26,重体のセレーネ レウクルーラ第一騎士団長side
流血シーンあります。
「ごめ…なさい……せ………ね…」
「死ぬなロルフ!」
「目を開けろ!」
「……駄目だ。もう息がない…」
たった今、俺の目の前で1人、死んだ。仲間を失うのはこれで何度目だろうか。
目の前で息絶えた者の名はロルフ。
彼は第一部隊、俺の隊に所属している竜騎士セレーネの従魔だ。6歳のセレーネに負けたときからまだ一度も勝っていないとか。だが彼は上位魔物を無傷で倒してしまうほどの実力者だ。そんな彼が重症を負い、死亡にまで繋がってしまう。それくらいドラゴンゾンビが強かった。
従魔は主が死ぬと共に死ぬ。その逆もある。従魔が死ねば主も死ぬ。そしてロルフが死んだ今、セレーネの死はほぼ確定しているようなものだ。
彼女は、蘇生をしなければと、愛馬に乗って教会に行ってしまった。あいつはどこまでも他人を優先する。もう少し後でも、回復してからでも遅くはないのではないか。
「俺は教会に行く。荷馬車を一台持って行くが良いな。後処理は頼んだ。そしてロルフの遺体は結界を張って傷つけないようにティアバルト王国王都まで運べ」
「「はい!」」
セレーネが歩けないような重体だった場合、荷馬車がある方が便利だ。ティアバルト王国から連れてきた荷馬車はもう帰らせているので戦い終了の連絡が行くまでは戻って来ない。そんな連絡をする暇はなく、仕方ないのでウィルバイツ王国の荷馬車を借りた。
「クルーレス!荷馬車を連れてきた!」
「ありがとうございます!」
荷馬車を出すのに少し手間取り、着いたのはセレーネが蘇生を終わらせてからだった。そして驚愕する。
セレーネはドラゴンゾンビを倒した直後、四肢欠損などなかった。だがどうだろう。目の前で、苦しそうに肩で息をしているセレーネの左足は、膝から下がなくなっていた。
あの時、魔物の被害が多かった地域で着る服を無くした少女にマントを渡していた。
だがそれだけではなかった。上着はビリビリに裂けて、白いシャツは血で真っ赤に染まり、僅かに覗いた胸はドラゴンブレスのせいで酷い火傷をしている。更に酷い所は溶けて骨が見えている。
それなのになぜ自分は気づかなかった。いや、気づかないようにされていたことに気づいていなかったのか。
「クルーレス、なぜ俺達はセレーネの傷に気づかなかったんだ」
「魔法で、隠されていたからです。解けちゃった、と言っていましたから。魔法の名称まではわかりませんが傷を隠すために何らかの魔法を使われていたことは確かです」
「そうか」
クルーレスは全然止まらないセレーネの止血をしながら必死に呼びかけている。
俺は連れてきたこの国の騎士に一番知りたいことを聞いた。そして、一番不満に思っていることを。
「この国の王族は何をしているのか。現国王は、王妃はこんな事態になっているというのにどこにいるんだ。
ティアバルト王国は手を貸している側だが何の挨拶もされていない」
「も、申し訳ございません。私どもにもそれがわからないのです。国王陛下が崩御されたため第一王子のハルトナイツ殿下が王となりましたが魔物の被害が王都にまで出始めると会議などにもあまりお見えにならなくなり…王都から逃亡してしまった可能性も……」
クソッ!そんなのが国王なのか!?あり得ないだろう!
騎士団の特別試験の際、セレーネは冤罪で、犯罪者として自分の婚約者に追放されたと言っていた。今の自分は爵位を貰った貴族ではあるが王侯貴族が嫌いだとも言った。偏見だけで悪口を言う人が憎いと言った。
それでも彼女は自分を傷つけた国に手を貸した。この国の王がかつて自分を陥れたと知っていても。
「私にとっては憎い相手でも、誰かにとっての大切な人なら生き返す価値がある」
それが彼女の口癖だった。死者蘇生の能力を持っている。それは他人の命を握ること。
セレーネ自身は気づいていないようだが私情を挟まない考え方を俺も皆も尊敬していた。
もしセレーネが死ぬことになったとしたら………きっと騎士団は壊滅的なダメージを受ける。
目に見えてすぐにはならなかったとしても第三部隊にはセレーネの兄がいるし、俺の隊でも可愛くて強いと年上の男達が可愛がっていた。
セレーネの穴は大きい。そのうち内部崩壊起こすだろう。考えただけでもゾッとする。
「隊長、帰りましょう。この国に、セレーネの味方なんていない。貴族も平民も皆セレーネの敵だ。早く治療しなきゃ」
「ああ、そうだな。荷馬車の方に乗せられそうか?既にセレーネの愛馬は乗っけてある」
「はい。隊長、セレーネの足持って下さい。僕1人じゃ胸の傷を抉ってしまうかもしれない」
「わかった」
俺はできるだけ胸にできた傷を刺激しないようにそっとその体を持ち上げた。初めて持った女性の体は、とても軽かった。
今回の登場人物
・クルーレス
・レウクルーラ団長




