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悪役令嬢は今世では処刑されません

作者: Tokyo Secession

「ひっ...これは一体...!?」

寝室の豪華なベッドで目を覚ましたエレナは、頭の中に次々と走馬灯のように映し出される過去の記憶にショックを受けた。

処刑の場に立たされ、首を絞められる直前のシーンが鮮明に甦った。

「ごめんなさい...どうかお許しを...」

エレナは避けられぬ運命に涙を流しながら詫びた。しかし、相手からは無慈悲な一言が飛んだ。

「黙れ、悪党め!そんな穢れた者に慈悲はない!」

「くっ...!」 エレナは引っ張られる髪に痛みを感じた。

「さあ、行くぞ!」

次の瞬間、エレナの視界が真っ赤に染まり、意識が遠のいていった。

20歳で処刑された悪役令嬢エレナは、再び16歳として生まれ変わっていたのだ。

「ま、まさか...前世の私が、こんな世界で生まれ変わっていたなんて」

冷や汗が噴き出し、呼吸が荒くなる中で奇妙な体験がエレナを襲った。

過去世ではエレナは、王家に生まれながら恣意的な振る舞いを繰り返し、多くの罪を犯していた。庶民への暴力、財産の私的流用、そして反逆の疑いすら持たれるほどの振る舞いだった。そうした罪の数々が重なり、ついには処刑を言い渡されてしまったのだ。

「お嬢様は本当に気が狂ったのかしら」 召使いの心の声が聞こえた。

「えっ...?」 エレナは目を見開いた。

「あんな嫌な性格なのに、美人なのが本当に羨ましい」 侍女の本音が追い討ちをかける。

「な、なんですって...?」 エレナは我に返り、目の前の現実に戸惑いを隠せなかった。

侍女は何食わぬ顔でエレナを見返す。しかしその心の中は揺るがなかった。

「いい加減に自分の欠点に気づいていただきけないかしらね」

エレナはショックで言葉を失った。エレナは次第にこの世界では人の心が読めるという特殊な能力を持っていることに気づいていった。

初めはその能力を制御できず、あちらこちらから入り乱れる心の声に戸惑いを隠せなかったが、徐々に集中力を高めると、特定の相手の心の声だけを選んで聞くことができるようになった。

しかし、そうすれば周りの人間の大半が、自分を嫌っていたり羨んでいたりするネガティブな感情を持っていることがわかった。

「この子を利用すれば、私の余生も安泰だ」

そう考えていたのは、唯一の心の拠り所だったはずの執事ソレイユだった。

これにはエレナも胸が痛んだ。


しかしそんなエレナも、過去に自分を処刑した王太子ディオンの心だけは読み取れなかった。

「姫君...?」

エレナはある日、王宮の庭でディオンに遭遇した。 処刑の記憶が蘇り、全身の血の気が引いていった。

「ディ、ディオン様...ご、ご機嫌よう。」

しかし、ディオンの心が読み取れない以上、彼の本心は分からなかった。 エレナの体は小刻みに震えていた。運命を変えなければ、また同じ過酷な目に遭うことになる。 エレナは運命を変えるための行動を始める決意を固めたのだった。


