27,重体のセレーネ2
流血シーンあります。
●カイリside
俺は先程までウィルバイツ王国西側の山に出たドラゴンと戦っていた。浄化魔法で弱体化させつつ、第三部隊の隊長として妹セレーネの従魔の1人、シサーカに乗って上から指示を出していた。
シサーカは幻と言われ恐れられていた氷竜。なぜかセレーネに懐き、その膝を折った。
そんなシサーカが戦いが終わってすぐ、様子がおかしくなった。
「シサーカ、本当にどうしたんだ?」
いくら聞いても答えてくれない。
「ゲホッ…!ハァ……ハァ…ぅ、ぐ……」
真っ青な顔で蹲ったシサーカは苦しそうに肩で息をし始め、やがて――
「ゲホッゴホッ…!」
吐血した。
シサーカほどの竜になれば今回の消費魔力は魔力枯渇に陥るほどではないはずだ。
「か、いり…」
「どうした。俺にできることなら何でも言え」
治癒魔法と浄化魔法は系統が違う氷竜に使えないが、それ以外なら何でもするつもりだった。シサーカもう家族同然の扱いだったし俺も弟みたいに思っていたから。でも、返ってきた言葉は俺を絶望させるのには十分なものだった。
「ロルフが…死んだ……ボクもそのうち死ぬ。セレーネも…」
頭が真っ白になった。セレーネが死ぬなんて信じられなかった。信じたくなかった。
「こ、黒竜を頼るのは無理、なのか…?」
セレーネに加護を与えた黒竜は拒絶魔法の使い手だ。そして死者蘇生ができる。
「無理だよ…セレーネとロルフは平気だけど、ボクに拒絶魔法…使えないから…。死んだ後に、魂を依代とかに憑依させてくれたら……全員生き、返れる…けど……ゲホッ…!」
そう言ってシサーカは倒れた。シサーカの吐いた血が白い騎士服についてしまったがそんなことはどうだって良い。
『広範囲結界』
魂が残っていたら、まだ大丈夫。セレーネが言うに、魂は結界を出られないから、きっと大丈夫。大丈夫だ。
俺は最後の可能性を示してくれた、シサーカを抱き抱えて死者数0の仲間の元に向かった。初めて抱えた少年は思っていたより小さかった。
●シサーカside
ドラゴンを倒して、体の異変に気づいた。魔力はまだ有り余るほどあるし、魔力枯渇ではない。じゃあ何?
遠くでカイリの声が聞こえる。
『ゲホッゴホッ…!』
突然の吐き気に戸惑う。今日は何も食べていないのに何を吐くのか、と。疑問の答えはすぐにわかった。
血だ。
ボクは血を吐いたんだ。頭の中に嫌な予感が浮かび上がった。この半身を無くしたような感覚は……
『か、いり…』
最期に託さなきゃ。苦しいけど、悲しいけど、ちゃんと言わなきゃ。
「どうした。俺にできることなら何でも言え」
『ロルフが…死んだ……ボクもそのうち死ぬ。セレーネも…』
息が苦しい。目の前のカイリの顔が歪んだ。それもそうだ。ボクの言葉はカイリを絶望させるのに十分すぎる。
カイリだけじゃない。バークレイの人達も、騎士団の人達も、皆セレーネのことが大好きなんだ。絶望、しないわけがない。
「こ、黒竜を頼るのは無理、なのか…?」
縋るような目で見られると何とかしなきゃと思うが痛みで上手く話せない。
『無理だよ…セレーネとロルフは平気だけど、ボクに拒絶魔法…使えないから…。死んだ後に、魂を依代とかに憑依させてくれたら……全員生き、返れる…けど……ゲホッ…!』
また、血を吐いてしまった。
死にたくない。まだ、セレーネと一緒にいたい。もし失敗したら二度と会えないんだ。3人のうち誰か1人でも生き返れなかったら、その時点で失敗なんだ。
死んじゃだめ。頭ではそう思っていても、体はちっとも言うことを聞いてくれない。
意識を保とうとしても勝手に瞼が下がってくる。
カイリが何かの術を使ったのはわかった。
でもその時点でボクは暗闇に吸い込まれた。
一点の光もない、自分の手も見えない、ただ感情だけがある世界だった。
今回の登場人物
・カイリ・バークレイ(15)
・シサーカ




