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29,絶望 アレクセイside


 セレーネが発ってから、どれくらい経っただろう。

 

 今のバークレイ領は魔の森に面している、アクセス良好な地だ。

 そのため、上位魔物も多く出てくる。屋敷に常駐している騎士は10人もいない。


 黒竜も白竜も、自分の加護下にある地を守ろうと、境付近まで行って何日も帰ってきていない。僕も度々出かけて狩り残された魔物と戦いはするが、転移陣を使って大体日帰りだ。他の領にまで行ったりしてもだ。


 幸い、今は魔物の被害を食い止められてはいるが、これからどうなるかわからない。戦いに行かない日は毎回アリオ殿の指示で騎士数人と共に領民の生活を把握しに行っていて生活が厳しそうなところから順に食糧や日用品を支援していく。


 連日の戦闘により、領民は無闇矢鱈に外に出ることができない。ハルイが魔道具と浄化魔法がかけられた水を餌に他国と食糧交渉をしてくれているので食糧問題については他の領よかマシだろう。


 カイリからも連絡がない。セレーネからの連絡も。


 報せがないのは良い報せだとどこかの誰かが言っていた気がするが僕は、報せがないと不安なのだ。


 賑やかなはずだった屋敷は毎日不安の声と騎士の無事を祈る声で溢れている。そんな僕も、領民の前だから気づかれないように振る舞っているが、心配でしかない。自分も行ければ良かったが僕が行っても足手纏いになるだけだ。


 あっちではどうなっているのだろう。


 でも、僕が一番知りたいと思っていたことはすぐに解決した。


 食糧品の在庫を確認していた時。少しだけ、騒がしいと感じた。いや、この部屋は音を通しにくい。少しなんかじゃない。


 セレーネが帰ってきたのかもしれない。


 早く会いたい。ずっと会っていなかったんだ。


 でも、荷馬車に乗って帰ってきたのはセレーネじゃなかった。


 グレーの髪。


 ぐったりした状態で戻ってきたのはセレーネの従魔のロルフだった。

 嫌な予感がする。緊張で心臓が早鐘を打っているのが自分でもわかった。

 アリオ殿も呆然としている。

 夫人もティアも、ハルイもそれは一緒だ。


 混乱が冷めない中、帰ってきたのは白い騎士服に血をつけ、シサーカを抱いているカイリだった。見たところ、カイリのは返り血かなにかで本人に怪我は無さそうだ。


 同乗している騎士の顔や目を真っ赤に腫らしたカイリの様子から、こちらも何かあったとわかる。


 「緊急転移、しなかったよな。する余裕もないくらいの重症だったのか…?魔力枯渇…?」


 ハルイはずっと、消え入りそうな声で今の状況を整理している。表情がわかりやすく変わらないハルイだからこそ内にある感情が見える。


 そして、待望のセレーネが帰って来た。

 「セレ……ネ…?」


 他の馬車と違い、同乗者の騎士達の服もビリビリに裂けている。だが、皆無事だ。

 セレーネ以外は。


 「どういう…こと、なの…?セレーネッ…!何で、こんなに…?」


 うまく話せない。喉がカラカラに渇いてしまったように、声が出ない。


 「ドラゴンが出たんだ。俺のところにも、セレーネのところにも。そして、セレーネはドラゴンゾンビの魔核を破壊するために正面から突っ込んだ。魔力が少なくなった中、必要最低限の結界しか張らずに」


 カイリはぎゅっと唇を噛んだ。


 「怪我をしていると知っていながら戦わせたのか」

 アリオ殿が厳しい声で騎士達に言う。実際、セレーネの左足は切断されているし、酷い火傷も負っているしそれに気づかないはずがない。


 「お父様、あの時、お姉様は心配かけないようにと自らの傷を幻影魔法で隠していたのでしょう?

 それなら今回も、最後まで戦うために隠していたかもしれませんわ。青竜の加護を受けた人の看破のスキルがなければお姉様の魔法は完璧すぎて見破れません」


 「幻影魔法…か。確かに教会に集められた死者を生き返らせた後、セレーネは魔力が殆ど残っていなくて魔法が解けてしまいました。それまでは無傷にしか見えなかった。

 貴女の言う通り、看破のスキルがあればわかったかもしれません」


 震えるようなティアの言葉に、セレーネに付き添っていた青年が言う。セレーネの幻影魔法は僕も知っている。切断された事実さえ隠してしまうくらい強い能力だったのか。


 「それで、遠征に行った方の中で亡くなった方はどれくらいですの?」

 「ティアバルト王国、ウィルバイツ王国、2つの騎士達の中で最終的に亡くなったのは3人だ。ロルフ、シサーカ、そして…セレーネの3人。

 他は皆蘇生に成功している。何とかして黒竜を頼れないかと、本部より先にこちらに向かったんだ」


 夫人の問いに答えたカイリ。その顔は歪み、今にも壊れてしまいそうだった。


 「あ…あぁっ…!」


 もう、立っていられなかった。

 足に力が入らない。涙が溢れて止まらない。

 「っ…!お姉様っ……」

 「セレーネっ……!」


 駄目だ。泣いたって騎士の罪悪感を強めるだけなんだから。そう思っていても止められない。


 セレーネは僕の、最初で最後の恋なんだ。蘇生することができなければ僕は、世界で一番大切な人を失うかもしれないんだ。


 3人のうち、誰か1人でも生き返れなかったらその時点でセレーネは二度と目を覚まさない。


 「セレーネの亡くなる直前の言葉は、『セイに会いたい』でした。ロルフとシサーカは、戦闘が終わってすぐに魔の森で亡くなりました。セレーネはそこから1日、『セイに会うんだ』『謝らなきゃ』と言い続け、魔の森を抜ける直前で亡くなりました」


 「それは…本当のこと…?」


 セレーネの側の青年はセレーネの同僚らしい。ずっと、声をかけ続けてくれていたそうだ。

 「はい。本当です」


 セレーネ。僕の大好きなセレーネ。

 騎士としての役目を果たして、最期まで僕を想ってくれていたんだね。


 セレーネ。君がもし生き返れたなら、一番に言いたいよ。

 


 愛している



って。だからお願い。もう一度僕を見て。

今回の登場人物

・アレクセイ(14)

・バークレイ一家

・クルーレス

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