エレナはディオンの心の奥底を探るため、彼の側近たちの心を読んでいくことにした。 もしかすれば、彼らの隙間からディオンの本心の罅を見つけられるかもしれない。

しかし分かったのは、ディオン側近たちには様々な思惑と野心が渦巻いていたことだ。

「ディオン様を陥れることができれば、私こそが実権を握れるに違いない」

「大きな地位のない私でも、王子の寵愛を得られれば勝ち組人生だ...!」

エレナは、こうした側近たちの支離滅裔な野心を直に感じ取った。 そしてその根底にあるのは、ディオン自身への嫌悪感や軽蔑の念だと悟った。

「ディオン様は強がっているだけ。あんな男がいつまでも王位に納まっているわけがない」

一人の側近が露骨に軽蔑の念を抱いていた。エレナはそれを聞き、ディオンに思わぬ共感を抱くようになっていた。

「一人ぼっちなので強気な態度を取らざるを得ないだけなのかもしれないわね...」

エレナは自身の過去を重ね合わせ、ディオンの孤独を思った。

一方でディオン自身も、エレナの一挙手一投足に違和感を持ち始めていた。前世の偏見が少しずつ揺らいでいった。

「どうしてあの女は、前とは違う態度なのか?」 ディオンはある日、通りすがりのエレナと偶然出くわした。

「わ、私に何か?」 エレナが気づかれたことに慌てた様子を見て、ディオンは首を傾げた。

「いや、なんでもない。ただ、前とはちょっと様子が違うようで...」

その言葉に、ディオンの心の中に前世の記憶が走馬灯のようによみがえった。

エレナを処刑する前の出来事が、はっきりと思い出されたのだ。

「あの時は私が盲目だったのか...」 ディオンは自問自答した。心に引っかかるものがあった。

「この女は一体何を企んでいるのか...」 ディオンはエレナの行動を監視し続けた。

しかし、ディオンは心の中でエレナへの敵意を完全には拭えなかった。

そんな中、エレナを陥れようとする執事たちの陰謀を耳にした。

彼らはエレナにわなを仕掛ける計画を企てていたのだ。

「あの娘め、いつまでも気安く振る舞っていられるとでも?」

「ええ、私たちが手を下さなければ、国王陛下に嫌われることになりますぞ」

執事たちはエレナに対する恨みつらみを口にしていた。

「では、こうしましょう。近日中に森の奥の小屋にあの娘を呼び出し、そこで拘束します」

「けれど、国王陛下にばれてはまずいじゃないですか」

「心配無用。国王陛下はすでに私の手の平の上にあります。私の言うことを聞かねば軍を引き連れて迎えに来るつもりでしたから」

執事長が得意げな表情で言った。

ディオンはその企みを阻止することで、エレナを守ることにした。これで彼女の本心がわかるかもしれない。そう考えたのだ。

ある日、執事長に呼び出されたディオンは、彼に問い質した。

「おい、お前。エレナ嬢を陥れようという企みは何だ?」

「な、なんの話でしょうか?」 執事長は身構えたが、ディオンの冷たい眼光に怯えた。

「黙っているならば、軍勢を使ってでもお前たちを制裲するぞ」

ディオンの強硬な姿勢に、執事長は遂に渋々企みを打ち明けた。

「分かりました。エレナ嬢を陥れる計画は中止しましょう」

ディオンの力に従うしかなかったのだ。こうしてエレナを陥れる一件は阻止され、二人の対立は表面化するのを免れた。

しかし地下では緊張が高まり続け、やがて王国内で諸問題を引き起こすことになった。


そんな緊迫の中、エレナは心を読む能力を使って周りの人々を助けるようになっていった。

ある日のこと。豪雨で道路が冠水し、多くの親子が立ち往生していた。 そのとき、エレナは小さな女の子の心の声を聞きつけた。

「ママ...おてて...」

女の子は母親に手を引かれていたが、その心からは不安な気持ちが溢れていた。

エレナはすぐさま母親の側に行き、事情を聞いた。

「申し訳ありません。私の愚かな行動で、この子を危険に遭わせてしまいました」

母親は涙ながらに謝った。

エレナは女の子の心を読み、母親に助言した。

「大丈夫ですよ。あなたの子は、ただあなたを心配しているだけなの。だから笑顔を見せてあげましょう」

母親は一息ついて、女の子に微笑みかけた。

女の子の不安な気持ちは静まり、代わりに安心感が広がっていった。

このようにエレナは人々の心を読み、最適な支えになることで、多くの人々を助けたのだった。

そうした優しさは、次第に人々の間で知れ渡っていった。

「祝福の令嬢」と呼ばれ始めたエレナの頭には、当初の偏見とは違う、尊敬の念さえ宿るようになっていた。

一方で、ディオンはそんなエレナの行動に違和感を抱いていた。

「あの女、一体何が本当の目的なのか...」 前世の記憶に基づく偏見は、少しずつ揺らいでいったものの、心の隅に疑念が残っていた。 しかし、エレナの真心に触れるにつれ、自身の固定観念に疑問を感じざるを得なくなっていった。


やがてディオンは、エレナを王宮の広間に呼び出した。そしてエレナの前に立ち、試すような問いかけをした。

「エレナ・グレイウッド。あなたは本当に国民のためを思っているのか?」

エレナは少し戸惑いながらも、しっかりとディオンの眼を見つめ返した。

「はい、私はただ人々を幸せにしたいだけです」

「それは本当か?過去の自分の行いを見れば、あまりにも矛盾している」 ディオンは冷たい視線でエレナを見つめた。

エレナの目から涙がこぼれた。処刑台に縛られたあの日を思い出したのだ。

「確かに、前世では酷い過ちを犯しました。でも、この生まれ変わりの機会を無駄にするつもりはありません。前世で見た夢、あれは私への最後の警告だったのです」

エレナは前世で見た恐ろしい夢について語り始めた。

「前世で私は、ひどい夢を見ました。処刑台の上で首を絞められる自分の姿が...」 エレナは言葉に詰まった。あの恐ろしい記憶を思い出したのだ。

「あの夢は、私に過去の罪を知らしめ、次の人生で正しい道を歩むように教えてくれたのです」

ディオンはエレナの言葉に思わず目を見開いた。前世の記憶があったことに気づいたのだ。

「エレナ、お前にも前世の記憶が...?」

エレナは小さく頷いた。

「はい、ですからこの生まれ変わりの機会に、前世の罪を祓いたいのです」

「ならば、その心の扉を開いてみせるがいい」

ディオンは脅すような口調で言った。

エレナは自らの能力を解き放ち、ディオンの奥底を読み解こうとした。

すると、そこには前世の記憶に囚われていた自分さえ気づかなかった、ディオンの本心が潜んでいた。 優しさと思いやりの心、それは表面の冷たい態度とは裏腹の善なる本性だったのだ。

「ディオン、あなたは本当は人々を守りたいという気持ちがあるのです。でも、過去の傷が深すぎて、それを認められずにいるのではありませんか?」

エレナはそう言って、ディオンの心の内側から溶かそうとした。言葉ひとつひとつがディオンの心に染み渡り、消えかけていた優しさが蘇っていった。

「エレナ...そうか、私はただ傷つかないために硬く生きてきただけなのだ」

ディオンは目を潤ませた。そして心からエレナに感謝した。

「長年の疑念が解けた。私とあなたは、これから新しい道を切り開いていこう」

二人は力を合わせ、国の改革に取り組んでいった。エレナが国民の本音を汲み取り、ディオンが適切な施策を打つ。 この新体制は実を結び、次第に人々から支持を集めていった。


「あの日から、もう5年が経ったんだな」 ディオンはそう言って、エレナの手を取った。春の陽射しの中、二人は庭を散策していた。

「ええ、そうね。不思議なものだわ」

エレナとディオンはお互いの心を通わせ、確かな絆で結ばれていた。

「これからはずっと一緒にいよう。新しい時代を切り開いていくんだ」 ディオンの言葉に、エレナは頷いて微笑み返した。 二人が目にするのは、緑の野に広がる希望に満ちた未来だった。新たな絆の上に築かれた、より良い世界への夜明けなのだった。

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