表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/41

20,報せと決意


 「はぁっ!?国王が死んだ!?ウィルバイツ王国の!?……じゃあ王妃とハルトナイツ、あと男爵家はどうなった」


 シサーカからの報告に驚愕した。


 『国王と王妃は同時に姿を消したよ。国王は崖下で見つかった。


 転落事故に見せかけた自殺だと思う。王妃の死体は確認できなかったし魔力を辿ったけど死んだ証拠もない。


 王妃に関しては誰かが一枚噛んでると思うよ。ハルトナイツは王位についた。父親が死んだからね。ハルトナイツと婚約した女も実質王妃。でも結構きついと思うよ。



 民からの信頼も、豊かだった生活も、資金源もない。ウィルバイツ王国は逃げ出す人が多すぎて出国禁止令が出てるけどそれもいつまで持つか』


 淡々と事実だけを伝えるその声は聞いたことないくらい冷たいものだった。最近、シサーカは姿を消すことが出来るということで色々な国を回って情勢報告をしてくれていたが、ウィルバイツ王国がここまでになっていたとは知らなかった。



 「公爵家を陥れた本人が公爵家に助けられていたとも知らずに破滅する、か。哀れだな」


 「ええ、呆れを通り越して同情すらできますわ」


 『全くだ。妻と俺の加護下にあるバークレイ公爵家あってのウィルバイツ王国だというのに』


 『子供達を傷つけたのだからこれくらい当然だね』


 同席していた両親と竜夫妻は悪態をつく。私もつきたい気分ではあるがここはぐっと我慢する。ロルフも我慢しているのでね。


 『このことは赤竜兄ちゃん経由でこっちの王様にも伝わってるよ。


 魔物に関してはここも無関係とは言えない。結界があるとはいえ魔物に傷つけられた人間は入るだけじゃ治らない。


 浄化の結界は傷を治りやすくするだけだからね。んで、現状怪我人の搬送が増えてる。魔物から受けた傷はどれだけ繋ぎ合わせても絶対に治らないから浄化魔法を使うか魔力の質が魔物に一番近い黒竜の魔法で呪いの上書きをしてから治癒師とかが治癒魔法をかけるかのどちらかしかない。



 王様はウィルバイツ王国に救援を出すほかないってさ』



 こっちにいる間に赤竜とも仲良くなったようだ。本当の氷竜を知ったからだろう。


 「救援を出すなら騎士団のカイリお兄様は不在になるな。そうなると浄化魔法の使い手はティアと白竜、んで、私もシサーカとロルフを連れて行くから拒絶魔法もハルイお兄様と黒竜だけ。竜も万能じゃないし、キツいな」


 使える人間が限られているというのは不便だ。

 1人で背負うものが多すぎる。ハルイお兄様は拒絶魔法の使い手ではあるものの、実践経験はほぼない。そうなると戦場で使い物になるのは私と黒竜だけ。黒竜はこっち側の守りに徹してもらいたいから実質1人だ。


 「セレーネ、私達は公爵家ではなくなったものの、一応こちらの国王陛下から男爵位を賜った貴族ですよ。もしものことがあってはいけないし戦場に赴くのは…」


 お母様が諭すように言うが私には通用しない。


 「カイリお兄様も貴族ですが騎士です。私も試験に合格し、騎士団に所属していることになっています。ただ、竜と魔物と契約しているということで扱いが他と違うだけで」


 そう、私はカイリお兄様のコネクションを使って騎士の特別試験を受けさせてもらったのだ。


 丁度家具の新調を考えていた時だった。時間が取れなかったのは試験のため。特別試験とは試験期間外に行われるもので、内容自体は大して変わらない。


 試験を通過し、騎士団に所属できることにはなったが、竜を連れた騎士はいないため名を変えて、竜騎士となった。他の騎士と違うので共通訓練以外は個人で鍛錬して呼び出しがあったら行くみたいな立ち位置だ。最近は国境付近に出る魔物への対処に関して呼び出しをされることが多い。



 国境付近に出るのは低級魔物の、ロルフより弱い魔物ばかりだが、一般人からすれば十分脅威になりうる。


 ぐっと言葉に詰まったお母様を見て勝ちを確信した。その時。


 コンコンコン


 「セレーネ、入っても良い?」

 ハルイお兄様の声だ。


 「どうぞ」


 入ってきたハルイお兄様は小さな箱と1枚の書類を抱えていた。


 「ハルイお兄様、これは?」

 「こっちの紙は騎士団からの応援要請でこっちの箱はさっき完成した魔道具だよ。僕はカイリやセレーネと違って戦場では全く役に立たないからせめてサポートを、って思ってね」


 机の上に置かれた箱を開ける。中に入っていたのは鈍い光を放つ腕輪だった。


 「3人ともこれを腕につけて3つの腕輪同士をくっつけて」


 言われた通りにシサーカ、ロルフ、私はそれを左手首につけて合わせた。が、何も起こらない。


 『何もならないよ?これ』


 「まだね。3人のうち誰か1人が部屋の外に出て2人は部屋の隅にそれぞれ行って。外に出た人は中にいるどちらかを思い浮かべて腕輪に魔力を込める。とりあえずやってみて」

 「わ、わかりました」


 シサーカは部屋の右端、ロルフは部屋の左端、そして私は部屋の外に出た。


 「セレーネ、もう大丈夫。やってみて」


 ハルイお兄様の合図に合わせてまずはシサーカを思い浮かべ、魔力を込めた。その瞬間。


 『わっ…!』

 「え、え、え…!?」


 扉も閉まっているし外にいたはずの私はシサーカの隣に立っていた。


 「転移陣の代わりに。セレーネは僕と違って自分の意思で転移ができないでしょう?これがあればセレーネは2人といつでも合流できる。ずっと3人同じところでは戦えないよね。僕も同じものを持っているからこっちに用があるときは僕を思い浮かべてくれたらいいよ。

 ただ、魔力枯渇寸前の時は転移できない」


 「ありがとうございます。緊急転移しないことを祈ります」


 「ああ、それが良い。あとこっちの応援要請の方は明日までだってさ。まだ死人は出てないけど結構騎士側に負傷者もいるからカイリは今日も帰れないっぽい」


 ティアは自分の身を守るための身体能力がない。となると、魔物の傷はカイリお兄様が治すしかない。私も一応呪いの上書きをしてからなら治せるから早めに行った方が良いだろう。


 「今すぐ向かう。シサーカ、ロルフ、準備して。私はセイのところに行く」

 「わかった」

 『うん』



 即決した私を両親は止めなかった。もう止めても行くだろうと諦めたのもあったかもしれないが。セイは最後まで渋った。渋りに渋った。


 セイはもう、上位種のロルフと互角かそれ以下くらいだが腕は確かだ。

 だからこそ、黒竜とともにここを守らなければならない。白竜もティアの護衛とサポートだ。脳筋の赤竜が浄化魔法の結界内で魔物を殲滅させ、私達騎士団はウィルバイツ王国まで行くという役割だ。


 戦はもう始まっている。褌締め直してかかろう。

今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(13)

・ハルイ・バークレイ(18)

・アリオ・バークレイ

・シャルロッテ・バークレイ(母)

・ロルフ

・シサーカ

・黒竜

・白竜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