24,最上位種、ドラゴンゾンビ
一瞬ですが人が死にます。
「レウクルーラ団長、お待たせしました。役に立つかはわかりませんが生き返った騎士半分を連れてきました」
「これで半分か。死人は大分多かったのだな。魔力の方は平気なのか?」
「はい。道中で吸ってきたので」
「吸う」
「はい」
イケメンマッチョの苦笑いをいただき、魔物の被害が大きい場所に向けて走る。
ここもまあ酷いものでもともとは建物があっただろう土地は瓦礫で埋もれ、屋台は完全に潰れていた。僅かに生き残っていた住民の啜り泣く声が聞こえる。
死人の半数以上は父親や兄などの男達。農具を振るった跡がある。大切な人を守りたい一心だったのだろう。
わかりやすいように怪我人と死人で分けた。私が拒絶魔法で治せるのは末期病、複雑骨折や四肢欠損など致命傷になるものだけなので擦り傷などは治癒師に任せ、死人はこちらで死者蘇生の拒絶魔法をかける。
私を見た住民の一部は「黒だ」と怯えたような、それでいて恨みがましい視線を向けて来る。魔物を連れてきたのは私じゃないからね。ほんとだからね。なんともまあ腹が立つ態度だがここは目を瞑ってやろう。
『拒絶魔法 死者蘇生』
頼むから全員生き返ってくれ。本当に。私の精神のためにも。もし1人でも生き返らなかったら泣く。
そんな私の願いに応えるように、魂達は何一つ消えず、真っ直ぐ主の元に向かっていった。
一安心。
次は重症者を治す。幼い子供を庇った姉が、背中を引き裂かれて意識を失っている。まずはここに呪いの上書きをしてから拒絶魔法をかける。
魔物の付けた傷に呪いがかけられるとか嫌すぎる。多分私からかけられるのも嫌だろうけど。それでも死に至る呪いかバナナの皮の呪いかなら圧倒的バナナだろう。
「お姉ちゃん!」
「あれ…私、何をしていたの…?」
意識が戻ったようだ。
治した怪我人は生き返った人の中に家族がいた場合、一緒に荷馬車に詰め込む。行き先は広い土地と厚い結界がある教会だ。安置所とは分けた方が良いだろう。安置所の蘇生は全部終わったらやる。
治癒を終わらせたら最後は治癒師と結界師、荷馬車用の護衛騎士に任せる。人数が多いのでここにウィルバイツ王国の騎士を残した。流石に自国の住民は消さないだろうと信じて。
「セレーネ、平気か?」
クルーレスも私の魔力を心配してくれる。が、さっきからずっと魔力について聞かれていたら流石に疲れる。
「クルーレス、私は平気だよ。魔物から吸い取れば良いんだから」
「でも魔物から奪ってもその分は直ぐに顔も名前も何も知らない奴のために消えていくだろ。他を生かそうとして自分が死ぬのだけはやめてほしい。もしもここで死なれたらドラゴンも魔物も倒せないまま全員死ぬ」
戦闘要員かよ、とも思ったが、私は割と可愛がってもらっているのでその人達とか、あとはカイリお兄様のコンディションにも関わってくる。それでか。
「気をつける」
あまり信じていないようだったが、私はそんなに信用がないのだろうか。
しばらく魔物を狩りながら魔力を吸っていると、緊急集合がかかった。何かあったようだ。
「レウクルーラ団長っ!緊急事態ですか!?」
「ああ、住民は皆避難させた。
東の森にドラゴンゾンビが現れたそうだ。この分だと最上位種が次々に出てくるかもしれない。
西側にいる第三部隊も警戒を強めている。既に第二部隊は一部騎士を残してこちらに向かってきていて道中で合流する予定だ。」
出てきた。アンデッドだ。一番面倒な敵。死んでも死なない。弱体化させつつアンデッドの心臓部、魔核を壊さないといけない。
私達は急いで馬を走らせた。他の隊員達は私の結界と治癒師のお陰でほぼ全員無傷だ。魔物とぶつかっていることを考えれば誰も欠けていないのが異常だな。
二班にはロルフがいる。怪我をしていないと良いが私の人生がそんなにイージーモードなわけがない。私はまだロルフ以下の魔物にしか出会っていないので擦り傷程度だ。
クルーレスには上位魔物を一瞬で狩るのは普通じゃないと言われた。鍛錬に付き合ってくれた上位魔物のロルフには感謝しなければ。圧倒的に今回の魔物よりロルフの方が強い。
魔の森最深部。
暴れに暴れたのか洞窟と思われるものは溶け、大木と思われるものは枯れて水を抜かれたような見た目をしている。
威嚇してくるが私達にはノーダメージだ。全員受けるダメージはほぼ無効化されているので。そしてこれは予想外だったがお供達を連れている。無論、彼らもアンデッドだ。
「ウィルバイツ王国の騎士はドラゴンに魔力を供給しているお供達を殺れ。あとはこちらがやる。セレーネ、いいな」
「はい。いつでもどうぞ」
遂に最上位種との戦いが始まった。
今回の登場人物
・セレーネ・バークレイ(13)
・クルーレス
・レウクルーラ団長
・騎士




