28,重体のセレーネ3
最初はセレーネsideです。
苦しい。熱い。シサーカに精神干渉されていたとき以上に苦しくて熱い。
私は何もできなかった。術も解けてズタズタになった体を見られた。
結局私が死んだらシサーカもロルフも死ぬ。生きなきゃ。
でも、もう眠くて…。
「セレーネ!寝るな!もう少しで魔の森を抜けるから!」
クルーレスが必死に叫んでる。
「魔の森、抜けたら…セイに会いたい……謝りたい…セイ…ごめんなさい……ごめんなさい」
こんな状態、見せたくなかったのに。
ちゃんと帰ってくるって決めて出かけたのに。
セイ、きっと悲しむ。
私のこと、大好きだもんね。
セイ、私も大好きだよ。
「セレーネ!セレーネ!死ぬな!セレーネッ…!」
●クルーレスside
「セレー……ネ…死ぬな…って言って、るんだ…」
いくら呼びかけても返事が返ってこない。
隣にいる隊長もいつになく表情が硬い。セレーネを荷馬車に乗せてから従魔のロルフの死を聞いた。
騎士団は魔物との戦闘で、いくつもの死人を出している。隊長はもう何年も騎士団にいて、友人や先輩を何人も失っているそうだ。その時は実感が湧かなかった話が今はよくわかるよ。
初めて会ったとき、物語から出てきたような凄い美少年だと思った。でも話してみたら実は女の子で。
甘いものが苦手でドレスも嫌う。女の子が喜びそうなことや物、その全てを要らないと言っていた。
じゃあ何が欲しいのかと聞いたら「大切な人の幸せだ」と言っていた。
そんなの無理だろう。全てを持っている人間の綺麗事でしかない。そう思って始めはあまり好きではなかった。むしろ嫌いだった。
でも剣術訓練で、普段の見回りでも一緒になるようになって知った。セレーネと話す人は皆幸せそうに笑う。老若男女、誰であってもセレーネは好かれる。
セレーネはそんな人を守りたい、それを「大切な人」だと言ったんだ。
そこから彼女への見方が変わった気がする。自分の思うがままに生き、助けを求める人を見捨てず、魔物を薙ぎ倒して人の死に涙を流す。
強さが異次元なだけで普通の人間だった。持っていないものだって沢山あった。自分は一体今まで彼女の何を見ていたのだろうか。
沢山ぶつかって自分自身の実力も上がった。一年目は新人で、実践に駆り出されることはない。
だが、セレーネのお陰で一年目の僕も実践経験を積むことができた。感謝してもしきれないくらい沢山のことをもらった。
それなのに…
「ふっ…うぅ…」
涙が溢れて止まらない。もし、何かの術でセレーネが生き返ったとしても、一度死んだことに変わりはない。
セレーネの愛馬は人化できるようだが話すことはできない。それでも悲しみは伝わる。隊長だっていつもはもっと口数が多いのに。
親しい人の急死って、こんなに辛いんだな。知らなかったよ。そして、知りたくもなかったよ。
いつも愛想のない隊長の目元が少しだけ濡れているような気がして僕は目を背けた。きっと見られたくないだろうから。
今日だけは、背中を撫でるその手が心地良いと感じた。
今回の登場人物
・セレーネ・バークレイ(13)
・クルーレス
・レウクルーラ団長




