王を倒した聖女の家名を取って国名にしたからです。

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